PODCAST · fiction
彩の国ボイスドラマ〜実力派声優たちが演じる”聴く埼玉”
by Ks
埼玉県の魅力を「物語」で解き放つ・・・舞台は、歴史息づく行田の古墳から、深谷の街並み、そして神秘的な秩父の山々まで。各エピソードには、埼玉出身の声優を中心に、現在第一線で活躍する若手実力派キャストを起用。キャラクターの掛け合いを通じて、その土地の歴史、伝統、そして未来への想いを鮮やかに描き出します。「彩の国」の新しい姿”聴く埼玉”。通勤・通学のひとときに、あなたの耳から「まだ見ぬ埼玉」へ旅してみませんか?
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ボイスドラマ「そこに愛があるから」(上里町)
都会で働くラジオディレクター瑞生と、名古屋出身のパートナー希空。移住ロケで訪れた埼玉県上里町で、ふたりが見つけたのは――「どこで生きるか」ではなく「誰と生きるか」という答えだった。埼玉県北部・上里町を舞台に描く、静かで、あたたかい人生の物語【ペルソナ】・瑞生(みずき:27歳/CV:廣庭渓斗)=東京のラジオ局で働くディレクター。移住検討中・希空(きく:28歳/CV:中野さいま)=瑞生の上司でパートナー。名古屋出身。地元へ帰りたい【上里町 – 埼北移住 ~埼玉県北部地域移住交流サイト~】https://www.saihoku-ijuu.com/kamisato.html【シーン1/放送局のスタジオ】■SE/番組のエンドタイトル(jingle)「おつかれ!」深夜2時。防音壁に囲まれたスタジオでオレはパーソナリティを送り出す。ヘッドホンから流れるのは、生番組のエンディングテーマ。ADやミキサーのスタッフたちにも一人一人声をかける。「アナ尻、5秒巻いちゃったけど、あのノリなら全然アリだよね!」オレの名前は瑞生。都心のラジオ局で毎日キューをふるディレクターだ。そして・・・「放送事故じゃないけど、不体裁でしょ、これ」副調整室、略して「副調」の後ろで腕を組んでいるのがオレの先輩。プロデューサーの希空。すこ〜し辛口だけど、言うことはだいたい正しい。で、みんなが出てったあと、こそっと呟く。「こんな時間だけど、お腹減っちゃったぁ」1歳年上の彼女はプライベートじゃパートナーなんだ。その日の深夜も、打合せを兼ねて居酒屋へ。昭和か、っての。いや、打合せってのはガチで。春から始まる新番組なんだけど。都心で働く若者たちをターゲットに、移住をテーマにした番組。さまざまな情報をパーソナリティが紹介していく。もちろんPodcastでも展開する。移住ったって、どこでもいいわけじゃないよな。だから、最近オレたちは休みのたびにいろんなとこへロケハンしてる。ってか、ロケハン兼ねた、体のいい旅行だけど。先週は希空の実家、名古屋へ。でも東京から名古屋へ移住って・・・ちょっとないかなあ。彼女は帰りたがってるけど。【シーン2/神保原駅】■SE/駅前の雑踏次の日曜。オレたちは、神保原駅に降り立った。埼玉県最北端の駅。場所は、上里町(かみさとまち)。高崎線の中にある唯一の「町」なんだって。そう。ロケハンの場所は、埼玉県上里町。都会の喧騒を離れて90分。駅前だというのに、静寂が二人を包む。駅舎を出ると空が空が驚くほど広かった。「上里っていったら小麦だよね」という彼女のひとことで、オレたちは田園地帯へ。レンタカーを借りて、神流川を目指した。【シーン3/神流川・烏川へ向かう車中】■SE/車内の走行音「希空って、朝はパン派だったっけ?それともごはん?」「パンだけど・・どうかした?」「いや、別に・・」「私は移住、しないわよ」「そ、そんなこと言ってないし」「そう・・ならいいけど」おっと。やばいやばい。直球過ぎたかな。実はいまオレ、真剣に移住を考えてる。次の改編でお昼のワイド番組が決まってるし。そこで移住のコーナーも作っちゃったし。ちょうどいいタイミング。家賃とか物価とか、東京での生活はオレにはハードルが高い。局長に相談したら、半分リモートでも問題ない、って言われたんだ。ってことで・・風向きはもう、移住一直線なんだけど、ひとつだけ問題が・・・うう・・彼女、希空にまだ話してないんだ!彼女の出身は名古屋。酔っ払うといつも、名古屋に帰りた〜い、って言うんだよな。だからそっち方面の移住、ってのも考えたんだけど・・・距離がなぁ・・・番組のこともあっていろいろ調べてたら、彩北、埼玉の北部ってのが、結構ポイント高いんだ。