EPISODE · Feb 10, 2025 · 14 MIN
ボイスドラマ「10年目の成人式」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
成人式という人生の大切な節目を舞台に、「約束」と「時間」が織りなす切なくも温かなドラマを描きました。成人の日は、ただの通過点ではなく、人それぞれの想いが交錯する特別な一日です。大切な人と交わした約束、果たされなかった言葉、そして時間がもたらす変化——。そんな想いを込めて、この物語を紡ぎました。また、本作はボイスドラマ としても制作され、実際に音声で楽しむことができます。Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォーム、そして「Hit’s Me Up!」の公式サイト にて配信中です。声優の方々が演じる登場人物たちの息づかい、シーンごとに流れる音響効果が、物語の世界をより鮮やかに彩っています。ぜひ、文章だけでなく音でも この物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。それでは、どうぞ最後までお楽しみください(CV:桑木栄美里)【ストーリー】<『10年目の成人式』>[シーン1/成人式会場]「成人おめでとう!」「おめでとうございます!」「おめでとう!」華やかな振袖たちが、踊るように成人式の会場へ吸い込まれていく。私が身に纏うのは真紅の振袖。大きな花弁の椿が咲き、優雅に蝶が舞う吉祥紋様(きっしょうもんよう)だ。『聖なる花』である椿は『永遠の美』という意味を持つ。卵から幼虫、さなぎへ。そしてさなぎから羽化する蝶は不老不死の象徴。未来を祝福するような艶やかないでたちが、私の心を逆撫でした。寒空(さむぞら)のなか、私は鬼の形相で会場の入口に立っている。あれは1か月前。彼と一緒に、着物の衣装屋さんに行った。初めて着る振袖に、いや、七五三以来初めて着る着物に不安いっぱいの私。『ここから会場までどうやって行けばいいの?』とっさに彼が言った、『僕が送っていくよ』このひとことにどれほど安心したか。『僕のSUVなら車内も広いし、安全運転だから大丈夫さ』よくものうのうと、そんないい加減な言葉を口にできたものだ。成人式の日。着付けが終わっても、待てど暮らせど現れない彼。泣きそうになる私に、お店の人がタクシーを呼んでくれた。成人式の会場に着いてからも、私は30分以上待たされている。首長の挨拶も来賓の祝辞も、とっくに終わっているはずだ。あきらめかけて、会場へ入ろうかと思ったとき、黒いSUVが私の前で急ブレーキをかけた。■SE/急ブレーキ〜車のドアをあける音『ごめん!』慌てて車から降りてくる彼。鬼と化した私を見て、一瞬ひるんだが、『朝クルマが急に動かなくなって』『寒波で電気系統がやられたらしい』『ドイツ車って意外とそこ弱いんだ』と、言い訳以外のなにものでもない言葉を私に投げつけた。私は怒りを抑え、眉間に皺を寄せたまま微笑み、『もう、さよならしましょ』と、彼に告げた。彼の表情がゆがみ、泣きそうな顔になる。『ちょ、ちょっと待ってよ』『ホントなんだってば』『連絡くらいできるでしょ』『したよ!LINE送ったじゃないか』私は、自分のLINEの画面を彼に見せて、『どこに?』私のスマホを見て彼は焦る。『そんな!ちゃんと送ったのに』『クルマが壊れて動かない、タクシーで先に会場へ行ってくれ、って』『あなたに言われなくても来たけど』『すまない』『これが私とあなたの相性なのね、きっと』『そうじゃないんだ』『もうあなたの顔なんて見たくないから』『ホントに悪かった。謝罪を受け入れてほしい』『無理でしょ』『お願いだ』『こんな気持ちのときになに言われたって無駄』『じゃあ・・・待つよ』『どうぞご勝手に』『いつまで待てば許してくれる?』『そうね・・・』『10年後の今日、ここでもう一度謝ってくれたら許してあげる』『え・・・』彼は私の目をじっと見つめ、なにも言わなかった。そりゃそうよね。この言葉自体が、謝罪は不可能だって告げているわけだもの。成人式の会場でも、私と彼は離れて座り、一切言葉を交わさなかった。帰りも別々に帰っていく。衣装屋さんで着付けを解き、家に帰った私は泥のように眠った。[シーン2/月日は流れて】成人式から1年後。風の噂で、彼が結婚したと聞いた。当然、私にインビテーションが届くわけもなく、私は心の中で祝福の言葉を彼に送った。『お幸せに』彼と私は連絡をとることもなく、月日が流れていく。7年後。学生時代の友だちから連絡が届いた。交通事故で、彼がこの世を去ったこと。うそ・・・私の心の中が空っぽになる。