EPISODE · Jul 17, 2025 · 17 MIN
ボイスドラマ「最後の鉄道員(ぽっぽや)/前編」
from ヒダテン!ボイスドラマ · host Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会
雪舞う飛騨一ノ宮駅に、ただひとり駅を守り続ける女性がいた。彼女の名はミオリ。1970年冬、愛する夫と娘を事故で失い、深い悲しみを抱えながらも、駅長として生きる道を選んだ。時は流れ1982年春。無人のホームで不安げに立ち尽くす一人の少女、ルナと出会う。高校の合格発表を前に水無神社へ向かうというルナと、そっと寄り添うミオリ。それは、まるで生き写しの娘との再会を思わせる、温かい交流の始まりだった。東京での声優という夢を追いかけるルナと、飛騨一ノ宮駅の無人化、そして自身の早期退職を目前に控えるミオリ。残された時間はあとわずか。それぞれが抱える想いを胸に、やがて来る別れの日を、二人はどのように迎えるのだろうか。ミオリとルナ、二人の視点から描かれる前編・後編。失われたもの、そして与えられたもの。飛騨一ノ宮駅と臥龍桜に見守られた、時代を超えた心温まる絆の物語を、どうぞお聴きください。【ペルソナ】・ミオリ(39歳-51歳-54歳)=飛驒一ノ宮駅の駅長(CV=小椋美織)・ルナ(15歳-18歳)=(CV=坂田月菜)・マサヒロ(59歳)=久々野駅の駅長(CV=日比野正裕)<シーン1:1970年/それでも駅に立つ>◾️SE:吹雪の音/走り込んでくる友人の足音「ミオリさん!ご主人と娘さんが!」「えっ」「事故で病院に!早く!急いで!」「そんな・・・」「なにやってんだ!」「もう・・すぐ・・・最終列車が・・・」「なに言ってんだよ!」1970年冬。夫と娘がこの世を去った。2人の最後にも立ち会わず、私は駅のホームに立つ。吹雪が舞い踊る臥龍桜。大木は、まるで私を責めるように大きな枝を揺らしていた。私の名前はミオリ。10年前からここ飛驒一ノ宮駅の駅長を務めている。国鉄高山本線。「本線」とは言ってもローカル駅の飛騨一ノ宮。たった1人の鉄道員(ぽっぽや)が駅長の私だ。1人だけでも駅長の仕事は多岐に渡る。駅務の統括。出札・改札業務。取扱貨物の管理。ホームや線路の点検・清掃。除雪作業。地域との交流。1日の列車の停車本数が30本にも満たないローカル駅とはいえ、不器用な私は毎日走り回っていた。公共交通機関というインフラの根幹。鉄道員は決して鉄道の運行を止めることは許されない。それが、飛騨一ノ宮駅駅長である私の使命。と思っていた。◾️SE:高山線ローカル列車の警笛<シーン2:1982年3月/少女との出会い>◾️SE:飛騨一之宮水無神駅から発車する音/小鳥のさえずり「異常なし!発車!」1982年春。いつものように高山方面へ向かう普通列車を見送る。春とは名ばかりの肌寒い3月。臥龍桜の蕾はまだまだ硬く、静かに眠っている。誰もいないと思ってホームへ目を向けると、1人の少女が不安気な表情で立っている。あれは・・久々野の中学校の制服。娘も生きてたらあのくらいね。どうしたのかしら?なにか思い詰めてるみたいな顔をして・・・まさかね。一応、声をかけてみよう。「お嬢さん」「え」「突然ごめんなさい。飛騨一ノ宮駅 駅長のミオリです」「あ・・はい」「なにか困りごと?」「えっと・・・」「よかったら、話してみて。急行のりくらの通過までまだ30分あるから」「はい・・あの・・」「うん」「高山までの切符なんですけど・・・一ノ宮で降りても・・大丈夫でしょうか・・?」「降りることは問題ないわよ。でも、もう一回乗る時は・・」「大丈夫です。もう一度切符を買うから」「ああ、そう・・・ごめんね。でも、本当にいいの?飛騨一ノ宮で降りて」「はい・・・」「どこか行きたいとこがあるの?」「飛騨一之宮水無神社」「水無神社?」