EPISODE · Apr 24, 2026 · 4 MIN
薄着で寒い山を舐めてはいけない
from ハナボウズの山ログ · host ハナボウズ
四月の晴天は、しかし欺く。Kの石のベンチに腰を下ろした中島の背には、吾妻の風が容赦なく吹き付けていた。薄着のまま働き通した一日の末、体は冷えを芯まで受け取っていた。今日は妻とふたりで路地に出た。ヘレニウムとフロックス——その根元に絡みつく草を、ひとつひとつ手でほぐすように取り除く作業。フロックスはかつて植えた場所に、誰に頼まれたわけでもなく根を張り直し、気がつけば株を増やしていた。土の記憶というものは、植えた人間よりも長く続く。掘り上げた株は、火曜か日曜に改めて植え付けてやるつもりだ。午前中にはセダム(オータムジョイ)の防除も行った。昨年導入したタッチダウンチークの周囲にも草が伸び始めている。他の株と同じく、防草シートで挟んでやれば足元が落ち着くだろう。路地を歩けば、アルケミラとアストランティアが盛んに花をつけていた。明日は収穫日になる。正直なところ少し憂鬱だと中島は言う——それでも、売れたときの喜びを思えば、腰はおのずと上がるのかもしれない。明日の午前には、娘の習い事の発表会がある。ハウスを開けたらそちらへ向かい、午後から注文分・市場分の収穫にかかる。夜遅くまでかかりそうだ。発表会の先生には、今日畑で摘んだ花を持っていく。前処理に浸けておいたアルケミラとアストランティアを、帰宅した妻に託した。四月の晴天は、しかし欺く——それでも、花は待たない。
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