EPISODE · Jun 25, 2026 · 2 MIN
【インタビュー】音楽フェスを経営学で再定義する、堀義人のLuckyFes成長戦略
from Music News Japan · host keisuke horota
https://barks.jp/news/1074276 2022年、「フェス文化の灯を消すな」というスローガンとともにスタートしたLuckyFesは、わずか数年で国内フェスシーンにおける異質な存在へと成長を遂げた。ロック、アイドル、ヒップホップ、J-POPまでを横断するオールジャンル編成を核とした、小中高生やファミリー層にまで視野に入れた老若男女全世代型の設計だ。さらに、VIP対応や企業スポンサーとの連携、テーマパーク的な空間づくりなど、従来の音楽フェスとは異なるアプローチを次々と打ち出してきた。 その中心にいるのが、グロービス経営大学院学長であり、実業家として数々の事業を成功に導いてきた総合プロデューサー堀義人である。 音楽業界出身ではない堀義人が音楽フェスを手掛けるその手法は、まさに彼が最も得意とし様々な事業を育て上げる「経営」と「イノベーション」の思想をフェス運営へとダイナミックに展開するものだった。LuckyFesが掲げる5つの革新、イベンターやプロモーターを介さない独自の運営体制、利益還元を前提としたプロフィットシェア構想、さらにはVIPによって生まれる新たな文化支援の循環まで、その思想は音楽産業に新たな価値を見出すものとなっている。 同時に、AI時代だからこそリアルな体験価値が高まっていくという信念、SNSとの向き合い方やフレンズ(来場者)とともにフェスを育てていくというコミュニティ思想など、そこには堀義人自身の哲学そのものが色濃く根付いている。 音楽フェスという枠を超え、ひとつの社会実験として進化を続けるLuckyFesは、今度どこに向かっていくのか、話を訊いた。 ──LuckyFesがこれまで見せてきた成長とその特異性を鑑みると、既存の音楽フェス運営をなぞらず、あらゆる角度からイノベーションを創出してきた点が大きなポイントだと思いました。 堀義人:既存のフェスと違うことが5つあると思うんですね。1つめが、音楽のクロスオーバーという表現を使ってオールジャンルにしたこと。本来ロックフェス、ジャズフェス、HIPHOPフェス、アイドルフェス…などジャンルを絞った方が集客でき、ジャンルを混ぜれば混ぜるほど集客が落ちると言われてきたんです。それを思いっきり混ぜてオールジャンルにしたことが、ひとつのイノベーション…というか既存フェスとの違いですよね。 ──チャレンジですね。 堀義人:そう。2つめが、フェスと言えば通常は若者中心…30代~20代~10代の方々が中心だったものを、家族を含めた全世代型にしたこと。小学生以下も中高生、大学生、社会人、そして60代の方も含めた全世代型に転換しました。そして3つめが、テーマパークという言葉を使って、ラキモン(※会場のあちらこちらで会場を彩っているラッキーモンスター:LuckyFesオリジナルキャラクター。デザインはデザイナーの快歩(KAIHO)氏)やラッキーダイニング(飲食)など、音楽以外の食やアートにも注力をして、その場所にいるだけでも楽しい雰囲気を作った。 ──ラキモンは小さなお子さんにも人気ですね。 堀義人:そういうコンセプトを打ち出したフェスはこれまでなかったと思いますね。あと2つは、VIPのような全く違う顧客層に対して、大きく違う価格帯…10倍以上の価格をつけて違う体験価値を作り出し提供していることですね。その結果として、1~3のスタイルの決定と、中高生は半額・小学生以下は無料という価格設定が実現できた。 ──学生への価格配慮は、LuckyFesの大きな特徴でもあります。 堀義人:5つめは、企業とのタイアップを行なったこと。「レバレジーズ presents RAINBOW STAGE」のようにステージにネーミングライツを導入したのは、これまでのフェスはあまりやらなかったことで、世界を眺めても見たことがない。ステージや様々なスペースごとに広告価値を作り上げて、そこに対して経済的価値を生み出すことを最初から狙ったわけです。これら5つのことから結果として生まれてきたものが、他と全く違うオールジャンルで家族向けで楽しいテーマパーク型で、いわゆる経済界のリーダークラスも集うようになり、彼らが花火のスポンサーをしていくような好循環も生まれてきた。 ──その5つのコンセプトは、2022年の初回から実践されてきたわけですが、そのフェス設計と成長戦略は、培ってきた経営学と企業家としての経験則から作られたものなのでしょうか。 