EPISODE · Dec 31, 2016 · 18 MIN
128.2 最終話 後半
from オーディオドラマ「五の線2」 · host 闇と鮒
126.2.mp3「12月24日お昼のニュースです。政府は24日午前、2015年度第3次補正予算案を閣議決定しました。今回の補正予算は今年10月に国家安全保障会議において取りまとめられた「日本国の拉致被害者奪還および関連する防衛措置拡充に向けて緊急に実施すべき対策」に基づいた措置を講じるためものです。この予算案では先ごろ国内で発生したツヴァイスタンの工作員によるテロ未遂事件を受けてのテロ対策予算の拡充として500億円。ツヴァイスタンに拉致された疑いがある特定失踪者の調査費とし..
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126.2.mp3 「12月24日お昼のニュースです。政府は24日午前、2015年度第3次補正予算案を閣議決定しました。今回の補正予算は今年10月に国家安全保障会議において取りまとめられた「日本国の拉致被害者奪還および関連する防衛措置拡充に向けて緊急に実施すべき対策」に基づいた措置を講じるためものです。 この予算案では先ごろ国内で発生したツヴァイスタンの工作員によるテロ未遂事件を受けてのテロ対策予算の拡充として500億円。ツヴァイスタンに拉致された疑いがある特定失踪者の調査費として28億円。近年日本海側で脅威となっている外国船の違法操業対策および外国公船の領海侵入対策として海上保安庁の予算を新たに1,000億円追加します。あわせてツヴァイスタン等によるミサイルの脅威に対抗するため、新たに5兆円の防衛予算を措置します。防衛予算においては国際標準である対GDP比2%の達成を継続的に維持するため、来年度の本予算においては今回の補正予算の5兆円を既に盛り込んだ10兆円とする予定です。これで今回の補正予算における予算額は合計で5.1兆円となります。これはリーマンショック以降の補正予算としては過去最大規模のものとなり、政府はこの内の5兆円を赤字国債の発行によって財源を捻出します。 また、政府は今回の安全保障政策の拡充を図る財政政策を積極的に行うことで、現在の日銀による金融緩和政策と連携して、デフレ脱却の起爆剤にすることをひとつの目標としています。 それでは今回の補正予算についての総理のコメントです。」 テレビの電源を切った片倉は立ち上がった。 「もう行くん?」 「ああ。やわら行かんとな。」 「次はいつ家に戻って来るん?」 「そうやな…。」 「新幹線は3月14日に開通するらしいわよ。」 「あ…そうか…その手があったか。」 「2時間半で東京やし、私もいつでも行こうと思ったら行けるわね。」 「ふっ…来ても相手出来んかもしれんぞ。」 「別にいいわいね。あなたが相手できんがやったら若林さんと一緒にお茶でもするわ。」 「え…。」 片倉は絶句した。 「嘘よ嘘。あの人つまんない人なの。」 「どこが。」 「だって少しは不倫しとる感じださんといかんから、手でも繋ごっかって言ったら、ボディタッチだけは勘弁してくれって。後で変な誤解が生まれたらあなたにどつかれるって。」 「ふっ…。」 「ぱっと見韓流スターみたいで素敵なんやけどねぇ…。」 「やめれ。」 「あ怒った。」 「怒っとらん。」 そう言って片倉は妻を抱きしめた。 「京子は?」 「ほら、またあなた忘れとる。」 「何が。」 「今日はクリスマスイブやよ。」 「あ…。」 「相馬くんとデートでもしとるんやろ。」 妻の肩越しに片倉は笑みを浮かべた。 「え?東京に?」 「うん。」 相馬と京子は昭和百貨店の一階にある喫茶店にいた。 「なんでまた。」 「知らんわいね。」 プリンを食べ終わった相馬はナプキンで口を拭った。 「あれ?」 「なに?」 「ちょ…京子ちゃん…。」 遠くを呆然として見つめる相馬に京子は怪訝な顔をした。 「だから何ぃね。」 「ほら…あそこ…。」 相馬が指す方を京子は振り返って見た。 「え…。」 そこには山県久美子が猫背の男と向かい合って座っていた。 「東京に行かれるんですか。」 「ええ。」 「どうしてまた。」 男は胸元からハンカチを取り出した。 「あ…。」 「覚えてらっしゃいますか。これ。」 「ええ。」 「こいつを渡してこようと思いましてね。」 「たしか…娘さんでしたっけ。」 「おお、よく覚えてますね。」 「だって古田さんみたいな人がウチの店にひとりで来るなんて、普通ないシチュエーションですから。」 「あ、やっぱり。」 2人は声を出して笑った。 「それにしてもあれから随分と日が経ってますけど。」 「ええ、ちょっと立て込んどってなかなかあいつのところまで行けんかったんですわ。」 「そうですか。」 「まぁあんたとこうやってここで茶を飲めたのも何かのご縁やったってことですわ。」 「そうかもしれませんね…。」 そう言ってコーヒーを口に運んだ時のことである。久美子の動きが止まった。 「どうしました?」 笑みを浮かべた久美子は古田の後ろを指さした。彼はそれに従って振り返る。 「あ。」 「そう言えば今日はクリスマス・イブでしたね。古田さん。」 ポリポリと頭を掻いた古田は苦笑いを浮かべた。 「はいもしもし。はいええ…。ですからブログ記事の出版はお断りしてるんですよ。