EPISODE · Aug 11, 2020 · 49 MIN
闇を浮遊する視点から物語を紡ぐ
from 哲楽 · host 哲楽編集部
清水将吾さんは、大学講師として働く傍ら、東京を中心とした様々な場所で哲学カフェの進行役を務めている。「傍ら…」といっても、清水さんの場合、一方が本業で一方が副業というわけではなさそうだ。「哲学的な謎について人と対話する」ことを中心に据えて、国や分野の境を越えて学びの場を選び、仕事や依頼を受け続けてきた。 The post 闇を浮遊する視点から物語を紡ぐ first appeared on 哲楽.
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(インタビュー◎2020年8月5日テレビ会議にて Music: Korehiko Kazama ) 清水将吾さんは、大学講師として働く傍ら、東京を中心とした様々な場所で哲学カフェの進行役を務めている。「傍ら…」といっても、清水さんの場合、一方が本業で一方が副業というわけではなさそうだ。「哲学的な謎について人と対話する」ことを中心に据えて、国や分野の境を越えて学びの場を選び、仕事や依頼を受け続けてきた。そして今年の夏、一冊の哲学ファンタジーが上梓された。タイトルは『大いなる夜の物語』。41の謎で構成され、新社会人の登場人物の視点を借りて展開する。清水さんが20代の頃に考え始めた謎も含まれるが、数年前に一冊の物語にしようと決めてからは、「神話の力を借りてスルスルと書き進めることができた」という。 この物語は一風変わっている。一般的な物語では、主人公や書き手の視点という一定の場所から、様々な時空間で起きたことを理解して読み進めることができる。一方『大いなる夜の物語』では、この視点が動くのだ。動くのは時間や空間だけではない。主人公から登場人物へ、その登場人物から書き手へ、さらに地球から宇宙へ、オリオン座の裏側に行ったかと思うとまた物語の主人公の視点に戻ってきたりもする。 幼少期の清水少年は、シンガポールやアメリカや日本を行き来しつつ、『少年ジャンプ』で日本の漫画文化に慣れ親しんで育った。その後、日本の大学院を修了してからはイギリスに渡り、そのまま哲学の学位を取得する。人生の3分の1は日本語圏外の国で暮らしてきたことになる。清水少年の視点は、空間的に大きく移動してきたが、清水将吾という一人の人としての視点は変わらない。このことが物語の中心的な哲学的な謎にも繋がっている。視点という「儚い点」が存在すること、そしてそれが今日も明日も持続していること、これは一体、どういうことなのか。 清水さんの哲学者としての原点となるこの謎は、物語の中で視点の動きとして現れている。縦横無尽に動くその描写で、軽い目眩すら覚えるほど。 こうした描写と既存の文学的・物語的表現の共通性を探るため、川端康成の『雪国』冒頭の英訳や、隕石落下について国立科学博物館が伝えるプレスリリースを清水さんに朗読して頂いた。 任意の動く点を名もない誰かの視点として物語を始められる日本語表現に対して、英語表現は、ユークリッド空間上で “I” や “You” や “the train”として人や物の位置を指差しながら展開する箱のようでもある。『雪国』や隕石落下を伝える日本語表現は、実に巧妙に、しかし極めて自然に、任意の視点を世界の開けとして導入して、動かすことができる。その誰かの視点を通して、変わる風景や、移動する列車、隕石の形や色を、私の目の前にあるものとして感じることができる。 ひょっとしたら清水さんの哲学的な謎は、清水さんが様々な境界を移動する過程で託された、隕石の破片でもあるのかもしれない。その正体の解明は、物語の執筆を通して、読者とともに進められている。 インタビュー 誰かの視点を借りて体験する 田中:改めまして田中です。本日は最近本を出された『大いなる夜の物語』という本を出された清水将吾さんをお迎えしております。この哲楽ラジオですけど、だいぶ前回の収録から時間が空いてしまって、その間色々と別の活動していたのですけれど、この本を読ませて頂いてこれはちょっと再開せねばと思いまして、今日オンライン会議でご招待させていただきました。清水さん、今日はよろしくお願いします。 清水:清水です。よろしくお願い致します。 田中:最初に清水さんがどういう方なのかご紹介したいと思います。イギリスのウォーリック大学哲学科で博士号を取得された後日本大学研究員、東京大学特任助教それらのお仕事を経て、立教大学兼任講師を務めていらっしゃいます。