堀義人:そうですね。何をするにしても最低でも日本一、願わくばアジア一、世界一を目指そうというのがあらゆる事業におけるゴールですよね。基本的に誰でもそう考えると思いますけど、日本一を目指すには、現状の日本トップクラスと同じことをやったって勝てるわけもなく、全く違うものを作り上げないと日本一にはならない。そこは真逆を考えると良くて、ロックに対してロック以外オールジャンルとか、若者ではなく全世代型とか、真逆から発想が生まれてきている点が大きいですね。 ──今回5回目の開催となった現状で、5つのポイントにはさらにブーストをかける部分と、修正や調整をかけていく要素もあるかと思いますが、変更点などはいかがですか? 堀義人:イノベーションという観点ではさらに付け加えたことがあって、LuckyFesにはプロモーター/イベンターがいないんです。そういうフェス運営は他にないと思いますよ。 ──珍しい形ですよね。 堀義人:そう、我々が直にブッキングを行う。直にトイレの会社にお願いをし、ロジスティックの会社にお願いし、テント、ステージ、音響、LED…全部を直接我々が発注しているんです。チケット販売もマーケティングも全部直でやっている。ブッキングもプロモーターもいないから、我々が直接アーティスト事務所にお願いをして、ライブに行きながら楽屋を訪問してお願いをするということを続けてきていて、実はそれが組織上のイノベーションです。それがチャレンジしていることのひとつで、もうひとつは、プロフィットシェア…利益が出た場合に還元するということを宣言している点。 ──LuckyFesを一緒に作っている会社に、利益を配分する? 堀義人:そうです。利益が出た場合、協力会社に配分すると宣言しています。それは今までやったことないことだと思うんですよね。その結果として、関わる全員がコストを意識しながら自分事として打ち込むことにつながっていく。同時に、フレンズ(観客)の皆さんをコミュニティ化していく発想も他にはないんじゃないかなと思っていまして、LuckyFes会場にまつわる地元の中高校生を無料招待するという取り組みも、今まで聞いたことがない。 ──高校生無料招待のニュース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000161.000055554.html)はSNS上でも大きな話題になっていました。 堀義人:思い切った組織上のイノベーション、利益配分の考え方、コミュニティを巻き込む動きをここまでやっているフェスはないんじゃないかな。 ──プロフィットシェアを盛り込むことにしたきっかけというのは? 堀義人:初年度に4億円の赤字になったとき、普通に考えて「どうしてだ?」と思いますよね。当初は小さなイベンターが入っていたんですけど、関わった会社/業者と会って話をして「なぜこうなったのか」「どこ問題があったのか」「どうすればよかったのか」を直に聞くことができたんです。同時にフレンズからアンケートをとって「なぜ満足度が低いのか」「なぜこういう声が出てきたのか」ということをみんなで考えることをやっていった。それによって「第三者のイベンターが入ることでスピードが遅くなり、意思決定の透明性が欠け、コスト意識の考え方に到達できず、情報の伝達が遅れる」という問題が発生したことがわかった。それで基本的に自分たちで直接やろうということで4回目から直接動き始めたんです。プロモーターは最初からどこも相手にしてくれなかったから(笑)、独自で動くしかないまま今に至っています。結果的に良かったと思いますね。LuckyFesは主催者からのトップダウンではなく、関係会社の人が主体的にどうやりたいのかを発表し提案し、透明性高く協力し合ってやっていく組織に変えた。それぞれに横連携を取って進めていく体制を採った方が、全ての意思決定に透明性が出る。「困った時に、誰にコンタクトすればいいかわからない」という状況をなくすために、徹底的に透明性を高めたわけです。 ──なるほど。 堀義人:結局ね、協力会社の皆さんに対しては、利益のお金を上げるしかない。主催の僕らは少しでも経費を下げたいんだけど、「上げる」とか「下げる」とか「もっと欲しい」「安くしてくれ」っていうのは値切りの話で、同じ方向にベクトルが向かないんです。これは健全じゃないわけで、もちろん「ちょっと高いから違うところにお願いしよう」という話も当然ありますけど、これってあまりお互い幸せにならないなって思いますよね。だったら、利益が出たらみんなで分け合ったほうがコストに対する意識も高まるし、自分事になる。「利益をみんなで分ける」となった瞬間に、ある協力会社のコストがべらぼうに高過ぎると自分たちが利益を得る機会を失うことにつながるので、「この会社、どうですか?」