「・・今日高校の合格発表なんです」「まあ」「試験終わっちゃってるのに、合格祈願っておかしいですよね?」「おかしくないわ。シュレディンガーの猫っていう考え方だってあるし」「シュレ・・ディンガー・・?」「あ、失礼。物理の実験よ。夫が大学で物理の講師だったから」「すごい。そんなすごい人がいるんですね」「うん、もういないけど。この世には」「あ・・・ごめんなさい!」「ううん、こっちこそ。話の腰を折っちゃって・・で、水無神社に参拝してから合格発表を見にいくってことね」「はい!」「よし、じゃあがんばって。跨線橋渡って駅前出たらまっすぐよ」「ありがとうございます!あ、あたし、ルナです!行ってきます!」あれ?私、こんなに明るく誰かと話したのって・・・あれから初めてじゃない?なんか成長した娘と話してるみたいで・・これが、高山の高校一年生、久々野のルナとの出会いだった。<シーン3:1982年4月/入学式>◾️SE:飛騨一之宮水無神駅に入線する列車の案内放送(※これもお願いします)「まもなく1番線に猪谷(いのたに)行き下り普通列車がまいります。白線まで下がってお待ちください」一ヶ月後の1982年4月。今日は高山市内の高校の入学式。ルナもきっと久々野からの列車に乗ってくるはず。顔は合わせられなくても、応援してるんだから。高山市の高校に合格してるに決まってる。なんか、ドキドキしてきた。乗っていなかったらどうしよう・・・踏切が鳴り、下り列車の姿が小さく見えたとき・・「おはようございます!」声は後ろからだった。跨線橋を駆け降りてきた少女。まっさらな制服に身を包んだルナだった。「間に合ってよかったぁ」「え?え?(※切り返す)久々野から列車通学じゃないの!?」「おうちから飛騨一ノ宮駅駅まで自転車通学することにしたんです!」「ええっ?41号で?車も多いから危ないよ」「やだ。ママとおんなじこと言ってる(笑」「だって、毎日一之宮まで走るってことでしょ」「もっちろん。すっごくいい運動」「朝は下りだからまだいいけど、帰りは上りよ。毎日宮峠を越えるわけ?」 「それもママに言われた(笑笑」「だって親なら当然心配よ」「側道とか走るから大丈夫。部活やんないから毎日定時に帰れるし」「でも・・」それ以上話している時間はなく、下り列車が入線してきた。「行ってきます!」ルナは屈託のない笑顔で手を降り、列車に乗り込む。私は手順通り、列車を送り出す。「戸閉よし!発車」<シーン4:1984年/高校生活と無人駅化>◾️SE:飛騨一ノ宮駅前の雑踏「祇園精舎の鐘の音〜諸行無常の響きあり〜娑羅双樹の花の色・・・」「あら」「あ」「まだ帰ってなかったの?」「はい・・・」「平家物語?朗読のお勉強?」「課題、なんです」「課題?へえ〜。最近の高校ってレベル高いことするのね」「いえ、学校の課題じゃなくて」「ほう」「東京の声優事務所です」「声優?洋画の吹き替えとか、そういうの?」「まあ、そんな感じ。アニメもあるけど」「アニメって、あのラムちゃんとか・・」「はい。来月養成所の試験があって、課題が平家物語なんです」「おもしろそうねえ」「え?反対しないんですか?」「だって、ルナちゃんがやりたいことなんでしょ」「そうですけど・・周りはみんな反対で。家でも練習できないから一ノ宮駅のベンチで声を出してたんです」「そっかぁ。がんばって」「ミオリさん、なんでそんなに優しいんですか?」「ルナちゃんには自分の人生をちゃんと生きてほしいもの」「ありがとうございます」ルナは目をキラキラさせて課題を表現していった。素人目に見てもいい線いってるんじゃないかな。だって、聴いてて感情移入できるし、映像が浮かんでくるんだもの。これって、親の欲目?あ、だめ。親でもないのに・・・飛騨一ノ宮駅駅長と声優を目指す女子高生。2人の不思議な交流はルナが卒業するまで続いた。※続きは音声でお楽しみください。
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