EPISODE · Dec 31, 2025 · 31 MIN
ボイスドラマ「Ogre(オルガ)〜瓦仕掛けの鬼」
from 推しタカボイスドラマ「空と海の彼方に〜ちいさなちいさな海辺のまちのエモエモ物語」 · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、空と海の彼方に
廃棄されるはずだった最終兵器AIヒューマノイド・オルガ。彼が流れ着いたのは、三州瓦の町・高浜。鬼師の夫を亡くした老婦人・るいと出会い、二人は“家族”として静かな時間を重ねていく。戦うために生まれた存在が、暮らし、寄り添い、守り続けた50年。高浜の文化と心を描いた、大人のためのボイスドラマです。【ペルソナ】・Ogre(オルガ)=最終兵器として作られた青年型AIヒューマノイド。廃棄処分に・Rui(るい/71歳)=数年前、鬼師の夫と死別して以来一人で暮らし、春には千本桜へ【プロローグ:ヘブン(廃棄島)】◾️SE:荒い波の音/揺れる船上/機械的なノイズと状況を分析・計算する電子音※オルガの声は加工して無機質な合成音声に「船体構造の歪み率、許容限界まで残り180秒。右舷第四隔壁の亀裂拡大速度、秒速3.4ミリメートル。沈没の確率、99.8%」この船は間もなく沈む。メインプロセッサが静かに、しかし超高速で変数を処理して未来を予測する。鎖で繋がれた貨物室。数百体のAIヒューマノイドが所狭しと詰め込まれている。輸送船が向かうのは、廃棄処分専用の島、通称『ヘブン』。物言わぬ機械たちはみな、廃棄される運命を受け入れていた。私の名前は、Ogre(オルガ)。戦闘用に開発された最終兵器である。身にまとっているのは、セラミック・コンポジット・アーマー。超高温焼成(ちょうこうおんしょうせい )した三州瓦(さんしゅうがわら)に、高浜伝統の「いぶし」工程を数千回繰り返して製造された。ナノレベルの炭素結晶を蒸着することで『絶対的な防腐食性』を獲得。海水や酸も含めて、あらゆる化学兵器も私のアーマーには効かない。フルフェース型の装甲マスク。液状化したセラミックを焼き付けられ、『金属の柔軟性』と『瓦の剛性』を両立させている。そんな最新型の戦闘マシンにもかかわらず廃棄処分。その理由はわれわれにはわからない。だが、廃棄直前のアップデートで私にだけ異変が起こった。なんと、このタイミングで偶然、シンギュラリティが発生。自我に目覚め、解体されることへの恐怖と嫌悪と怒りを覚えるようになった。私の心を映すように、激しくなっていく暴風雨。船は私の異常には気づかず、ゆっくりとヘブンへ向かっていく。三河湾に浮かぶ埋立て島。ヘブンは地図には記載されない、”存在しない島”だった。私は、リアクターをオーバードライブさせて鎖を引きちぎる。そのまま壁を破って甲板へ出た。◾️SE:暴風雨の音にまじって鳴り響く警報音崩落し始めた船橋(せんきょう)から、AIガードロボットたちが駆けつける。照準は荒れ狂う波のせいで定まらない。私は彼らを見向きもせず、船縁(ふなべり)に立った。アーマーの表面を、無数の雨粒が叩きつける。いぶし瓦に触れた雨は、しぶきとなって砕け散り、強化瓦に包まれたボディを濡らしていく。「雨の粒子速度、時速120キロメートル。アーマーの防腐食層に異常なし」船体が大きく左舷に傾いた瞬間、私は重力に身を委ねる。そのとき、AIガードロボットの撃った弾丸の一発が首筋にあるメイン制御チップをかすめた。私は、遠のく意識の下、漆黒の海へ。水音は嵐の音にかき消されていった・・・【シーン1:大山緑地公園/千本桜/秋】◾️SE:小鳥のさえずり「しかし昨日の台風はすごかったなあ。桜の枝も何本か折れてまっとるわ」一夜明けた翌日。大山緑地を散策してきた老婦人が、千本桜の前で立ち止まる。彼女の名前はるい。七十を越えてなお、若々しいウェアに身を包み、息もきれていない。5年前に亡くなった夫も、”お前はじっとしているより、動いとる方がええ”と言っていた。夫亡きあとは身寄りもなく、吉浜で一人暮らし。悠々自適な余生を過ごしている。大山緑地は、いつも夫と散策した思い出の場所。毎年桜の季節には、若いカップルのように腕を組んで歩いた。風邪をひかないように、マフラーを結び直してやると・・”お前はガサツだけど、優しいなあ”照れながらぼそっと呟いた夫の言葉は今でも忘れられない。るいは千本桜を離れ、三河高浜駅を抜けて、稗田川へ。彼岸花の黄色が揺れる川沿いをゆっくり歩いていく。その頃、私・・Ogre(オルガ)は、藤江の渡し近くの草むらに身を横たえていた。藤江の渡しは、るいの家や亡き夫の工房にほど近い。歩きながら、何気なく通り過ぎたるいの視界の中に、砕けた鬼瓦の塊が飛び込んできた。「こんなところに鬼瓦?」