EPISODE · Dec 28, 2016 · 24 MIN
122 第百十九話
from オーディオドラマ「五の線2」 · host 闇と鮒
120.mp3「こいつとお前を殺す。」銃口を向けられた古田は微動だにしない。「…心配するな一瞬だ。」「ふっ…。」「なんだ。」「最後の最後でチャカか。あ?鍋島。」「なんだてめぇ。」「お前は散々人を殺めた。その手口は全て絞殺もしくは刺殺。チャカは使わん。そんなお前がここにきてチャカを手にした。」「だから何なんだ。」「相当切羽詰まっとれんな。」「うるさい。」古田は右拳を鍋島に向けて突き出した。「あん?」「鍋島。これに見覚えがあるやろ。」そう言うと古田は握りしめていた右手を開いた。そ..
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120.mp3 「こいつとお前を殺す。」 銃口を向けられた古田は微動だにしない。 「…心配するな一瞬だ。」 「ふっ…。」 「なんだ。」 「最後の最後でチャカか。あ?鍋島。」 「なんだてめぇ。」 「お前は散々人を殺めた。その手口は全て絞殺もしくは刺殺。チャカは使わん。そんなお前がここにきてチャカを手にした。」 「だから何なんだ。」 「相当切羽詰まっとれんな。」 「うるさい。」 古田は右拳を鍋島に向けて突き出した。 「あん?」 「鍋島。これに見覚えがあるやろ。」 そう言うと古田は握りしめていた右手を開いた。 それを見た鍋島の動きが一瞬止まった。 「村上が使っとったジッポーや。」 「それがどうした…。」 「お前が目指した残留孤児の経済的自立。それを支援しとった村上のな。」 「言うな。」 「お前が金金言うとる横で、村上は仕事を斡旋したり本当の意味でのあいつらの自立支援に取り組んどった。自分の金を持ち出してな。」 「…。」 「熨子山の塩島然り、相馬然り。村上の世話になった人間は数しれん。」 「相馬…だと…。」 「それがどうや。お前はそんな村上を殺した。それがもとで相馬は会社を厄介払いされた。そん時あいつは誓ったよ。たとえそれが誰であろうと、村上を殺した人間は絶対に許さんとな。」 「…。」 「お前は相馬に間接的に経済的援助をしとったつもりなんかもしれんが、どんな理由があれそれこそ偽善。エゴや。お前は今川や下間によって設計された人間や。ほやけどそんなお前でも、お前はお前の力で判断できたはずや。」 「何をだ…。」 「何が正しくて何が間違いか。人間として最も基本的な判断のことや。」 ー鍋島のやつ…ここで銃を取り出してこいつらを撃ち殺そうっていうのか…。しかしこんな住宅が密集している場所で発砲なんかすれば、直ぐに警察が駆けつける。そうすればさすがの奴もお縄だ。 心のなかでこう呟いた悠里だったが、ここで一旦動きを止めた。 ー警察? 「待て…。」 悠里は咄嗟に暗視スコープの倍率を上げ、北高の屋上あたりを舐めるように覗いた。 「あ…。」 そこには物陰に身を潜める人間が何人も居る。 「まずい…。」 こう呟いたときのことである、屋上に身を潜めていた人間の内ひとりがこちらの存在に気がついた。 「しまった。」 屋上の人物は何やらサインのようなものを別の人間に送っている。 「くそが…。」 「こちら狙撃支援班。」 「何だ。」 「先程のマンションの屋上に人影らしきものあり。」 「なにっ!」 関は立ち上がった。 「おい。さっきの捜査員と繋げろ。」 「はっ。」 指揮班の人間は手際よく無線を繋いだ。 「私だ。今どこだ。」 「マンションの手前30メートル。」 「屋上に居る。」 「え?」 「今、狙撃支援班が確認した。…できるか。」 「…やってみます。」 「頼むぞ…。」 グラウンドの様子を映し出すモニターを眺めながら関は祈るような声を出した。 「ふっ…何が正しくて何が誤りか…か。」 「ほうや。」 「それは勝った者が決めることだ。」 「お前は勝てん。」 「俺は勝つ。負けるのはお前だ。」 鍋島は引き金に指をかけた。 