とコストのいい会社を勧めてくれたりするようにもなる。主催者側としてもコストを削減できるから、みんながそういう意識を持つことで好循環が生まれる。 ──理想的ですね。 堀義人:還元した利益は、できれば会社に残さないでスタッフに渡して欲しいんですよね。であれば嬉しいでしょう?まだ実現できてないけど、できたら映画のエンドロールみたいに関係した人の名前も挙げるようなこともやりたいと思っていてね。モチベーションが上がる仕組みと、みんながやっているんだという意識、利益も配分されていく仕掛けがあるといいですよね。もちろん儲からなかったらしょうがないんだけど、最低限のお支払いは保証しますし、儲かった場合はみんなで分け合っていく。少額でも一回実行できると目の色が変わると思っていますから。 ──素晴らしい。 堀義人:これによって、可能な限り協力会社には継続的にお願いする形で進めていきたい。ただね、フェスで難しいのは、1年に1回の開催なのでPDCA(計画:Plan→実行:Do→評価:Check→改善:Action→を循環させ、目標達成を目指すマネジメントフレームワーク)が回せないんですよ。これが難しい。現場スタッフの方々も年に1回しか来ないしアルバイトも初めてだったりして、そこにどうやってLuckyFesの考え方を浸透させるかっていうのは簡単じゃない。「スタッフ・ウェイ」という基本理念・行動指針を作って、各自お願いしたいことを伝えながら組織全体が僕らのやりたい方向に向かうっていうことには、多くのエネルギーを使ってやってきたところですね。 ──LuckyFes運営は、実はグロービスという会社組織の経営手法や運営ポリシーと変わらないんですね。 堀義人:近いよね。僕はビジョンとストラクチャーと仕組みは作るけど、なるべく多くの人に関与してもらってやってもらったほうがいいと思っているので。 ──堀さんの活動の中に「フェスの顧客満足度を測った」というのがありますが、これも音楽フェスではあまり見ないものですよね。 堀義人:ほとんどないですね。一部を除けば知らないですね。 ──これは重要な指針ですか? 堀義人:1回目をやった時の話ですけど、僕らが協力会社さんに「こうしてほしい」と言うよりも、フレンズの声をバーっと列挙して「満足度低いんだけど、どう思う?考えて欲しい」と言うと考えてくれるんです。フレンズのほうが明確に伝えてくれているから、僕らもどこに不満要因があったのかが理解できる。経営学でも満足要因と不満足要因に分けられて、フェスの場合の不満足要因というのは「トイレがない・汚い」「飲食に並ぶ」「ゲートで待ち時間が長い」とか「居場所がない」「なんか不公平感がある」…とかそういうこと。満足要因は「ステージがいい」とか「アーティストが素晴らしい」、あるいは「アートがいい」とか「スタッフの感じがいい」とかですよね。だからまずは不満足要因を徹底的に潰していった方がいい。これは潰せる。アプリが使いにくいとか、案内ができてなかったなどはオペレーションを最適化することで改善できる。満足要因は結局最終的にはアーティストだと思っているので、アーティストブッキングとステージ構成、ステージの質を上げるために、初年度から舞台と音響と照明とLEDにはお金を使ってきた。制作も一流レベルのクオリティのものを作ってきた。アーティストブッキングも努力はして、徐々にドームクラスのアーティストの方々に出ていただけるようになってきた。そうすると、必然的に動員も期待度も増えてくる。ここの満足要因を高めることにお金を使いながらやってきたことは大きいと思います。 ──結果、初年度2万人から、4万人、6万人、8万人と順調に動員を伸ばしてきたわけですね。 堀義人:フェスを事業として捉えると、結局事業って最初は赤字なんですよ。それでも上がっていく時に何に投資をするかっていうと2つあって、それは「知名度」と「満足度」です。アーティスト・ネットワーク…つまり「アーティストとの関係性」というのもすごく大事だけど、これは努力の部分なので、投資するのはこの2点。知名度はブランディングだから、ブランドを変えない限りは今投資したものは今年来なくても来年・再来年に効いてくる。満足度というのは1回でも不満足が多くなると口コミが悪くなっちゃうから、ここにはすごい気を遣っています。この2つに投資するとなると、規模に合わない/身の丈に合わないものとして赤字になるんだけど、それはしょうがないと思っていますね。1番気にするのはトップラインと粗利と満足度かな。トップラインが成長して、粗利が確保でき、満足度が維持できていれば、いつか黒字化する。