SCB PODCAST#204『村上春樹 『夏帆─The Tale of KAHO─』を読む』 episode artwork

EPISODE · Aug 16, 2026 · 39 MIN

SCB PODCAST#204『村上春樹 『夏帆─The Tale of KAHO─』を読む』

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SCB PODCAST#204は『村上春樹 夏帆を読む』です。今年、一番の話題書でもある村上春樹、3年ぶりの長編小説『夏帆─The Tale of KAHO─』を今回の「課題図書」にしてみました。皆様はどのように読みましたか?『夏帆─The Tale of KAHO─』/村上春樹/新潮社〈作品紹介〉「正直いって、君みたいな醜い相手は初めてだよ」 26歳の絵本作家、夏帆は初対面の男にいきなりこう告げられた。とびきり美しくも賢くもなく、ただ少しばかり好奇心の強い彼女は、怒りよりもショックよりも、ただ純粋に驚いた。しかしそれから彼女の周りでは、実にさまざまな奇妙な出来事が起こりはじめる。」『高田が腑に落ちなかったモーターサイクルの男の心情』(2次創作)僕は夏帆に会うまで、守護天使というものは、もっと簡単な仕事だと思っていた。 たとえば誰かが道を間違えそうになったら、少しだけ風向きを変える。誰かが階段から落ちそうになったら、落ちる直前に靴紐をほどいてしまう。そういう小さな仕事だ。 ところが実際には、そんなに簡単ではなかった。 人間というのは、自分がどこへ向かっているのかを、本人がいちばんよく知らないからだ。 だから僕は、夏帆にあの言葉を言った。「君みたいに醜い女に会ったのは初めてだよ」 言葉にしてしまうと、それはひどく単純な文章だった。 僕はモーターサイクルの上にいた。エンジンはまだ熱を持っていて、金属の匂いがした。少し離れたところで自動販売機が低い音を立てていた。午後だったのか夕方だったのか、そのあたりはもうよく覚えていない。 でも夏帆の顔だけは覚えている。 彼女は怒らなかった。 泣きもしなかった。 ただ僕の顔を見て、それからほんの少し首を傾けた。 まるで僕が外国語で何か言ったみたいに。 そのとき僕は、しまった、と思った。 僕は彼女を傷つけるつもりで言ったのではない。 正確に言えば、彼女が傷つくことで、自分自身について何かを発見することを期待していた。 人間は、自分について本当に大切なことを、誰かから親切に教えてもらうことはできない。 自分で見つけなくてはいけない。 だから時々、少し乱暴な言葉が必要になる。 もちろん、それは守護天使として立派な仕事とは言えない。 僕だってそれくらいはわかっている。 でも僕は昔から、立派なことにはあまり向いていなかった。 僕はジャック・ケルアックだった。 ずいぶん昔、僕は道路の上にいた。 夜のアメリカには、道路の数だけ物語があった。ガソリンスタンドの明かり、紙コップのコーヒー、安いホテルの薄いカーテン。ジャズを聴きながら、僕は何度も考えた。 人はどうして走るのだろう、と。 答えは最後までわからなかった。 死んでからもわからなかった。 だから僕は今でも走っている。 ただし今度は、誰かを置き去りにするためではない。 誰かを、自分の物語の始まる場所まで連れていくためだ。 夏帆にも、その場所が必要だった。 彼女はまだ、自分の人生を自分の物語として見ていなかった。 だから僕は「醜い」と言った。 それは彼女の顔についての言葉ではなかった。 僕が言いたかったのは、もっと別のことだった。 君は、自分が何者なのかをまだ知らない。 君は、自分について他人が作った言葉を、自分自身の言葉だと思っている。 そして、それではいけない。 そういう意味だった。 でも、人間にそんなことを説明するわけにはいかない。 説明してしまえば、魔法は消えてしまう。 だから僕は黙っていた。 夏帆も黙っていた。 しばらくして彼女は言った。「どうして?」 僕は答えなかった。 答えは簡単だった。 僕は彼女の守護天使だったからだ。 そして、守護天使というのは、ときどき自分がいちばん嫌われる役を引き受けなくてはいけない。 僕はモーターサイクルのエンジンをかけた。 エンジンが一度だけ低く咳をした。 僕はその音が好きだった。 生き物が、まだ生きていることを確かめるときの音に似ていた。 僕は夏帆を見た。 彼女はもう僕を見ていなかった。 どこか遠くを見ていた。 そのことに、僕は少し安心した。 人はいつか、自分を見ていた人から目をそらさなくてはならない。 そして自分の道を見る。 僕はアクセルを回した。 道路はどこまでも続いていた。 僕には行くべき場所があり、夏帆にはまだ行くべき場所がなかった。 でも、それでよかった。 行くべき場所がない人間ほど、遠くまで行くことがある。 僕はそういう人間を、昔から嫌いではなかった。◽️SNS《SATELLITECITYBOOKS》https://x.com/@SATELLITECITYBShttps://www.instagram.com/satellitecitybooks《NAYABOOKS》https://x.com/@NAYA_BOOKShttps://www.instagram.com/nayabooks1022◽️お問い合わせ[email protected]

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