EPISODE · Feb 13, 2025 · 16 MIN
ボイスドラマ「AIの子守唄」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
『AIの子守唄』は、AI技術が高度に発達した未来の高山市を舞台に、ひとりの少女と彼女を守るAIの絆を描いた作品です。先天性心疾患を抱え、生まれながらにして厳しい運命を背負った少女エミリ。そして、彼女を守るために誕生したヒト型AI「SUE(スー)」。「人はAIに命を託すことができるのか?」「感情を持たないはずのAIに“愛”は存在するのか?」この物語は、そんな問いかけとともに、エミリとスーが過ごした日々を綴っています。彼らの物語が、少しでもあなたの心に響くことを願って──(CV:桑木栄美里)【ストーリー】■SE/赤ちゃんの鳴き声+バイタルを表示する音「ピッピッピッ」私は高山市内の総合病院で産声をあげた。そのとき母が医師から告げられたのは、無脾(むひ)症候群による余命宣告。(医学的に説明すると、内臓が左右対称になっているため、脾臓がない。それが原因で、肺動脈閉鎖・高度狭窄(きょうさく)という心疾患を併発)多分、1歳の誕生日も迎えられないだろうと言われた。そのとき母は、AIラボで働くシングルマザー。”どんなことがあっても娘を救ってみせる”鉄の意志で、退院を待たずに行動を開始した。母が働くAIラボは、高山市役所の地下にある。その名をTakayama AI Cyber Electronic Labo=略してTACEL(ターセル=意味「ハヤブサ」)という。国家の命で最先端のAIを極秘裏に研究・開発する組織である。まさか市役所の地下にこんな施設があるなんて、高山市民は誰も知らないだろう。TACELでAI開発のチーフだった母は、完成間際のヒト型AIを密かにコピー。OSを起動させ、無断で自宅へ持ち帰った。そのコマンドは、”将来、先天性疾患の手術ができるようになるまで、娘の命を守ること”。AIは「Save Ultimate Eternal-life」(SUE=スー)と名付けられた。SUEのOSに埋め込まれた駆動コード。そこには法で決められた、『人間に危害を加えてはならない』『上記に抵触しない範囲で、人間の命令に従わなければならない』『上記にに抵触しない範囲で、自分を守らなければならない』というアシモフの三原則より上位に、『娘の命を守る』というコードが優先順位最高位で書き込まれた。スーは、常に私のバイタルを監視する。無脾症候群によるチアノーゼが現れたら、冷静に診断。ショック状態が続く強度のチアノーゼになったら、窒息したり心筋梗塞になる前に、酸素吸入で処置する。心不全や肺高血圧に対する薬物はスーが服用させる。新生児のうちにおこなわれる2回の大手術では、術後の世話をやいた。『大丈夫』これがスーの口癖だ。私の目を優しく見つめ、いつも笑顔で語りかける。スーに守られて、私は命を永らえた。小学校に入るまで、何度もおこなわれた手術。『大丈夫だよ』その都度、スーはこう言って私を励ましてくれる。手術の苦しさに耐えられたのも、スーがいたからだ。『もう大丈夫。よく頑張ったね』私とスーの間には、人間とAIという関係を超えた信頼が生まれていた。『大丈夫。今度も心配ない』8歳になったとき、私の心臓にはペースメーカーが植え込まれた。ペースメーカーは新しい命の鼓動を刻む。私は嬉しくて、外への散歩をするようになった。と言っても、家の前の公園までだけど。それはちょうどスーが充電をしているとき。”公園までひとりで走ってみようかな”そんな気持ちが心をよぎった。”ペースメーカーがあるんだし、きっと大丈夫だ”私は、スーがいないことをいいことに、公園まで走る。あ、大丈夫そう。最初はおそるおそる。途中からだんだん全力疾走になる。”あ・・・”あっという間に胸が苦しくなる。息ができない。スー、たすけて・・・意識が遠のいていった。■SE/病院の心電図の音気がつくと病院のベッドだった。スーがママと話している。どうやら、私の意識がなくなった直後にスーがかけつけ酸素吸入してくれたらしい。病院に運んでくれたのももちろんスーだ。『申し訳ありません』『あなたは悪くない。動きながら充電できるバッテリーを開発するわね』私はママではなく、スーに声をかける。『スー、ごめんなさい』『まあ大丈夫なの?もう苦しくない?これからは、ちゃんとエミリを見てるからもう安心してね』ママがその横でうなづいていた。そんなことがあってしばらくしてから、私は初めて小学校へ通うことになった。まだ小雪が混じる肌寒い初日。スーが運転する車で小学校へ送ってもらう。不安そうな私を励ましてくれたのもやっぱりスーだ。『大丈夫だから。行ってらっしゃい』スーは、私を教室まで送り届けたあと、廊下でじっと待っている。周りのみんなに奇異の目で見られながらも小学校に行けたことが嬉しくて、帰り道スーと語り合った。夕方、家に帰ると珍しくママが帰っている。ママは、私とスーに、『ごめんね。ママ、国の仕事でアメリカへ行くことになっちゃったの』『スーがいるから大丈夫だよね』『スー、エミリをお願いね』『大丈夫。エミリはスーが必ず守ります』ママは安心した顔でうなづく。