EPISODE · Mar 8, 2025 · 13 MIN
ボイスドラマ「朴葉味噌」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
『朴葉味噌』の香ばしい香りが広がるとき、そこにはいつも温かな家族の記憶がある。この物語は、ある少女の心の旅を描いたものだ。突然の別れに戸惑い、喪失の中で言葉を失くしてしまった少女。大切な人に素直になれなかった後悔と、どうしようもない喪失感。そんな彼女を包み込むのは、家族が受け継いできた味と、寄り添うように存在する小さな守り神だった。「食べること」は生きること。そして、誰かが作ってくれた料理には、言葉では言い尽くせない愛情が込められている。物語を通して、あなたにもそんな温もりを感じてもらえたら幸いだ。本作品は、番組『Hit’s Me Up!』の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームでも視聴できる。また、小説家になろうサイトでも読むことができるので、ぜひそちらでも楽しんでいただきたい。(CV:桑木栄美里)【ストーリー】[シーン1:朝食風景]■SE/朝食風景〜食卓から立ち上がる音「ママなんてキライ!!」もう〜あんなに毎回言ってるのに。朝から朴葉味噌なんて食べたら、太るからイヤだって。違う違う。朴葉味噌で太るんじゃなくて。朴葉味噌があると、ご飯をいっぱい食べちゃうんだよ。だって、ママが焼いてくれる朴葉味噌ってすっごく美味しいんだもん・・・そんなことわかってる。でも、この日は、なんだかイライラしてたんだ。だから、朝ごはんも食べずに家を出た。キーホルダーのさるぼぼを揺らしながら。あれ?さるぼぼ?昨日なくしちゃったはずだけど・・・そっか。ママが探してくれたんだ。あ〜あ、帰ったら、あやまんないと。なのに・・・結局、ママの顔を見たのは、それが最後になった。家を出てすぐの角を曲がるとき。肩越しにちらっと見えた、心配そうな表情。それが記憶に焼きついたママの顔。悔やんでも、悔やみきれない。[シーン2:式場の帰り]■SE/式場帰りの車の中(父親は白い箱をひざにかかえている)「私のせいだ・・・」式場からの帰り道。ぽつりとつぶやいた私に、父が声をかける。”そんなことはない””ばかなことを言うんじゃない”否定されればされるほど、肯定しているように聞こえてしまう。父は涙も見せずに喪服を脱いで、小さく微笑む。私はそれすら目に入らず、一切の表情が消えていった。机の上に無造作に置いたカバン。キーホルダーのさるぼぼが揺れている。さるぼぼなんて・・・もう見たくない。私の心と一緒に、机の奥へ仕舞い込んだ。[シーン3:ひきこもり]■SE/スマホをさわる音父がシングルマザーになった日から、私は学校へ行かなくなった。食事もほとんど喉を通らない。忙しいのに父はちゃんと作ってくれるから食べるけど。あれからずうっと、味が、全然しないんだもん。ああ、このまま何も食べなきゃ、ママのとこ行けるのかな。そしたら、まず、ママにあやまろう。あの日は私、どうかしてたんだ・・・って。涙も枯れ果て、自分の部屋にひきこもる毎日。春が終わりに近づき、雨が多くなってくると父の仕事はすごく忙しくなる。それなのに、毎朝早起きをして、朝ごはんとお弁当、夕食の支度までしてから出かける。そんな無理しなくてもいいのに。「私、お昼はコンビニのお弁当かパンでいいから」って言っても、”いや、お父さん、最近料理が楽しくなっちゃってな”と笑う。うそばっかり。自分は何も口に入れずに、慌てて出ていくじゃん。なのになんで、夕食の準備までしていくの。私の晩御飯が遅くならないように、いつもあっためるだけになってるし。食材、いつ買ってんのよ。そんな父を見ていて、手伝わなきゃいけない。お手伝いしたい、って心の中では思う。私がいるから、苦しい顔をまったく見せずに、自分を酷使する父。そういうループ、考えれば考えるほど、なぜだか腹が立ってくる。父の顔を見れば見るほど、やりきれなくなって、反抗してしまう。違う。口もきかないんだから、反抗にもなってない。考えてみたら、私、最後に父と言葉を交わしたのはいつだったろう。