「村上…。やっぱりこいつは言っても分からん奴やったわ。」 こう呟いた古田は手にしていたジッポーライターに火を点けた。そしてそれを天空めがけて突き上げた。 「合図です。」 狙撃支援班からの無線を聞いた関は間髪入れずに返答した。 「よしやれ。」 ライフル音 「ぐあっ…。」 鍋島の右太ももを銃弾が貫通した。不意を打つ狙撃であったため、彼はその場に崩れ落ちた。すかさず古田は鍋島に駆け寄る。そして鍋島の右手を渾身の力で蹴り上げた。 鍋島が手にする拳銃は彼の手を離れ、宙を舞った。 「確保!」 こう叫んだ古田は咄嗟に鍋島の腕をきめ、彼を地面に伏せさせた。鍋島が動けば動くほどその締りはきつくなる。 「ぐっ…くっ…。」 屋上からロープが垂らされた。 「鍋島。お前のために警視庁からわざわざSATに出張ってもらったんや。ありがたく思え。」 「SATだと…。」 「ああ。」 「クソが…。」 「ここでワッパかけたいんやけどな。残念ながらワシはもうサツカンじゃあねぇ。ここは現役諸君にお任せするわ。」 「何だ…あっけないぞ鍋島…。」 暗視スコープを覗き込む悠里は呟いた。 ー鍋島…。これがお前が俺に見せたかったものなのか?…。 悠里は深呼吸をした。 ー俺に足を洗えとか言いながら、お前はこうも無様に警察のお縄にかかる。…こんなもんを見て何が分かるっていうんだ? 「くそ…どうする…。このままあいつが警察の手に渡ったら俺の任務はぱぁだ…。」 北高の屋上に潜んでいた人間たちが一斉にロープを伝って地上に降りはじめた。 ー残念だが俺だって自分の命が惜しい。そして家族の命もだ。俺がやらなければ父さんや麗も粛清される。もちろん母さんも…。 生ぬるい風が悠里の頬に吹き付ける。 悠里は再び大きく息を吐いた。そして風を計算して照準を合わせ直す。 ー生きてさえいれば何とかなる。俺は生きるためにお前を撃つ。 「待てや!!」 「え…。」 鍋島の腕を決める古田の姿をみていた佐竹は絶句した。 古田が鍋島に覆いかぶさるように倒れ込んだのである。 それと交互して地面に伏せられていた鍋島は右足を庇いながら立ち上がった。そして倒れ込んだ古田を見下ろすと、彼は息を切らして肩を抑えていた。 「ぐうっ…。はぁはぁはぁはぁ…。」 古田のベージュのカメラマンジャケットが赤く染まりだしていた。 地上に降り立ったSAT隊員たちは状況を目の当たりにして一瞬立ち止まった。 「これが…お前の答えかよ…。悠里…。」 「ゆ…悠里…?」 刹那、鍋島の頭が撃ち抜かれた。それにともなって彼の頭部の肉片と脳漿が辺りに飛び散った。 「え…。」 鍋島はそのまま地面に倒れた。 「な…鍋島…。」 「鍋島…。」 「おメぇぇぇ!!」 マンションの屋上でライフルを構えていた悠里に突進した捜査員は、彼を背後から羽交い締めにした。 「ぐっ…。」 「何やっとんじゃ!このボケがぁ!」 「はぁはぁはぁはぁ…な…なんだお前は…。」 「警察や!」 「け・警察…。」 捜査員は悠里を後ろ手にしてそれに手錠をかけた。 「はぁはぁはぁはぁ…班長…。屋上の男逮捕しました。」 「…ご苦労だった。」 「現場は…。」 「…古田負傷。鍋島は死んだ。」 捜査員は力なくその場に座り込んだ。 「…無念です。」 「やむを得ない。」 職員室に待機していた捜査員たちがグラウンドに集合した。それぞれが現場の状況の記録をとっている。 「大丈夫ですか。」 関が古田の様子を覗き込んだ。 「あ…あぁ…多分…。」 「出血がひどいです。もうすぐ救急車が来ます。それまでなんとか我慢してください。」 「すまん。」 「いえ。謝る必要はありません。鍋島を生きて捕らえられなかった私の責任です。」 止血措置を施される古田はうつ伏せに倒れる鍋島を見つめた。 「鍋島を撃ったんは。」 「下間悠里のようです。確保済みです。」 「…悠里か…。」 「麗には悠里のことは伏せてあります。」 「…あぁそのほうがいい。それにこの現場の状況もあいつらには見せんほうがいい。」 「はい。」 