EPISODE · Feb 6, 2025 · 10 MIN
ボイスドラマ「ハリケーン・エミリー」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
『ハリケーン・エミリー』は、ひとりの少女が嵐のように力強く生きる姿を描いた物語です。波と風を乗りこなすエミリーが、海から雪へと舞台を変えながらも、自分らしく挑戦し続ける姿を楽しんでいただければと思います。 また、本作はボイスドラマ化もされており、音声でもお楽しみいただけます! 「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームで配信中です。エミリーの情熱や、彼女を取り巻く人々の思いを、音の世界でも感じていただけたら幸いです。 それでは、『ハリケーン・エミリー』の世界へ飛び込んでください! (CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 ■SE〜荒れ狂うハリケーンの音 「がんばれ!もう少しだ」(父) 「ハリケーン・エミリーに負けるな!」 「ようし!いいぞ!」 ハリケーン・エミリー。 それは2005年7月、カリブ海で生まれた超強力な暴風雨。 メキシコ湾を北上し、アメリカ・テキサス州南部へ上陸した。 私たち家族が住んでいたのは、マックスウェル国立野生生物保護区の近く。 環境保全団体WWFで働く父が5年前に購入したコテージだ。 家は荒れ狂うエミリーに直撃され、屋根が吹っ飛んだ。 唸り声を上げて進むエミリーから隠れるように、 父は身重(みおも)の母を地下室へ避難させ、おも湯を準備する。 7月14日、アメリカ独立記念日。 非常用の小さな電灯のした、 まるでハリケーンエミリーに抱かれるように私は産声をあげた。 ■SE〜赤ちゃんの鳴き声 「やった!」 「ああ、よく生まれてきてくれた!」 「エミリー・・・そうだ、お前は・・・お前の名前はエミリーだ!」 「ようこそ!エミリー!ハリケーン・エミリー!」 父が名付けたエミリーという名前通り、私は”ハリケーン娘”だった。 週末はいつも父の車で5時間かけて、テキサス州のガルベストンビーチまで行き 一日中サーフィンに明け暮れる。 3歳から始めたサーフィンの技術はあっという間に上達した。 6歳になると大人たちにまじって、1人で大きなボードに乗る。 私は、右足を前にしてサーフボードに立つ「グーフィー」というスタンス。 グーフィーのサーファーはあまり多くないからいつも目立っていた。 地元でおこなわれるサーフィンの大会にも毎年出場。 ”リトルグーフィー”と呼ばれて、みんなに可愛がられた。 14歳。 ハイスクールに入ると、放課後は毎日海へ。 ライバルで親友のタミーと波に乗る。 おしゃべりしながらパドリングして、たどり着いた沖合。 波間にただよいながら、タミーに声をかける。 「ねえタミー、トゥーランドットって知ってる?」 首をかしげて不思議な顔をするタミー。 そうか、タミーはまだ知らないんだ。 「10年に一度テキサスにやってくるっていう大波よ」 「私が8歳のときにこの浜にきたわ」 「名前の意味?ほら、『トゥーランドット』ってオペラあるでしょ」 「謎(なぞ)が解けない求婚者をすべて処刑した冷酷なお姫さま」 「同じように、トゥーランドットに挑むサーファーはみんな処刑されるんだって」 「ねっ、こわいでしょ」 なんか、こういうのんびりした時間もいいもんだなあ。 だけど、今日は私、タミーにつらい報告をしなくてはいけない。 「実はね、私、トゥーランドットがくるときは、もうテキサスにいないんだ」 「っていうか、アメリカにもいない。日本へ帰るの」 タミーはうつむいて、無言になる。 「そんな悲しい顔しないでよ、タミー」 「たまには帰ってくるから」 「日本だってサーフィンくらいできるわよ」 ■SE〜波の音 できなかった。 私たちが帰ったのは、母の実家。 高山という街だ。 高山には海がなかった。 地元の中学へ転入したけど、英語脳の帰国子女だから、なかなか馴染めない。 ああ、波に乗りたい・・・ 落ち込む私に母が言ったのは・・・ ”波なんてなくたって、雪でいいんじゃない?” 雪・・・?スノーボード!? そっか、海はないけど、高山にはゲレンデがあるんだ。 えっと、スノボってどうやって滑ればいいんだっけ? 波を雪におき変えて・・・ 実際にはじめてみると、そんな簡単なものじゃなかった。 サーフィンの重心移動は、波に合わせて『前足』『後ろ足』と使い分けるんだけど スノボは違う。 つねに、前足に荷重をかける。 ただ、荷重をかけすぎると、ノーズが雪に刺さってしまう。 あ、でもパウダースノーを滑ると、ちょっとサーフィンと近い感覚かな。 うーん、だけど私、ビンディングで足が固定されるのは好きじゃない・・・ あれ? スノボにも「グーフィースタンス」ってあるの? 右足を前に乗せる私のスタイル。 これなら、いけるかも。 よし、ちょっとがんばってみよっかな。 ■SE〜ゲレンデのリフトの音 戸惑いが嘘のように、私のボーダーぶりは板についていたらしい。 2年目からもう大会に出場するようになった。 グーフィースタンスがやっぱり私に合ってたのかな。 私のニックネームは自ら名乗った”ハリケーンエミリー”。 ゲレンデでもやっぱり私はハリケーンなんだ。(笑) 高校に入学すると、友だちもできた。 名前は、珠(たま)のように美しいと書いて『珠美』(たみ)。 そう、タミー。テキサスの親友と同じ読みだったから一層親しみを感じた。 しかも彼女もスノーボーダー。 私たちは、市内でおこなわれるスラローム大会に競って出場する。 優勝はいつもタミーか私のどちらか。 お互いに競い合いながら迎えた2023年。 今年も朴の木平(ほうのきだいら)のスラローム大会がやってくる。 そういえば昨夜久しぶりにテキサスのタミーからTV電話があった。 あ、そうか、今年か。 もうすぐテキサス州のビーチに大波『トゥーランドット』がやってくる。 スマホの画面越しにタミーの顔を見つめて、 「タミー、私の代わりにトゥーランドットをやっつけて!」 と、念を押す。 ”あなたもスノボのスラロームがんばって” 逆に励まされた。 そしてスラロームの全国大会当日。 なんと、3日前に発生した台風の影響で急遽中止の連絡が入った。 珍しい12月の台風。名前はクラー。 日本の台風って、コイヌとかウサギとかなんか名前が可愛いけど。 それにしてもいまいましい台風! このまま指を加えてやり過ごすなんて絶対にいやだ。 来年は私、東京の大学生だから、今年が最後のスラロームだったのに・・・ 誰もいないゲレンデ。 私はボードを抱えてスラロームのコースをのぼっていく。 今頃タミーはトゥーランドットに挑んでいるはず。 私の相手は、台風クラー。 私はスラロームコースのスタートゲートに立つ。 そのとき、LINEが鳴った。 着信は2つ。 ひとつは、テキサスのタミー。 ”いまからトゥーランドットのチューブに挑むわ。エミリーも台風クラーに負けないで” もうひとつは、日本のタミー。 ”エミリーのことだから、いまごろスラロームのコースでしょ。がんばって。死なないでね” ありがとう。 2人とも私のことホントによくわかってる。やっぱ友だちっていいな。 さあ、行くわよ。 かかってきなさい、台風クラー! 絶対に負けないわ。 だって私は、ハリケーンエミリーだから!
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