群馬ほど遠くなくて、車も電車も交通の便がバッチリだし。で、今日、その彩北の上里へ来たってわけ。ホントは希空がパン派だってこともリサーチ済み。粉物が大好きだってことも知ってるから。ようし、ちょっとお腹すいちゃったから、ランチにするか。そこで陥落させてやるぞ!■SE/車内の走行音「冬の小麦畑って、なんだか寂しい感じね」「冬はね。でももう少ししたら、緑の絨毯になるんだってさ」「ふうん」こ、この目は・・・疑いの目!「お、お腹すいちゃったからお昼にしよ」「わかった」■SE/車の走り去る音【シーン4/上里サービスエリア】■SE/SAのガヤオレたちは、SNSで人気のつみっこのお店へ。お腹がふくれたら彼女のテンションも上がってきた。よしよし。このままたたみかけるように上里サービスエリアでカフェタイム。もちろん、小麦を使ったスイーツは必須だ。「あとはなにがあるの?」「ショッピングでしょ、やっぱり!上里は、別名”ショッピングの無限回廊”。小さな町にショッピングモールやホームセンターがたっくさんあるんだよ」「どうして?」「車のアクセスが抜群なんだな。関越道に国道17号、254号。交通の要所、ハブになってるってこと」「やけに詳しいのね」「そりゃあロケハン前にも入念なチェック!って、あったりまえじゃないか」「ふうん」ま、またしてもテンションが・・だめだだめだ、これ以上落としては・・よし、言うなら今しかない!「ねえ、帰りは新幹線で帰らない?」「え?」「本庄早稲田って近いんでしょ」「そ、そうだよ。車だって、電車だって、アクセスすっごくいいじゃんね〜。思ったんだけど〜上里って神流川、烏川って清流があって野菜もめっちゃ美味しいし、ショッピングモールもあって便利だし・・・」「なにが言いたいの?」「き、希空!」「なによ?」「オ、オレたち、上里に住まないか?」「え?」「ゴメン!実はずうっと考えてたんだ。いまみたく都心に暮らし続けてたら、なかなかお金たまんないし」「・・・」「上里で新しい人生を始めたいんだ」「そう・・」「わ、わかってる!希空が名古屋へ帰りたがってるのは!だから、まずは住んでみて、落ち着いてきて、貯金もできてきたら・・・」「子どもが大きくなってきたら?」※ってこと?、という意味「そう、子どもが・・って・・ええっ!?」「いいわよ」「え?え?」「帰ってから言おうと思ってたんだけど」「こ、こ、子ども!?」「ここなら、子育てするにもいい環境だと思うし」「そ、それ、本気で言ってる?」「本気」「名古屋は?ここ、東京から名古屋とは反対方向だぞ」「子どものこと、考えると、ここがいいかな、って」「そ、そうだ、子ども!子どもって?」「はいはい、ちゃんと説明するからよく聞きなさい。瑞生パパ」いちばん大事なことは・・大切な人と、同じ景色を見て、笑って生きていける場所。そこに、愛があるなら・・・僕たちの新しい人生が、いま、この瞬間に始まった・・・
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ボイスドラマ「燈がつなぐ夏」(美里町)
「オレの足になってくれ」埼玉県美里町に400年以上続く伝統行事「百八燈」。兄の事故をきっかけに、その想いを受け継ぐことになった少女・青藍。反発、後悔、そして成長――灯りに込められた“つなぐ想い”を描く、ひと夏の物語。【ペルソナ】・青藍(せいら:14歳=中学二年生/CV:堀籠沙耶)=燈真の妹。東京へ行きたくて仕方ない・燈真(とうま:18歳/CV:廣庭渓斗)=青藍の兄。猪俣の百八燈を大切にしたいと思っている[猪俣の百八燈「子供たちが紡ぐ夏」】https://www.youtube.com/watch?v=neoQzM16qio【シーン1/七月後半の朝】■SE/初夏の蝉の声(ニイニイゼミかアブラゼミなど)「ざけんな!うちのどこがチャラいの!?」あ・・・だめだ。またキレちゃった・・・いや、うちのせいじゃない。お兄ちゃんが悪い。うちは青藍(せいら)。14歳。美里町の中学校に通う二年生。夏休みが始まったばかりの朝。空は抜けるように青く、山の稜線から顔を出した太陽が、田んぼの緑を鮮やかに照らし始める。4個上の兄は夏休みまで返上して、毎日毎日百八燈(ひゃくはっとう)/萬燈祭(ばんとうさい)の準備。朝から晩まで帰ってこないし。え?百八燈(萬燈祭)、知らない?百八燈(萬燈祭)っていうのはね、ここ美里町猪俣(いのまた)に伝わるお祭り。お盆の送り火行事?400年前から続いてるんだよ。戦時中も、コロナのときも途切れなかったんだって。