EPISODE · Feb 14, 2025 · 12 MIN
ボイスドラマ「恋の炎」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
「八百屋お七」の物語をご存じでしょうか?江戸時代、恋に焦がれた少女が自ら火を放ち、悲劇の結末を迎えた――。この伝説的な物語は、時代を超えて人々の心を揺さぶり続けています。ボイスドラマ『恋の炎』は、この「八百屋お七」の物語を現代の感覚で再構築し、飛騨高山の情緒あふれる町並みに舞台を移したものです。高山の町家で生きる一人の少女。恋に燃え、運命に翻弄される彼女の想いを、どうか最後まで見届けてください。この物語は、ラジオ番組 「Hit’s Me Up!」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームでもお楽しみいただけます(CV:桑木栄美里)【ストーリー】■SE/電気を消す音とベッドのシーツをかける音『もう寝る時間よ』『寝る前にお話きかせて』『いいわよ。どんなお話にする?』『八百屋お七』『なにそれ、いきなりなんなの?』『テレビで言ってた』『え〜、あなたにはまだちょっと早いかな』『なんでー?聞きたい』『う〜ん』『聞きたい聞きたい聞きたい』『もう〜しょうがないなあ』『やたっ』『いい?八百屋お七っていうのはね』『やたっ』『ものすご〜く昔のお話なの』『ふ〜ん』それは、今から300年くらい前のこと。ここ高山の町家に太郎兵衛(たろべえ)という八百屋さんがあったの。お七はこの八百屋さんの一人娘。生まれてすぐに、お七のお父さんは亡くなってしまいました。お母さんは女手一つでお七を育てなければなりません。もともと小さなお店でしたが、それでも早朝から夜まで働き働き通し。お七は、こ〜んなちっちゃい頃からお母さんの仕事を手伝います。毎日毎日ちゃんと真面目に働きました。お客さんに対しても親切で礼儀正しかったからお店の人気ものになったんだって。それに、頭もすごくよかったし、商売の才能にも恵まれていたの。お七の八百屋さんは、町家の中でも評判に。遠いところからもお客さんがたずねてくるようになりました。それだけじゃないのよ。お七は誰に対しても優しかったの。飢饉のときなんて、自分の髪を切ってそれを売りお金に替えた。そのお金で米を買って、貧しい人たちに分け与えたそうよ。当時から『髪は女の命』って言われてたのにね。お七が十七になった年。高山で大きな火事が起こったの。高山って城下町だから、お城と武家屋敷、お寺、商人の町=町家と4つの地区があるでしょ。そのなかでも、昔から火事に悩まされてきたのが町家。このときの火事は歴史に残るくらい、大きな大きな火事。お七のお店も、ほかの店も、み〜んな焼けてしまいました。火事でお店やおうちがなくなっちゃった人々はどうしたのかな。みんなお寺に泊めてもらって助けあったのね。ほら、あの窓から見えるでしょ。少し高いところにある宗猷寺(そうゆうじ)。立派なお寺だねえ。お七とお母さんも、お寺の前に仮小屋(かりごや) を建ててしばらく住んでいました。そのとき、身の回りの世話をしてくれたのが、お寺の小姓さん・左兵衛(さへえ)。左兵衛は、おにぎりやら果物やらいろんな食べ物を持ってきれくれます。毎日のように小屋の掃除や洗濯も手伝ってくれました。左兵衛と何度も言葉をかわすうちに、お七は左兵衛のことがどんどん好きになっていきました。コホン(※咳払い)えっと。ここからはちょっと大人のお話になるから・・・あれ?寝ちゃった?なんだ、よかった。でも、ここからがいい話なんだけどなあ。じゃあ、今から大人の物語をはじめましょう。『左兵衛さん、そんなにしてもらっちゃ悪いわ』『お七さん、私が好きでしていることですから』いつしか2人は、お互い惹かれ合うようになります。ただ、お寺の門前は、火事で焼け出された人々の避難場所。仲良くし過ぎているところはあまり見られないようにしないといけません。しかも左兵衛は寺のお小姓ですからなおさらです。お七と左兵衛は人目を忍んで逢引きを重ねていきました。やがて、お七の母親に大金が入り込み、新しい住まいが町家に完成します。