EPISODE · Aug 23, 2025 · 12 MIN
ボイスドラマ「ハッピーアグリーデイ!」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
春の出会いが、夏の実りへとつながっていく。飛騨高山・国府町で生まれた、もうひとつの“ももの物語”。『桃花流水〜夢に咲く花』の続編、ボイスドラマ『ハッピーアグリーデイ!』では、収穫の季節を迎えた飛騨桃の果樹園を舞台に、ももと農家のおじいちゃん・おばあちゃんの心あたたまる交流が描かれます。農作業を通して生まれる絆、季節のうつろい、そしてラストに訪れる小さな奇跡──“もも”がどこから来たのか、彼女が運んできたものは何だったのか。国府町の風景とともに、優しい余韻に浸ってください。物語は「ヒダテン!Hit’s Me Up!」公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Apple Podcastなど各種プラットフォームで配信中。小説として「小説家になろう」でも読むことができます。(CV:高松志帆/日比野正裕/桑木栄美里)【ストーリー】[シーン1:7月末/収穫の始まり】<飛騨もものモノローグ>むかしむかし。飛騨の国府(こくふ)という町に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ芝刈りに・・じゃなくて、自分の果樹園に桃の収穫に出かけました。ではおばあさんは?川へ洗濯へ・・行きたかったのですが、腰を痛めたおじいさんと一緒に果樹園へ出かけていったのです・・■SE/ニイニイゼミの鳴き声(初夏のセミ)<おばあさん> 『今年はほんとにあっついなあ、おじいさん。まだ7月やっていうのに』おじいさんは目で返事をします。あたり一面に漂う、うっすらと甘い香り。2人は籠を片手に、丁寧に桃を摘み取っていきます。低いところに実った桃はおばあさん、高いところに実った桃を獲るのはおじいさんの役目ですが・・獲ったあと痛くて腰をかがめないので、大変そう。『おじいさん、すごい汗やな。大丈夫か』『ああ、だいじょう・・・うう』大丈夫じゃなかった。熱中症。そりゃこの暑さだもの。仕方ないけど。力の抜けたおじいさんをおばあさん1人で家まで連れていくのは大変でした。家に着いて、おじいさんを寝かせ、ひと息ついたところで、おばあさんもぐったり。『残りの収穫はもう明日以降でいいやな。熟してまってもしょうがない。わしまで倒れたらどもならん』しばらく休んだあと、よっこらしょ、と立ち上がり、お勝手へ。一服しようと、お茶を沸かしているときでした。『こんにちは』『ん?誰かいな』『あの・・夏休みで高山へ遊びにきた大学生です』『ほうほう』『もも、と申します』『もも!?そりゃそりゃ、めんこい名前やわ』『こちらの農園の方ですか?』『ああ。うちには、わしとおじいさんと、2人しかおらんで』『ほかには?お子さんとかいないんですか?」『おらん。息子は30年前、高校生のとき家を飛び出して東京へ行ったわ。それきり音沙汰もない。よっぽど、畑仕事が嫌やったんやろなあ』「そうなの・・・実は、飛騨ももの収穫体験をさせていただこうとお邪魔したのですが』『収穫体験?桃の?』『はい、グリーンツーリズムで』『なんやて?グリーン・・・』『グリーンツーリズムです。農業体験をしながら農家へ泊まらせていただくこと』『そんなもんがあるんかい?そりゃしらなんだ』『でも、やってるとこ、どこもいっぱいなんですって」それであのう・・・申し訳ありませんが・・・よければ、収穫のお手伝いをしながらこちらに泊めていただけませんか?』『なに?うちに?』『あ、いきなりごめんなさい。もちろん、宿泊代はお支払いします』『いやいや、お金なんていらんやさ。それよりこんな汚いとこに泊まらんでも』『きれいじゃないですか、埃ひとつない』『布団も煎餅布団しかないし』『そんなの関係ありません。飛騨ももの収穫を手伝わせてください!』『いやあ、ちょうどおじいさんが熱中症で倒れてしまってな。しばらく作業を休もうかと思ってたんや』『そんな。桃が熟しちゃう』『そうやな』『私じゃ全然お役に立てないけど、これも何かの縁だと思いませんか』『う〜ん・・』『私、こう見えても、立ち仕事には慣れてるんです』『でもなあ・・』『ヘバったり、泣き言言ったりしません』『そうか・・』『お願いします』[シーン2:8月/真夏の収穫】<飛騨もものモノローグ>こうして、ももはおばあちゃんの農園で一緒に収穫をするようになりました。