EPISODE · Sep 13, 2026 · 20 MIN
286家族の一言「よく眠れてます」を振り返る
from おうちで診る医療|名古屋発!ごうホームクリニックの在宅医療ポッドキャスト · host Go Ito
在宅の現場で、私たちは毎回のように家族へこう尋ねます。「夜はよく眠れていますか」。返ってくる答えの多くは「はい、よく眠れてます」です。しかしこの一言は、医療者が思っているほど正確な情報ではありません。家族は夜通し起きて観察しているわけではなく、自分も眠っている時間帯の出来事は分かりません。さらに「静かにしている=眠っている」「日中よく寝ている=よく眠れている証拠」と、好意的に、あるいは楽観的に解釈されがちです。実際には夜中に何度も覚醒して天井を見つめていたり、日中の傾眠(けいみん/うとうとと眠り込んだ状態)が薬の持ち越し効果であったりします。背景には、加齢そのものによる睡眠の変化があります。年齢とともに深い睡眠が減り、中途覚醒(ちゅうとかくせい/夜中に目が覚めること)が増え、必要な睡眠時間も短くなります。六十五歳以上では必要睡眠時間はおおむね六時間前後とされ、「若い頃のように八時間続けて眠れない」ことは病気ではなく生理的な変化です。ところが家族も本人も「昔のように眠れないのは異常だ」と考え、睡眠薬の増量を望みます。その結果、ふらつき、転倒、骨折、日中の活動低下、そしてせん妄(せんもう/一時的に意識と注意が混乱し、幻覚や興奮、つじつまの合わない言動が出る状態)という悪循環が生まれます。もう一つ見落としてはならないのが、家族自身のバイアスです。夜間に何度も起こされる介護者にとって、睡眠薬で本人が静かに眠ってくれることは切実な救いです。だからこそ「よく眠れてます」という報告の裏に、「これ以上薬を減らされたら困る」という介護者の悲鳴が隠れていることがあります。家族支援の視点からこのテーマを扱うとは、本人の睡眠を評価すると同時に、介護者の睡眠と負担を評価することにほかなりません。
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