EPISODE · Aug 12, 2025 · 18 MIN
ボイスドラマ「臥龍の記憶」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
臥龍桜に誓ったのは、たった一度の祝言でした。昭和19年、戦時中の飛騨高山・一之宮。臥龍桜の下で少女ミオリと青年カズヤは、許嫁として再会します。自由も恋も、そして未来もままならない時代の中で、二人が交わしたひとつの約束。それは“この桜が咲く日まで、生きていてほしい”という切なる願いでした。臥龍桜のつぼみが膨らむころ、カズヤに届いた赤紙。出征を前にして、二人が選んだ道とはーー。飛騨の記憶と、桜の下で交わされた言葉を紡ぐ、時を超えたラブストーリーです!【ペルソナ】※物語の時代は昭和19年〜22年・ミオリ(17歳)=飛騨一ノ宮駅の東側にある実家で育った。一之宮尋常高等小学校を卒業後、高山の女学校に通う女学生。勉学に励み、将来は子どもたちに教える教師になることを夢見ている。真面目で一本気な性格だが、感受性豊かで、心の奥には繊細さも持ち合わせている。親が決めた許嫁であるカズヤとの関係に反発しつつも、どこか彼の不器用な優しさに気づいている(CV=小椋美織)・カズヤ(19歳)=飛騨の林業を営む家に生まれた。家は飛騨一ノ宮駅の西側。幼い頃から木に親しみ、その温もりと力強さに魅せられ、いずれは家業を継ごうとは思うが、今は家具職人(匠)になりたいと思っている。1944年現在は高山市の家具工房で修行の身。寡黙だが、内に秘めた情熱と職人としての誇りを持つ。不器用ながらも、ミオリのことをいつも気にかけている(CV=日比野正裕)【設定】物語はすべて臥龍桜の下。定点描写で移りゆく戦況と揺れ動く2人の心を綴っていきます【資料/飛騨一ノ宮観光協会】http://hidamiya.com/spot/spot01<第1幕:1944年3月5日/臥龍桜の下>◾️SE:春の小鳥のさえずり「冗談じゃないわ!どうして私がカズヤと祝言(しゅうげん)あげなきゃいけないのよ!」「親が決めたことだからしょうがないだろ。」「情けないわね!あんた、それでも日本男子?しっかりしなさい!」「日本男子は関係ないだろうに」「そうね、カズヤには関係ないかも。だけど私には大あり」「どういうことだ、ミオリ?」「カズヤにはわかんないでしょうね。でも私はね、花も恥じらう十七歳。一之宮尋常高等小学校を卒業して、高山の女学校に通う学生なのよ」「だからなんなんだ」「あー、いや、ちょっと待って。そういや、あなただって、林業を捨てて高山の工房で家具を作ってるじゃない」「捨ててなどないぞ。オレは別に父母の仕事を卑(いや)しめてはいない。ただ家具作りが・・」「好きだからでしょ。昔から手先が器用だったし」「そ、そうだけど」「こんなふたりが。戦時中だというのにこんな好き勝手やってる男女がよ。親が決めた許嫁と祝言なんて、まあなんて前時代的な話だこと。いま何年だと思ってるの?昭和ももう19年よ。昭和19年。明治時代じゃないんだから」「ちょっと言い過ぎじゃないか」「なんでよ」「親が言っていることの意味も考えねばならんだろう。戦局はますます激化していくこのご時世で」「はあ?」「厚生省が『結婚十訓』を発表したではないか」「それがどうしたの?」「『結婚十訓』第十条『産めよ殖(ふや)せよ国のため』」「ばかばかしい」「ばかばかしい?非国民かオマエは」「非国民でけっこう」「なに」「だいたいカズヤと夫婦(めおと)になるなんて無理無理」「ふん。こっちだって願い下げだ」「あら。初めて意見が合ったじゃない」「た、たしかにな」「あゝせいせいした」「なあ、ミオリ。オマエ、ひょっとして・・・」「なによ」「いや、別に・・」「言いなさいよ」「ああ。ほかにいい人がいるのか・・」「え・・」「やっぱりそうか・・」「な、なによ。悪い?お慕いする方くらい、いたっていいでしょ」「別にかまわんけど。オレだって・・・」「へえ〜、カズヤにもいるんだ。そんな相手が」「馬鹿にするな。こう見えてもモテるのだぞ」※当時からあった言葉です「馬鹿になんてしてない。だってカズヤ、見た目だけはいいんだし」「だけ、って・・失礼千万だな」「じゃ、いいじゃない・・」「うむ・・」「ねえ、ようく見てみなさい。あそこ。飛騨一ノ宮駅のホーム」「飛騨一ノ宮駅か・・」「毎日毎日聞こえてくるわ。