EPISODE · Jul 10, 2025 · 22 MIN
ボイスドラマ「最後の鉄道員(ぽっぽや)/後編」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
「最後の鉄道員(ぽっぽや)」<後編>は、声優を目指す少女ルナの視点。駅長ミオリとの出会いは、ルナの人生に何をもたらしたのか?そして、無人駅となる飛騨一ノ宮駅の最後の日、ルナがミオリに贈るサプライズとは…?涙なしには聴けない感動のラスト!【ペルソナ】・ミオリ(51歳-54歳)=飛驒一ノ宮駅の駅長(CV=小椋美織)・ルナ(15歳-18歳)=(CV=坂田月菜)・マサヒロ(59歳)=久々野駅の駅長(CV=日比野正裕)<シーン1:1982年3月/駅長との出会い>◾️SE:飛騨一之宮水無神駅到着アナウンス(月菜ちゃん読んで)/小鳥のさえずり「まもなく飛騨一ノ宮、飛騨一ノ宮です」1982年3月。あたしは久々野から、休みの日しか乗ったことのない国鉄に乗る。久々野の次は飛騨一ノ宮。7分で到着する小さな駅。飛騨一ノ宮といえば、駅のとこにある臥龍桜か。臥龍桜を見にいったのは、小さい頃だったけどこの時期、まだ開花の気配すらない。春の高山祭・山王祭(さんのうまつり)まであと1か月。高校に合格したら、今年は友達誘って行ってみよう。あ、でも4月に入学してそんなすぐ友達ってできるのかなあ。不安な気持ちがどんどん大きくなる。今日は高校の合格発表。パパもママもりんごの剪定作業でバタバタだから発表を見にいくのはあたし1人。大丈夫、大丈夫、なんて軽く言っちゃったけど、やっぱり不安、ドキドキする。そういえば・・・気がつくと、国鉄を途中下車して飛騨一宮駅のホームに立っていた。このタイミングで神頼みなんてありえないかな・・・でも、世界屈指の聖なる場所だから。「お嬢さん」「え」突然声をかけられてうろたえる。国鉄の制服をきたお姉さん。【以下前回原稿まま】「突然ごめんなさい。飛騨一ノ宮駅 駅長のミオリです」「あ・・はい」「なにか困りごと?」「えっと・・・」「よかったら、話してみて。急行のりくらの通過までまだ30分あるから」「はい・・あの・・」「うん」「高山までの切符なんですけど・・・一ノ宮で降りても・・大丈夫でしょうか・・?」「降りることは問題ないわよ。でも、もう一回乗る時は・・」「大丈夫です。もう一度切符を買うから」「ああ、そう・・・ごめんね。でも、本当にいいの?飛騨一ノ宮で降りて」「はい・・・」「どこか行きたいとこがあるの?」「飛騨一之宮水無神社」「水無神社?」「・・今日高校の合格発表なんです」「まあ」「試験終わっちゃってるのに、合格祈願っておかしいですよね?」「おかしくないわ。シュレディンガーの猫っていう考え方だってあるし」「シュレ・・ディンガー・・?」「あ、失礼。物理の実験よ。夫が大学で物理の講師だったから」「すごい。そんなすごい人がいるんですね」「うん、もういないけど。この世には」「あ・・・ごめんなさい!」「ううん、こっちこそ。話の腰を折っちゃって・・で、水無神社に参拝してから合格発表を見にいくってことね」「はい!」「よし、じゃあがんばって。跨線橋渡って駅前出たらまっすぐよ」「ありがとうございます!あ、あたし、ルナです!行ってきます!」「絶対大丈夫だから!ファイト!」なんか・・・ホントに大丈夫だ、って気がしてきた。素敵な駅長さん・・・家を出るときは、パパやママとも顔合わさなかったし・・りんごの剪定で忙しいからしょんないよね。あ、合格発表見たら、図書館で調べなきゃ。シュレ・・ディンガーの猫だっけ・・?なんか、かわゆいし。<シーン2:1982年4月/入学式>◾️SE:国道41号の雑踏/自転車で走る音ちょっとまだ寒いけど、自転車快適〜!車の交通量がチョー多い国道41号。宮峠を越えたら、飛騨一ノ宮まで下り坂。家を30分前に出れば、楽勝だわ。あ、でも、帰りはこれが上り坂になるのか・・・う〜ん。ま、考えないようにしとこ。よっし。町が見えてきたから、あと少しだわ。10分前には着けそう。ラッキー。合格発表から一ヶ月。あたしはめでたく高校に入学した。駅長さんと猫に感謝しなきゃ。猫?もっちろん、シュレ、ディンガーの猫よ。ちゃあんと調べたんだから。猫は生きてる!飛騨一ノ宮駅から通おうって決めたのもあのミオリ駅長がいたから!パパもママも心配して、やめてほしいって言ったけどね。だって、そうしないと、そうそう水無神社にいけないし。水無神社の御利益やっばいもん。飛騨一ノ宮駅から通わないとミオリさんとだって話せないじゃん。