2025年のタイミングから、売り上げを伸ばしながら利益を出すことよりも、トップラインを伸ばすことに投資をしようと決めている。 ──なるほど。 堀義人:2026年からLEDビジョンを大きくしディレイスピーカーもつけて満足度を向上させます。満足度要因もわかっているので、いろんな問題点を全部解決していけば、満足度といっしょに知名度も上がっていくし、あとはブッキングを高めていくこと。ハード系の投資においては、アーティストエリアを含めてかなりの部分にお金を使ってさらに良くしていこうと思っているから、満足度向上のための投資はしていて、それとともに売り上げは上がっていくけど、損益分岐点も上がり続けている状態です。でもこれはいいやって考えて、動員が20万人ぐらいになるまではそのぐらいの感覚で投資をしないと20万人~30万人いかないだろうなって思っていますから、今一生懸命やっているのはそういうところですね。 ──日本でフェスを開催したいと思っている人は、実行する前に一旦グロービス経営大学院に通ったほうがいいと思えてきました(笑)。 堀義人:やった方がいい。あと自分でスタートアップをやった方がいいね。組織運営だから、組織のリーダーとして運営できるかどうか経験になる。フェスは大規模ですからね、何人関わっているんだろう…アーティスト関連をも含めると5000人から1万人ぐらいの人たちが関与しているから、半端ない規模感ですよ。 ──総合プロデューサーとして、そのような指針を打ち出しながらも、日々の生活ではネットでのエゴサやSNSでの発信にも余念がないですよね。ここを重視しているポイントはどういうところですか? 堀義人:エゴサは直接フレンズや多くの人に反応するのにいいんです。これは昔から僕のこともグロービスのことも含めて常にやってきていることですね。自分の発信に対するバズや炎上、あるいは完全スルーされるという経験の中から、言葉に対する感受性が高まります。この言葉を使った時に反応が来るとか、このコピーを使うとここに刺さるとか刺さらないとか、写真やレイアウトも含めて、エゴサというのは自分のコミュニケーションのフィードバックを行う1番いい方法かなと思っていますね。「いいね」を押すのも、うざいと思う人もいるかもしれないけど、関与してもらえるのは基本的に嬉しいですよね。そういう接触する機会をもらえるのはすごくいいことだと思っているから、エゴサする時間に対するリターンというのはとても大きいと思っています。自分がやっているいいことは多くの人に知ってほしいから、SNSで可能な限り伝えているというわけです。 ──SNSではいじめやヘイトなどで傷付く人も多いわけですが、悪質な書き込みや誹謗中傷などにはどう対峙していますか? 堀義人:変な誹謗中傷とかが来た場合はもう全部ミュートします。そうした方がいいですよ。誹謗中傷的なものっていうのは全部ブロックすればいい。だって見る必要ないですから。それによって自分で発信することを失う方がもったいないと思うから、ブロックしてスルーしていく。自分が間違えたことを言ったらすぐに謝って撤回して、訂正すればいい。それだけの話です。むしろ「ちゃんと素早く行動すれば、迅速な対応を褒められる」ことが分かっているので、別に怖いこともない。SNSの歩き方的なことがわかっていれば「こう来たな」っていうこともわかるので、そこは経験値ですね。 ──5周年目となる<LuckyFes’26>は前年に続いて素晴らしいアーティストがラインナップされましたが、まだまだ出て欲しいアーティストは…たくさんいますよね? 堀義人:いますね。たくさんいます。 ──2027年、2028に向けて、アーティストやフレンズに向けてメッセージはありますか? 堀義人:よく「こういうアーティストを呼んでほしい」とフレンズから聞きますけど、僕らも努力をしているので、むしろフレンズの方から直接アーティストに「LuckyFesに出てください」と直訴してほしい。あるいはファンクラブの中でLuckyFesに出てほしいと提案してほしい。僕らも本当に考えるすべての努力を使ってトップ・アーティストに出ていただきたいと思ってはいるけど、フェスはアーティストとフレンズの皆さんが一緒に作っていくものだから。アーティストはファンの方々の意見は耳を傾けると思うし、そういう声が大きくなれば、出ていただける機会も増えると思いますから、そういうご協力をお願いしたい。 ──確かに。 […]
