EPISODE · Mar 21, 2025 · 13 MIN
ボイスドラマ「異世界さるぼぼ〜誰もいない高山」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
高山の古い町並み、観光客で賑わう通り、そして代々続く酒蔵。そんな飛騨高山の風景の中で生まれたひとつの物語が、いま幕を開けます。「異世界さるぼぼ〜誰もいない高山」は、家業を継ぐか、夢を追うか揺れる主人公・瀬織が、ある日突然、異世界へと迷い込み、さるぼぼの姿になってしまう物語。誰もいない町で出会ったのは、さまよえる魂たち。彼らの想いを結びながら、瀬織は「自分の役目」と向き合うことになります。飛騨高山を舞台にした、この不思議で心温まる旅を、どうぞお楽しみください。本作は「Hit’s Me Up!」の公式サイトや各種Podcastプラットフォームでお聴きいただけます。また、「小説家になろう」でも公開中です。耳で楽しむもよし、文字で味わうもよし。あなたの好きな形で、高山の異世界へ旅立ってみませんか?(CV:桑木栄美里)【ストーリー】[シーン1:午後、夕暮れの古い町並】■SE/古い町並の環境音「私、ぜ〜ったいに、東京へ行く!」スマホを握りしめて、絶叫する私。古い町並。土産物屋さんの前。外国人観光客たちが、一斉に私の方を見る。やだ、みんな笑ってる。んもう〜!パパったら、私が家業の酒蔵を継ぐ、勝手に決めてるんだから。大学卒業したら、高山を出る、って、ずう〜っと言ってるのに。でもいかん、ここは、観光地のどまんなかだった・・バツが悪そうに、伏せた顔を、ゆっくりあげると・・・軒先のさるぼぼと目が合った。あ、いや。さるぼぼは顔がないから、そんな気がしただけ。私の方を見てた観光客たちは、みんな自分の時間に戻っていた。私の名前は、瀬織(セオリ)。パパが名付けたんだけど、瀬織津姫、っていう女神からとったんだって。なんでも川に住んで、穢れを祓ってくれる水の神様らしい。さっき家業は酒蔵って言ったけど、うちは、結構いいお酒を作ってるんだ。スッキリフルーティな吟醸酒は若い人たちにも人気あるんだよ。ま、アニメのキャラと同じ銘柄だからだけど。パパは私に家業を継いで、杜氏(とうじ)になれって言ってんだよね。最近じゃ、女性杜氏ってのも増えてるみたいだけど。ほら、なんてったっけ?るみ子の酒?そうそう、そういうの。あ〜あ、もう。早く家に帰って、突っ走ってるパパを説得しなきゃ。LINE。LINE、と。”今から帰るからちゃんと話そ”既読、つかねーじゃん。んっとに。[シーン2:朝、高山市街地の自宅】■SE/小鳥のさえずり〜朝の環境音(自然の音)ふぁ〜、よく寝たぁ〜もう7時かあ。あれ?今日何曜日だっけ?なんか、いつものガヤガヤがない。ん?窓の外、だぁれもいないじゃん。いつもなら朝市からの観光客でけっこう賑わってるのに。いや、それよりも・・・なんじゃ、こりゃ〜!?窓ガラスに映っていたのは・・赤い顔に黒い頭巾、かすりのちゃんちゃんこに黒い腹掛け・・・さるぼぼ〜!?な、な・・・なろうサイトじゃあるまいし、異世界行ったらさるぼぼだったぁ!?だめだ、頭痛くなってきた。こんな姿、パパママに見られたら・・・ん?でも?パパとママはどこ?まさか、2人も?さるぼぼの私は、空いている隙間から器用にすりぬけてキッチンへ。あ、さるぼぼって宙を飛べるんだ。だれもいない。開いている勝手口から外へ出てみると・・・街にも人っこ1人いなかった。どういうこと?急に恐怖が襲ってくる。ひょっとして、この世界に、私ひとりだけしかいないの!?しかもさるぼぼだし。体はちっこくても、空飛ぶスピードはまあまあだったから、いろいろ行ってみた。陣屋。市役所。宮川の朝市。どこにも、だあれもいない。観光客も、市民も。必死で飛び回る。なのに・・市役所にも、郵便局にも。HitsFMにさえ、人っこ1人いない。途方に暮れる。でも、顔がないから泣くこともできない。そのとき、どこからか小さな泣き声が聴こえてきた・・『助けて・・』え?どこ?耳をすますと、声はだんだん大きくなってくる。『だれか、助けて・・』思わず、声のする方へ飛んでいくと・・・『おとうさんが死んじゃう・・・助けて・・』小さな女の子の魂が、助けを求めて泣いていた。