あのあと、久々野駅の駅長さんから聞いちゃったんだよね。「ああ、一ノ宮の駅長かい?あんときゃ大変だったなあ」「あんときって?」「もう10年以上前の話だけど」「10年・・・」「前が見えんくらいの吹雪の日やった」「うん・・・」「ミオリさんのご主人と小さい娘が事故でなあ」「え・・」「現場が久々野やったから、わしが慌てて知らせにいったんやさ」「・・・」(※息遣い)「それでも最終列車を見送ってからだと」「そんな・・・」「飛騨一ノ宮駅でたったひとりの鉄道員(ぽっぽや)やったしなあ」「そんな・・・」「そのときから、誰も駅長の笑った顔を見たことがないんやさ」「え・・・」笑ってたよ。1か月前。あたしを見て。あれは笑ってたんじゃないの?泣いてた、ってこと?今日は入学式。確かめるつもりじゃないけど、ちゃんとお話しよう。なんか、ドキドキしてきた。もし悲しい顔をしてたらどうしよう・・・そんなコト考えて走ってたらギリギリになっちゃった。自転車置き場にマウンテンバイクを止めて駅舎に駆け込む。改札は開いてる。駅長さんはホームだ。跨線橋を走って渡る。久々野から来た下りの列車がカーブから姿を表す。階段を駆け降りると、駅長さんの背中が見えた。私は、思いっきり息を吸い込み・・・「おはようございます!」振り返ったミオリ駅長があたしを見て驚く。【以下前回原稿まま】「え?え?」「間に合ってよかったぁ」「久々野から列車通学じゃないの!?」「おうちから久々野駅まで自転車通学することにしたんです!」「ええっ?41号で?車も多いから危ないよ」「やだ。ママとおんなじこと言ってる(笑」「だって、毎日一之宮まで走るってことでしょ」「もっちろん。すっごくいい運動」「朝は下りだからまだいいけど、帰りは上りよ。毎日宮峠を越えるわけ?」「それもママに言われた(笑笑」「だって親なら当然心配よ」「側道とか走るから大丈夫。部活やんないから毎日定時に帰れるし」「でも・・」ミオリ駅長の言葉をかき消すように、あたしの乗る列車がホームに入ってきた。「行ってきます!」あたしはありったけの笑顔で手を降り、列車に乗り込む。駅長は手旗を片手に持ち、列車を送り出す。「戸閉よし!発車」◾️SE:飛騨一ノ宮から発車する普通列車(ディーゼル)<シーン3:1984年/高校生活の挫折>◾️SE:朝食の雑踏「パパ、ママ、あたし、声優になりたい!」言ったタイミングが悪かったのかもしれない。パパもママも無条件で大反対。パパは、ふざけたことをいうな。ママは、ちゃんとまじめな仕事についてほしい。って、ふざけてなんていないし。声優だって、まじめな仕事なんだから。結局、平行線のまま、学校へ。あちゃー。まずい。今日三者懇談じゃん。案の定、先生もおんなじことを言う。え〜、あたし、演劇部に入ってるんだよ。部活だって、最初はやるつもりなかったけど、なんとか夜7時台の列車に乗ることを条件に始めたんだ。いまさらそれはないじゃん。もういい。部活なんてやめてやる。ひとりで、独学で勉強するからいいもん。スタジオ?そんなんいらんし。声を出せるところなんて、どこだってあるから。泣きながら訴えるあたしの頭の中になぜかミオリさんの笑顔が浮かんでいた。<シーン4:1984年/高校生活>◾️SE:飛騨一ノ宮駅前の雑踏【以下前回原稿まま】「祇園精舎の鐘の音〜諸行無常の響きあり〜娑羅双樹の花の色・・・」「あら」「あ」「まだ帰ってなかったの?」「はい・・・」「平家物語?朗読のお勉強?」「課題、なんです」「課題?へえ〜。最近の高校ってレベル高いことするのね」「いえ、学校の課題じゃなくて」「ほう」「東京の声優事務所です」「声優?洋画の吹き替えとか、そういうの?」「まあ、そんな感じ。アニメもあるけど」「アニメって、あのラムちゃんとか・・」「はい。来月養成所の試験があって、課題が平家物語なんです」「おもしろそうねえ」「え?反対しないんですか?」「だって、ルナちゃんがやりたいことなんでしょ」「そうですけど・・周りはみんな反対で。家でも練習できないから一ノ宮駅のベンチで声を出してたんです」「そっかぁ。がんばって」「ミオリさん、なんでそんなに優しいんですか?」「ルナちゃんには自分の人生をちゃんと生きてほしいもの」「ありがとうございます」あたしの思いを理解してくれたのはミオリさんだけだった。ちゃんと目を見て話す言葉に嘘偽りはまったくない。なんだか、ミオリさんが自分のママのように思えてきた・・・飛騨一ノ宮駅駅長と声優志願の女子高生。2人の不思議な交流はあたしが卒業するまで続いた。
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