EPISODE · May 8, 2026 · 20 MIN
ボイスドラマ「たまゆら」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
一瞬の出会いが、未来をつくる。1986年と2026年をつなぐ、酒と記憶の物語。酒蔵に漂う香り、受け継がれる技、そして想い。母から娘へ、そして時を超えて紡がれる物語。万葉の歌に詠まれた「たまゆら」――それは一瞬でありながら、永遠に残る記憶。飛騨高山の歴史とともに描く、切なくも温かなタイムリープの物語です・・・【ペルソナ】・依羅伽/瑛里菜(えりか=母:25歳/えりな=娘:25歳/CV:山﨑るい)=市街地で老舗の酒蔵の女性杜氏。1986年と2026年に母娘として同時に存在する。母娘2代とも新しいお酒を開発してきた。新酒は90周年に向けて発売予定。名前は「大吟醸たまゆら」・静流(しずる/30歳/CV:日比野正裕)=上宝村在住。市制50周年の1986年に市街地へ【プロローグ:万葉集】◾️SE:万葉の詠み方で(少し節をつけて)『玉響昨夕見物今朝可戀物』たまゆらに きのふのゆふべ みしものを けふのあしたに こふべきものか【シーン1:1986年11月/依羅伽(市制50周年の賑わい)】◾️SE:町の賑わい(あちらこちらで「おめでとう!」の声)『50周年、おめでとうございます!』「ありがとうございます!よろしければ、できたばかりの新酒、試飲してください」『へえ〜、なんていう銘柄なんですか?』「実はまだ決めてないんです。仮にたとえるなら・・・”たまゆら”かな・・・」『”たまゆら”・・・いい名前だ』「あ、よかったら中でどうぞ」『はい、じゃあ・・・お言葉に甘えて』高山市全体が祝賀ムードに包まれた1986年11月。高山市制50周年を祝うムードが町中に漂っていた。私の名前は、依羅伽。上三之町で・・というか、古い町並で・・・ああ、どうしても言い慣れないなあ、”古い町並”・・・保存地区の選定からもう何年も経つのに・・そう、うちはその古い町並に300年以上続く酒蔵。昔からのお客さんは『加賀屋』と呼ぶ。私は、『女将』として切り盛りしている。まだまだ女人禁制がはびこる世界。うちの蔵でも少し前まで『仕込み部屋』に女性は入(はい)れなかった。私が女将になってから、強引にルールを変えたんだ。何十年ぶりかで世に出す新酒。市制50周年に間に合うように仕込んできたけど、私に言わせると、『完成』はまだちょっと先かな。まずは、このめでたい景気の中で試飲していただくことにした。最初のお客さんは、リュックを背負った青年。DCブランドっぽいトレーナーに、ケミカルウォッシュのジーンズ。地元の人・・じゃないかも・・・『いただきます・・・』店の奥で青年の声がする。私は和らぎ水(やわらぎみず)を取りに水場へ。戻ってみると、店内に青年の姿はなかった。あら、もうお出かけ?お水はいらないのかしら。結構アルコール度数高いお酒だったんだけど。町並の喧騒が木戸越しに聞こえてくる。うちは角打ちをしていないから、店の中は静まり返っていた。【シーン2:2026年5月/瑛里菜】◾️SE:店内にたくさんの外国人(雑踏)「Have a nice trip in Hida!またのお越しを、お待ちしとります!」『セ・ボン(C'est bon)!』(合成音声)おっと!フランス語やったか!ま、いいや。私の名前は、瑛里菜。古い町並に340年以上続く酒蔵で、杜氏として働く。幼い頃から亡き母・依羅伽に付いて、蔵人(くらびと)として学んできた。杜氏になったのは今年、25歳の誕生日。それだけじゃない。母が亡くなってからは『若女将』としても、店を切り盛りしている。そうそう。だから毎日忙しいのよ。さっきまで大賑わいだった試飲カウンターも片付けないと・・・あれ?まだ誰かいる?目を瞑ってお酒を飲んで・・・ってん?あんなおっきな蛇の目猪口(じゃのめちょこ)、うちにあったか?「あ〜、すっごく美味しい。・・・あれ?」「こんにちは・・」「女将さん?・・なんか・・・さっきと雰囲気変わりました?」「え・・?どういうことですか?」「さっきまで割烹着、着てませんでした?」「割烹着?そんなもん、着ませんよ」「なんで?だって・・・あれ?なんかお店の中もナウいし・・」「ナウい?」「こんなカウンターとか、自動販売機なんてありましたっけ?」「自動販売機?」「ほら、そこの・・」「試飲用のコイン投入口ですけど・・」「なに・・?それ・・・」「ちょっとすみません、その・・・お猪口みせてもらえます?」「あ・・はい・・・」「この蛇の目猪口・・・小さい頃に見たことあるような・・・」「小さい頃・・・?」