EPISODE · Jul 17, 2026 · 18 MIN
ボイスドラマ「覚醒」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
80年前の朝日村。戦争孤児の少女と、正体を隠して生きる少女。二人の出会いが、現代へ続く「覚醒」の物語を動かし始めます。飛騨に伝わる八百比丘尼伝説を描いた和風ホラーボイスドラマです・・・【プロローグ:出会い】◾️SE:村はずれの辻の環境音/〜駆けつける足音八夜の泣き声「お願いです、通してください。私はただこの村に用があって」「おまえら!なにしとるんや!」「なんじゃあ?伽耶!邪魔するなて」「大人がよってたかって、女子(おなご)をいじめるとはなにごとや!」「女子 って、お前も同じくらいの歳やろうに」そうだ。わしと同じくらい。十六か十七くらいの女の子が、目の前で泣いている。「それにいじめとるんやないぞ。このガキが、村に入ろうとするからじゃ」「ええやないか。入れてやれば」「あほか。ただでさえ、食糧難やっちゅうのに、これ以上よそもんに食い扶持減らされてたまるか」「おまえらだって、名古屋とか大阪から疎開してきた、よそもんだろ」「うるせえ。つべこべ言うと、お前も村から叩き出すぞ、伽耶!」怖い顔して私を睨みつける疎開者たち。1946年。益田郡(ましたぐん)朝日村。終戦からまもなく1年が経とうという頃。朝日には名古屋や大阪から、疎開者がぞくぞくとつめかけた。なかでも多かったのは引揚兵や復員兵たち。小さな村はよそものでごった返していた。ただでさえ平地が少なく、米の収穫量が限られている朝日村。急激な人口流入は激しい食糧難をもたらした。配給や耕作地をめぐる諍いも毎日絶えない。疎開者たちは森を切り拓いて自分たちのために畑と住処(すみか)を作った。林業に関わっていく者も多い。彼らはいつも数人で村の辻に立ち、入ってくる者を見張っていた。「ええか。ガキ。十(とお)数えるうちに出ていかんと、痛い目を見るぞ!いち!」「待て!この子はわしが面倒みる。連れてくぞ」「おいおい。ガキがガキの面倒みるってか」「うるさい。そんなこと言っとってええのか。今度腹痛(はらいた)になっても薬草を煎じてやらんぞ」「う・・なんだと・・」わしは、少女の手をとり、うちへ向かって歩いていく。疎開者の男は恨めしそうな顔でわしを睨んでいた。【シーン1:ともだち】◾️SE:朝日川のせせらぎ/小さな足音「ありがとう」消え入りそうな声で少女が呟く。「助けてくれて」「ええんやよ。わしだって、もともとよそもんやし」「どういうこと?」「戦時中はわしも疎開者やったんだて」「え・・」「実家は名古屋や。戦況が悪化した去年の正月。とうさまとかあさまは、わしをひとりでここ、朝日村へ行かせたんや。「そうなの・・」「そのすぐあとで名古屋の大空襲や。B29が、とうさまとかあさまと家を焼き尽くした」「そんな!」「新聞もなんも教えてくれんからな。わしが知ったのは、5月になってから。名古屋城が焼け落ちた、ってみんな騒いどった頃や。ちょうどそのころ、疎開先のここへとうさまとかあさまのお骨が届いた」「やだ・・」「お骨ったって、骨なのかどうかもようわからん。砂みたいな焦げカスだけや。その中に手紙がねじこまれとったわ」「手紙・・?」「親戚のおじさんからでな。みんな、家も焼けてしもうたで、帰ってくるな。お骨はそっちで弔ってくれ、って」「ひどい・・」「ああ。でも戦争なんて、そんなもんやろ。そういうわけでわしは戦災孤児になった」「そう・・」「今からいくんは、わしのうちや。炭焼き小屋だけどな。杣衆(そましゅう)の面倒みてやるかわりに、住まわせてもろうとるんじゃ」「面倒・・?」「うん。わしには薬草の知識があるからな」「薬草?」「ああ。よもぎとかクロモジとか。朝日には掃いて捨てるほどあるじゃろ。わしが疎開する前、かあさまが薬草のこといろいろ教えてくれてな。これは食べれる。これは食べたらあかん。ゲンノショウコってやつは腹の具合がわるいときに煎じて飲む。ドクダミは便秘に効く。ヨモギは風呂に入れて疲れをとれ。怪我したら、クロモジの葉を粉末にして止血しろ・・・」「すごい・・」「なんか感じるものがあったんじゃろなあ。かあさまは一生懸命わしに知識を詰め込んだわ。結局、その知識を活かして、杣衆たちの体調管理と、薬膳料理を作ってやっとるんや」「素敵なおかあさま・・」「そうやな。こうして生きていられるのも、かあさまのおかげやな」「いいお話・・・ねえ、おうちはもうすぐ?」「まだまだ先や。あと1時間以上は歩くぞ。大丈夫か?」「平気よ」「秋神川を上っていくで。