他に目黒の哲学カフェで毎月進行役として哲学カフェを開催されていらっしゃったり、NPO法人「こども哲学おとな哲学アーダコーダ」という団体があるんですが、そちらで子供のための哲学のイベントを不定期で開催されていらっしゃいます。こちらのイベントなどは、最近ではオンラインで開催されていらっしゃるということですが、大学に限らず大学の内外、色々な場所で哲学対話の進行役を務めていらっしゃいます。ということで清水さん、今日はよろしくお願いします。 清水:よろしくお願いします。楽しみにしていました。 田中:『大いなる夜の物語』自体はどのくらいの構想に関わる時間をかけて書かれたのでしょうか。 清水:こういうお話をちびちび書き始めたのはもう随分前でもうかれこれ20年前ぐらいからいろんなものを書き溜めていたんですね。それで書き溜めて、書き溜めていって、大きなものを一つにまとめて書こうとは全然思ってなかったんですけど、東大時代にお世話になっていた小林康夫先生という方が「もっと書いてごらんよ、百書いてごらんよ」って仰ったんですね。「この調子で百個にしてみなよ」って。数十はあったんですけど、百書いてごらんよって言われて、百書いていくうちに、あ、ちょっと本を書いてみたいなっていう気持ちが出てきて。そういう細かいお話をいろいろつなげて大きなお話にするってことやってみたいなと思って。そうするうちに編集者の方と出会ったり永井均先生に応援して頂いたり色々あって。それで物語を大きく作り始めると、なんだか神話の力を借りて、という感じの言葉がふさわしいですかね。神話ってやっぱりすごいんだなと。神話のモチーフが色々出てきますけど、そういうものを使うとスルスルスルスル繋がっていってしまって、あ、できちゃったなっていう感じですね。大きな物語を書いていたこと自体はだいたい2年ぐらいです。 田中:今「百個書いてごらんよ」と、数字の話が出てきましたが、41の謎から構成されていて最初の1番目の謎42番目として戻ってくるような形になっているちょっと不思議な構成を体験できる本ですよね。私自身もこんなに謎のバリエーションを清水さんがお持ちだったということは、清水さんご自身のことは長く存じ上げていたのですが、謎のバリエーションについては、この本で初めて知ったところで、とても新鮮に読ませて頂きました。 清水:ありがとうございます。 田中:社会人になりたての二人の視点で物語が書かれているのも今から社会に出て行く人達にとっては共感を持って読んで頂けるんじゃないかなと思うんです。清水さんご自身が二十代前半ぐらいの年にお持ちだった謎も含まれているのでしょうか。 清水:そうですね、たくさん含まれていますね。ちょうどこういうお話を書き始めたのが自分が二十代前半の頃ですからね。そういう頃に得たヒントとか話の種みたいなのがすごく含まれています。 田中:足掛けもう10年から20年ぐらいこの謎は温めていらっしゃったっていう感じですね。 清水:本当にまさにそうです。 田中:謎のバリエーションもそうなのですけれど、ちょっと特徴的というか印象的だったのが、視点がいろいろ変わるところで。主人公視点のことをPoint of View、POVと言ったりすると思います。最近だったら、youtuberとか動画制作をしている方もPOVは気にする言葉みたいです。 清水:あ、そうなんですか。 田中:映像を撮る時の視点をどうとるのか。主人公視点で撮るのか、あるいは空間にxyz方向の次元があるとして、その中の視点で撮るのか。X軸方向、横に移動するような風景を眺める動きを「パン」。縦に高い建物を見上げたりとか木を上から見下ろしたりとかそういうY軸方向縦軸軸方向の動きを「チルト」って言うらしいのです。Z軸方向は奥行きを回転させるような動きを「ロール」って言ったりするみたいで。 清水:へ〜。 田中:最近私も動画制作の勉強し始めて、そういう言葉を耳にしていたところで、清水さんの小説を読ませて頂いて、すごく映像的に想像しやすくて。この本読んで色んな映像制作をされている方は、どういう風に映像化するんだろうということにすごく興味が湧いたところで。視点と空間の使い方が今までにない感じがしました。 清水:嬉しい、感動的です。喋っていいんですかねこれ。 田中:はい、どうぞ。 清水:そういう映像的な…自分が割と少年ジャンプとか、そういうのを読んで育ってきて、のめり込んで育...
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