汽笛は国境を越える!山形・河北町「いもこ列車」の数奇な運命。大正時代の記憶と台湾を駆けたSLの物語 episode artwork

EPISODE · May 10, 2026 · 19 MIN

汽笛は国境を越える!山形・河北町「いもこ列車」の数奇な運命。大正時代の記憶と台湾を駆けたSLの物語

from Yamagata Walks 〜足跡に眠る、忘れられた山形の物語〜 · host Yamagata Walks

今回私たちが訪れるのは、山形県河北町にある「河北中央公園」。テニスコートや遊具が並ぶごく普通の公園で、時折「シュシュッ」という力強い蒸気の音と石炭の匂いがするという、なんとも不思議な噂を耳にした加藤。まるで突然100年くらいタイムスリップしたようなこの音の正体は、地域の人々に「いもこ列車」と愛される小さな蒸気機関車でした! なぜ公園にSLが? そして「いもこ」というユニークな名前の由来とは?加藤の好奇心に、解説の松浦が深く、そして時に壮大な物語を紐解いていきます。**【「いもこ列車」の名の由来:大正時代の親愛なる存在】**その名の秘密は、今から100年以上前、大正時代に遡ります。大正4年(1915年)、谷地の事業家・升川勝作さんらが中心となり「谷地軌道株式会社」を設立。翌年には山形県内初の私鉄として、奥羽本線の神町駅から最上川を渡り河北町の谷地まで、約5.6キロメートルを結ぶ営業を開始しました。最盛期には年間およそ10万人もの人々を運んだという、当時最先端の乗り物です。しかし、茅葺き屋根が多かった当時の家々にとって、蒸気機関車の煙突から出る火の粉は火事の心配の種でした。そこで、火の粉が飛び散らないよう、煙突には特殊なカバー、火の粉止めが取り付けられました。このカバーを付けた煙突の形が、この地方で採れる里芋、山形弁でいう「いもこ」によく似ていたことから、いつしか人々は親しみを込めて「いもこ汽車」と呼ぶようになったのです。小さな里芋に例える愛情深い呼び方からは、単なる移動手段を超えた、人々の暮らしに寄り添う存在であったことが伺えます。**【国境を越えた壮大な旅路:ベルギー生まれ、台湾育ちのSL】**しかし、現在河北中央公園で走っている「いもこ列車」は、実はこの大正時代の車両そのものではありません。さらに物語は国境を越えていきます。この機関車は1948年(昭和23年)、遠くベルギーの「アングロ・フランコ・ベルジ」という会社で製造された、とても貴重な車両なんです。そして、生まれたばかりのこの機関車が向かった先は、日本ではなく、灼熱の太陽が照りつける台湾でした。当時、台湾ではサトウキビのプランテーションが盛んで、収穫したサトウキビを製糖工場まで運ぶために、網の目のように鉄道が敷かれていました。いわゆる「糖業鉄道」です。ベルギー生まれのこの機関車は、台湾の広大なサトウキビ畑で、満載の貨車を引いて長年にわたって活躍したのです。**【河北町への奇跡の来訪:熱意が繋いだ絆】**では、なぜ台湾で働いていた機関車が、はるばる山形の河北町にやって来ることになったのでしょうか?昭和10年に廃止されてしまった谷地軌道ですが、その記憶は河北町の人々の心に生き続けていました。そして昭和63年、「子どもたちに夢を、町の活性化のために」と、河北青年会議所(JC)の皆さんが立ち上がります。彼らが、かつての「いもこ列車」を復活させようと同型の機関車を探し求めた結果、台湾で活躍していたこのベルギー製車両に行き着き、購入して町に寄贈したのです。ベルギーで生まれ、台湾のサトウキビ畑で汗を流し、そして今、山形の公園で子どもたちを乗せている——。まさに「鉄の放浪者」とも呼ぶべき、数奇な運命を辿った機関車です。ちなみに、この機関車の兄弟機「346号機」は、今でも台湾の渓湖糖廠という場所で動態保存されており、国境を越えた兄弟の物語も感動的です。**【「動態保存」の哲学:形を変えてでも命を繋ぐ】**河北町の「いもこ列車」のもう一つの大きな特徴は、博物館に飾られる「静態保存」ではなく、蒸気の力で自ら動く「動態保存」という形が選ばれ、維持されていることです。しかし、古い機関車を安全に動かすためには多くの課題がありました。そこで、保存に関わる方々は、大胆な改造に踏み切ります。本来のボイラーは使わず、運転室の後部に新しく小型のボイラーを設置。これにより、機関車の外観は原型とは異なる、やや不思議な形になりました。鉄道ファンの中には賛否が分かれる決断だったかもしれませんが、この姿には「見た目の美しさよりも、シュシュッという息遣いや、鉄の匂い、そして人を乗せて走るという『生命感』を、未来へ伝えたい」という、保存に携わる人々の熱い哲学が込められています。形を変えてでも命を繋ぐ、まるで生物の進化のような選択です。**【地域に支えられる宝物】**この「いもこ列車」の命を維持していくのもまた大変な努力が必要です。最近では、老朽化した線路の枕木交換のためにクラウドファンディングで寄付が募られたり、多くのボランティアスタッフの方々の力によって、この列車は煙を上げ、走り続けています。町の人々みんなで、この歴史の宝物を守り続けているのです。谷地軌道が廃止された背景には、自動車の普及という時代の流れと、国鉄よりも狭い軌間(軽便鉄道)ゆえの積替えの手間といった効率性の問題がありました。しかし、その記憶と、それを現代に引き継ぐ熱意が、ベルギーから台湾を経由してやってきたこのSLを、現代の「いもこ列車」として蘇らせたのです。

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汽笛は国境を越える!山形・河北町「いもこ列車」の数奇な運命。大正時代の記憶と台湾を駆けたSLの物語

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