それから1週間もしないうちに、旅立っていった。■SE/学校のチャイム〜教室の雑踏(低学年)桜が咲く季節になると、私は小学校4年生。『ねえ、スー。私、勉強遅れてない?』『大丈夫大丈夫。半年でもう3年分進んだからね』スーが毎日勉強を教えてくれたおかげで、同級生のみんなに追いついたんだ。ある日のこと。小学校の校舎になんとクマが侵入してきた。クマは、1階の教室まで入ってくる。教室はパニックとなり、みんなは慌てて外へ逃げていく。逃げ遅れた私は、教室の入り口に倒れ込んだ。しゃがみこむ私を見つけたクマは突進してくる。そのまま私に噛みつこうとした瞬間、素早く駆けてきたスーの右手が動いた。■SE/クマの叫び目を瞑った私の耳に聞こえてきたのは、クマの断末魔の叫び声。スーは、かけつけた教員たちに何食わぬ顔で、『クマ突進して止まれず、机の角に頭部をぶつけたようです』と、説明した。こんな事件があったけど私は学校が大好き。教室のおともだちも大好きだった。でも、周りのみんなはそうじゃないみたい。私は病気で階段が登れない。だから本当なら3階だった4年生の教室は、私の進学と同時に1階に変わった。移動教室で授業するときは、スーにおんぶしてもらう。そうしないと階段を登れなかったんだ。『スー、私って体重軽すぎるよね』『大丈夫。ちゃんとご飯食べてお薬飲んでるから他の子と変わらないよ』病気のせいで成長が遅れて、体重も軽いはずなのに、スーは優しい嘘をつく。そんな私たちのことを、クラスのみんなは冷たい目で見ていた。”あの子ばっかり甘やかされて””えこひいきだよね””叔母さんの子守唄で眠ってるんだよ”やがて、私の筆箱や上履きがなくなるようになった。一番最後に給食が回ってくると、ほとんど食べ物が残ってなかった。移動教室から帰ってくると、ランドセルが消えていた。私は最初、誰にも言わずに1人で悩んでいたけど、お薬の入った手提げ袋がなくなったとき、スーに相談した。スーは少し考えたあと、笑顔で言う。『大丈夫。心配いらないから。もうそんなことは絶対におきない』本当だった。スーは私の持ち物にAIタグをつけて、自分のAIとリンクさせたのだ。誰かが私のものに手をふれると、スーが瞬時に横に立つ。誰もなにもできなくなった。■SE/教室の雑踏(低学年)小学校4年生の半ば、私はフォンタン手術という最終的な手術を受けることになった。休学期間は3か月。手術後は上半身にドレーンというチューブがつけられ、身動きできないという。不安でいたたまれない私にスーは、『大丈夫。スーがついてるから』きっとこう言ってくれるだろうな、とわかっていても、本当に安心する。だが、先生がクラスの生徒たちに私の休学のことを話したとき、みんなから射るような冷たい視線を感じた。その日の授業中、女子のグループが私に紙を回してくる。そこには、”いままでごめんなさい””謝りたいから放課後校舎裏にきて””仲直りする気があるなら叔母さんは連れてきちゃだめ”と書かれてあった。放課後、校舎裏で待っていたのは、女子のグループとなぜか男子たち。”叔母さんに言ってないよね”それを確認すると、いきなり私の手提げ袋を奪い取った。『あ、そこにはお薬が』聞く耳を持たない彼女たちは、男子に袋を投げる。”オレたちに追いついたら返してやるよ”『だめ。返して』私は焦って走り出す。当然追いつくこともできず、胸の痛みでうずくまってしまった。そのあとのことは全然覚えていない。だが翌日の朝。先生から、昨日の女子グループと男子たちが入院したと告げられた。帰り道、スーに尋ねると、『大丈夫。心配ないから』と優しく微笑む。私はスーを信じて、手術を受けた。手術のあと、目が覚めると、ベッドの横にはスーではなく母が座っていた。母はスーのログ履歴をチェックして急遽帰国したらしい。真剣なまなざしで私に話しかける。『エミリ、スーはラボへ返すことになったの』『え?なんで!?』『バグが見つかったから。これからはママがついてるわ』『やだ!スーじゃなきゃいやだ!』さんざん泣き疲れて眠ってしまった深夜。目ざめたとき、ママは横のベッドで眠っていた。私は、自分でドレーンをはずし、病院の外へ出る。『スー!どこ!?どこにいるの!?』わかってたことだけど、探し回っているうちに、胸が苦しくなり、意識が遠ざかっていく。そのとき、誰かが私を抱き抱えた気がした。あれは夢だったのかもしれない。朦朧とする意識のなかで、スーが私に話しかける。『エミリ、大丈夫?』『しばらく会えないけど、安心してね』『スーはこれからもあなたのそばにずっといるから』『大丈夫、大丈夫』■SE/学校のチャイム〜教室の雑踏手術はおおむね成功した。チアノーゼはなくなり、紫色だった爪や唇がピンク色になった。階段も、自分の足で登れるようになった。そしてなにより、私をいじめた男子も女子もみんな転校していなくなっていた。私は今日も笑顔で学校に通っている。通学路の途中で立ち止まり、タブレットを開く。『スー、おはよう』『エミリ、おはよう。体調は大丈夫?』『うん、問題ない。だっていつでもここにスーがいるんだもん』タブレットについたカメラが赤く点滅した。
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