堂前山(どうぜんやま)(山)の尾根にある百八つの塚。毎年8月15日の夜、塚に燈(あかり)を灯していくの。祭の中心は子どもたち。塚の修理から燈の準備までぜ〜んぶ子どもたちがおこなうのよ。すごいでしょ・・あ、言っとくけどうちは百八燈(萬燈祭)なんてキライだから。兄の燈真は、小学校5年生になると百八燈(萬燈祭)の若衆組(わかしゅうぐみ)に入った。それまで、夏休みはいつもうちと一緒に遊んでたのに。朝、ラジオ体操が終わるとそのまま公民館へ。お昼ごはんをみんなで食べたら堂前山へ。草むしりをして、塚の準備をして・・夕食の時間が過ぎても笛や太鼓の練習。よくわかんないけど、意気揚々と出かけていく・・なぁにがいいのか・・ゲームしてる方がよっぽど楽しいじゃん。うちには全然わかんない。今年は最年長だから、親方?ってのになって参加する子どもたちをまとめてるんだって。ばっかみたい・・ってぼそって言ったのが聞こえちゃって。『オマエみたいなチャラいやつに言われたくない。目ざわりだ』だって。チャラい?めざわり?売り言葉に買い言葉。で、冒頭のセリフ。「ざけんな!うちのどこがチャラいの!?」■SE/扉を閉める音〜駆け出す音家を飛び出して、自転車に乗る。走りながら目には涙が・・知らず知らず堂前山(山)の麓へ。国道のバイパスを渡ろうとしたとき・・・「あぶない!」「え?」■SE/急ブレーキの音と自転車の転倒音【シーン2/ER病棟の病室】■SE/ヒグラシの鳴き声■SE/病室の環境音(人工呼吸器の音)気がつくと、病院のベッドの上。パパとママがうちに背中を向けて立っている。その向こう。ベッドに寝かされているのは・・・おにいちゃん!?なんで!?手足に巻かれた包帯とギプス、人工呼吸器の音がうちをパニックにした。「ママ!」「パパ!」ママもパパも振り向いてうちを見る。でもすぐに優しく微笑み、状況を教えてくれた。うちが家を飛び出したあと、兄は自転車で追いかけたそうだ。もうすぐで追いつくってとき。うちはなんにも考えずに国道へ飛び出す。そこへ車が・・兄はうちを庇って、自転車ごと投げ飛ばされた。■SE/病室の環境音(人工呼吸器の音)幸い、命に別状はないということだけど。ギプスで固定された右腕と足首。足首はベッドの上に高く載せられている。松葉杖を使わなければトイレにも行けない。え?じゃあ、百八燈(萬燈祭)は?あんなにがんばってたのに・・病室の隅に置かれたパイプ椅子。兄が着ていた祭りの法被(はっぴ)がかけられている。鮮やかな藍色。消毒液の匂いが漂う真っ白な病室で、それは残酷なほど浮いて見えた。その夜。病室から帰ろうとするうちに、ママが声をかけた。”お兄ちゃんが呼んでる”え?踵を返すと、兄がこっちを見ている。うちは小走りで兄に近づき、「ごめん・・・お兄ちゃん」兄は笑って人差し指を口にあて、手招きした。「なに?」耳元へ近づくと・・「青藍、若衆組に入れよ」え?「オレ、今年はもう無理だと思うから」朝、喧嘩してたときとはうって変わって、すっごく優しい声で微笑む。「代わりにオマエが入ってくれ」「そんな・・」「オマエにしか頼めない」「無理無理無理。ぜったい無理」「オマエの法被姿。きっとかっこいいぞ」兄はそれ以上なにも言わず、私を見て、ずっと笑っていた。【シーン3/百八燈(萬燈祭)に向けて】■SE/盛夏の蝉の声(クマゼミかミンミンゼミなど)結局、うちは若衆組に入ってしまった。なんか、兄の笑顔に背中を押される感じで・・親方は、次親方(つぎおやかた)の海斗(かいと)が引き継いだけど、すっごく大変そう。塚へ続く道の草取りをしたり、燈明を作ったり。町内を回って人別集め(にんべつあつめ)という寄付金集めまで。へえ〜、お兄ちゃん。こんなことしてたんだ。え〜。粘土もこねなくちゃいけないの?デコったネイル、とれちゃうじゃん。うちは、首からネックファンを下げて、法被を短く結び、ウエストをチラ見せする。次親方の海斗は、苦笑いしてるけど、なにも言わなかった。【シーン4/百八燈(萬燈祭)当日(8/15)】■SE/ヒグラシの鳴き声あっという間に半月が過ぎ、気がつけば、8月15日。百八燈(萬燈祭)当日。うちは高台院(こうだいいん)(菩提寺)でばちを握る。■SE/寄せ太鼓の音海斗とうちの寄せ太鼓で百八燈(萬燈祭)は始まった。後ろで子供組の小学生たちが篠笛(しのぶえ)を奏でる。ネイルは、いつの間にか剥がれ落ち、指先には練習でつぶれた豆の跡。古(いにしえ)の武将、猪俣小平六範綱(いのまた/こへいろく/のりつな)の塚に、(古の武将の塚に)厳かに燈が灯る。