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https://barks.jp/news/1074276 2022年、「フェス文化の灯を消すな」というスローガンとともにスタートしたLuckyFesは、わずか数年で国内フェスシーンにおける異質な存在へと成長を遂げた。ロック、アイドル、ヒップホップ、J-POPまでを横断するオールジャンル編成を核とした、小中高生やファミリー層にまで視野に入れた老若男女全世代型の設計だ。さらに、VIP対応や企業スポンサーとの連携、テーマパーク的な空間づくりなど、従来の音楽フェスとは異なるアプローチを次々と打ち出してきた。 その中心にいるのが、グロービス経営大学院学長であり、実業家として数々の事業を成功に導いてきた総合プロデューサー堀義人である。 音楽業界出身ではない堀義人が音楽フェスを手掛けるその手法は、まさに彼が最も得意とし様々な事業を育て上げる「経営」と「イノベーション」の思想をフェス運営へとダイナミックに展開するものだった。LuckyFesが掲げる5つの革新、イベンターやプロモーターを介さない独自の運営体制、利益還元を前提としたプロフィットシェア構想、さらにはVIPによって生まれる新たな文化支援の循環まで、その思想は音楽産業に新たな価値を見出すものとなっている。 同時に、AI時代だからこそリアルな体験価値が高まっていくという信念、SNSとの向き合い方やフレンズ(来場者)とともにフェスを育てていくというコミュニティ思想など、そこには堀義人自身の哲学そのものが色濃く根付いている。 音楽フェスという枠を超え、ひとつの社会実験として進化を続けるLuckyFesは、今度どこに向かっていくのか、話を訊いた。 ──LuckyFesがこれまで見せてきた成長とその特異性を鑑みると、既存の音楽フェス運営をなぞらず、あらゆる角度からイノベーションを創出してきた点が大きなポイントだと思いました。 堀義人:既存のフェスと違うことが5つあると思うんですね。1つめが、音楽のクロスオーバーという表現を使ってオールジャンルにしたこと。本来ロックフェス、ジャズフェス、HIPHOPフェス、アイドルフェス…などジャンルを絞った方が集客でき、ジャンルを混ぜれば混ぜるほど集客が落ちると言われてきたんです。それを思いっきり混ぜてオールジャンルにしたことが、ひとつのイノベーション…というか既存フェスとの違いですよね。 ──チャレンジですね。 堀義人:そう。2つめが、フェスと言えば通常は若者中心…30代~20代~10代の方々が中心だったものを、家族を含めた全世代型にしたこと。小学生以下も中高生、大学生、社会人、そして60代の方も含めた全世代型に転換しました。そして3つめが、テーマパークという言葉を使って、ラキモン(※会場のあちらこちらで会場を彩っているラッキーモンスター:LuckyFesオリジナルキャラクター。デザインはデザイナーの快歩(KAIHO)氏)やラッキーダイニング(飲食)など、音楽以外の食やアートにも注力をして、その場所にいるだけでも楽しい雰囲気を作った。 ──ラキモンは小さなお子さんにも人気ですね。 堀義人:そういうコンセプトを打ち出したフェスはこれまでなかったと思いますね。あと2つは、VIPのような全く違う顧客層に対して、大きく違う価格帯…10倍以上の価格をつけて違う体験価値を作り出し提供していることですね。その結果として、1~3のスタイルの決定と、中高生は半額・小学生以下は無料という価格設定が実現できた。 ──学生への価格配慮は、LuckyFesの大きな特徴でもあります。 堀義人:5つめは、企業とのタイアップを行なったこと。「レバレジーズ presents RAINBOW STAGE」のようにステージにネーミングライツを導入したのは、これまでのフェスはあまりやらなかったことで、世界を眺めても見たことがない。ステージや様々なスペースごとに広告価値を作り上げて、そこに対して経済的価値を生み出すことを最初から狙ったわけです。これら5つのことから結果として生まれてきたものが、他と全く違うオールジャンルで家族向けで楽しいテーマパーク型で、いわゆる経済界のリーダークラスも集うようになり、彼らが花火のスポンサーをしていくような好循環も生まれてきた。 ──その5つのコンセプトは、2022年の初回から実践されてきたわけですが、そのフェス設計と成長戦略は、培ってきた経営学と企業家としての経験則から作られたものなのでしょうか。 堀義人:そうですね。何をするにしても最低でも日本一、願わくばアジア一、世界一を目指そうというのがあらゆる事業におけるゴールですよね。基本的に誰でもそう考えると思いますけど、日本一を目指すには、現状の日本トップクラスと同じことをやったって勝てるわけもなく、全く違うものを作り上げないと日本一にはならない。