EPISODE · Mar 6, 2025 · 10 MIN
ボイスドラマ「花魁〜遊郭の花」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
時は元禄、飛騨国の城下町。華やかに彩られた花街の灯が、歴史の闇に浮かび上がる。幕府直轄の地でありながら、粋な遊郭文化が息づいていたこの町には、ひとりの伝説的な花魁がいた。名を栄美里衣(えみりい)。その美しさ、気高さ、そして誇り高さは、誰もが息をのむほど。だが、彼女の運命はただの艶やかな夜物語には収まらなかった。ある日、ひとりの武士との出会いが、彼女の人生を大きく揺るがせる。やがて紐解かれる過去の因縁、そして避けられぬ宿命の再会――。これは、時代に翻弄されながらも、真実の愛を貫いたひと組の兄妹の物語。どうぞ、心ゆくまでこの儚くも美しい物語に浸ってください(CV:桑木栄美里)【ストーリー】<第一幕:大門の開門>■SE/般若心経〜寺の鐘「ゴ〜ン」が鳴ると、にわかに花街の雑踏が聞こえてくる「よう来なんした。お出でなんし、御上がりなんし」時は元禄。江戸幕府の直轄領であった飛騨国(ひだのくに)。城下町の町屋から見える大きな寺の山門。暮れ六つの鐘が鳴ると、表の山門は閉まり、裏門が開く。この裏門こそが遊郭の入口、大門(おおもん)であった。「まさか、お寺の中に遊郭があるとは、御釈迦様でも気がつくまい。へっへっへ」煙管(キセル)の灰を火鉢に落として、茶屋の女将(おかみ)が嘯(うそぶ)く。入口の提灯や行燈(あんどん)に『谷屋』という文字が灯ると、寺子屋は花街(はなまち/かがい)に早変わり。幕府直轄の飛騨国ならではの粋な演出である。「太夫、さるお武家様から差紙(あげやさしがみ)が届いておるぞ。今宵は揚屋まで出向いてやりな」「馴染みになる前なのに、仕方がありんせん。久しぶりの花魁道中で、飛騨人たちの眼福になりんしょう」差紙、というのは花魁を名指しで呼ぶときの紙。まあ、客の身分証明でありんす。呼ばれた花魁は、新艘(しんぞう)や禿(かむろ)たちを引き連れて揚げ屋まで練り歩くのでござんす。大名行列のように華やかな花魁道中は一見の価値がありんすよ。申し遅れました。わっちは、ここ飛騨国の花魁。その中でも、最高位になる太夫、栄美里衣(えみりい)と申します。<第二幕:花魁道中〜行き道>逢魔時(おうまがどき)の街道沿い。花魁道中見たさに町人たちの人だかり。そのとき、一人のお侍様が道中に立ちはだかりんした。「太夫・栄美里衣とやら、よいところで出会った。拙者のお相手を頼もうぞ」「ご冗談を」「冗談ではない。先刻(せんこく)大坂から飛騨国へ着いたばかりでな。夜伽(よとぎ)の相手を探しておったのじゃ」「どちらのお侍さんか知りやせんが、そこをどいてくださんし」「なんだと。拙者を誰と知っての物言いじゃ」「どなたであろうが変わりんせん。わちきの相手をしたいのなら、きちんと手順を踏みなんし」「ふざけたことを申すな。飛騨の田舎女郎風情が」「その田舎女郎を買おうとするお侍さんは一体なんざんすか。わちきはともかく幕府直轄の天領・飛騨国を馬鹿にしたら許しんせん」「どうも、この脇差(わきざし)が見えねえようだな」「ふん。この身ひとつで頂点に登りつめたこの体。斬りたきゃご自由にお斬りなんしょう。さあ、さあさあさあさあ!」わちきの剣幕にたじろぎながら、侍は脇差に手をかけんした。思わず目を瞑ったそのとき・・・「やめておけ。抜いたら、お主も言い逃れができぬぞ」耳に届いたのは、静かながら、迫力ある声。一人のお小姓が、侍の手を上から押さえて、小さくささやく。侍は面目をつぶされ、そそくさと街道(かいどう)をあとにした。見物の野次馬たちから拍手が沸く。わちきはお小姓に礼を言い、客の待つ揚屋へと急いだ。<第三幕:揚屋の小姓>大門を出て、宮川沿いの揚屋まで出向くと、もうすでに、お武家様たちは座敷で座っておりんした。