続いて、百八の塚へとちょうちん行列が動き出した。遠くから見るとそれは、地上に落ちた星屑のように見えたかもしれない。炎天下、汗を流しながら自分たちでこしらえた百八の塚。そのひとつひとつへ、丁寧に燈を灯していく。鬨(とき)の声。五十塚(ごじゅうづか)への点火。■SE/打上げ花火の音クライマックスは、打ち上げ花火。夜空の大輪が子どもたちを労う。そのとき、見覚えのある笑顔が花火の灯りに照らされた。え?お兄ちゃん!?両目とも3.0のうちだから、見間違うことはない。百八燈(萬燈祭)を見る大人たちの中。兄が松葉杖をつき、不安定な体勢で立っている。お兄ちゃん!退院・・したんだ・・白い包帯とギプスで固められ、首から吊られた右腕。でも、顔は、満面の笑み。うちもそれに応えて右手を上げ、親指を立てる。兄は大きくうなづいた。お兄ちゃん、もっかい言うよ。”うちのどこがチャラいの?”美里町猪俣に、夏の終わりを告げる送り火。満天の星の下で、いつまでもゆらめいていた・・・
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ボイスドラマ「二人のタケル」(神川町)
冬の田んぼに舞い降りる白鳥金鑽神社の杉木立城峯公園の冬桜そこで出会った不思議な少年は主人公と同じ「オッドアイ」を持っていた。「ボクは君だよ」白鳥伝説と家族の記憶がつながる静かな冬の物語・・・【ペルソナ】・倭奏(わかな:25歳/CV:宮白桃子)=東京丸の内で働くオッドアイの証券会社社員。帰省中・天翔(タケル:少年/CV:宮白桃子)=金鑽神社で出会った不思議な少年。実は倭奏の双子の弟【冬桜 - 神川町観光協会|花と自然と歴史の町へようこそ】https://www.kamikawa-kanko.com/category/news/flower/冬桜/【日本武尊と白鳥伝説】https://jswan.info/hpb/kaishi/25/25-2-7.pdf【シーン1/新里地区の白鳥】■SE/白鳥の鳴き声「ただいま」群れている白鳥たちに、私は声をかける。神川町新里(にいさと)地区。水を張った冬の田んぼに、白鳥は毎年やってくる。私の名前は倭奏(わかな)。東京・丸の内の証券会社で働いている。給料はそこそこだけど、私、株や証券にまったく興味がないんだ。だめだよね、これ。わかってる。そんな私には、もう一つの名前がある。ひらがなで「たける」。Web漫画投稿サイトのハンドルネームだ。幼い頃から絵が上手だと褒められ、調子に乗って漫画を描くようになった。休みの日に遊び半分で描きためた漫画。たま〜に投稿していた。別にプロを目指していたわけじゃないけど。その漫画が、あるWeb漫画サイトの編集者の目に留まった。”うちで12本連載してみませんか?”いきなりDMがきて、もうびっくり。待って待って。締切までに12本描くとなると、本業を休まないと。それに、その先のことを考えると・・・もうどうしたらいいの〜!?わかんないよ〜!で、いまここ。実家の神川に帰省中。ってか逃避行?実家と言ってもいまは、両親も祖父母も親戚も誰もいないけどね。仕事でちょっと行き詰まったりすると、こうして帰ってる。都合のいいセカンドハウスって感じ?そ。頭の中からっぽにして、白鳥の声を聴くの。なのに最近、帰ってくるたびに心に何かが引っかかる。大事なこと忘れてるような気がして・・・なんだろう・・・「本当に忘れちゃったの?」え?だれ?周りを見渡しても人っ子一人いない。あ〜、だめだ。幻聴〜私、本当に疲れちゃってるんだ。そのとき、白鳥たちが一斉に羽ばたき、神流川(かんながわ)の上空へと舞い上がっていった。■SE/白鳥の鳴き声【シーン2/金鑽神社のタケル】■SE/冬の野鳥(ツグミ、ジョウビタキなど)〜神社の鈴の音〜二礼二拍手の音金鑽神社(かなさな/じんじゃ)。昔からなにかあるたびにここへ来ていた。御神体は背後の御室山(みむろやま)。奈良の大神神社(おおみわじんじゃ)や諏訪大社(すわたいしゃ)と同じ。御神体を持たない神社。冬の日差しが漏れる杉木立のなか、石段を一段ずつ踏みしめる。お賽銭を投げ、お祈りして、顔を上げたとき、後ろから視線を感じた。振り返ると私の真後ろに少年が立っている。10歳くらい?「情けないなあ。そんなにびびっちゃって」「だれ?」「ボクのこと?」「当たり前でしょ。ほかにだれがいるの?」「ボク?ボクは・・・そうだなあ・・タケル・・タケルとでも呼んでよ」「なによ、それ?」