「ちょ〜っと失礼・・」「あ・・・それ・・飲みかけですけど・・・」この味・・・まろやかなのに芳醇・・でも・・・ガツンとくる辛口・・・そしてこの香り・・・記憶のどこかに残っているような・・・「あの・・・」「あ、ごめんなさい!私ったらつい・・」「いえ、全然いいんですけど・・・」「よかったらもう一杯飲まれますか。いまならまだ氷室の限定大吟醸がありますよ」「ああ、結構です。それより、もう行かなきゃ・・・」そう言って、彼は逃げるように店を出ていった。なんか、青い顔してたけど、大丈夫かしら・・・私は手のひらの、蛇の目猪口をそっと見つめる。分厚くて武骨な、でもどこか温かみのある古い猪口。猪口を手にしたまま、仕込み蔵へ。ひんやりとした静寂の中。ここで私は新しい吟醸酒を仕込んでいる。というか開発中。高山市制90周年に向けた、記念の大吟醸だ。あと一歩。何かが足りない。美味しいけど、味が綺麗すぎるんだよなあ・・・櫂(かい)入れをしながら、猪口を顔に近づける。うっすらと残る芳醇な香り。これって・・亡き母が以前嗅がせてくれたあの香りに似ている・・さっき一口飲んだときも、水の透明感みたいなキレを感じたし・・・「・・まさかね」呟きは、酒蔵の重厚な梁に吸い込まれていった。【シーン3:2026年5月/酒蔵】◾️SE:扉を強く開ける音「すっ、すみませんっ!」息を切らしてお店に駆け込んできたのはさっきの青年。出ていってから、10分も経っていない。「誰か、いませんか!」私は、いそいそと仕込み蔵からお店へ。「あ、あなたはさっきの・・」「はい、この酒蔵の女将で杜氏。瑛里菜と申します。どうかしましたか?」「あの、町が・・ヘンなんです!」「町が・・ヘン?」「はい、だって・・・さんまち通りが、外人さんでいっぱいになってて・・すごい数だし・・・」「ああ、外国人ね。まあ・・・今日は週末だしね」「みんな、テレビがついたトランシーバーを持ってる」「トランシーバー・・・?それって・・・・・スマホじゃない?」「それにもっと・・もっと・・・大変なのは・・・」「はあ・・」「電柱も電線もなくなっちゃっている!」「あ、そこ?そういえば気づかなかったわ」「しかも、秋なのになんかあったかい」「秋じゃなくて春でしょ」「なに言ってんですか。いまは秋でしょ。11月。市制50周年であんなに賑わってんじゃないですか?」「5月だけど」「え!?ちょっと待って・・・頭が混乱して思考が追いつかない」「仕込み水、飲みますか?」「あ、ありがとうございます」彼は水を一気に飲み干すと、私の目の前に顔を近づけた。「教えてください」「あ、はい・・なんでしょう」「今日は何年ですか?」「え・・」「昭和何年?」「昭和?いやいやいや、令和でしょ。令和8年」「令和ってなんですか?」「なんですかって・・・昭和、平成、令和の令和じゃない」「え・・・」(※2人同時に)「頭痛くなってきた」「頭痛くなってきた」「ひょっとしてだけど・・・まさかとは思うけど・・・あなた、タイムトラベルしてきたとか言わないよね?」「ははは・・そんなばかな・・だったら君は未来人?ここはバック・トゥ・ザ・フューチャーの世界ですか」「じゃあ今年は何年なの?」「1986年。昭和61年」いや〜。アニメの世界じゃ、異世界と時間軸の話が溢れてるけど・・・大丈夫か、この人・・・ってか、まさかホントにタイムトラベラーなのか・・・「ここって高山市ですよね?」「そうよ。あなた、一体どこの世界線から来たの?名前は?」「ぼ、僕の名前は、静流と言います。家は吉城郡上宝村(よしきぐん かみたからむら)。高山市の市制50周年のイベントを見にきたんです」「吉城郡?なにそれ?」「なんで?高山にいるのに知らないんですか?吉城郡は古川町(ちょう)・神岡町(ちょう)・河合村(かわいむら)・宮川村(みやがわむら)、それに国府町(ちょう)・上宝村(かみたからむら)じゃないですか」「あ〜。それたぶん合併前ね。いまは、国府も上宝も高山市よ」「うそ」「なんで嘘つく必要があるの?高山市は東京都と同じくらい広いのよ。香川県や大阪府より広いんだから」「そんなばかな・・・」「だめだ・・こっちも頭が追いつかない・・・ねえちょっと、外でようか」「は、はい」結局、私はこの青年と、高山市街地を歩くことにした。1986年、40年前の世界線からきた、という静流。ああ、自分の頭も整理したい。ただでさえ、新酒の仕込みで行き詰まっているのに・・・※続きは音声でお楽しみください
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