EPISODE · Mar 21, 2025 · 10 MIN
ボイスドラマ「赤いトゥシューズ」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
飛騨高山の夜、静寂の中で踊る赤いドレスの少女——「赤いトゥシューズ」は、現実と幻想の狭間を彷徨う彼女の心の旅路を描いています。「Hit’s Me Up!」公式サイトをはじめ、SpotifyやAmazon、AppleなどのPodcastプラットフォーム、さらには「小説家になろう」にも掲載されている本作『赤いトゥシューズ』。アンデルセン童話「赤い靴」から着想を得たこの物語は、愛と喪失、そして選択の先にある新たな運命を紡ぎます。舞台は飛騨高山。幽玄な月の光に照らされながら、中橋の赤い欄干に沿って続く、赤いトゥシューズの軌跡——この世界と、もうひとつの世界の狭間で、彼女は何を見つけるのか。その結末を、ぜひ!(CV:桑木栄美里)【ストーリー】[第1幕:夜更けの中橋(観光客も誰もいない夜更け)】■SE/夜更けの環境音(宮川のせせらぎと虫の声)■BGM/バレエ「白鳥の湖/情景」■SE/夜明けの環境音(宮川のせせらぎと小鳥のさえずり)十六夜の月。午前2時。昔でいう”丑三つ時”の中橋。赤い欄干に挟まれた橋の真ん中で、彼女は踊り続ける。赤いドレス。赤いトゥシューズ。鬼気迫るダンスと、その目に宿る深い悲しみ。誰もいないステージは、月の光に照らされて妖しく浮かび上がる。暁が夜空を覆い隠すより前に、ダンスは終わり彼女は消えていった。[第2幕:ホテルのレストラン】■SE/レストランの環境音(準備の音)「おはようございます!」(※宮ノ下さん)『おはよう!くそお、今日も君に負けた』「ふふ。無理だと思うな。私より早く出勤するのは」(※宮ノ下さん)『なんでー?単にボクの(方)が低血圧だってことだろ』うふふ・・・寝てないからよ。私には、恋人の彼にも言えない秘密がある。パラレルワールド。さっきまで私が踊っていたのは、もうひとつの世界。その世界では、彼はもうこの世にいない。1年前、交通事故であっけなく逝ってしまった。元々は私、そっちの世界の住人。彼とともに、東京の有名なバレエ団に所属するダンサーだった。[第3幕:バレエ団(もうひとつの世界)】■SE/バレエスタジオの環境音公演を控え、夜遅くまで稽古漬けの毎日。2人ともソリストだったから、寝ても覚めてもバレエしかなかった。役は、誰もが知っている、オデットとジークフリート。そして私は二役。第三幕でオディールとなり、彼を誘惑する。このとき、本当は黒い妖艶なドレスを纏うんだけど、今回の舞台は赤。演出家の案で、真紅のドレスになった。誘惑や裏切りだけでなく、心の底に潜む情熱も表現しようということらしい。こうして、赤いドレスと赤い靴の『黒鳥』ができあがった。みんなには内緒だけど、ドレスも靴も彼からのプレゼント。もっと情熱的に愛してほしい、ということかしら。いまでも呼吸はぴったりなのに。真意を尋ねる前に、彼は黄泉の国へ旅立っていった。高山の実家へ帰っていた私を迎えに来て・・・王子のいなくなったステージに、オデットは立てない。枯れ果てた心には、涙すら出てこなかった。[第4幕:世界を超えて/十六夜の中橋】■SE/夜の環境音と宮川のせせらぎ彼が事故に巻き込まれた中橋に毎日花を手向け、何時間も立ち尽くす。ある十六夜の晩、私は夢遊病のように彷徨いながら欄干に手をかける。足を上げて宮川に身を投げようと思った。ところが。着地したのは川面ではなく、中橋の上。反対側の欄干からまた橋に戻ったんだ。え?どういうこと?そのとき、私の肩を誰かが叩いた。(※宮ノ下さん)『今日は遅番だったの?』いつも耳にしていた声。そして、振り返ると・・・見覚えのある笑顔。あ、あなた!?どうして!?どうしてここにいるの!?どうして生きているの!?(※宮ノ下さん)『ひどいなあ。人をゾンビみたいに言わないでよ』頭が追いつかない。状況が理解できるまで、時間がかかった。動揺を抑えなんとか気を落ち着かせる。やがてわかったのは・・パラレルワールド。ここは彼が生きている世界。交通事故に遭っていない世界。別の次元なんだ。じゃあまた、グラン・パ・ド・ドゥが踊れるの?嬉しくて、涙が溢れた。(※宮ノ下さん)『なに?グラン・パ・ド・ドゥって』え?だって、2人で猛練習してきたじゃない。違っていた。彼と私の勤め先は高山市内のホテル。それぞれ厨房とフロント係という役柄だ。