EPISODE · Jul 24, 2026 · 22 MIN
ボイスドラマ「根古石」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
悪夢に苦しむ少女。失われた故郷。そして、姿を消した一匹の猫。恐ろしくも切ない物語を、ぜひ最後までお楽しみください・・・【ペルソナ】※舞台は昭和35年春/荘川村中野から高山市(現在の市街地)へ・さくら(15歳/岩波あこ)=祖父母と暮らす荘川村中野から高山市の親戚の家へ・こうめ(15歳/坂田月菜)=高山市内にある旅館の娘。実は密かに金森の血統を守ってきた旧家・祖母(71歳/山﨑るい)=荘川村中野から親族の住む新淵へ・七儺(岩波あこ)=さくらの夢に現れて苦しめる【プロローグ:出会い】◾️SE:村の中の環境音「さくら・・高山へ行っても元気でな。しっかり勉強してこいよ」祖母が目を潤ませて私を見送る。祖父は何も言わず、寂しそうな顔をこちらに向けていた。昭和35年。1960年の春。荘川村中野。御母衣ダムの建設とともに、住人たちは引っ越しを始めた。ある者は郡上八幡へあるものは名古屋へまたあるものは東京へ・・荘川や白川村へ残る者はごくわずかだった。私はさくら。ここ荘川村中野で、祖父母との3人暮らし。祖父母は高齢を理由に遠くへは行かず、荘川村に残る決断をした。今後は新淵にある親戚の家で世話になる。本来なら私も一緒に新淵へ行くはずだった。だが今年はちょうど、中学卒業。高校進学の年。高山にある名門の進学校・神山高校へ行く。入学試験はこの春。3月。受験したときは、まさか受かるなんて思ってもみなかった。何も考えずに受験したので、合格してからは大変。祖父母は私のために、親戚中へ掛け合った。結局決まったのは、高山の叔父の家。県事務所近くの古民家に居候。通学は自転車。雪が降ったら大変そう。そして、今日が入学式。祖父母が見送る中野のバス停。祖父は必死で泣くのを我慢してる。潤んだ瞳を見ていると嬉しさよりも寂しさが募る。私にも、心配事がひとつ。新しい生活のことじゃない。実は引っ越しが決まってから、サクラの姿が見えなくなっちゃったんだ。サクラ、っていうのは、うちで飼っている三毛猫。私と同じ名前。私が生まれる前からいたから、もうかなりおばあちゃんのはず。祖父母は、新淵への引っ越しが決まった日、”サクラをどうしよう?”ってすごく悩んでた。聞くでもなく、私に抱かれたサクラは耳をそばだてていたけど・・え?まさか・・心配かけないために、自分で姿を消したの?翌日から祖父母と私・3人で、必死にサクラを探しまわる。でも結局、入学式の今日まで、その姿を目にすることはなかった。時間になり、遠くからバスがやってくる。そのとき・・・◾️SE:ネコの鳴き声(ニャー)「さくら?」振り返ってもなにもない。祖父も祖母も聞こえていないようだ。やがて、乗合バスがバス停に到着。私は後ろ髪を引かれながら、ステップを上がる。庄川(しょうがわ)のせせらぎが雪解け水を運んでいた。【シーン1:根古石】◾️SE:高山陣屋の環境音「じいちゃん、ばあちゃんがいつまでも元気でいられますように」桜山八幡宮。秋の高山祭の舞台。神山高校からの帰り道、私は宮川沿いの参道から、八幡さまへ。祖父母のことを思って真剣にお祈りした。私の大切な家族。見送りのときの顔が頭から離れない。私は、まるで神様に呼ばれるように、毎日参道脇に自転車を停める。でも、お参りする理由はそれだけじゃない。「サクラが無事でいますように」私が生まれたときから一緒の猫、サクラのことも、ずうっと心に引っかかっていた。八幡さまでは本殿に参拝。そのあとは江名子川(えなこがわ)のほとりへ。秋葉さまの前で自転車を停め、小さく頭を下げる。初夏の遊歩道は風が気持ちいい。安川通(やすがわどおり)から上三之町を通って市役所へ。中橋を渡れば飛騨県事務所。ここから叔父さんの家までは自転車で5分もかからない。このコース、ちょっと遠回りだけど、私のお気に入り。どうして県事務所の前を通るかというと・・・裏手に、『旧陣屋稲荷宮』っていうお稲荷さんがあるの。そこで、ちょっとかわったものを発見したんだ。『根古石』。『根っこ』に『古い』に『石』と書く。最初はなんなのかわからなかったけど。先生に聞いたら、とっても悲しい伝説を教えてくれた。それは江戸時代のお話。 郡代の娘が池のほとりで佇んでいると・・・可愛がっていた猫が唸りながら着物の裾をくわえて離さない。まるでその場から娘を引き離そうとするように。それを見ていた郡代は、「畜生の分際で無礼な!」