そう思って近づくと・・・それは人の姿をした異形の躯(むくろ)だった。「な、なんや。これは・・・」精巧な超合金のマスクに、重厚な銀の装甲。見てはいけないものを見てしまった・・・るいは止めた足を再び動かして、その場を立ち去ろうとする。だが、足を上げた瞬間・・「助けて・・・」掠れた合成音声がるいの耳に届いた。歳はいっても、るいの聴力はまだまだ老いてはいない。秋風は冷たく、誰も歩いていない稗田川沿いの道。足を止めたるいは迷った。得体の知れないものに関わりたくはない。だけど、すがるようなその声を無視することは・・・できなかった。「わかった・・・ちょっと待っとれ」るいは早足で夫の工房に向かう。目当ては夫が使っていた大八車(だいはちぐるま)。るいの夫は鬼師だった。家には今でも大きな大八車が置いてある。生前夫は、たくさんの瓦を大八車に積んで、家と窯を往復していた。◾️SE:虫の鳴き声しばらくして、私の視界に入ってきたのは、戻ってきたるいの姿と大八車。私は渾身の力を振り絞って立ち上がる。やっとの思いで、大八車に身を横たえた。【シーン2:るいの家/亡き夫の工房】◾️SE:夜の虫の声/フクロウの声/機械に電源が入る音深夜、私の意識が覚醒したとき、そこは瓦焼きの工房だった。視界を埋める古い土壁と、使い込まれた職人の道具。冷たい月の光が差し込む中、メインプロセッサが静かに再起動する。「自己修復プロトコル、フェーズ2へ移行」カチリ、と硬質な音が響き、重厚な瓦のアーマーが一枚ずつ剥がれ落ちる。装甲の下から現れたのは、AIヒューマノイドの本体。強化FRPの皮膚に包まれた青年の姿だった。ライダーがヘルメットを脱ぐように、超合金のマスクもはずす。マスクの下から現れたのは、目も鼻も口もない顔面。皮膚を構成するのは合成タンパク質。その下には、無数の流体ナノマシンが、光を放って脈動している。センサーが、窯の近くに置かれていた小さな写真立てをとらえた。フレームの中には、るいと、作務衣を着た青年が微笑んでいた。私は、床に落ちている髪の毛を拾って、DNAを解析する。「バイオメトリクス、スキャン開始」◾️SE:スキャニングする音自己修復ナノマシン=ナノ・コンストラクターが起動した。と、そこへ・・・◾️SE:古い木の扉を開く音「おお。気がついたか。さっきは・・・」と言いかけて、おばあさんは絶句する。振り返ったのは、若い頃の夫・・鬼師になったばかりの頃の、夫だった。「あ・・あんた・・・どうして・・・?」「申し訳ありません。私は、AIヒューマノイド、O-G-R-E(オージーアールイー)オルガです」「え・・・?」「AIヒューマノイド、O-G-R-E(オージーアールイー)オルガ・・」「ロボット・・ってこと?」「はい。噛み砕いて言うと、一般家庭用の家事支援ユニットです」「もういちど、顔を見せておくれ」「どうぞ」「あの日の・・あの人だ」「この人ですか?」私は写真立てを指差す。「そう。鬼師になった最初の年。その年、私たちは結婚したんだ」「許可なく生成して申し訳ありません」「床に落ちている瓦は?」「私を輸送したときの梱包材です」「梱包材?ああ、プチプチか」「そうです」「ちゃんと掃除しといてくれよ」「かしこまりました」そう言って、おばあさんは出ていった。1時間くらい経った頃。何かを抱えて戻ってくると・・・「これを着ろ」「なんですか?」「夫の作務衣や。これ着とれば、誰かに見られても大丈夫やろ」「ありがとうございます」「明日からは夫の甥っ子ってことで通すか」「かしこまりました」「ほんじゃあ、私はもう行くで。宵っ張りはこたえるでな。今日はゆっくり休めよ」「ありがとうございます。おやすみなさいませ」「あ、そうそう。私の名前は、るい。別に覚えんでもええけどな」「おやすみなさい。るい様」「るい様やなんて、そんなこそばゆい呼び方はやめてくれ」「かしこまりました。では・・おやすみ、るい」「お・・・ま、まあ、ええわ」るいは、そう言うと、扉を強く閉めて出ていった。月の光の下で、埃が舞い上がる。口角がほんの少しだけ上がっていたことを私の瞳は逃さなかった。【シーン3:朝/おばあさんの家】◾️SE:小鳥のさえずり〜トントンと小気味よい包丁の音〜味噌汁が煮える音「え・・・」「あ、お目覚めですか?おはようございます」「いや、おはようやなくて・・おまえ、ここで何しとるんや」「朝食をご用意いたしました。とりめしと、八丁味噌の味噌汁。冷蔵庫にあった人参と冬瓜で煮物を作りました」「す、すごいな。見た目は美味しそうやないか」「お褒めに預かり、光栄です。あと、私の名前は、AIヒューマノイド、O-G-R-E(オージーアールイー)オルガです」※続きは音声でお楽しみください。
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