EPISODE · May 8, 2026 · 30 MIN
禁欲ってどうなの?|身体論から見る「快楽」の捉え方 #32
from 身体の教養ラヂオ · host 大沼竜也
「幸福とは〇〇だ」のラヂオを聴いてくださったある方から、こんなご質問をいただきました。「禁欲についてもう少し詳しく聞きたい。性欲が強くて悩んでいる場合、その欲求に従うことでその時は快に向かうのですが、事後毎回不快な気持ちになります。寂しいというか虚しいというか。これを解消するにはどのように体と向き合えばいいのでしょうか。どれが自分の声かわからなくて」すごく大切な問いだと感じました。今回はそのご質問を出発点に、欲と身体について少し丁寧に話しました。「欲しい」と「心地よい」── どちらも広く言えば「快楽」と呼ばれるシステムの一部ですが、その内側にまったく違う2つの働きがあります。神経科学の研究でも、両者はそれぞれ別の脳の回路で動いていることがわかってきています。「欲しい」のほうはドーパミンが関係する駆動の回路(wanting)、「心地よい」のほうはオピオイドなどが関わる質感の回路(liking)。事後に虚しさが残るのは、片方の回路だけが強く燃えて、もう片方が一緒に動いていない状態なのかもしれない。そして「自分の声がわからない」というのは、感受性が低いからではなくて、大きい声と小さい声を聞き分ける練習がまだ追いついていないだけ、ということなのかもしれません。禁欲は、たぶん答えではない。欲を抑え込むのではなく、「心地よい」のほうの回路を、すこしずつ太くしていく。そうすると、「欲しい」だけが暴走することが、自然と減っていく。そして、「欲しい」を強く引き出してくる装置に満ちた現代社会のなかで、それは個人の弱さではなくて環境の側の問題でもある──そんな話をしました。▼ 今回のお話・「欲しい」と「心地よい」は、似ているようでまったく別のもの・どちらも「快楽」と呼ばれるシステムの一部、というのが共通点・なぜ事後に虚しくなるのか・「自分の声」とは、どこから聞こえるのか・力を抜きながら、溶けていくように、心地よい感覚を頼りに動くこと・禁欲は、たぶん答えではない・「欲しい」を強く引き出してくる現代社会のなかで▼参照した文献Berridge, K. C. (2007). The debate over dopamine's role in reward: the case for incentive salience. Psychopharmacology, 191(3), 391-431.Berridge, K. C., & Kringelbach, M. L. (2015). Pleasure systems in the brain. Neuron, 86(3), 646-664.Schultz, W., Dayan, P., & Montague, P. R. (1997). A neural substrate of prediction and reward. Science, 275(5306), 1593-1599.Anna Lembke (2021) Dopamine Nation: Finding Balance in the Age of Indulgence. Dutton.Koob, G. F., & Le Moal, M. (2008). Addiction and the brain antireward system. Annual Review of Psychology, 59, 29-53.身体の教養ラヂオ/のんべんだらりと暮らすだけお手紙・ハガキ募集中です。〒981-0811宮城県仙台市青葉区一番町一丁目12-39-503大沼鍼灸 宛話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
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