変わり果てた鍋島のもとに佐竹が力なく近寄る姿を古田は見ていた。 「鍋島…。」 彼の頭部に手を伸ばすとそれは捜査員に制止された。 「現場の保存にご協力下さい。」 手を引っ込めた佐竹は呆然として鍋島を見つめた。 悠里が発射した弾丸は鍋島の後頭部に命中した。倒れる彼の頭部は弾丸によって一部が破裂している。 「どうせ悲惨な終わりしかないなら、劇的な終わりを俺は望むよ。」 「これが…。」 佐竹はその場に座り込んだ。 「これが…お前が望んだ終わりかよ…。鍋島…。」 憎しみの念しか抱いていなかったはずなのに、佐竹の瞳から涙が溢れ出していた。 「なんで…なんでだよ…。なんでこんなことになったんだ!」 彼の悲鳴にも思える絶叫がその場を静まり返させた。 「なんで…お前は…ここまで…突っ走っちまったんだよ…。」 「佐竹さん。」 関は佐竹に近寄って声をかけた。 「ひょっとしたらこれ…関係あるかもしれません。」 白手袋をはめた関の手にはチャック付きのポリ袋があった。 「え…それ何ですか。」 「鍋島の財布の中から出てきました。」 それを手渡された佐竹は息を呑んだ。 「え?どういうこと…ですか…」 「見ての通りだと思います。」 「え…。」 「一色貴紀の写真ですよ。」 ポリ袋の中には証明写真サイズの一色貴紀の写真があった。写真の彼は若くそして珍しく笑顔であった。 「な…んで…?」 「…わかりません。ですがこの写真だけが鍋島の財布の中に入っていた。」 「これだけ?」 「ええ。」 関は自分の財布を取り出した。 「見てください。これが僕の財布です。中には数枚の紙幣と硬貨。そして何枚かのカード類しか入っていません。」 「え・ええ…。」 「だけどこれ。」 そう言うと関はメモ帳の切れ端のようなものを取り出した。 「なんですかそれは。」 「これはうちの子供が書いてくれた僕なんです。」 「関さんですか?」 関は苦笑いを見せた。 「はい。下手くそでしょう。特徴らしいものをちっとも掴んでいない。でもなんだか見ていると愛着が湧いてくる。ほら自分はこんな仕事しているでしょう。子供と会える時間も限られているんで、せめてこれを財布の中に入れて持ち運ぶことで間接的に一緒な時間を作るようにしているんです。」 「え…。」 鍋島は一色の存在を忌み嫌っていた。その忌み嫌う存在を常に財布に入れて持ち歩くとはどういうことだろうか。臥薪嘗胆の薪や胆の役割をこの写真に求めたのか。いやもしもそうならば、一色を葬った鍋島にとってこの写真は無用のものであるはずだ。 「佐竹さん。これは僕の邪推なんですが。」 「な・なんでしょう。」 「鍋島は一色に特別な感情を抱いていたなんてことはありませんか。」 突拍子もない関の問いかけに佐竹は動揺した。 「まさか…ははは…そんなわけない…。」 瞬間、佐竹の脳裏に先程の鍋島とのやり取りが浮かんだ。 「…じゃあ…なんで…。」 「なに?」 「じゃあなんで…一色や村上をお前は…。」 「…。」 「なんで一色の彼女を…。」 「それ…聞く?」 「え?」 「野暮だぜ…。佐竹。」 「まさか…。まさかな…。」 「何か思い当たる節でも?」 「いや…仮にそうだとしても…。久美子の件はどうなるんだ…。」 「佐竹さん?」 額に手を当てて独り言をつぶやく佐竹の顔を関は心配そう覗き込んだ。 「待て…。そう思い込むから辻褄が合わないんだ。」 「え?」 「そうだ…。発想を変えれば逆に見えなかったものも見えてくる。」 佐竹ははっとして顔を上げた。そして関の方を見る。 「関さん…。」 「はい。」 「ひょっとして…鍋島は…。」 「…多分、いま佐竹さんが考えていることと僕が考えていることは同じだと思います。邪推の域を出ませんが。」 「バイセクシャル。」
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122 第百十九話
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