と、腰にさした刀を脱いて一刀両断。一太刀で猫の首を撥ねてしまった。猫の首はそのまま池のほとりの松の木へ。必死の形相で、そこにいた大蛇に噛みつく。娘を狙っていた大蛇は、喉を噛まれて息絶えていた。郡代は自分の早とちりを悔やんで、手厚く供養。稲荷宮(いなりのみや)を建て、その傍らに大きな石を据えて祀った。そう。これは、命をかけてお姫様を守った飼い猫の話。その猫を祀った石が『根古石』。私はひどく感動した。だから毎日ここへきて手を合わせている。忠義ある猫の供養と同時に、『サクラ、お願い。元気でいて!』猫の話を聞くと、どうしてもサクラと重なっちゃう。もしかしてサクラ、引っ越しする私たちのお荷物にならないように姿を消したんじゃ・・・サクラ・・・声が聞きたいよ・・サクラ・・・【シーン2:悪夢】◾️SE:高山陣屋の環境音「おのれ〜!よくもわしの命を奪ったな〜!許さんぞ〜!」「ハッ!」また、あの夢だ。このところ、毎晩見る悪夢。恐ろしいもののけの夢。大蛇のような体。頭には大きなツノ。耳まで裂けた口。猫のようにギラギラ光る目・・・猫・・・!?まさか・・・まさか・・・サクラ?いや、そんなことはない。絶対にありえない。だけど、高山へ来てから、毎日この夢。どうして・・・?睡眠不足で勉強にも身が入らない。明日から期末考査だというのに・・・。【シーン3:ともだち】◾️SE:教室のチャイム(No.261849)「ねえ、ひょっとして徹夜〜?目の下のクマ〜勉強が好きなんだね」「え・・あ・・・えっと・・・」「こうめ。私の名前よ」「あ・・・こ、こうめさん・・・私は・・」「さくらさん、でしょ?」「あ・・・うん」「よろしくね。どうやって話しかけようかと思ってたの」「・・・どうして?」「あなた、帰るとき、いつも上三之町、通っていくでしょ」「なんで知ってるの?」「私の家も、そっちだから」「そうなんだ」「上三之町で旅館をやってるの。江戸時代から続いてる、古〜い旅館」「へえ〜」「さくらさんも上三之町に住んでるの?」「ううん。うちは県事務所からずっと南へ下ったとこ」「え〜。じゃなんで?」「あのへんの雰囲気が好きなんだ」「そうなのね」初めて言葉を交わしたのに、私とこうめは旧友のように喋り続けた。私が荘川出身だということ。住んでいた村がダムに沈むこと。私は高山へ来て初めて、自分のことを他人に話した。こうめも自分のことを、あっけらかんと話してくれる。こうめの家は、古くからの女系家族らしい。代々婿養子を迎えて、血筋を絶やさないようにしていた。「それから・・・これはあまり大きな声で言えないけど」もったいぶって話しだしたのは・・・「実はうち・・・陰陽師の血統なの」「え・・・陰陽師って・・」 「そう・・・この世の闇と光、陰と陽のバランスを司る存在。結界を張り、式神を使役し、牙をむく妖魔をあの世へ送り返す。陰と陽、どちらにも属しながら、その境界を守り抜くのが私たち・陰陽師の宿命よ」「す・・・すごい・・」「うちは代々女系家族だって言ったじゃない」「うん」「穢れ(けがれ)を浄化する能力は、一族の女性にしか遺伝しないの。うちがやってる『おもてなしの心』そのものが式神や結界を動かすエネルギー。代々の女将はそれを仕切っているんだ」「そ、そうなんだ・・・でも、どうしてそれを私に話すの」「ふふ・・・あなたもう気づいてるんでしょ?」「え・・・なに?」「最近、あなたの周りで変なことが起きていること」「あ・・・」「さあ、今度はあなたの番よ。私、自分のこと打ち明けたんだから」「う・・」「その目の下のクマ、どうしたの?日に日に黒くなっていくみたい」「これは・・・」「話して」私も包み隠さずに話した。学校帰りに毎日通る道。桜山八幡宮。秋葉神社。小学校から市役所へ。そして、お稲荷さんのことも。「お稲荷さん?」「うん。県事務所の裏手にある・・」「ああ、あそこ」「お稲荷さんと、不思議な石があるの・・」「根古石?」「知ってるんだ」「そりゃ、私、陰陽師だもの。根古石とあなたのクマが関係あるの?」「わかんない。でも、悪夢を見るのは、高山へ来てからずっとだから・・・なにかが関係してるんだと思う」「悪夢って?」私はこうめに、毎晩見る悪夢のことも話した。日に日にハッキリしてくるもののけの姿。大蛇のような体。般若のような牙。光る目。そして、鬼のようなツノ。「鬼・・・?ねえ、さくらさん。あなた、七儺って知ってる?」※続きは音声でお楽しみください。
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