EPISODE · Dec 13, 2025 · 26 MIN
#105 「等身大」を貫く勇気――「自由と納得」を大事にするエグゼクティブコーチ、八起さんの人生物語 ②
from ひとりひとりの人生・オンリーワン · host Talk Shift
1.「あ、私それになる」──その瞬間、すべてが動き出した就職へのモチベーションがなかった。専業主婦になるつもりだった。それなのに、慌てて就職活動をして、なんとか福岡の不動産会社に滑り込んだ八起さん。1日100件の営業電話をかける日々。バリバリの営業職。新人賞を獲得するほどの成績を残しながらも、社内のゴタゴタで退職。誰もが「普通の人生」を歩むと思っていた24歳の女性が、ある出会いで、22年続くコーチング人生への扉を開けることになります。その出会いとは、、、 2.変屈な私でも、納得できた「私、結構変屈だと思っていて」八起さんは自分をそう表現します。何かを学ぶとき、いつも心の中で「いや、そうは言っても」「ここが押し付けがましくないか」と疑問を抱いてしまう。素直じゃない、可愛くない。そんな自分に気づいていました。恋人との喧嘩が絶えない。喧嘩をしたくて付き合っているわけじゃないのに、どうしてもぶつかってしまう。どうしたもんか──。そんな悩みを抱えていたとき、朝日カルチャーセンターの新聞広告で「コーチング」という言葉を見つけました。カルチャースクールに通い始めた八起さん。そして、運命の2回目の講座で、講師がこう言いました。「コーチングを専門にして、1対1でコーチをする職業があるんだよ」その瞬間──「あ、私それになる」恋愛の悩みはどこかへ消えていました。 3.高校時代から繋がっていた、見えない糸説明会で提示された会社名は「コーチ21」。スクリーンに映し出された社長の名前を見て、八起さんは息を呑みました。「伊藤 守」高校時代、繰り返し繰り返し読んでいた本の著者。あの伊藤 守さんが作った会社。「絶対間違いない」働いて貯めたお金、約70万円を迷わず即申し込み。福岡から電話会議システムという当時の最新の技術を使って、スクールに通い始めました。 4.「自由」という言葉がポロッと出た瞬間八起さんの口から、何度も出てくる言葉があります。「自由」と「納得」小さい頃から、制約されることが苦しかった。納得しないと前に進めない。そんな変屈な自分でも、コーチングは受け入れてくれました。押し付けない。教えるというスタンスを貫かない。自分に考えさせる。自分に気づかせる。「自由に、自分のペースで成長ができる。そんな変屈な私でもやっていけるっていう確信しかなかった」2005年1月2日。開業届を提出。それから22年間、八起さんのコーチング人生が始まります。 5.売上は好調。なのに、心は地獄だった。「クライアントは目標を達成していく。でも、私には、それがハリボテにしか見えなかった」八起さんがそう語る時、その声には今でも当時の苦悩が滲んでいました。35歳で育児休暇から復帰した彼女が飛び込んだのは、いわゆる「稼げる系コーチングスクール」。売る方法は完璧に教えてくれる。実際、売上は順調に伸びていきました。でも、提供するコーチングの質は「ズタボロ」。目先の目標達成だけを追いかけ、クライアントの本当に大切な価値観、腹の底にある想いには触れることができない。自分が良いコーチングができていないことを、誰よりも自分自身が分かっていたのです。「良くないものを売り続ける苦痛が、きつすぎた」 6.「計画的育児休暇」の5年間実は八起さん、20代でコーチングの道に入り、順調にキャリアを積んでいました。個人クライアントへのコーチング、研修講師。副業もしながら、着実に実績を重ねていた彼女が選んだのは、30歳から35歳まで丸5年間、仕事を完全にストップして育児に専念すること。「保育園に預けるという発想を持っていなかった」と笑う彼女ですが、その5年間は単なる休息ではありませんでした。「毎日トライアスロンをやっているみたい」自分の限界を突破し続ける日々。3人の子どもを育てながら、彼女は"プロの専業主婦"として、自分と向き合い続けていたのです。 7.技術を取り戻す――そして、仲間を救う稼げる系スクールを離れた八起さんは、コーチングのスーパービジョン練習会に通い、徹底的に自分の技術を立て直しました。すると、不思議なことが起こります。かつてのスクール仲間たちが、次々と彼女に相談を持ちかけてきたのです。「コーチングができない」「クライアントからクレームが来た」「キャンセルされてしまった」困っている人たちが目の前にいる。そして、コーチングの契約をもらえるということは、それ自体が奇跡のようなことだと彼女は考えていました。 「お金を払ってまで、1人の人を雇うんです」 その奇跡が、技術不足によって壊れていくのを、業界の一人として放っておけなかった。恐る恐る始めたコーチング指導。でも、彼女が教えた人たちは、どんどんコーチングができるようになっていきました。「私、うまいじゃん」――その瞬間、新しい道が開けたのです。 8.感覚ではなく、エビデンスで伝える八起さんのコーチング指導には、明確な哲学があります。「感覚で伝えない」セッションを文字起こしを行い、エビデンスを示しながら解説する。「ここの関わりが良かった」「この質問はクローズドになっていて相手を追い詰めている」――黒板に書くように、見える化し、スキルとして伝えていく。でも同時に、こうも言います。「それは私の主観であって、唯一の答えではない」極めて冷静に、理論的に。でも、クライアント一人ひとりの心境に寄り添いながら。 9.「労働者」として生きる幸せ今、八起さんは3つの柱で活動しています。ワンオンワンのコーチング、コーチング技術指導、そして企業研修。「事業をもう一回り大きくしたい」と言いながらも、彼女が目指すのは途方もない成功ではありません。「もっと自由に遊びたい。真面目に楽しみたいんです」労働を愛し、腕まくりして「よっしゃ行くぞ」と働く。短時間で集中して働き、自由な時間を生み出す。「私は労働者だと思っていて、そういう自分が好き」等身大。無理に大きく見せない。圧をかけない。それは夏目漱石の言葉「則天去私(天に則り、私を去る)」にも通じる、彼女のコーチング哲学そのものでした。八起さんの人生には、自分らしく生きるためのヒントが詰まっています。
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