そこは真逆を考えると良くて、ロックに対してロック以外オールジャンルとか、若者ではなく全世代型とか、真逆から発想が生まれてきている点が大きいですね。 ──今回5回目の開催となった現状で、5つのポイントにはさらにブーストをかける部分と、修正や調整をかけていく要素もあるかと思いますが、変更点などはいかがですか? 堀義人:イノベーションという観点ではさらに付け加えたことがあって、LuckyFesにはプロモーター/イベンターがいないんです。そういうフェス運営は他にないと思いますよ。 ──珍しい形ですよね。 堀義人:そう、我々が直にブッキングを行う。直にトイレの会社にお願いをし、ロジスティックの会社にお願いし、テント、ステージ、音響、LED…全部を直接我々が発注しているんです。チケット販売もマーケティングも全部直でやっている。ブッキングもプロモーターもいないから、我々が直接アーティスト事務所にお願いをして、ライブに行きながら楽屋を訪問してお願いをするということを続けてきていて、実はそれが組織上のイノベーションです。それがチャレンジしていることのひとつで、もうひとつは、プロフィットシェア…利益が出た場合に還元するということを宣言している点。 ──LuckyFesを一緒に作っている会社に、利益を配分する? 堀義人:そうです。利益が出た場合、協力会社に配分すると宣言しています。それは今までやったことないことだと思うんですよね。その結果として、関わる全員がコストを意識しながら自分事として打ち込むことにつながっていく。同時に、フレンズ(観客)の皆さんをコミュニティ化していく発想も他にはないんじゃないかなと思っていまして、LuckyFes会場にまつわる地元の中高校生を無料招待するという取り組みも、今まで聞いたことがない。 ──高校生無料招待のニュース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000161.000055554.html)はSNS上でも大きな話題になっていました。 堀義人:思い切った組織上のイノベーション、利益配分の考え方、コミュニティを巻き込む動きをここまでやっているフェスはないんじゃないかな。 ──プロフィットシェアを盛り込むことにしたきっかけというのは? 堀義人:初年度に4億円の赤字になったとき、普通に考えて「どうしてだ?」と思いますよね。当初は小さなイベンターが入っていたんですけど、関わった会社/業者と会って話をして「なぜこうなったのか」「どこ問題があったのか」「どうすればよかったのか」を直に聞くことができたんです。同時にフレンズからアンケートをとって「なぜ満足度が低いのか」「なぜこういう声が出てきたのか」ということをみんなで考えることをやっていった。それによって「第三者のイベンターが入ることでスピードが遅くなり、意思決定の透明性が欠け、コスト意識の考え方に到達できず、情報の伝達が遅れる」という問題が発生したことがわかった。それで基本的に自分たちで直接やろうということで4回目から直接動き始めたんです。プロモーターは最初からどこも相手にしてくれなかったから(笑)、独自で動くしかないまま今に至っています。結果的に良かったと思いますね。LuckyFesは主催者からのトップダウンではなく、関係会社の人が主体的にどうやりたいのかを発表し提案し、透明性高く協力し合ってやっていく組織に変えた。それぞれに横連携を取って進めていく体制を採った方が、全ての意思決定に透明性が出る。「困った時に、誰にコンタクトすればいいかわからない」という状況をなくすために、徹底的に透明性を高めたわけです。 ──なるほど。 堀義人:結局ね、協力会社の皆さんに対しては、利益のお金を上げるしかない。主催の僕らは少しでも経費を下げたいんだけど、「上げる」とか「下げる」とか「もっと欲しい」「安くしてくれ」っていうのは値切りの話で、同じ方向にベクトルが向かないんです。これは健全じゃないわけで、もちろん「ちょっと高いから違うところにお願いしよう」という話も当然ありますけど、これってあまりお互い幸せにならないなって思いますよね。だったら、利益が出たらみんなで分け合ったほうがコストに対する意識も高まるし、自分事になる。「利益をみんなで分ける」となった瞬間に、ある協力会社のコストがべらぼうに高過ぎると自分たちが利益を得る機会を失うことにつながるので、「この会社、どうですか?」とコストのいい会社を勧めてくれたりするようにもなる。主催者側としてもコストを削減できるから、みんながそういう意識を持つことで好循環が生まれる。 ──理想的ですね。...
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