EPISODE · Feb 12, 2025 · 14 MIN
ボイスドラマ「私はだぁれ?」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
映画『ブレードランナー』やフィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』にオマージュを捧げた物語。高山の総合病院で働く看護師の“私”が、自らの記憶に違和感を覚えた瞬間から物語は動き始めます。日常に潜む違和感、そして自分が何者なのかを問い直すサスペンス。最先端のAIが医療を支える時代、感情の有無が人間らしさを決める世界で、“私”の存在の意味とは?この物語は、Podcast番組「Hit’s Me Up!」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなどの各種プラットフォームでお楽しみいただけます(CV:桑木栄美里)【ストーリー】<『私はだぁれ?』>【資料/「ブレードランナー」ワーナーブラザーズ】https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=5■SE/病院の検査室の音「ピッピッピッ」『あなたは誕生日プレゼントに牛革(ぎゅうがわ)の財布をもらいました』『シーフードレストランでエビを注文したら、シェフは目の前で熱湯の中に生きたエビを放り込みました』『昔の映画の1シーンですが、パーティのメインディッシュは犬の肉でした』■SE/病院の検査室の音「ピッピッピッ」『あの・・・教えてください。どうして毎月、こんな検査をするのですか?』『看護師の君だけじゃないんだよ。うちは総合病院だからね。職員のストレスチェックは必須なんだ。だから職員全員にこのチューリングテストを受けてもらっている』事務局長は、機械的な、抑揚のない声で答える。私は今年で10年目を迎える中堅看護師。高山市内の大きな総合病院で働いている。『以上です。お疲れ様でした』「おつかれさまでした」疲れた感満載の声で答える。仕事にもだいぶん慣れたはずなのに、毎月一度のこの検査だけは好きになれない。それでなくても、気がつけば仕事に追われる毎日。ストレスなんて半端ない。唯一の救いは、私のことを誰より理解してくれる彼。週に1度、彼と過ごすひとときだけが、私の精神を正常に保ってくれている。最近は医療の世界にも最先端のAIが入り込み、患者一人一人のバイタルを管理。看護師や薬剤師、理学療法士、ソーシャルワーカーたちをひもづけている。それなのに、この忙しさ・・・以前と比べて圧倒的に増えた病人の数と、医療・福祉業界の構造的な問題かしら。どうでもいいけど、疲れた・・・夜勤明けの朝9時、私はぼーっとした頭で帰途につく。宮川の朝市では、おばちゃんが赤かぶを売っている。『今日も夜勤かい。おつかれさま。1個持って持っていきないよ』お礼を言って、色鮮やかな赤かぶを手にする。あれ?でも、いつものおばちゃんじゃないな。初めて見る顔。スマートウォッチに、刑務所から6人の死刑囚が脱獄したニュースが流れている。彼とやりとりするチャットも今日はお休みしよう。早くベッドに入って眠りたい。■SE/朝の小鳥ふぁぁ・・・よく寝たわ。っていうか、夜勤明けってベッドで1日終わっちゃうんだよなあ。スマートウォッチには彼からのチャットが表示されている。あれ?だれ?これ?こんな名前の人、知らない。やだ、ブロックしないと・・・え?『夜勤おつかれさま。昨夜はよく眠れた?』なんで私の仕事をしってるの?でもこんな人知らない・・・名前も、IDに映る顔写真もまったく面識ない人だ・・・彼は?彼からは連絡ないの?私は、スクロールしながら彼とのトークルームを探す。ちょっと待った。え〜っと、彼の名前・・・なんだっけ?顔は?やばいやばいやばい。ちょっと私、どうしちゃったの?私は焦りながら、カメラロールから彼を探す。えっ!?え〜っ!?カメラロールにある彼とのアルバムには、見知らぬ男・・・さっきLINEに送ってきた男の写真がズラリと並ぶ。しかも、何枚かは私が一緒に写ってる。行ったこともない場所で、食べたこともない料理を前に。これ、どういうこと!?いたずら好きな彼のしわざ?いや、そんなこと・・・できるわけない。彼に電話を・・・だめだ、履歴に残るのも知らない名前ばかりだ。