EPISODE · Jan 17, 2025 · 6 MIN
ボイスドラマ「飛騨の匠」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
奈良時代。 飛騨の国で生まれた主人公(女性)は男として育てられ、飛騨の匠という木工技師になった。折しも奈良では、法隆寺建立の真っ最中。彼女は八角形のお堂の屋根につけられる露盤宝珠を作っていた・・・(CV:桑木栄美里) 飛騨匠(ひだのたくみ)。 その呼び名は”誉”(ほまれ)なのか。 それとも・・・ 大化の改新からもう90年以上たつ天平(てんぴょう)の世にあっても、 飛騨の山奥に住まう者たちは決して豊かではない。 それゆえに、100名もの匠がこうして奈良の都までかりだされ、 寺院のお堂を作っている。 しかも、男性の匠たちのなかにあって、 実は・・・・私は、おんな。 性を隠し、匠の衣服をまとい、男として伽藍建立(がらん-こんりゅう)に携わっている。 SE〜山の中のノイズ(鳥の声) 20年前、私は、山深い飛騨の国で生まれた。 生まれてすぐ両親を亡くし、匠の棟梁に引きとられたあとは、 男として仏師の修行に明け暮れた。 生まれつき、手先が起用だったのが幸いしたのだろう。 私が彫り出す一位一刀彫の仏像は都で人気となった。 だが仏像より、ほかの誰にも真似できないと言われたのが、 指南車(しなんしゃ)のからくりだ。 指南車、というのは、上に乗せた人形が南を指し続ける車のこと。 私が作るからくり人形は、どの匠が作るものより、正確に南を指した。 寺院や大仏建立の際は、棟梁とともに都にあがり、匠として働いた。 棟梁は毎日朝から寺院作りに出かける。 匠たちは、寺院建立の現場近くに、かりそめの工房を設けて腕をふるった。 私は寺院建立の現場へはいかず、貴族たちの邸宅へ向かう。 貴族たちの依頼で、からくりに「下がり藤」の紋様を刻み指南車にとりつけるのだ。 指南車は都の貴族たち上流階級の人たちだけが使う車。 みな競って匠に豪華なからくりを作らせる。 私は小さい頃から歯車を作るのが大好きだった。 いつしか、歯車で動く虫を作って周りを驚かせるのが楽しみになっていた。 指南車の仕組みも原理は歯車。 車が向きを変えると左右の車輪は回転数に違いが出る。 その回転数の差を瞬時に計算し、からくり人形の歯車を反対に回せばいい。 言うのは簡単。 でも私は、昔からこういう計算が好きだった。 正確に南を指し、目的地へ導く私のからくりは 皇族たちの間にまで評判になっていった。 やがて、平城京に”疱瘡(ほうそう)”という流行り病が蔓延した。 あろうことか棟梁は、流行り病に倒れ、帰らぬ人となってしまった。 都にひとり取り残された私は、貴族たちから離れ、 人手が足りなくなってしまった寺院の現場へかりだされた。 大勢の匠たちが作ろうとしているのは、法隆寺の正殿。 そもそも、法隆寺自体、厩戸皇子(うまやどのおうじ)の命で 飛騨匠が作ったのだ。 いつしか、都の流行り病は、皇子の怨霊による祟りだと噂され、 正殿建立の目的はそれを鎮めることとなっていく。 私が任されたのは、八角形のお堂の屋根につけられる、 露盤宝珠(ろばんほうじゅ)という飾り。 露盤とは本来「仏舎利(ぶっしゃり)」というお釈迦さまの遺骨を入れる骨壷。 私は、球(たま)の形をした露盤に「光芒(こうぼう)」という光の筋をつける。 後光のようにも見えるこの宝珠を彫り出すのだ。 私にとっては、正殿の建立は怨霊を鎮める目的などではない。 亡き棟梁の供養のため、精魂込めてノミをふるった。 こうして、尊い命を犠牲にして、法隆寺の正殿は完成した。 かつて100年前には、厩戸皇子が政(まつりごと)をおこなった 斑鳩宮(いかるがのみや)その地に。 本尊は、亡き棟梁が彫り上げた救世観音(くせ-かんのん)。 神々しく輝くその姿は、見るもの誰もが瞳を潤ませる。 SE〜山道を歩く音 華々しく落成式が執り行われたその日、 私は飛騨への帰路を急いでいた。 手に持った小さなふろしき包みには、木彫りの箱が入っている。 私が作った、釘を使わず木組みで作った白木の箱。 そこには、棟梁の形見のノミが入っている。 私にとっては、もうひとつの露盤。 救世観音に守られた、大切な道具だ。 誰が建てたお堂だとか、誰が作った仏像だとか。 そんな名誉も、後世に残る名前もいらない。 私は私。 私の名前は、飛騨の匠。
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