「きみはだぁれ?」『私、死んだの・・』え?『去年、交通事故で・・』そうなんだ・・『おとうさんもおかあさんもすごく悲しんで、なにもできなくなっちゃった・・』ええっ『いまおとうさんは病気になって苦しんでる。このままじゃ死んじゃう・・』「そっか・・・よし、じゃ、一緒にいこ」『ありがとう・・』なぜだかわからないけど、この子の手をひいて、消防署へ。「いい、ようく聞いて。私には見えないけど、あなたには見えるんでしょ。消防署へ走っていって、救急車を呼ぶの」『うん』「一緒に乗ってって、おとうさんを助けてあげて」『わかった』自分でもよくわかってないはずなのに、なにをすればいいのかが、ハッキリ理解できた。もしかしたら、これが・・さるぼぼの役目?さるぼぼは子どもと女性の守り神?妙に腹落ちした気分になっていると、また、声が聴こえてきた・・・今度はもっと小さな女の子の魂・・やっぱり泣いてる・・『え〜んえ〜ん』「どうしたの?痛いの?」小さな人形のような手を握る。すると、うっすらと、周りの人間たちが見えてきた。なんてこと。この子、実の父親から虐待されてる!どうしよう。すぐ近くで心配そうに見ている、若い男の子。ああ、この男の子にまかせればいいんだ。「心配しないで」「もう大丈夫だから」「さ、安心して眠って」小さな魂は苦しみから解放されていった。いま気づいたけど、この世界には、時間の感覚もないみたい。だって、この女の子、瞬きする間に、もう中学生になってる。あ、また声が・・・『さるぼぼ、お願い』今度はだれ?大人の女性・・・?30歳くらいかしら。『怖いの』え?なにが?『あの人と一緒になるのが』「あの人?だれ?」「すごく優しい人。優しい人だから、血のつながらない子を育ててる。2人の絆に、私は入れない』でも、好きなんでしょ『好き。愛してる。一緒になりたい。でも、まだ会ってもいないその娘から嫌われたらどうしよう。明日、初めて会うのに』ああ、それならきっと大丈夫『ほんとう?』うん。その娘もあなたのこと、もう好きだからあなたの魂を、幼いその娘のイマジナリーママとつないであげる『ありがとう』魂を結びつける。これもさるぼぼの役目なんだ。と感傷に浸る間もなく、また声が・・・『ぼく、ぼく・・・』なんかヘンだ。あ、これは・・・『ぼくはなに・・・?』生まれる前に命がなくなっちゃった子だ。『ぼく、どこにいけばいいの・・・』かわいそうに。「もう大丈夫だよ」『ぼく・・・』近づくと、おかあさんが見える。その横に・・・おかあさんの妹かな。いま、懐妊しようとしてる・・「明るい方へいきなさい」『うん』最後に笑ってくれた・・・ような気がする・・光の中へ消えていく小さな灯火。それを見送って、私は自分の家に戻った。代々続く酒蔵。蒸気で白く濁った蔵に、新酒の香りがほのかに漂う。え?新酒?ゆっくりと霧が晴れるように、蒸気が薄くなり、人影が現れた。「パパ・・」『おはよう。寝坊したのか?どうだ瀬織、この香り。今年の新酒も、いい出来だろ』あ、あれ?私の手。戻ってる。顔も。ああ、目も、鼻も、口もある。『なに寝ぼけてるんだ。さ、一緒に杉玉つくるぞ』「パパ」『なんだ、神妙な顔して』「私、この酒蔵、継いでもいいよ」『どういう風の吹き回しだい』「なんか、自分が生きている意味とか、役目とか、考えちゃったんだ」『ほお、そりゃすごいな』「冗談じゃないよ。私の命、もっとちゃんと生かしてあげないと」『ふうん。ま、気が変わらないことを祈ってるよ』「もう〜」『ははは』口では醒めた言い方してるけど、パパの口元はゆるみっぱなし。ふふ。束の間の異世界転生。戻ってきたら杜氏だった、なんて、小説家になれるかも。軒に吊るされた杉玉が緑から茶色へと変わるころ、老舗の酒蔵から新しい吟醸酒が発売された。その名前は、『瀬織津姫』。水を司る女神が、高山の清水を、優雅で芳醇な大吟醸に変えていった。
Embed this episode
NOW PLAYING
ボイスドラマ「異世界さるぼぼ〜誰もいない高山」
No transcript for this episode yet
Similar Episodes
No similar episodes found.