小瀬ヶ洞(おぜがほら)って集落から山の中へ入る」「あなた、名前は?さっき、伽耶って呼ばれてたけど」「そう。伽耶。御伽噺(おとぎばなし)の『とぎ』という字に、有耶無耶(うやむや)の『や』。まるで御伽噺みたいに、戦争で人生有耶無耶にされとるから。はは。そうそう。萱(かや)って薬草もあるんだ。心を穏やかにする作用があってね」「へえ〜。・・・あ、私は八夜。八夜って呼ばれてる。八つの夜。でも本名は八百代姫(やおよひめ)」「八百代姫?お姫様なの!?」「違うよ。私の生まれた時代、女の子にはみんな姫ってつけてたの」「時代って。私とそんなに変わんないでしょ。まだ16よ、私」「そうだね・・・」「八夜はどこからきたの?」「小浜」「小浜ってどこ?」「若狭よ。遠敷郡(おにゅうぐん)小浜町」「北国(ほっこく)の方?」「そう。海がきれいなまちよ」「海!いいなあ。戦争が始まる前に、行ったっきり」「今度、おいでよ」「うん、いきたい!」「約束ね」指切りをする八夜の手はすごく冷たかった。驚きを気取られないようにして、私は、秋神川のほとりを足早に歩く。渓谷に沿ったひたすら一本道。秋神川には、御嶽山からの雪解け水が激しく流れる。やがて、見えてきたのは小瀬ヶ洞の集落。そのまま蜘蛛だ淵を通り過ぎる。淵は川底が見えないほど、深い闇の中。私はいつもここを通るとき、目を閉じて通り過ぎる。蜘蛛の糸に引きずり込まれないように。集落を抜けて森の中へ入れば、炭焼き小屋までは20分くらい。森へ入るには、小さな吊り橋を渡らなければならない。「吊り橋を渡るんだ。すてき」「ねえ、ついさっき・・・1時間くらい前に会ったばっかりなのに、私たち、もうともだちみたいだね」「ともだち・・・?」「うん。私、里にはあんまり行かないから、ともだちなんていないんだ」「そうなの?」「さっきはたまたま、久々野に薬草売りにいくところだったの」「ああ、ごめんね。邪魔しちゃって」「いい、いい。だって、ともだちができたんだもん。お金には換えられないよ」「ホントに・・私のともだちになってくれるの?」「やだなあ。もうともだちじゃない」「ありがとう・・・」え・・・八夜・・泣いてるの?心配して顔を覗き込もうとすると・・「あのね、伽耶」そう言うと、懐から小さな包みを取り出した。「これ、あげる」それは、片手よりも小さな桐の箱。中からとり出したのは・・「干し肉よ」「干し肉?」「とっても貴重な干し肉」「え・・・そんな大事なものなんて、もらえないわ」「初めてできたともだちにもらってほしいの」「そんな・・・」「なにか大きな病にかかったり、大怪我をしたときに食べて」「くすり?」「まあ・・・くすりみたいなもの」そう言って、八夜は私に桐の箱を手渡す。森の奥深く、木々の向こうに、粗末な炭焼き小屋が見えてきた。◾️SE:犬の声「あ、クコだ」「クコって?」「犬よ。野犬だけど私になついていて、飼ってるみたいなもん」「犬・・・」あれ?なんかいつもと違う。クコは凶暴に吠えたてながら私たちのもとへ走ってくる。私はとっさに八夜をかばって、前に出た。「いや・・」「クコ!どうしたの!?そんなに吠えて。やめて。私の大事なおともだちなのよ」「伽耶・・」クコは唸り声をあげて私たちに飛びかかる。私は顔を背けた。その瞬間・・・「あっ!」手に持っていた桐箱をくわえて、そのまま森の中へ走り去った。「ああ!」「クコ!返して!戻ってきなさい!」「そんな・・そんな・・・」私は、炭焼き小屋に八夜を残し、ひとりで森のなかへ。でも、どんなに探し回ってもクコの姿は見つけられなかった。申し訳なさそうに説明する私に、八夜は、「いいよ。大丈夫。まだ間に合うから」「どういうこと?」「だけど、必ず探して・・あれは、伽耶にあげたものだから」「わかった。絶対に見つける」「うん・・お願い」その夜はまんじりともせず、会話も少ないまま、床についた。動物たちの声が、なぜかいつもより騒がしく感じる。私は、眠れないまま、今日の出来事を反芻していた。【シーン2:別れ】◾️SE:朝の野鳥の声/炭焼き小屋の戸が激しく叩かれる音(バンバンバン!)「あけろ!伽耶!そこにおるんやろ!」まだ夜も明け切らない早朝。激しい物音と怒声が、私の眠りを容赦なく引き裂いた。この声は昨日の・・疎開者たち。「伽耶・・・」隣で寝ていた八夜も目を覚まし、震えている。「親切にしてくれてありがとうね」「え?」「伽耶のこと、一生忘れないよ」「なに?」「何百年経っても」「なに言ってんの」「私・・・行くね」「え・・なに?どういうこと?」「さよなら」そう言って立ち上がった八夜は、扉を開けた・・・
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