EPISODE · Sep 9, 2026 · 19 MIN
281化学療法しているときの深夜2時の嘔吐、救急車を呼ぶ境界線
from おうちで診る医療|名古屋発!ごうホームクリニックの在宅医療ポッドキャスト · host Go Ito
外来化学療法の普及と経口抗がん薬の増加により、「がん治療中の患者が自宅で過ごす時間」は劇的に長くなりました。点滴レジメンであれば投与は病院の外来化学療法室で数時間、その後の副作用が最も強く出る期間(投与後2〜7日目、そして骨髄抑制(こつずいよくせい)のピークである7〜14日目)は、まるごと在宅の時間帯です。S-1、カペシタビン、レゴラフェニブ、オシメルチニブなどの経口抗がん薬に至っては、投与そのものが自宅で行われます。つまり在宅医療スタッフは、意図せずして「化学療法の副作用マネジメントの最前線」に立たされています。そして副作用は、外来の受診時間には起きてくれません。深夜2時、家族から「さっきから吐き続けている」という電話が入る。この一本の電話に対して、私たちが下す判断は3つしかありません。①在宅で朝まで持ちこたえる、②今すぐ医師に連絡して緊急往診・臨時指示を得る、③119番通報する。この3択の「境界線」がスタッフの頭の中に引かれていないと、二つの事故が起きます。一つは、敗血症や腸閉塞、副腎不全といった致死的な状態を「制吐剤で様子を見た」ことによる致死的な見落とし。もう一つは、本来在宅で対応できたはずの遅発性の悪心(おしん)・嘔吐で救急搬送し、看取り(みとり)を望んでいた患者が意図しない蘇生処置や終末期の入院に至るという、ケアのミスマッチです。本資料の核心は、「嘔吐」という主訴を症状の強さではなく、①抗がん薬投与からの経過日数、②レッドフラッグ(危険信号)の有無、③バイタルサインと脱水の程度という3つの軸で分解し、電話口の5分間で三択に振り分ける思考回路をつくることです。嘔吐は化学療法中の患者において、最もコモンでありながら、最も多くの致死的疾患の入口になっている症状です。「吐いたから制吐剤」という反射を、「吐いた、では今日は投与何日目か」という問いに置き換えることが、明日からの第一歩になります。
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