EPISODE · May 19, 2026 · 8 MIN
出荷を待つ花たちの前で
from ハナボウズの山ログ · host ハナボウズ
母の日が過ぎた集荷場には、息継ぎのような静けさが流れている。クリスマスローズ、チョウジソウ、アストランティア、アルケミラ……並ぶ箱の名から、誰かの一週間の手の動きが浮かぶ。だがセダムを出している人は、まだいない。同じ場所に同じ季節が来ても、人それぞれに別の時間が流れているのだと、中島は思う。住宅に戻れば、玄関先に娘の鉢。一年前に「これがいい」と娘が選んだエキナセア「ブルーベリーチーズケーキ」だ。しおれかけると、つい水をやってしまう。世話をやめれば命が消えるという経験を、小さな鉢のなかでさせてあげるべきだったのかもしれない——と一瞬よぎる。けれど中島は決める。幼いころ虫かごのなかで殺してしまった虫たちの業を、いまこの鉢に水をやることで少しずつ返しているのだ、そう思っておこう。償いはいつも、思いがけないところで姿を変えて現れる。来週末のバーベキュー、二日酔いの体、集荷場で交わした言葉、そしてなぜか立ち上がってくる古い犬の記憶。五月の晴れた日、Yハウスへ向かう前の、午前中の独白。
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