EPISODE · Mar 11, 2025 · 12 MIN
ボイスドラマ「わたつみの恋」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
「わたつみの恋」は、飛騨高山の風景を背景に紡がれる、一人の人魚と人間の儚くも美しい恋の物語です。人魚と人間、異なる世界に生きる二人が運命に導かれ、深く愛し合う。しかし、その愛には決して避けられない試練が待ち受けていました。彼女は愛する人と共に生きるために陸へと上がり、一年間の誓いを交わします。しかし、大きな災害がすべてを奪い去り、彼は記憶を失い、かつての婚約者と再び結ばれようとしていました。過去を思い出せない彼。消え去る運命に抗う彼女。絡み合う運命の糸は、果たしてどのような結末へと向かうのでしょうか。「わたつみの恋」は、Podcast番組『Hit’s Me Up!』の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームで視聴できます。また、「小説家になろう」でも全文を読むことが可能です。愛が奇跡を生むことを信じて。(CV:桑木栄美里)【ストーリー】[シーン1:2024年元旦の朝]■SE/波の音と海鳥の鳴き声「愛してる」「僕もだよ・・・エミリ、愛してる」「じゃあ行くわ」2024年1月1日。帰ろうとする私の手首を、彼がつかんだ。「だめよ。もう海へ帰らないと。陽があんなに高く昇っちゃったんだもん」後ろ髪をひかれながら、私は彼の手を優しくふりほどく。誰もいない海岸。靴を脱ぎ、裸足で波打ち際へ。足首が打ち寄せる波に包まれると、少しだけ彼の方へ振り返った。ほんの少し寂しそうな笑顔で手を振る彼。私も小さく手を上げて、波の中へ飛び込んだ。海水が全身を満たすと、足は尾びれに変わっていく。そう、私は人魚。彼と知り合ったのは、去年の春。嵐の夜、この海で溺れていた彼を私が助けた。誰もいない島で彼を介抱しながら過ごした2週間。海の底のように澄んだ彼の瞳に、私は一目で虜になった。自分の心に抗えず、私は恋に落ちていく。私たちは短い時間の中でお互いの気持ちを確かめ合った。実は、人魚の世界に男はいない。だから人魚は人間の伴侶を求める。彼に一目惚れしてしまったのも、私の中のDNAがアドレナリンを高めたのだろう。人間と人魚が結ばれるには、いろいろとハードルもあったけど私は陸(おか)に上がって、彼との逢瀬を重ねた。人間のカップルのように。このまま1年間彼と一緒に過ごせば、私は人間となり、晴れて結ばれる。でも、途中で別れたら、私は海の泡となって消えてしまう。そんなこと、忘れてしまうほど、私たちは愛し合った。夏が過ぎ、秋が流れて、冬を迎えても思いは増すばかり。昨日の大晦日から元旦までも、二人で過ごした。甘いひとときを思い出しながら私は水の中を泳いでいく。身体をくねらせながら目指すのは、海の底。やがて、空の光が届かないほどの海深くまできたとき。■SE/水中の鈍い爆発音「ドン」え?なに?まるでなにかが爆発したような音。と同時に、今まで経験したことのないような大きなうねりが私を襲う。なに、これ!?考える間もなく地響きが水の中を伝わってきた。下の方からもなにか上がってくる・・・それは無数の小さな泡。海の底から吹き出した細かい泡が私を包み込んでいく。そのあとは、海底がどんどん濁りはじめた。あっという間に周りが何も見えなくなる。これは・・・地震!?はっ彼は?彼は大丈夫?私は慌てて方向転換する。水圧の変化で耳が痛くなりながら、海面に顔を出すと・・・うそ!?街が傾いてる。私は浜辺に上がり、裸足のまま彼を探して街の中を彷徨った・・・[シーン2:病院にて]■SE/病院の雑踏と慌ただしい様子一ヶ月近く探し回って、やっと見つけたのは病院のベッドの上。彼は頭に包帯を巻かれ、点滴を受けていた。「やっと・・・見つけた」彼の手をとり、名前で呼びかける。ゆっくりとまぶたを開くと、あの真珠のような瞳が現れた。だが、彼の瞳は私を見てもなにも反応しない。え?私のこと、わからないの?まさか、記憶喪失?愕然としながら、私は病室を出る。廊下で髪の長い若い女性とすれ違った。なんだか気になった私は彼女のあとをつけた。予想通り、女性は彼の病室へ入っていく。半分開いた扉からこっそり部屋の中を覗くと・・・彼は、笑顔で彼女と話している!