出征兵士を見送る家族の、心で泣いてるバンザイと供出された飛騨牛たちの、悲しそうな鳴き声」「うむ」「この臥龍桜だって」「桜の季節はまだまだ先だがな」「赤紙(あかがみ)手にした兵士と、家族や恋人が今生(こんじょう)の別れをしている」「はるか彼方の戦地に送られて、思い出すのはやっぱりふるさとの桜じゃないかな」「もう二度とこの桜に会えないからと、しっかりと目に焼き付けて」「今日もこのあと壮行会があるらしいな」「臥龍桜の下って、本当はもっと幸せな気持ちになれるはずなのに」「・・・」「それなのに銃後(じゅうご)の私たちだけ、のうのうと幸せになるのはいや」「ミオリ、らしいな」「高山線だって10年前に開通した時は、飛騨の夢と希望をのせていたのに。いまじゃ、悲しみを乗せて走ってる」「・・・」結局、痴話喧嘩のような言い争いは中途半端に終わった。1944年、昭和19年3月。臥龍桜の蕾はまだまだ固く、一之宮の春は遠い。戦局はますます悪化し、ニッポンは敗戦への道を歩み始めていた。<第2幕:1944年4月7日/臥龍桜の下>◾️SE:春の小鳥のさえずり「ちょっとカズヤ。なによ、急に呼び出して」「すまん」「そういえば1年前にもヘンな話で呼び出されたわね」「ヘンな話じゃないだろう。祝言の話は・・・」「十分ヘンな話よ」「そうか・・・。まあ、いいじゃないか。ミオリの希望通り、ご破算(わさん)になったんだから」「やあね。なんだか私がぶち壊したみたいじゃない」「だってそうだろ」「いいでしょ。あなただって、私なんかと夫婦(めおと)になるより想い人と一緒になる方が」「あ・・ああ・・・いいかもな」「あ〜あ。ほら、見てよ。今日もまた飛騨一ノ宮駅のホームに出征兵士が。あんなにたくさんの人に見送られて。あんなにたくさんの涙を背負って」「そう・・だな」「それよりもう、じれったいわね。なんの用なの?」「いまから話すよ・・」「カズヤんちは駅の西側だからスッと来れるけど、うちは東側なんだから。いちいち線路を渡ってここにこなきゃいけないのよ。わかってるでしょ」「すまない・・・」「なに?なんか素直で気持ち悪い。いつものカズヤじゃないみたい」「実は・・・」「うん」「昨日・・・」「うん」「来たんだ・・・」「え・・・」「これ・・・」「なによ、それ?」「わかるだろう・・・赤紙だよ」「えっ!」「両親とはもう話した」「そんな・・・」「ミオリにもちゃんと伝えておこうと思って・・・」「なんでカズヤがいかなきゃいけないの」「え?あたりまえだろう。日本国民なんだから」「最低」「すまない」「なにをあやまってるのよ」「いままで喧嘩ばっかりで・・・」「出征はいつ?」「1週間後だ」「間に合わないじゃない」「なにが?」「臥龍桜よ。決まってるでしょ」「しかたないさ・・」「じゃあやめちゃいなさいよ。出征なんて」「ばか。なんてこと言うんだ」「ばかはあんたよ」「・・」※言いながら感情を抑えきれなくなるミオリ「ばか・・・ばかばかばかばかばかばか・・ばか」「すまない・・・おい、ミオリ!」私は、我慢ができなくなってカズヤの元から駆け出した。後方から私を止める声は聞こえてこない。振り返らずに、線路を渡っていく。ホームからは賑やかに出征兵士を送る歓声が聞こえてくる。◾️SE:SLの切ない警笛蒸気機関車の警笛が人々の悲しみを飲み込んでいく。1945年、昭和20年4月7日。臥龍桜の蕾は膨らみはじめ、開花の季節が近づいていた。<第3幕:1944年4月14日/臥龍桜の下>◾️SE:春の小鳥のさえずり「臥龍桜・・・やっぱりまだか」「カズヤ、いたの?」「ああ、ミオリ、どうしたんだよ?オレ、明日、出征なんだぞ」「わかってる。だけどもう、時間がないじゃない・・」「え?」「どうしても聞いておきたいことと、伝えたいことがあるの」「なんだ?」「カズヤ、あんたどこへ出征していくの?」「どこへ?まず、富山へ行って」「富山・・・?」「富山にある、部隊の兵舎さ。そこで新兵訓練(しんぺいくんれん)を受けるんだ」「そのあとは?」「そのあと?どうだろう・・・南方戦線とかじゃないのかな」※「南方」と聞いて途端に顔が曇るミオリ「南方!?そんな・・そんな・・」「日本にとって今もっとも重要な激戦地なんだから。多分、そこへ・・」※きっぱりと言い切るミオリ「やっぱりカズヤ。行くのやめなさい」「なにを言ってるんだ。無理に決まってるだろう」「どうせ日本なんて負けるんだから。犬死になんてしないで!」「しいっ!声が大きいよ。憲兵か特高に聞かれたらどうするんだ」「かまやしないわ。本当のことなんだから。刑務所送りなんて怖くない。いくらでも入ってやる。戦場へ行かされるよりよっぽどマシ」「・・・ミオリらしいな」「なによ」「いままでありがとうな」「なにそれ?」「幸せになれよ」※顔を背けるミオリ※続きは音声でお楽しみください。
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