EPISODE · Jun 5, 2026 · 18 MIN
気管切開患者のMycobacterium abscessus(MABS)空気感染
from ER/ICU Radio · host deepER
Nationwide survey on nosocomial transmission of Mycobacterium abscessus in patients with tracheostomies in JapanJournal of Hospital Infection, https://doi.org/10.1016/j.jhin.2026.05.011本研究は、日本全国の療養施設に入所している気管切開患者を対象に、非結核性抗酸菌の一種であるMycobacterium abscessus(MABS)の分離率、遺伝学的特徴、および院内感染の可能性を調査した横断的研究である。2023年11月から2024年2月の期間、47施設の1,118名の患者をスクリーニングし、全ゲノム解析(WGS)を用いて菌の系統を分析した。解析の結果、18施設(38.2%)の118名(10.6%)からMABSが検出された。分離された菌株のうち76.4%がM. massiliense、23.6%がM. abscessusであった。患者背景の比較では、MABSが検出された群は、検出されなかった群に比べて有意に高齢で男性が多く、咳嗽反射が消失または低下している割合が高かった。同一施設内の患者間で遺伝的に極めて類似した菌株が共有されていることが確認され、施設内での伝播が強く疑われた。また、過去にアウトブレイクが報告された施設での追跡調査では、数年にわたり特定の菌株が維持・拡散している実態が明らかになった。肺病変を伴う症例はMABS検出者の8.1%に認められた。結論として、気管切開患者を収容する日本の療養施設においてMABSの院内感染が全国的に広がっている可能性があり、バイオエアロゾルを介した伝播ルートの解明と対策が急務である。内的妥当性日本で初めて全国規模のMABSスクリーニングを実施し、1,000名を超える大規模なサンプルを確保している点は、データの信頼性を高めている。また、菌の同一性を証明するために、現在のゴールドスタンダードである全ゲノム解析(WGS)を用いて系統樹を作成し、科学的な根拠に基づいた伝播の推定を行っている。制限事項としては、咳嗽反射の評価が担当医の主観に依存しており、客観的な標準尺度に基づいた評価ではない点が挙げられる。また、MABS感染による肺病変の診断基準が医師間で異なる可能性があり、病原性の評価にばらつきが生じている恐れがある。技術面では、全ゲノム解析において参照配列に含まれない遺伝領域(水平伝播した遺伝子など)の情報が欠落している可能性があり、極めて近縁な菌株間の比較において微細な情報の差を見逃している可能性がある。外的妥当性全国の多数の施設からデータを収集しており、日本の療養環境における実態を一定程度反映している。しかし、参加施設が西日本と中日本に偏っており、気候条件が異なる東日本や北日本の状況を十分に代表しているとは言い難い(MABSは温暖な地域で分離率が高い傾向があるため)。また、対象が神経変性疾患に伴う気管切開患者という、気道防御能が著しく低下した特定の脆弱な集団に限定されている。そのため、この知見を嚢胞性線維症を持たない一般的な呼吸器疾患患者や、異なる医療体制・衛生管理基準を持つ諸外国の環境にそのまま一般化することは困難である。施設内での空調管理やケアの具体的内容(吸引の手順など)が施設ごとに異なる可能性もあり、すべての療養施設で同様のリスクがあるかどうかについてはさらなる検討が必要である。
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