え?どうやって取材?知りませんよ。おたくも出版社ならそこら辺のノウハウあるでしょ。ええ…はい…ですからそれはできません。」 黒田は眉間にしわを寄せながら電話を切った。 「...ったく...あいつら何なんだよ。なんで俺がブログ書いた人間だってわかるんだよ。」 「すごいっすね。黒田さん。あれから半年も経ってんのに、まだ出版社からバンバンオファーがあるじゃないっすか。」 「あん?」 「俺は思ってましたよ。黒田さんはできる男だって。」 「なんだよ三波。お前気持ち悪いぞ。」 「いや。黒田さんこそジャーナリストっす。会社の他の記者連中にも爪の垢煎じて飲ませてやりたいっすよ。」 「キモい。」 「黒田さん。実は俺いまネタに困ってるんですよ。何か旨いネタありませんかね…。」 「ない。自分の足で稼げ。」 「そんなこと言わずに。」 そうこうしている間に黒田の携帯が鳴った。 「はい。…え?金沢銀行と高岡銀行の合併!?マジですか!?」 電話を切った黒田は急いでノートパソコンをリュックにしまった。 「ヤスさん!」 「何だよ。」 「ヤスさん。今から金沢銀行です。」 「えぇ…今日は定時で帰らせてくれよ。」 「駄目です。スクープです。」 「そんなこと言わずたまには三波にも譲ってやれよ。お前が出張ると必然的に俺がカメラ回すことになるんだからさ。」 「そうですよ黒田さん。安井さんの言うとおりですよ。黒田さんも安井さんも働きすぎです。」 「つべこべ言わないで下さい安井さん。行きますよ。」 「嫌。」 「なんで!」 「だってお前口臭ぇもん。」 安井は鼻を摘んだ。 「うるさーい!」 「年内に医者行ってなんとかするって言ってたじゃん。」 「それとこれ何の関係あるんですか!」 「…ねぇな。」 笑みを浮かべた安井はカメラを取りに控室へ向かった。 昭和百貨店を出た相馬たちはバス停でバスを待っていた。 「今日はお休みなんですか?」 「うん。」 「だってクリスマスやし、店混んどるんじゃないんですか。」 「いいの。今日はちょっとゆっくりしたいの。なに?京子ちゃんウチの店手伝ってくれるの?」 「え?今日?」 「うん。」 京子は相馬を見た。彼はしょうもない顔をしている。 「ははは。嘘よ。そんなことしたら相馬君が怒っちゃう。」 「う…うん…。」 「あのね今日はお墓参りに行こうと思ってるの。」 「あ…。」 「最近忙しくってなかなか行けなかったから、あの人のところに行こうと思ってね。」 「一色さんですね。」 久美子は頷いた。 「熨子山行きのバスは後30分後ですね。」 「うん。」 「それにしても古田さんも水臭いですね。」 「え?」 「あとは若いもんでクリスマスイブの楽しい時間を過ごしてくれって行って帰ってしまった。」 「あ…何かあの人、東京の方に行くらしいよ。」 「え?東京?」 「うん。だから私にお別れを言いに来たみたい。」 相馬と京子の表情が変わった。 「京子ちゃん。」 「周。」 「なに二人とも。」 「これってアレじゃねぇが。」 「周もそう思う?」 「おう。」 「何よ2人揃って…。」 困惑した久美子をよそに相馬と京子は何やらブツブツとお互いの意見を交換しているようだった。 「久美子はこれから熨子山の一色の墓に行くみたいです。」 「そうか。」 「ワシはこれからあいつを付けます。」 「頼む。なにせ鍋島の特殊能力の影響を受けて存命する数少ない人間のひとりだからな。」 「はい。しかし石電の警備員が自殺とは…。」 「鍋島の妙な力のメカニズムが解明されないことには、あの事件は本当の意味で解決したことにはならないからな。」 「片倉から聞いています。都内でもなんや常識じゃ考えられん殺しが起こっとるって。」 「そのための片倉招集だ。」 「休む暇なしですな。松永理事官。」 「あーあ本当だよ。古田、お前も片倉と一緒にこっちに来いよ。こっちは猫の手も借りたいんだ。」 「勘弁してください。ワシはここで片倉の代わりに久美子を監視することに専念させて下さい。わしも年で正直身体が言うこと効かんくなっとるんですわ。」 「撃たれてもまだ久美子の監視に従事してんのに?」 「ははは。まぁあとわし結婚式も出んといかんですから。」 「あー佐竹のか。...えっとあれはいつだったっけ。」 「明日ですよ。」 「明日!?マジか。」 「マジっす。」 「...そいつは良かったな。おめでとう。」 「一色の同僚警官からのお祝いの言葉、あいつにしっかりと伝えますよ。」 古田はクリスマスの電飾光る香林坊の並木道を眺めた。コートなどの防寒着に身を包んだ通りを行き交う者たちは皆、一様に笑顔である。 「あ。」 「何だ。」 「そういやぁ理事官もやわらご結婚っちゅう歳...。」 「うるさい。構うな。」 「なんか良い人おらんがですか。」 「その話はもうするな。俺は恋などとうに忘れた。」 「それ...どこかで聞いたような...。」 「切るぞ。後は頼んだぞ。」 一方的に電話を切られた。 「なんだかんだ言ってワシはまだまだおもろい奴らと仕事できとるわ。」 ポケットに手を入れた古田の頭に冷たいものが当たった。ふと空を見上げるとそれははらはらと舞い降りてくる粉雪たちであった。 「えーっと明日の挨拶どうすっかな...。」 完
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