つまり、彼だけでなく、私もバレエをやってない。パラレルワールドというのは、似て非なる世界。どこかの段階で違う道を歩き始めた2人の世界なんだ。でも、贅沢は言わない。生きていてくれるだけで十分。私を救ってくれた超神秘的な存在に感謝して、私はこちら側の住人となった。だけど・・・[第5幕:夜更けの中橋(観光客も誰もいない夜更け)】■SE/夜更けの環境音(宮川のせせらぎと虫の声)■BGM/バレエ「白鳥の湖/情景」十六夜の晩になると私は、もう一度中橋の欄干を超える。それは自分の意思ではなく、まるで夢遊病者のような感覚。彼のいない世界で、踊り続ける赤いドレス。止めたくても止められない赤い靴。赤いドレス。赤いトゥシューズ。赤い欄干。月の光に照らされる赤色が妖しの舞を踊る。彼へのレクイエム。瞳には、底なしの暗闇が宿っていた。[第6幕:古い町並を歩くカップル】■SE/古い町並の環境音(観光客の雑踏)(※宮ノ下さん)『バレエ団?』「うん、クラシックバレエやってみたいの」(※宮ノ下さん)『年齢とか関係ないの?』「ないよ、それに、小さい頃からの夢だったんだもん」(※宮ノ下さん)『へえ、しらなかったなあ。でもいいんじゃない。やってみれば?』「え?あなたは?」(※宮ノ下さん)『いやいや、ボクはバレエって柄じゃないだろ』そうか・・・この世界では、彼も私も、バレエには一切関わってこなかったんだ。頭ではわかっていても、なかなか気持ちを納得させられない。だって私が愛していたのは、ジークフリートの彼。いま厨房で、シェフを目指して働く彼を、私は本当に愛している?[第7幕:夜更けの中橋(観光客も誰もいない夜更け)】■SE/夜更けの環境音(宮川のせせらぎと虫の声)■BGM/バレエ「白鳥の湖/情景」中橋で踊る赤いドレスのダンサー。その姿は、十六夜だけでなく、頻繁に現れるようになった。悲しみを湛えた瞳。だが、それは彼を失ったこととは違う苦しさだった。ある日、気づいた。自分を見つめる誰かの視線に。ううん。もう、構わない。見られたっていい。どうせどっちの世界に私の愛したジークフリートはいないんだから。赤い靴を履いて、私は踊り続ける。足を切り落とされたって、きっと変わらない。そのうち、視線の主が近くなっていることに気がついた。でも、闇の中で姿は見えない。悪魔ロットバルトかしら。それでもいいわ。だっていまの私はもう黒鳥、オディールなんだから。[第8幕:ホテルのレストラン】■SE/レストランの環境音(準備の音)「おはよう」(※宮ノ下さん)『なんだか最近そっけないね』「そう?」(※宮ノ下さん)『バレエのこと、気に障った?』「ううん。体調がすぐれないの」(※宮ノ下さん)『そっか、お大事にね』それが彼との最後のセリフだった。いや、彼の身になにかが起きたわけではない。本当に自然に、枯葉が枝から離れるように、遠い関係となった。紅葉が山から降り始めていた。[終幕:暁の中橋(観光客も誰もいない夜更け)】■SE/夜更けの環境音(宮川のせせらぎと虫の声)■BGM/バレエ「白鳥の湖/情景」その日は十六夜だった。赤いドレスを着て赤いトゥシューズで中橋へ降り立つ私。そこへ1人の男性が近づいてくる。誰?まさか、あの人が・・・もちろん、予想は外れる。『ひさしぶり』え?『覚えてないと思うけど』誰?『バレエのキッズスクールで一緒だった・・・』あ・・『思い出してくれた?』思い出した。いつもペアを組んでいた男の子。『中橋の赤いドレスのダンサーの噂聞いて』噂になってたんだ・・『すぐに君だと思った』「え?どうして?」『だって、君はいつも赤いドレスと赤いトゥシューズだったじゃないか』「ああ、忘れてた・・」そうだった。私、赤い色が大好きで、いつも赤いドレスと赤いトゥーシューズ履いてた。どうして、忘れてしまってたんだろう。『僕は今でもあそこにいるんだ』知らなかった・・・地元のバレエ団なんて、眼中になかったから。『今度、うちのスタジオへ遊びに来ないかい』行きたい・・無性に。悲しみに囚われた黒鳥なんかじゃなくて、オデットとして。悪魔の呪いで白鳥に変えられたオデット。その呪いを解くことができるのは、真実の愛を誓う男性だけ。まさか彼がそうだなんて、言うつもりはないんだけど・・私はこの世界の住人だから。本当の愛は、きっとここにしかない。仄かな希望の灯りが、私を暗闇から救ってくれると信じて。
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