そのため、2人は引き離されることになったのです。実は、母親に大金を渡したのは、町家の大店(おおたな)の若旦那。門前の仮住まいでお七を見て一目惚れ。お七と一緒になりたいがために、母親に頼み込んだのでした。『離れたくない』『私もです。でも仕方ありません。私はお寺の小姓。あなたは八百屋の看板娘なのですから』『そんなの関係ないわ。必ずまたあなたの元へ戻ってまいります』2人は引き裂かれるような思いを胸に、離れ離れになりました。その後のお七の心のうちは、いまさら言うまでもありません。毎日毎日健気に野菜を売りながら、心はずうっと左兵衛を思い続けました。大店の若旦那は何度も八百屋を訪れますが、お七は会おうとしません。お客さんが途切れると、遠い目をして店の前に佇むお七。そこに現れたのは、ならず者で通っている吉三(きちさ)こと吉三郎(きちさぶろう)。そっとお七の耳元に囁きます。『そんなにお小姓が恋しいのかい』驚いて身構えるお七。『おっと。そうビクつきなさんなお七さんにいいことを教えてやろうと思ってさ』聞く耳など持たぬとそっぽを向くお七。『いいぜ。そのまま耳だけこっちに貸してくんな』無視しようと思いますが、ちらっと横目で吉三の方を見てしまいます。『もう一度火事をおこすんだよ』『えっ』『また火事になれば、おめえさんは宗猷寺行きだろ』知らず知らず吉三を見つめるお七。吉三はさっと身を翻して、『いけねえ。賭場の時間だ。じゃ、あばよ。ようく考えてみるんだな』あっという間に通りの彼方へ消えていった。それからというものお七の頭の中は毎日毎日そのことでいっぱいになります。お七は知らなかったのですが、吉三は火事場泥棒の疑いで、岡っ引きから目をつけられていました。吉三がお七の元へやってきてから何日も経たないうちにこの高山の町家で再び大きな火事が起こります。そう。お七はとうとう自分の家に火をつけてしまったのです。火事とともに宗猷寺へ走り出すお七。その嬉しそうな表情に周りの人々は驚きますが、お七にはわかりません。寺の門前には、左兵衛が立っていました。しかし、その目には涙があふれ、悲しそうにお七を見つめます。『左兵衛さん』『お七さん』『やっと会えた』『お七さん、こんなことしちゃいけない』左兵衛の横から、岡っ引きを引き連れた大店の若旦那が現れます。『え』毎日お七を影から眺めていた若旦那は、放火の現場に居合わせていました。悩みに悩んだ末、岡っ引きに事情を説明して、寺までやってきたのです。『そんな!』『お七さん、すまない』江戸時代には「失火者斬罪令」(しっかしゃざんざいれい)というものがありました。火事を起こしたものは、理由にかかわらず市中引回しの上、死罪。もちろん、お七とて例外ではありません。お白洲で、後ろ手に縛られたお七。あどけない素顔の少女を見た奉行はふと気づきます。当時、18歳に満たぬ者は刑を軽減されるということを。お七の目をじっと見つめ、少しうなづきながら『お七。おぬしは十七であろう』お七は見つめ返し、瞳を潤ませます。そのあと目をつむり、左兵衛を頭に思い浮かべて、『いえ、十八でございます』奉行は目を閉じ、しばし無言のままうなづいた。後日談。お七が処刑されたのち、左兵衛は自害しようとしました。それを止めたのはお七の母親。左兵衛は結局思いとどまり、剃髪して修行につとめるようになったのです。一方、お七をそそのかした吉三は、火事場泥棒の現行犯でつかまり、放火の教唆も含めて火炙りとなりました。お七は、どうして十八だと答えたのでしょう。今となっては誰も知る由もありません。恋の炎に身を焦がした少女の悲しい顛末でした。『ねえママ』『えっ!』『お七、かわいそう』『いつから起きてたの!?』『ずうっと聞いてたよ』『もう〜、狸寝入りしてたのね』『うふふ』『さ、もう電気消して寝るわよ』『ママとパパはどうやって知り合ったの?』『え?』『教えて』『えっと。ママが車で事故して救急隊員のパパが助けてくれたの』『それから?』『それだけよ』『もういっかい事故した?』『なあに言ってんの。さあ、寝なさい』『はあい。おやすみなさい』『おやすみ。ナナちゃん』
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