こちらから女性の顔は見えないけど楽しそうな会話。震災から1か月。一体なにがあったというの?2人の間に入っていかないとなにもわからない。どうしよう?どうしよう?どうしたらいい?思わず病室に入っていく私。きょとんとした顔で私を見つめる2人に、「あ、あの、災害ボランティアです。いま病室を回っています」と答えた。ああ、なんて浅はかな回答。だが、彼女は人懐っこい笑顔で、”ちょうどいいわ”、”彼を見てていただける?”と言って、買い出しに出ていった。残された彼と私。私はベッドの横に座り、「さきほどは失礼しました」と彼に詫びた。「いえ、こちらこそ。ボランティアの方だったんですね」違う。ボランティアなんかじゃない。私はあなたの・・・口元まで出かかった言葉を抑えて、口にしたくない言葉を告げる。「先ほどの女性は彼女さんですか?」「婚約者です」「え?」うそ!?そんな・・・「実は僕、この災害で記憶喪失になってしまって・・・」「海岸に倒れているところを、彼女に助けられたんです」「そしたら、なんと去年の春まで婚約していた相手だったらしくて」「どうして別れたのかは覚えていないけど」「介抱されるうちに、また元に戻ったっていうか・・・」去年の春・・・私と出会った頃だ。どうして、それがいまになって・・・ほどなく、彼女が買い物袋を抱えて戻ってきた。彼は笑顔で彼女を迎えると、私に向き直った。「今日、退院するんです。記憶喪失はまだ回復しないけど・・・」「おめでとうございます。じゃ、私はこれで・・・」頭の中が動転したまま、私は病院を出た。これからどうする?彼をあきらめるの?何度も自分に問いかけた。悩みに悩んでだした答えは、あきらめて、海の泡になるのなんて、いや!彼は、絶対に私のこと、思い出してくれる![シーン3:彼のマンション]■SE/街角の雑踏私は医療ボランティアとして、彼と彼女の元に通った。あまり料理が得意でない彼女の代わりに、料理も作る。問題ないわ。彼の好き嫌いは全部知ってるもん。2人と関わっていくうちにいろんなことがわかってきた。婚約していたというのは本当らしい。ただ、彼女の話の中から、彼の思いは見えてこない。彼に対する熱い思いだけは、ひしひしと伝わってくるけど。頭の中に、疑問が湧き上がってくる。どうして彼は、あんな真冬の海で溺れてたんだろう・・・婚約者はなにしてたの?彼女に聞くべき?悩んでいた私にある日、死刑宣告のような言葉が告げられた。”そろそろ私たち結婚しようと思うの”私は、どんな顔をして聞いてたんだろう。きっと目に涙をためながら、不自然に笑っていたに違いない。さほど長くない沈黙のあと、我にかえってつぶやいた。「おめでとう」「あまりお二人の邪魔になってもいけないから」「私、そろそろ、消えるわね」海の藻屑へと・・・[シーン4:浜辺にて]■SE/打ち寄せる波の音彼のアパートを出た私は海岸へと向かう。波の音が聞こえてきたあたりで、後ろから呼び止められた。「待って」聞き慣れた声に振り向くと、彼。その後ろからついてきているのは、不安げな顔をした彼女。「なにか思い出せそうなんだ・・・」「え?」そう言いながら、また頭をかかえる彼。「やっぱり、だめだ・・・」「無理しなくていいのよ。これから長い時間をかけて、彼女が幸せにしてくれるから」そう言いながらつとめて明るい笑顔で彼の手をとる。「お別れよ」笑ってそう言ってるのに、気がつくと彼の手のひらに、一粒の涙がこぼれ落ちた。乾いた手のひらが濡れていく。私は海へと向き直って走り出した。溢れ出る涙をぬぐおうともせず。波の間へとびこもうとした瞬間。「行かないで!エミリ!愛してる!」彼の絶叫が響き渡った。振り返ると、彼が駆けてくる。彼女は、なぜか大きくため息をつき、踵を返した。「すべて思い出した!」「忘れるものか、大切な時間を」「ああ・・・」「1年前、海へ身を投げた僕を君が救ってくれた日のことも」「え・・・身を・・・」そうだったんだ。彼女のさっきの行動は、そのすべてを知っていたのね。理由も・・・「エミリ、僕と一緒になってほしい」「私でいいの?」「君でなければ、いやだ」ひざまで波に洗われながら、強く抱き合う2人。沖に沈む夕陽が、私たちを祝福するように、金色に輝いていた。
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