「だって仕方ないでしょ。名前なんてないんだもん」イラっとしながら、タケルの顔をじっくりと覗き込む。すると・・・驚いた。私と同じオッドアイをしている。右目は淡い琥珀色、左目はグレーがかった青。私は逆に、右目が青、左目は琥珀色。まるで鏡を見ているようだ。「昨日も言ったけど、ボクのこと覚えてないの?」「昨日?」ハッ。まさか・・・ゾッとした。ひょっとしてこの子・・・人間じゃないの?「人間だよ」「え?ちょっと・・・私、声に出してないのに」「人間だった、って言った方がいいかな」「ゆうれい・・ってこと?」「失礼だなあ。そんな言い方」「え・・・ご、ごめんなさい」「ボクは君だよ、倭奏」「ど、どうして私の名前を?」「そんなことどうでもいいから」「よくない」「いま悩んでることって、ばかみたいだと思わない?」「な、なんて?」「人生なんて短いんだから、自分の進みたい道を歩かなきゃ」「勝手なこと言わないで」「勝手じゃないよ。ボクは君だし、君はボクなんだから」「もう〜。わかんないわかんない」私は拝殿に向き直って、頭を抱える。「じゃ、ボクもう行くね。とにかく、そんなに悩まないで」「ちょっと!」振り返ったとき、もうタケルの姿はなかった。え?これって・・・ホントに幽霊じゃないの?私は降り出した雪よりも、もっと冷えていく心を感じていた。【シーン3/城峯公園の冬桜】■SE/冬の野鳥(ツグミ、ジョウビタキなど)〜スマホの着信音(バイブ)金鑽神社まで来たのだから、もう少し足を伸ばして城峯公園へ。私は車を走らせた。紅葉は終わってるけど、冬桜はまだ少し見られるらしい。ああ、ホントだ。吹雪に混じって、薄いピンクが待っている。今年は長いんだな。そんなこと思いながら公園を歩いていると、スマホが鳴った。「もしもし?」「え?菩提寺?」父と母が眠る菩提寺からだった。そういえば私、父も母も、祖父も祖母も、位牌とか預けっぱなしだ。我ながらだらしない。「七回忌と十三回忌?ああ、祖父母と父母の・・」「わかりました。近いうちに伺います」「え?だれ?」「タケル?」衝撃だった・・・どうして私の知らない名前の位牌があるの?しかも、タケルって・・・住職に聞いたら、私の弟だという。私はすぐに、自分の生まれた産院に電話をする。”個人情報ですが、ご家族でしたらお話しましょう”そう言って身元を確認されたあと、院長が話してくれた。タケルというのは、私の双子の弟。私・・・一卵性双生児だったの?それでも、タケルが生まれてくることはなかった。バニシングツイン。”双子のひとりがなにかの理由で亡くなり、お腹から消えてしまうこと”うそ!そんな・・・そんな!父も母も祖父も祖母も、そんなことなんにも言わなかった。きっと私を傷つけないようにって、黙っててくれたんだ。私の瞳が二つの色を持っている理由。それもこれもタケルがいたから。そう思えてしまう。天翔る(あまかける)と書いてタケル。父と母が水子供養だけではなく位牌まで作っていたのは、それほどまで思いが強かったってこと。「人生なんて短いんだから、自分の進みたい道を歩かなきゃ」・・・ホントだね。わかったよ、天翔。もう私、迷わない。決めた。漫画の道へ進む。「うん。それがいい」迷いは、霧が晴れるように消え去っていた。右目の琥珀と左目の青。その両方に力が宿る。それに、家賃の高い東京に住み続ける必要なんてないよね。ここ神川へ戻って、実家にwifi置いて、真剣に漫画を描くよ。そうすれば、いつでも天翔に会えるもの。でしょ。ねえタケル、聴こえる?これからは、私と一緒に生きていこう!人の一生なんて、短いんだから!私は、金鑽神社の方へ向かって叫んだ。吹雪が城峯公園の冬桜を舞い上がらせていく。真っ白に染まる世界の中。桜吹雪に乗って、一羽の白鳥が力強く羽ばたいていった・・・
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ボイスドラマ「星に願いを」(寄居町)