父は、そんな私に注意をするでもなく、ただもくもくと家事をこなす。父のそういう態度にもイライラしてたんだと思う。実は私が学校に行ってないこと、きっと父は知らない。私より早く起きて早く出かけ、私よりずっと遅くに帰ってくるんだから。いつか、バレるんだろうな。でもいいや。バレたって。そしたら、ちゃんと怒ってくれるかな。[シーン4:ある雨の日]■SE/雨の音母がいなくなって、季節が変わろうという頃。私は変わらず、自分の部屋にひきこもっている。ある雨の日。いつものように窓をあけていたら、土砂降りの雨が降りこんできた。一番酷い状態になったのは、窓際に置いてある机。何ヶ月も開いたままのノートはびしょ濡れになった。多分これ、机の中まで濡れちゃったな。引き出しをあけると、赤い布が現れた。あ。あの日、仕舞い込んださるぼぼ。顔の部分が雨に濡れて、まるで泣いているみたい。そうか。さるぼぼは、持ち主の感情を受け止めるお守り。嬉しい時には笑顔に、悲しい時にはさるぼぼも悲しい顔になるんだっけ。じゃあ、私いま、泣いてるってこと?違う。全然泣いてなんかいない。泣きたくもない。降り込む雨に、窓をしめようとしたとき。2階から見える、隣の家にふと目がいった。道をはさんだお隣さん。玄関でさるぼぼが手を振っている。え?違う違う。あれは・・・赤いエプロンをした、お隣のおばあちゃんだ。確か何年か前におじいさんを亡くしてから、一人なんだっけ。ずいぶん久しく顔を見ていなかったけど。なんか、手を振ってるみたい。ようく目を凝らすと、こっちを手招きしている。私?・・・じゃないよね。私が躊躇していると、手を振るジェスチャーがだんだん大きくなる。やっぱり私に手招きしてるんだ。見ているうちにだんだん恥ずかしくなって、私は階下へ降りていく。最近は宅配でさえ、煩わしく感じて、ぜ〜んぶ置き配にしちゃったのに。そのまま外へ出て道を渡ると、満面笑みのおばあちゃんは「晩ご飯まだだろ?」と、不安そうな顔をした私に、声をかける。「あ・・・」いえ、お腹すいてないから・・・と言おうとする私を制して玄関の扉を開けた。あ・・・この匂い・・・「朴葉味噌・・・」思わず口をついた言葉で、おばあちゃんはさらに笑顔になり、「ああそうだよ。焼きおにぎり、食べていきない」間髪入れず首を横に振る私に、畳み掛ける。「ここは遠慮するところじゃないよ」「でも」「料理作るのなんて、ひとりでも2人でも変わんないんだよ」ほとんど強引におばあちゃんちに上げられ、食卓へ座らされた。いやだ。朴葉味噌なんて、絶対に食べたくない。でも心と裏腹に・・・(※お腹が鳴る「グ〜」)おばあちゃんは、くすっと笑いながら、私の前に焼きおにぎりを置く。大きめに握った朴葉味噌の焼きおにぎり。朴葉味噌の芳ばしい香りが漂ってくる。最初は俯いていた私も、急に空いてきたお腹に抗えず、思わずかぶりついた。「おいしい・・・」そう呟いたその瞬間、涙があふれてとまらなくなった・・・「泣きたいときは泣き、嬉しいときは笑うんだよ」「うん・・・」「さるぼぼ、手に持ってんだろ」はっ。私、知らず知らず、さるぼぼ持ったまま、出てきてた。「感情を上手く出せないときは、さるぼぼに受け止めてもらうんだ」「え・・・」「どうしても泣けなければ、さるぼぼが代わりに泣いてくれる。涙が止まらなくなっても、一緒に泣いてくれる」「あ・・・」私の頬を伝う涙が、手のひらのさるぼぼを濡らした。そのとき、チャイムが鳴った。「ああ、きたね。早いじゃないか」「え・・・」扉を開けたのは、なんと、仕事帰りの父。「さあ、あがんなさい」すみません、と、深々と頭を下げて父が上がってくる。焼きおにぎりを頬張る私を見て、父はひとこと・・・”よかった”そう言って目に涙を潤ませた。言葉が続かない私たちの肩を、おばあちゃんが優しく叩く。「さあ、あったかいうちに食べるよ。料理の手間なんて、ひとりも2人も、3人でも変わんないんだから」こんなにあったかくて、こんなに優しい朴葉味噌を食べたのは生まれて初めてだ。「いくらでもあるからね」食べながら目を潤ませる父と私。無口な2人を、饒舌な表情でさるぼぼが見つめていた。
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