見えていたもの|DreamSync
from 余白の朗読室 Hosted by tosusia
見えていたもの|DreamSync 田中は、かつてサッカー選手になりたかった。中学の頃、父親に反対されて辞めた。それから何十年も経つが、後悔だけは消えなかった。 ドリームシンク(DreamSync)という装置がある。見たい夢に近い映像を見て、その時の脳波を測定し、寝ている間に同じ波形を頭に送り込む。見たい夢の続きが見られる、という触れ込みだった。ただし実際には、見せたい映像そのものではなく、その人が本当に抱えている感情や記憶に近いものが、形を変えて現れることが多かった。 プロになって活躍する自分を、田中は何度も夢に見ようとした。だが不思議なことに、装置を使っても、いつも同じような夢しか見なかった。ユースの練習場で、周りの選手たちに置いていかれる夢。うまくボールを扱えず、監督に呼び出される夢。プロになる前の、挫折しかけている自分ばかりが出てきた。 息子は今、中学二年生だった。田中は息子にプロサッカー選手になってほしいと思っていた。だが息子は、あまりうまくなかった。練習にも身が入らず、やる気があるようには見えなかった。 このままでは、自分と同じ後悔を背負わせてしまう。田中はそう思った。 「一度、これを試してみないか」 田中は押し入れの奥から、ドリームシンクを取り出した。息子に装着させ、活躍する選手たちの映像を見せてから、眠りにつかせた。 翌朝、息子は妙に興奮した様子で降りてきた。 「すごい夢見た。試合で決勝ゴール決めて、みんなに担がれて」 「そうか」 「もう少し、ちゃんとやってみようかな」 田中は、それを聞いて安堵した。良かった、と思った。 その夜、田中はふと思い立って、久しぶりに自分にも装置を装着してみた。もう一度、あの活躍する夢を見てみたいと思った。 夢の中で、田中は子どものサッカーを見守る父親だった。グラウンドの脇に立ち、じっと練習を見ている。だが、ピッチにいる子どもは、周りの選手たちに追いつけず、何度もボールを奪われていた。 田中は、その姿を見ながら、胸が締めつけられる思いで立ち尽くしていた。 好きだから続けさせたい。 だが、好きだからこそ傷ついてほしくない。 努力しても届かない世界があることを、自分は知っている。 このまま続けさせるべきか。それとも、早いうちに別の道を探させるべきか。 「才能がないなら、早く言ってやった方が、この子のためかもしれない」 夢の中の田中は、小さく呟いた。 目が覚めても、しばらく動けなかった。 父は、あの頃、こんな景色を見ていたのかもしれない。 本当のことはわからない。父が何を考えていたのか、もう確かめることもできない。 それでも、父にも父なりの苦しみがあったのだろうと、田中は初めて思った。 あのあと田中は、勉強の方に力を入れるようになった。それが楽しくて、気づけば研究者になっていた。今の生活に、不満はなかった。 あのときサッカーを続けていたら、今の自分はいなかったのかもしれない。 朝食のとき、田中は息子に声をかけた。 「今日から、気持ちを切り替えて、レギュラー目指して頑張れ。お父さんは応援してるぞ」 息子は少し驚いた顔をしてから、照れくさそうに頷いた。
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