寄居町の星空から始まる、ひとつの夢。5歳の少女が見上げた冬の星空。その夜交わした約束が、彼女の人生を宇宙へ導いていく。でも本当に大切なものは――ずっと手のひらの中にありました。寄居町の夜景と星空を舞台に描く、夢と記憶の物語・・・【ペルソナ】・聖夜(せいや:25歳/CV:中野さいま)=2026年5歳だった少女が宇宙飛行士を目指す・王子さま(ぼく:CV:堀籠沙耶)=聖夜が夢の中で出会う不思議な少年【中間平の夜景 (埼玉県大里郡寄居町) - こよなく夜景を愛する人へ】https://yakei.jp/japan/spot.php?i=chugen【シーン1/中間平展望台/2026年冬/5歳の聖夜】■SE/冬の風の音「アタシ、あのお星様まで、行きたい!」埼玉県寄居町の中間平(ちゅうげんだいら)展望デッキ。パパと一緒に天体望遠鏡を覗きながら、5歳の私が声をあげる。天空の宝石箱をひっくり返したようなふたご座流星群。その背景にひときわ輝く一等星。「パパ、あのお星様なあに?」シリウスだよ、と言ってパパは水筒からミルクティーを注ぎ、私の前へ。「ありがとう」「ねえ、あれ、持ってきた?」パパがニッコリ微笑むと、ポケットから丸いみかんが現れる。「やった!」ひと皮剥けば、甘酸っぱい柑橘の香りが広がっていく。顔をくしゃくしゃにしてほおばる私。夜空の星たちと同じくらい、少女の瞳は煌めいていた。その日の夜。不思議な夢を見た。「ねえ、ボクのことが見える?」自分と同じくらいの年、同じくらいの背格好をした少年。宇宙服?みたいな服を着てる。「だあれ?」「いつかボクのところでおいでよ」「うん、いいよ」「約束だよ」「うん、約束」少年の小指が私の小指とつながる。窓の外には、冬の大三角が輝きを放っていた。【シーン2/鉢形城/2039年春/13歳の聖夜】■SE/春の虫の声「すごい!桜って流星群みたい」2039年、13歳の春。私は、鉢形城跡(はちがたじょうあと)の夜桜を見上げていた。樹齢150年を超えるエドヒガンザクラ「氏邦桜(うじくにざくら)」。淡い桜色の花びらが夜風に誘われ、私の頬をかすめて舞い落ちる。私の瞳に映っていたのは、桜のはるか上空、満天の星たち。「パパ、見える?あそこ、いっかくじゅう座だよ」”そっちか”といった笑顔で、パパが微笑む。いいの。どうせ私、星座ヲタクなんだから。今からちょっと説明っぽい話をするね。いっかくじゅう座は、冬の大三角の中にあるの。4等星以下の暗い星ばかりだから、見つけるのは難しいって言われてる。寄居のように、空気が澄んでて、人工の灯りが少ないとこじゃないと見えない。それにほら、冬の星座だから、春の訪れとともに沈む時間が早まっていくんだ。私のお気に入りは、いっかくじゅう座の中にある、ばら星雲。まるでばらの花が夜空に咲いているみたい。地上の桜と夜空のばら。ロマンティックでしょ。神話の通り、いっかくじゅう、ユニコーンは心のきれいな少女にしか見えない。私もいつか必ず見つけるわ!【シーン3/かわせみ河原/2046年春/20歳の聖夜】■SE/川の流れと夏の虫の声「見て、パパ。天の川がキレイ!」2046年、20歳の夏。荒川河川敷のかわせみ河原でソロキャンプ。見上げる夜空には、ダイヤモンドを散りばめたような天の川が広がっている。高校を卒業したあと、私はアメリカの工学系大学へ留学した。目的は、アメリカの市民権をとることと、修士号の学歴。それが、NASA宇宙飛行士選抜の必須条件。2年ぶりに寄居に帰ってきたのは、実家の片付け。いろいろあって、いまは私ひとりだから。でも、それよりなにより、この星空が見たかった。そう、私の原点。ヒューストンの湿った風とは違って、どこまでも清々しく澄んだ川風。このあと、花火を見てからアメリカに戻るつもり。寄居玉淀水天宮祭 (よりい/たまよど/すいてんぐうさい)花火大会。水神様にお願いするの。「私を宇宙へ連れてってください!」って。秩父の稜線から立ち上る銀河の淡い光が静かな水面に溶け込んでいく。右手を空へ伸ばしてみる。指先が星に届きそうな感覚。目を閉じると川面を渡る風が、私の髪を揺らしていった。【シーン4/中間平展望台/2054年冬/28歳の聖夜】※少々説明多し■SE/冬の風の音「パパ、ただいま。帰ってきたよ、寄居に。やることは全部やった。後悔はない。あとは結果を待つだけ!」2054年、28歳の冬。帰国して真っ先に向かったのは、中間平展望台。23年前、パパと見上げた星空。それは星の一生に比べたら、瞬きするほどの時間だけど。見上げる夜空には、あの日と同じ冬の大三角。そして、いっかくじゅう座。よかった。私、まだ見えてる。大学院を卒業して修士号を取得した私はアメリカの航空宇宙・防衛産業へ就職した。そこはプライム・コントラクター。NASAと直接仕事をする企業だ。ここで三年間の実務経験を積んで初めて、宇宙飛行士選抜の公募・選考プロセスに応募できる。「アルテミス計画」に参加して、日本人宇宙飛行士が月へ行く、という道もあったのだけれど。そっちはもう火星探査へと進んでいる。私は、あえて厳しい道を選んだ。