セミの声もニイニイゼミからクマゼミへ。真夏の太陽が桃畑に降り注ぎ、収穫も最盛期を迎えます。■SE/クマゼミの鳴き声(盛夏のセミ)『桃の実はな、赤くなって、まあるく膨らんできたら、収穫のサインなんや』『へえ〜。私のほっぺみたい』『ははは。そうやな。それにしてもももちゃん、あんた桃の摘み方、ほんとに上手やなあ』『ああ、ひとつずつ丁寧に摘んどる』『そうですかあ。一度やってみたかったんです』『初めてとは思えんわ。それにな、桃の実の扱いが、愛情たっぷりで・・・ありがとうなあ』『やだなあ、おばあちゃん。桃が大好きなだけよ』『そやな。そういえば、名前もももちゃんやもんなあ(笑)』『ちがいない(笑)』『そうそう』『今日はもう籠いっぱいだから、ちょこっと早いけど帰ろうか』『はい』『そうしようそうしよう』『帰って、熟れた桃を食べようなあ。傷桃だけど』『わあやったぁ!おばあちゃん、傷桃も大切にしてくれるのが嬉しい』『そうりゃそうや、みんな大事な子どもたちやからな』『そやそや』『おばあちゃんの子どもでよかった』『なにを言うとる。ははは』『ふふふ』『はっはっは』■3人の笑い声[シーン3:9月/夏の終わり】<飛騨もものモノローグ>お盆を過ぎると、夏の終わりを告げる風が吹き始めます。最初2週間くらいの予定だった、ももの収穫体験は8月が過ぎ、9月の声を聞いても続いていました。この頃には、おじいさんの腰もゆっくりと快方へ向かっています。おばあさんはときどき、午後になると、おじいさんを畑に残し、いろんなところへももを連れていきました。『せっかく国府へ来てくれたんだから、ええとこをいっぱい見といてほしいんや』そういえば国府には、素敵な場所がいっぱいあるってことすっかり忘れていました。■SE/ツクツクボウシの鳴き声(晩夏のセミ)宇津江四十八滝。頂上までは1時間くらいかかるけど、ゆっくりお話しながら登ればあっという間。帰りは温泉にも入って。こんな贅沢な時間、2人だけでいいのかしら。そのあとで桜野公園のピーチロードへ。なんて素敵な名前。来年の春は、満開の桜も桃も、見てみたいな。いまは、そばの花で、一面真っ白。ロマンティック〜。そうそう。安国寺も忘れちゃだめよね。私が大好きな民話。「安国寺のきつね小僧」。何度聞いても、泣けてきちゃう。お稲荷さんに行って手を合わせなきゃ。■SE/ヒグラシの鳴き声(夕暮れのセミ)[シーン4:10月/別れの日】<飛騨もものモノローグ>果樹園の収穫はももの手伝いもあって無事に終わり、別れの日がやってきました。『3か月か。長いようで短かったあ。ももちゃん、本当に本当にありがとうなあ』『ありがとう』『こちらこそ、ホントに楽しかった』『よかったらまたおいで』『おいでおいで』『今度はなんも手伝わんでもええで。ただ、遊びにきんさい』『うん。おばあちゃん、絶対また来る。来年も収穫、手伝わせて』『来年か・・・』『来年・・・』『約束よ』『本当はこの農園も今年限りにするつもりやったんやさ』『え・・?』『そうなんや』『でもな、おじいさんの腰もびっくりするほどよくなったし』『うん!』『でな』『もう少しだけ、がんばってみようかなあ』『そうだよ!だって、私、来年行くとこ、なくなったちゃうもん』『またそういうことを言うて』『本当だもん。来年また、この畑の桃がピンクの花を咲かせて、うっすらと桃の香りがしてきたら、そのとき私、また来るから』『そうかい、そうかい』『来てもらえるんかい』『指切りげんまん!』『ああ、よしよし』『指切った!』『来年・・またおいで』『待っとるでな』<飛騨もものエピローグ>おじいちゃんおばあちゃんがももを送って、家に帰ってきたとき。郵便屋さんが玄関に立っていました。滅多にこない郵便に少し驚くおばあちゃん。差出人のところを見ると、なんと音信不通だった息子の名前。驚いて封をあけると、こう書かれていました。息子の子ども、つまり孫が来年大学を卒業する。大学は農業系の大学で、孫は農業をやりたいのだという。おじいちゃんとおばあちゃんの果樹園で働きたいのだそうだ。驚いて声が出ない老夫婦。手紙を持ったまま目を閉じるおばあちゃんの頬に何かが触れた。それは、季節はずれの桃の花びら。ピンクの花が、希望を運んできてくれたのかもしれない。
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