どうしようもない虚しさが私から思考を奪った。すべての力が体から抜けていく。葬儀に行きたくても体が動かなかった。それからの人生をどう生きたのか、あまりよく思い出せない。気がつくと、10年目のこの日がやってきた。[シーン3/二十歳のつどい会場]※声かけは湯浅も含めて録ります「おめでとう!」「おつかれー!」「成人おめでとう!」どうして、ここへ来てしまったのだろう。もう、『成人式』という言葉自体もなくなってしまったのに。『二十歳のつどい』という看板の前で私は立ち止まった。華やかな振袖たちが、蝶のように会場を舞う。10年前なら、私も蝶の群れの中へ悠然と入っていけただろう。モルフォチョウのように、自分の美しさを誇示しながら。成人たちは、私の方へちらちらと視線を送る。ついくせで心を読む。”ちょっと見て、あのおばさん””なんで成人式の会場にいるの?””ひょっとして新成人のお母さんだったりして”失礼ね。私、まだ30よ。いくつだと思ってんの?久しぶりに外へ出たけど、まぶしい若さが目に沁みるなあ。私の目的は新成人を祝うことじゃない。もう、消えてしまった儚い約束のため。それでもいい。自分の心に決着をつけるためにここに来たのだから。成人式が終わり、振袖たちが消えていくまでは、ここですごそう。顔を上げ、冬の空を見上げながら、10年前のあの日に思いを馳せる。と、そのとき、LINEの着信音が鳴った。■SE/LINEの着信音誰かしら?こんな日に。最近、LINEなんて開いてもいなかったわ。スマホの画面を開くと・・・送信元には・・・彼の名前。どういうこと?彼のLINEなんて10年前からブロックしているのに。おそるおそるメッセージを開く。『ごめん。クルマがこわれちゃった。朝イチで修理に出すから朝の迎えはいけない。タクシーで行ってほしい』え?日付は10年前の今日。そんな・・・どうしていまこれが・・・私は混乱しながら彼のブロックを解除する。■SE/LINEの着信音またLINE・・・震える指で画面を開く。先ほどのメッセージが送信取消となって消えている。『このメッセージは、書いたけど送るかどうか迷ってる。どんなに君に謝っても言い訳にしかならないから。でもこれだけはわかってほしい。君を傷つけたこと、一生かけて償うよ。10年後の今日。必ずこの気持ちでいると誓って』10年後の今日?ということは、成人式の日。あのあと書いたメッセージ?でも、次の年には結婚してるじゃない。■SE/LINEの着信音え?なに?なに?なんだかこわい・・・連続で届くLINEの画面を開く。直前のメッセージはまた消去されている。『今日きみの家にいったけど会えなかった。何度も電話もした。自分の心にけじめをつけたい。一度でいいから返信してほしい』日付は成人式の半年後?私、ブロックしてるから返信できるわけないじゃない。■SE/LINEの着信音今度はなに?1年後?『明日結婚するよ。もう一度話したかった。身勝手だけど、きみのことは忘れない』本当に自分勝手なんだから。■SE/LINEの着信音7年後の日付。なんだか、いやな予感がする。『いまでもきみのことが忘れられない。いや、時が経てば経つほど、思いは募っていく。あと3年が待ちきれない』まさか、このあと交通事故に・・・私はスマホの画面を見つめながらしばらく呆然としていた。私を正気に戻したのは、腰をひっぱる小さな力。誰かがジャケットの裾を引っ張っている。振り向くと、小学校低学年くらいの女の子が私を見つめていた。『はじめまして』この年齢の子にしてはとても礼儀正しく挨拶する。こんにちは。あなたはだあれ?女の子は、私がよく知った苗字を口にした。まさか。まさか・・・『父の代わりに約束を果たしにきました』やっぱり。LINEを送ってきたのも彼女だった。聞けば、彼女が生まれたときから、彼はシングルファーザーだったという。事情は知らないが、いろいろ大変だったんだろう。彼が亡くなったあとは、親族の元で暮らしているようだ。『父の謝罪、受けてもらえますか?』ああ、そうだった。私って、なんということを。受けるもなにも、私の方こそ謝りたい。私は、女の子と同じ目線にかがみ、彼女に告げる。私こそ、ごめんなさい。あなたのお父さんは、何も悪くなかったわ。そう言って、彼女を抱きしめた。彼女は初めて笑顔を見せ、私にしがみつく。つぶらな瞳を潤ませて。今度は私から彼女に話しかける。『これから、たまにこうやって話を聞かせてくれる?』彼女は嬉しそうにうなづく。『約束ね』小さな小指と指切りをした。私は自分の心に誓う。これからは、彼女との約束を守り続けていこう。
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