EPISODE · May 20, 2026 · 17 MIN
流星群
from 余白の朗読室 · host tosusia
noteでも投稿しています流星群 三十四歳、独身、趣味はプログラミング。田村誠という男は、ある夜、ニュースを見ながら思った。 これはチャンスではないか。 ニュースが伝えていたのは、数十年に一度地球に接近する流星群のことだった。流れ星に願いを唱えると叶う、という話は田村も知っていた。子供の頃から知っていた。ただ一度も試したことがなかった。気づいたときには流れ星は消えていたし、そもそも夜空をぼんやり眺めるという習慣がなかった。 だが今回は違う。数十年に一度だ。次のチャンスは、自分が何歳になっているかわからない。本気で取り組む価値がある。 田村は椅子を回転させて、パソコンに向かった。 まず、流れ星を見逃さないことが最優先だ。 望遠鏡をカメラに接続して、夜空を自動撮影するシステムを組んだ。撮影した画像をリアルタイムで解析して、流れ星を検出するプログラムを書いた。輝度の急激な変化を拾う仕組みだ。三日かけて完成させた。これで流れ星を見落とすことはない。 次の問題は、願いを唱えるタイミングだ。 流れ星が消えるまでの時間は、だいたい一秒から三秒。その間に願いを三回唱えると叶うと言われている。だが流れ星を検出してから人間が反応するまでにタイムラグがある。下手をすると唱え終わる前に消える。田村はプログラムに、流れ星を検出した瞬間に自動で願いを読み上げる音声機能を追加した。スピーカーから流れ星に向けて願いを三回唱える。完璧だ。 最後の問題が残った。何を願うか、だ。 田村は腕を組んだ。流星群だから、数は多い。せっかくなら全部使いたい。でも願いをその場で考えていたら間に合わない。事前に用意しておく必要がある。 田村はプログラムに、願いを自動生成する機能を加えた。自分の年齢、職業、年収、居住地、趣味、健康状態、そして「彼女いない歴=年齢」という項目も正直に入力した。AIが最適な願いのリストを作成して、流れ星の数に合わせて順番に唱えていく仕組みだ。 完成した夜、田村はプログラムを眺めてひとつ頷いた。 流星群が現れたのは、木曜の深夜だった。 田村はパソコンの前に座って、画面を見ていた。検出カウンターが回り始めた。一、二、三。流れ星が現れるたびに、スピーカーが願いを唱えた。「良い出会いがありますように」「仕事が充実しますように」「健康でありますように」「昇給しますように」「美味しいものをたくさん食べられますように」。次から次へと、淀みなく、正確に。 田村はコーヒーを飲みながら、カウンターが増えていくのを見ていた。 二時間後、流星群が去った。カウンターは二百七十三を示していた。 田村はキーボードを叩いて、ログを確認した。すべての流れ星に、すべての願いが、タイムラグゼロで唱えられていた。成功だった。完璧な成功だった。 田村は椅子にもたれて、天井を見た。 田村の願いが叶った瞬間だった。
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