あの日見た、あの星へ行きたい。まだ兆しすら見えていない恒星間飛行。反物質か。磁気プラズマか。届かぬ願いを冷たく突き放すように、シリウスはただ青白く鋭い光を放っていた。【エピローグ】「大切なものは見つかった?」え?「ほら、いつか見つけるって言ってたじゃないか」ここは・・・・・夢?ああ、そうだ。昔見たあの夢。目の前には、宇宙服を着た少年・・・「きみはすごく頑張ってたでしょ」そうよ。だって私・・・宇宙飛行士になるために、市民権、修士号、キャリア・・ぜんぶ取得して・・・一生懸命成果を残してきたんだもの。「じゃあもう、見つかったんだね」ううん。まだ。まだよ。だって、結果はこれから。それに、もし宇宙飛行士に選ばれたって、恒星間飛行なんてずっとずっと先の話。私が生きてるうちに実現することなんて・・「よかった。見つけられて」まだだってば。私の夢は、シリウスに行くことなんだもの。「きみの夢って、シリウスなの?」そうよ。だってあのとき約束したんだから。「じゃあもうかなってる」え?どうして?「ボクはもうここにいるよ」あ・・「それにね。本当に大切なものって、目には見えないんだよ」そんな・・・「手を出して」え?なんで?「いいから」そう言って、私の手のひらに彼がのせたのは・・・みかん!「それでしょ」パパ!そうか。私がずっと探していたのは、これだったんだ。手のひらに残った、かすかな柑橘の香りと、ぬくもり。これがあったから、何度も空を見上げて、何度も立ち止まって、それでも歩いてこられた。大切なものは、目には見えない・・・
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ボイスドラマ「ノーサイドの約束」(熊谷市)
熊谷の冬に出会い、熊谷の夏に約束する。女子ラグビー選手の焔と研修医の吟。物語の舞台は関東一の祇園熊谷うちわ祭。熊谷の街と恋が重なる・・・【ペルソナ】・焔(ほむら:22歳=大学4年生/CV:田中ちえ美)=東京の大学で女子ラグビー部。熊谷在住・吟(あきら:25歳/CV:廣庭渓斗)=熊谷出身。東京の病院で働く研修医。熊谷の学術総会で焔と知り合う【関東一の祇園 熊谷うちわ祭】http://uchiwamatsuri.com/【シーン1/12月の朝】■SE/熊谷駅新幹線ホーム構内のガヤ「あぶない!」12月の朝。凍てつく熊谷駅。新幹線ホームへ続く階段。アタシの目の前にいきなり人が降ってきた。体が本能的に動く。避(よ)けるんじゃない。むしろ落下してくる軌道へと迷わず飛び込む。彼の身体を空中で抱き込むように受け止めると、そのまま後方へ回転。倒れた彼に手を差し出す。ふうっ。よかったわ。ローリングの練習しておいて。「大丈夫ですか?」抱き起こした彼に、声をかける。「あ、はい。ありがとうございます・・・」よかった。受け答えもしっかりしてるし、大丈夫そう。「あの・・・」「それじゃ」「あなたは・・?」「すみません、急いでいるので、また」「あ・・」そう言って、彼が落ちてきた階段と反対側のホームへ駆け上がる。急いでいる、と言ったのは嘘じゃない。アタシは焔(ほむら)。東京の大学へ通う4年生。今日は午前中から全国大会の予選があるんだ。女子ラグビーの。そう。さっきのタックル、ってかローリングも、ラグビーをやってた恩恵ね。アタシが12番線ホームへ上がると、ちょうど「たにがわ」のドアが開くところだった。最後に列車に乗り、閉まる扉を見つめていると・・あ・・さっきの彼が、息を切らしてホームへ上がってくる。扉の前に立つアタシと目が合った。なにか一生懸命喋ってる。なに言ってるのかわかんないので、アタシは笑顔で小さく手を振った。さらに近づこうとする彼を駅員さんが止める。ふふ・・一瞬しか見えなかったけど、25、6歳かな。清潔そうなスーツにオシャレな眼鏡。理系・・って感じ。これが・・・吟(あきら)との最初の出会いだった。【シーン2/春の熊谷】■SE/春の小鳥のさえずり(ヒバリ、メジロ、ウグイスなど)冬から春へ。季節は移り変わっていく。あの日、漫画みたいな出会いをした彼、研修医の吟(あきら)と、アタシはいま付き合っている。吟はあれから、「熊谷/女子ラグビー」でSNSを必死に検索。アタシの画像を見つけたらしい。よくもまあ、ほとんど試合にも出ない、控えのアタシを見つけたもんだ。すぐにDMで連絡が入り、お礼がしたいというので熊谷駅近くのカフェへ。彼は吟と名乗り、東京・渋谷の臨床研修病院で働いていると言った。実家は熊谷だけど、病院の寮に住んでいるそうだ。