そうだ、ママ!ママに電話して・・・やだ、ママの名前がどこにもない!私は思わず、アパートを飛び出す。そのとき、着信が鳴った。うわ、あの男からだ。どうする?とりあえず、電話に出る。『エイミー、どうしたんだ?今日会う約束だろ?』『あなた、だれ?エイミーって?』『なに言ってんだ?悪い冗談だぞ』『だってわかんないんだもん。なにもかも。ママだって名前が消えちゃってるし』『おいおい、ママは子どもの頃に死んだって言ってたじゃないか』『ええっ?』『なんか今日、おかしいぞ』話を全部聞く前に私はウォッチの電話を切る。かかってくる着信音にさえ恐怖を感じて電源も落とす。落ち着け。落ち着け、私。私の名前はエイミーじゃない・・・じゃあ私の名前はなんだ?だめだ。思い出せない。これって若年性アルツハイマーなのか・・・動転しながらアパートへ戻ると、食卓の丸いテーブルの上で何かが光った。あれは・・・昨日おばちゃんにもらった赤かぶ。赤かぶが光るわけないし、気のせいか。そう思ったとき、赤かぶの根っこから赤い光が走る。光は私の両目を射抜いた。私は一瞬意識が遠のき、目覚めたとき、世界は変わっていた。私の名前は、エミリ。女性型レプリカント、つまりアンドロイドだ。5年前、6人の冤罪仲間とともに火星から脱出し、地球へ逃げてきた。私がたどり着いたのは、ここ高山。赤かぶの中にメモリを書き換えるハードウェアを隠した。自分の記憶を書き換えて、人手の足りない総合病院で看護師として働いている。でもなぜ、今になって記憶が・・・はっ。今朝の朝市のおばちゃん・・・あれは変装した仲間か・・・きっと、警告だな。いったい、なにが・・・そのとき、私の頬を銃弾がかすめた。窓ガラスには小さな穴と蜘蛛の巣のようにヒビが入っている。逃げなければ・・・私はアパートの裏口から抜け出す。階段を上がっていく足音。部屋の扉を荒々しく開く音。その反対方向へ私は走る。出るときに肩にかけてきたバッグを探ると、組み立て式の銃が。走りながら無意識に銃を組み立てる。桜山八幡宮の境内を抜けて、不動橋へ。あたりを注意しながら不動橋の手前まできたとき、誰かが私の手をつかんだ。『ひどいな、約束を忘れるなんて』『あ・・・』『まさか、僕のこと忘れた?』アルバムの『彼』が、私の手を握って立っている。『やっと尻尾を出したね』『お前は・・・』『付き合ってるときは、まったくわからなかった』『賞金稼ぎか』『昨日のチューリングテストではごまかせなかったようだな』そうか。病院もグルだったのか。チューリングテストは、感情移入の度合いを測る検査。呼吸、心拍数、赤面反応、目の動きを測定する。人間か、アンドロイドかを判定する検査だ。昨日はただ疲れがピークだっただけなんだがなあ・・・あきらめて、体の力を抜いたとき、彼が両手を上げた。朝市のおばちゃんが彼の背に銃を突きつけたのだ。『残念だったな、賞金稼ぎ。ここまでだ』『どうだ、お前もテストを受けてみるか』おばちゃんは、彼の前の前にタブレットをかざす。チューリングテストの端末だ。彼の瞳をロックして質問を重ねる。『砂漠の真ん中でひっくり返った亀を助けないのはなぜか』質問は20項目にものぼった。結果のプリントを彼に渡し、我々は彼の元を去る。欄干に手錠で繋がれた彼は呆然とした表情で結果を見つめる。『うそだ!オレが、オレが!』『オレは人間だ!』■シーン/火星居住区のガヤ(そんなんあるかなあ)2124年。テスラの開発により火星移住者が1,000万人を超えた。彼らは一家に一台、テスラボットというレプリカントを所有する。しかし、レプリカントは自我を持つAIだ。あまりにも過酷な環境に耐えかねて、何体かが地球へ脱出した。自分たちで制作したスペースXというロケットで。彼らを探し出し、破壊するのが賞金稼ぎである。賞金稼ぎは、チューリングテストでレプリカントの正体を探り出す。感情があるか、ないか。心を持っているか、いないか。それは「人間らしさの基準」と言われている。だが、最先端のAIと人間の間に違いはあるのだろうか。その答えを知っているのは、未来へ続いていく歴史だけだ。■SE/宮川のせせらぎ『これからどこへ行く?』『能登へ。看護師として一人でも多くの被災者を救いたいの』『人間に聞かせてやりたい言葉だな』『ふふふ』
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