EPISODE · Jan 21, 2025 · 5 MIN
ボイスドラマ「Première neige à Takayama〜初雪 in 高山」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
モーパッサンの「初雪」をモチーフにしたショートドラマ。舞台をパリから高山に置き換え、”エラハラ”で仲違いをしたカップルの1シーンを描きます(CV:桑木栄美里) <ストーリー> 「ああ!私はなんて幸せなんだろう!」 思わず口をついて出たmonologue(モノローグ)。 monologueだなんて、カッコつけた言い方しなくていいのに。 最近、フランス文学にハマっているせいね。 しかもこれって、モーパッサンの『初雪』の台詞じゃない。 やだ、誰かにきかれたら誤解されそう。 私たちはあんな、ironie(アイロニー)に溢れた悲劇じゃないから。 あ、ironieっていうのは、”皮肉”のことね。 彼と喧嘩して家を飛び出した私は、ネットで沖縄行きのフライトチケットを予約した。 沖縄は私が生まれ育ったふるさと。 寒い夜だから、 あったかくて、優しい懐に抱(いだ)かれたい、って思うのは自然なことでしょ。 私は、潮の香りを想像しただけで、幸せな気持ちに包まれていった。 私と彼が半年前から住んでいるのは高山の小さなアパート。 住まいは小さくても、窓から見える穂高(ほだか)や白山(はくさん)の自然は雄大で、 心も体も癒される毎日だった。 休みの日は、古い町並みを二人腕を組んで歩き、みたらし団子をほおばる。 高山祭りの人並みではぐれないよう、彼の腕をぎゅっと握る。 杉玉をつけかえた酒蔵(さかぐら)で、上澄(うわずみ)の試飲に頬を染める。 こんな幸せな毎日がずうっと続くと思っていた。初めて雪が降るまでは・・・ 沖縄生まれの私と、高山で生まれ育った彼。 初雪の夜、凍えながら暖房の温度設定をあげようとする私を、彼が静止した。 家の中と外にあまり温度差がない方が身体にいいから、という理由で。 そう、私たちの喧嘩の原因は、最近流行りの”エアハラ”。 エアコンの温度設定、体感温度の違いだった。 体温だけでなく、心まで冷え切ってしまった私は、 「もう風邪をひいて死んだっていい!」と、雪の中へ飛び出した。 いや、本当に風邪をひいて肺炎になって死んでしまえば、 私がどれほど寒くて辛かったのか、彼も解ってくれるのだろう。 私の背中を彼の声が追いかけてくる。 やがてその声は、街の雑踏にかき消されていった・・・。 「ワイドビューはとっくに終電出ちゃってるよなあ・・・、 あ、ワイドビューじゃなくて『特急ひだ』か」 どうでもいいことを考えながら 鍛冶橋(かじばし)の欄干にもたれて宮川(みやがわ)の水面を見つめる。 「ほら、コイだってかじかんで可愛そう・・・」 とそのとき・・・ 「あ、LINE」 彼からだ・・・。ふん、謝ったって絶対許さないから。・・・え? 『2016年1月24日を覚えてる? 沖縄本島で初めて雪が降った日。 その年に、僕たちは遠距離恋愛を始めたんだよね。 沖縄や鹿児島では雪が降ると、学校も授業をやめてみんなで雪を楽しむんだって。 そう言ってたよね。 だから雪は大好きなんだ、って言ったあのときの君の笑顔、もう一度見たくなったんだ。 部屋の温度、今の沖縄の気温とまったく同じ26.7度にしてあるから 沖縄で降る雪をうちに見に来ないか?』 ふふ。 沖縄に降ったのはみぞれよ。 フランス文学風に言うと、『巴里に初雪』が降ったのね。 せっかく『初雪』のストーリーを追体験するつもりだったのに、 これじゃあ、あべこべじゃない。 風邪をひいてる暇さえないわ。 私は踵を返すと、さほど離れていない彼のアパートへ向かった。 もちろん、フライトチケットはキャンセルして。
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