EPISODE · Jul 26, 2026 · 16 MIN
DreamSync
from 余白の朗読室 · host tosusia
noteでも公開しています DreamSync 喫茶店の隅の席で、セールスマンは鞄からパンフレットを取り出した。表紙には「DreamSync」と書かれている。 「これがあれば、どんな夢でも見られるってことですか」 向かいに座った男は、コーヒーカップを手にしたまま尋ねた。ごく普通のサラリーマンといった風貌だった。 「いえ」とセールスマンは即座に首を振った。「それは無理です」 男は少し意外そうな顔をした。セールスマンは構わず続けた。 「この装置は、お客様の望みを叶えます。ただし、それはお客様が想像できる範囲のものに限られます」 「想像できる範囲?」 「たとえば、天才科学者になりたいとします。でも、天才科学者がどんなふうに物事を考えているか、想像できますか?」 男は黙った。 「世界一のサッカー選手になりたいとして、その選手の目に何が見えているか、想像できますか? 想像できないものを、夢に見ることはできないんです」 「でも、映画やドキュメンタリーを見れば、多少は……」 「景色や環境までは描けます。でも、その人の内面までは、ある程度の経験がないと想像できません」 男は少し考え込んでから言った。 「じゃあ、見られる夢なんて限られるじゃないですか」 「いえ」セールスマンは笑みを浮かべた。「想像できる夢は、高い確率で見ることができます」 「こちらをご覧ください」 セールスマンはパンフレットの間から一枚の資料を取り出した。 DreamSync 体験者アンケート(抜粋) 草野球で活躍する夢 九四パーセント 仕事で成功する夢 八九パーセント 昔の友人と再会する夢 九三パーセント 行き慣れた街を歩く夢 九六パーセント 男は思わず身を乗り出した。 「こんなにはっきり出るんですか」 「夢は映画ではありません。外から映像を見せる装置でもありません」 セールスマンは資料を指先で軽く叩いた。 「夢は、お客様自身が作っています。この装置は、その想像を少し後押しするだけです。だから、想像できる夢ほど成功率が高くなるんです」 男はしばらく資料を見つめていた。 「うーん……じゃあ、アイドルのカナと付き合うっていうのは、無理そうですね」 「それは、わかりません」 男が顔を上げた。 「想像できるようになるまで、イメージを重ねることで、再現できる可能性はあります。繰り返し映像を見る。アイドルと付き合う設定のアニメを見る。毎日、そのことを考え続ける。そうすることで、うまくいく可能性は上がります」 「本当ですか。そんなの、うまくいった人がいるんですか」 セールスマンは、しばらく男の顔を見つめていた。それから、口の端を少しだけ上げた。 「想像できるようになった人なら、何人か知っています」 その目が、一瞬だけ遠くを見た。まるで、自分自身の夢を思い出しているかのようだった。 男は、それに気づいた。 「まさか……ご自身が?」 セールスマンは何も答えなかった。ただ、笑みを消さないまま、鞄から次の一枚を取り出した。仕様書と価格表だった。 男は生唾を飲み、テーブルに身を乗り出した。
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