ま、当然ね。研修医ってめっちゃ忙しいから。アタシと出会った日は朝8時から熊谷で学術集会があったんだって。そりゃ慌てるわ。運動公園の梅が咲き始める頃、アタシは大学を卒業。ラグビーは封印した。デートは吟が実家に帰るタイミングで。アタシたちは、いろんな熊谷を楽しんだ。荒川沿い、熊谷桜堤(くまがや/さくらつつみ)のソメイヨシノ。星溪園(せいけいえん)の茶室。妻沼(めぬま)で、長〜いいなり寿司を食べ歩き。夜フレンチを予約してたのに、お腹いっぱいになっちゃって(笑)お聖天(しょうでん)さまでは、この縁を大切に、と願った。【シーン3/初夏】■SE/セミの声(ニイニイゼミ、アブラゼミ)新緑の季節が終わると、いよいよ夏。熊谷は暑い、って思ってる人多いみたいだけど、実は、暑さ対策すっごいんだから。なことは置いといて。熊谷の夏、と言ったら、やっぱアレでしょ。そ!なんてったって、うちわ祭!関東一の祇園!豪華絢爛な山車(だし)と屋台!アタシがラグビー始めたのは、山車を曳きたかったから。体力つけて、あの人波の中で、練り歩くのが夢なんだ。吟は熊谷なのに、全然参加してこなかったみたい。ダメじゃん。いいよ。今年はアタシと一緒に曳くからね!絶対!【シーン4/うちわ祭前日】■SE/夏の虫の声(夜のイメージ)夏本番。吟から連絡が入ったのは、うちわ祭の前日だった。「焔、ごめん・・ずっと寄り添ってきた患者の容体が急変して・・」「うん・・わかった・・うん・・しょうがないじゃん・・・」って、そう言えるくらいには、アタシも大人になったつもり。電話の向こうの吟の声は震えていた。アタシの胸の奥が少しだけギュッとなる。スクラムで押し込まれるより、ずっと息が苦しい。いや、だめだ。こんなことで落ちこんでちゃ。明日はお囃子に負けないくらい大きな声を出して山車を曳くんだから。 吟、東京の病院からも、熊谷の空が見えるでしょ。アタシ、世界で一番かっこよく山車を曳いてくるよ! 【シーン5/うちわ祭】■SE/セミの声(クマゼミ)〜うちわ祭の喧騒「さあ、行くよ!」アタシは、青い鉢巻を締め直し、山車の綱を力強く握りしめる。額にはすでに大粒の汗が浮かんでいる。「せーのっ!」「ワッショイ!」(※複数テイクください)ものすごい重量の山車が、動き出す瞬間の、快感。スクラムで相手を押し込む感覚に、ちょっと似てるかも(笑)山車と山車がすれ違う際に、お囃子が競い合う”叩き合い”。山車や屋台が向かい合って、お囃子を奏でる”曳っ合せ(ひっかわせ)”火花が散るような喧騒。さあ、もっともっと声を出していくよ!この夏一番の笑顔で、最高の山車を曳ききってみせる。うちわ祭最終日。■SE/うちわ祭の喧騒〜熊谷締めの手拍子祭の終わりを告げる”熊谷締め(くまがやじめ)”一糸乱れぬ乾いた音が夜空に溶け込む。3日間の熱狂が静かに幕を下ろそうとしている。汗と埃にまみれた半纏。喉は枯れ果て、足は棒のよう。でも、心の中は不思議なほど透き通っている。ふう〜っ。満ち足りたため息。そのとき。ふっと、熱気が引いた瞬間。人混みの向こうに、場違いなほど真っ白なシャツが見えた。え?嘘?なんで?吟・・・!患者さん、大丈夫だったの?吟がゆっくりと近づいてくる。アタシは、呆然としたまま、彼を見つめていた。吟の右手には、『雪くま』。ご存じ熊谷名物、フワッフワのかき氷。「おつかれさま」そう言って手渡しながら、にっこり微笑む。アタシはまだ事態を把握できていないのに、反射的に雪くまを受け取る。なにも考えずにスプーンを氷の奥に差し込んだ。すると・・・カチリ、と硬い感触がした。え?氷の中から現れたのは・・・ゆ、指輪?周りの喧騒が遠のいていく。お囃子の残響も、人の声も、全部フェードアウトする。「これって・・・そういうこと?」吟が緊張した笑顔でうなづく。やだ、もう。昭和のプロポーズじゃあるまいし。と言いながら、アタシの顔はくちゃくちゃになる。返事を待つ吟に近づき、アタシは答える。「トライ・・・」周りで見ていた人たちから歓声があがる。熊谷の、一番熱い夏が終わった。火照った身体に、雪くまの冷たさが染み渡る。「えっ、ちょっと・・吟!なに!?」アタシの体がふわりと宙に浮く。「バカ!みんな見てるってば!アタシ、見た目より重いし」ちょっと勘弁してよ。お姫様抱っこ?こんなところで。だけどこれで、アタシの人生はノーサイド。いま、最高に熱いキックオフを迎えたようだ。
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