「おお、来たか、太夫」わちきはいつも通り、上座にあがり、黙って客を見下ろす。「いつ見ても、美しいのう」どうも、こちらのお武家様は好きになりんせん。『初回』からやけに距離が近おござんした。目線を合わせるのもしきたり違反なのに。今宵は『裏』と呼ばれる2回目。たとえお武家様といえど、わちきはまだ言葉をかわしません。もちろん、床入れなどもってのほか。このしきたりを知らずに花街へお越しになると恥をかきなんすよ。主(ぬし)さんも気をつけなんし。お武家様はお酒を交わしながら、芸妓(げいぎ)の歌や舞を観て、楽しそう。このあと『馴染み』になるか、お断りするか、思案のしどころでありんす。宴の席に目をそむけた先にいたのは、末席(まっせき)でじっと佇むお小姓(こしょう)。きりりとした顔立ちと凛々しい眼差し。なんと先ほど助けてくれたお小姓ではありんすか。彼は私の方をあえて見ねえようにしてやした。<第四幕:花魁の恋・小姓の涙>そのあと、例のお武家様には丁重にお断りしんした。あのお小姓とも会えなくなるのは仕方ありんせん。ところがある日。大門(おおもん)の前に佇むお小姓を禿(かむろ)が見つけてわちきに知らせんした。わちきは、禿に小遣いを渡し、お小姓を部屋へ招く。「逢いたかった」「わちきもでありんす」それからは人目を忍んで逢引きを重ねる仲となりんした。お互いを深く知っていくうちに、頭の奥の方に何かが引っかかってくる。あまりに自分とよく似た物言いや考え方のお小姓。実はわちきには、物心着く前に生き別れた兄がいる。思い切ってお小姓に素性(すじょう)を尋ねた。わかったのは・・・彼も幼い頃、家族から離され、武家の養子となったこと。そのとき家族には妹がいたこと。まさか・・・まさか・・・「主さん。もう逢うのはやめんしょう」わちきは断腸の思いでお小姓に告げんした。「どうして・・・なぜ・・・」彼は目を潤ませて・・・だが受け入れた。<第五幕:真実>それから三年。わきちの元へ、初めて聞く名前の差紙(さしがみ)が届いた。まあ、ちょうどお茶挽き(おちゃひき)が続いていたから、ようござんす。出かけた揚屋で待っていたのは・・・なんとあのお小姓。踵(きびす)を返して立ち去ろうとするわちきの手をとり、「花魁に聞きたいことがある」と、静かな口調で問いかけてくる。「その前に手を離しておくんなまし。初回で花魁に触れるのはしきたり違反でありんすよ」「すまぬ。誠に申し訳ないがどうしても聞いてほしいのだ」「なんでありんしょう?」「花魁の本名は栄美里といわぬか?」「そうですが。どうしてそのようなことを?」「俺を見てわからないか?」わちきはあえて目をそらす。「そうか・・・やっぱりそうだったんだな。それであのとき三行半(みくだりはん)を」「・・・」「栄美里。俺は生き別れたお前の兄だ」「しりんせん・・・」「だが俺の本当の親は、今の武家のお館さまだ」「え・・・」「跡目(あとめ)争いを避けるために、俺を栄美里の母に預けたのだ」「そんな・・・」「そうそう。今日ここに参上した理由はもうひとつある」「あい・・・」「太夫・栄美里衣は、来年の弥生十四日に年季明けとなろう」「ああ・・・」「そしたら、女房になってもらえぬか?」「え」「無理にとは言わぬが・・・」「なりんす!わちきのようなものでよければ」「かたじけない」「是非とも女房にしてくんなまし!」「拙者の俸禄(ほうろく)では贅沢はさせられぬがよいか」「愛してもらえれば、ものなど要りません!誓ってもいい。指を切りましょうか」「それだけは勘弁しておくれ」いつまでも、いつもでも。引舟(ひきぶね)たちがあきれるくらい2人の会話は、途切れることはなかった。私たちの愛のように・・・
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