EPISODE · Jun 19, 2026 · 14 MIN
4時56分の残照とピーベリー:山並みの向こうに「丸い時間」を探して(いつもの展望台から2026年6月19日)
from 珈琲 , Jazz & 巡礼と… · host jazzywada
午前4時56分。瀬戸内の空が、夜の深い藍色から「雲の間から覗く鮮やかなブルー」へと移ろい始める頃、私たちは「いつもの展望台」に集います。肌をなでる朝気(あさけ)はひんやりと心地よく、立ち上るコーヒーの湯気が、まだ眠りの中にいる街を優しく見守っているようです。今日は4人の仲間とともに、この特別な「ブルーアワー」を共有することになりました。日常の喧騒から切り離されたこの場所では、一杯のコーヒーや、遠くの山並みの美しさが、普段とは違う濃密な意味を持って語り出します。今朝、私たちが手にしたのはマンデリンの「ピーベリー(丸豆)」です。コーヒー愛好家を惹きつけてやまないこの豆は、ある種の「幸福な偶然」から生まれます。通常のコーヒーチェリーには2つの種子が向かい合って育ちますが、稀に片方の種子に栄養が集中し、一粒だけが丸く育つことがあります。これがピーベリーです。全収穫量のわずか5%から20%ほどしか現れないこの「丸い豆」には、本来2つに分散されるはずの風味が、ぎゅっと凝縮されています。この希少な一杯を、展望台のホストは独特の語り口でこう表現しました。「あ、濃いやつ。大吟醸…日本酒でも言うんだけどね。これは味が濃くなるんですよ」偶然の変異によって生まれた「丸さ」が、結果として極上の深みをもたらす。その不完全ながらも力強い姿は、どこか人間の営みにも似た愛おしさを感じさせます。展望台の会話は、眼下に広がる景色から、それを捉える「目」の話へと移ります。現代のデジタル技術は、30万円もする高価なレンズで世界を克明に切り取りますが、ホストは笑いながらこう言います。「30万円のカメラより、目の方がずっと高いんじゃけどね」私たちの目は、加齢とともに少しずつ「劣化」し、ボロになっていくかもしれません。けれど、どんなに高精細なレンズも、今この瞬間に肉眼が捉えている、燃えるような朝焼けの色の濃さ、空気の湿り気、そして胸に迫るライブ感には敵わないのです。ファインダー越しではなく、自分自身の不完全な、けれどかけがえのない瞳で世界を見る。その贅沢さに、私たちは改めて気づかされます。ふと、ホストが苦笑混じりに漏らしました。「今頃、家では奥さんが『あんな上で何をしよるんか』って、あれこれ言っとるんだろうなあ」。そんな生活の体温が混じる会話もまた、この場所の風景の一部なのです。この「丸い」というモチーフは、街のコミュニティの中にも息づいています。市内の談話室「うさぎちゃん」で月に2回開催されるレコードサロン。そこには、コーヒーとアナログの音色を愛するお年寄りたちが集います。次回のテーマは、梅雨の季節に合わせた「雨に関連したレコード」。雨のバラード、懐かしい歌謡曲、ポップス、そして洋楽。アナログ盤の溝を針がなぞる時、そこにはデジタルでは決して再現できない「丸く白く」穏やかな時間が流れます。午後1時半から3時半までの2時間。ピーベリーの濃密な香りに包まれながら、レコードの音色に耳を傾ける。そんな「アナログな儀式」が、忙しない日常で尖ってしまった私たちの心を、丸く整えてくれるのかもしれません。なぜ、この展望台からの景色はこれほどまでに美しく、そして安定しているのでしょうか。その理由は、この土地の懐の深さにあります。北には中国山脈、南には山陽の山々。この二つの大きな山系が壁となり、瀬戸内を雨雲から守ってくれているのです。撮影中も「熊猫さん(熊猫山)」の頂には幻想的なガス(霧)が停滞していましたが、こうした山の存在が、この地域特有の長い「梅雨の中休み」という穏やかな季節をもたらします。山々が雲を遮り、光を乱反射させることで生まれる、幻想的なグラデーション。私たちは、地形という大きな自然の仕組みに守られながら、毎朝の「極楽」を享受しているのです。ピーベリーという凝縮された一粒、レンズを通さず肉眼で捉える朝焼け、そしてレコード盤から流れる雨のバラード。今回触れたエピソードの根底にあるのは、どれも効率や均一性とは対極にある「アナログな豊かさ」です。偶然に感謝し、自分の感覚を信じ、手間を惜しまず誰かと時間を分かち合うこと。それこそが、私たちの人生を「丸く、濃く」してくれるのではないでしょうか。慌ただしい毎日の中で、あなたの感覚を呼び覚ます「アナログな儀式」は何ですか? ほんの少し視点を変えるだけで、いつもの窓の外には、まだ誰も気づいていない鮮やかな色が広がっているかもしれません。偶然が生んだ「濃密」という恵み:丸豆(ピーベリー)の引力30万円のレンズが届かない「生の色彩」「うさぎちゃん」の時間が紡ぐ、丸く白い安らぎ地形が描く「梅雨の中休み」の静寂結びに:明日の朝、あなたを研ぎ澄ますものは?
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4時56分の残照とピーベリー:山並みの向こうに「丸い時間」を探して(いつもの展望台から2026年6月19日)
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