EPISODE · Apr 4, 2025 · 11 MIN
ボイスドラマ「櫻守が見た夢〜儚い春の風」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
昭和34年――岐阜県・荘川村は、御母衣(みぼろ)ダムの建設により、湖の底へと沈む運命にありました。その村の一隅、光輪寺に佇む一本の老木「荘川桜(しょうかわざくら)」は、400年の命を生き、村を見守り続けてきた存在でした。本作『櫻守が見た夢 〜儚い春の風〜』は、史実として語り継がれる荘川桜の奇跡の移植を背景に、桜の精「さくら」と、ダム開発の責任者「リョウ」との、時を超えた恋を描いた幻想譚です。出演は声優・岩波あこ。ボイスドラマとして、飛騨高山を舞台にした番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon Music、Apple Podcastなど、各種プラットフォームで配信中です。さらに、「小説家になろう」サイトでも物語をお楽しみいただけます。桜の花が風に舞うように、儚くも優しい記憶。あなたの心にも、ほんのひとひら、届きますように(CV:岩波あこ)【ストーリー】[シーン1:1959年11月後半/光輪寺】<さくらのモノローグとセリフで進行>◾️SE:吹雪の音「もうすぐお別れね。400年っていう歳月は、長いようで、実はあっという間だったわ」誰に聴かせるでもなく、静かに囁いた声は、雪に吸い込まれるように消えていく。早雪(そうせつ)。11月に降る雪をこう呼ぶ人もいる。はるか昔より、私はこの桜とともに、ここで暮らしてきた。私は・・・そうだな。櫻守(さくらもり)、とでも言っておこうか。ここは、荘川村の光輪寺(こうりんじ)。寒風の中、江戸彼岸桜の老木は、眠るようにたたずんでいる。老いてなお、春になると見事な花を咲かせるはずだった。だが、それも来年で見納め。いや、工事が早く進めば、春を待たずに、その命は絶たれることになる。この村は、ダムの底に沈むのだ。私は感謝の思いを胸に秘め、目を閉じた。雪混じりの風が頬をかすめる。冷たいはずのその感触が、どこか懐かしくて、優しいものに思えた。1959年、私には最後の冬。頬にあたった雪がゆっくり溶けていく。まるで、桜色の涙を流しているようだった。◾️SE:吹雪の音〜雪の中を歩く足音どのくらい時間が経ったのか、よく覚えていない。どこからか小さな視線を感じていた。いつの間にか風は凪ぎ、しんしんと雪が降る。静寂の中、微かな息遣いが伝わってきた。振り向けば、スーツの上にネイビーの作業用ジャンパーを羽織った男性。足元に積もった雪が、彼の迷いを映すように揺れている。彼の顔は・・・知っている。ダム開発の責任者だ。名前は・・たしか・・リョウ。そうか、確か今日、建設反対派の解散式だったんだな。開発側の人間にしては、嬉しそうな顔には見えないが。リョウは、私と視線が合うと、雪を踏みしめながらこちらへ歩いてくる。私の方を見て、目を見開きながら、”どうして、今まで気づかなかったんだろう”と、つぶやいた。なにを言ってるのかしら。私、雪の日も、雨の日も、いつだってここにいたじゃない。体に降り積もる雪をはらおうともせず、彼は、私と老いた桜をずうっと見つめていた。[シーン2:1960年2月/光輪寺】私とリョウの逢瀬は、それから毎日のように続いた。といっても、一方的に彼が逢いにくるのだけれど。ま、私、出不精だからしょうがないわね。遅い春が、小さな温もりを運んできても、彼は私の元へやってきた。”君を、守りたい”が、彼の口癖だ。直接的な、愛の言葉。何度言われても、醒めることはない。愛おしそうに私を抱きしめるリョウ。ああ、いつまでもこうしていたいけど。彼はまっすぐな瞳で私を見つめ、ため息をつく。そんな、悲しい顔をしないで。いま、この瞬間(とき)を大切にして。私たちは時間の許す限り、逢瀬を重ねていった。[シーン3:1960年4月/光輪寺】新しい年を迎え、住民はひとり、ふたりと村を出ていく。町では桜が落下盛んとなり、眩しい新緑に生まれ変わる頃。私にとって、一年でもっとも輝く季節がやってきた。樹齢400年を越える巨木が、見事な花を咲かせる。人々が太い幹の下に集まり、杯を酌み交わす。去年より人の数は多い。心なしか、今年はみんな、ときどき寂しそうな表情をする。やだなあ。花の命は短いのよ。せめて、桜吹雪が舞う間は、心から楽しんでほしいわ。私の頬もほんのり桜色に上気する。早く彼に逢いたい。でも、リョウがやってくるのは、村人がいなくなる夜遅く。いいの。私だって、2人きりで逢いたいんだもの。人目を気にしながらやってくる彼は、いつもより強く私を抱きしめた。”このまま時間が止まってしまえば”そういえば、そんなアニメもいま流行ってるんじゃない。だけど、目の前の現実を受け止めなきゃ。季節が変わってこの桜が切り倒されたら、私もここからいなくなるわ。”いかないでほしい”そうね。私も同じ気持ちよ。もうその気持ちだけで充分。あなただって、ダムが完成すればこの村から出ていくんだし、儚さや、もののあはれは、桜の象徴なんだから。いつまでもいつまでも、夜が更けるまで、彼は私を抱きしめていた。[シーン4:1961年4月/御母衣ダム】”おかえり”え?だれ?私をよぶのは・・・だれ?1961年4月。完成した御母衣ダムが、壮大な姿をあらわした。ダム湖のほとりには、ひっそりと佇む、2本の老木。根も枝も幹も伐採されて、悲惨な姿を晒している。その前で、1人の青年が私の名を呼ぶ。私はゆっくりと目をあける。リ・・リョウ・・・?どうして?ちょっと、やつれたんじゃない。なのに、そんな嬉しそうな顔をして・・リョウは口の端を少しゆがめて、ゆっくりと話し始めた。”どんなことをしても君を救いたかった”その一途な思いで、移植のために走り回ったのだという。考えられるあらゆる手段を使って、思いつくすべての名医に頼って、老木を移植したのだという。そうだったんだ・・・移植されたのは、かつてダムの底にあった2本の巨木。枝ぶりも見事な光輪寺と照蓮寺の桜の木だ。だが、移植された桜を見た村人は、その無惨な姿を見て顔をしかめた。彼も不安な表情で私を見つめている。ううん。大丈夫。私は生きてる。ほら、命の鼓動が聞こえるでしょ。彼は瞳を潤ませて、いつものように私を抱いた。[シーン5:1970年4月/御母衣ダム】移植から10年後の1970年春。2本の老木は満開の花を咲かせた。リョウが亡くなったのを知ったのは、ずいぶんあとになってからだった。「骨は、湖に撒いてほしい」その願い通り、遺灰は静かにダムの水面へと撒かれた。風に乗り、湖面へ流れていく。そのとき――荘川桜の枝から離れた花びらが、一枚、空を舞った。彼の魂に寄り添うように。人の一生は短い。彼の記憶の中の、私との思い出。それは、400年という長い時間の中で、瞬きするようなひとときだった。「おかえりなさい、あなた。これからはもう、ずう〜っと一緒よ」桜は再び風に乗り、御母衣ダムの湖面へと散っていく。私は、リョウの魂とともに、遥かなる春の夢を見続けるのだろう。だってあなたは私の櫻守だから・・
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