EPISODE · Jun 16, 2026 · 14 MIN
マスター
from 余白の朗読室 · host tosusia
noteでも公開しています マスター 昔、AIはおろかパソコンすらなかった時代に、テーブルトークRPGというものが流行ったらしい。精密に定めたごっこ遊び、とでも言えばいいか。剣と魔法の世界での冒険を、演出とサイコロで再現する遊びだ。このアトラクションはその発展形だということだ。 今接続しているのは若いカップルだ。勇者を選んだケンジと、魔法使いを選んだレイナ。 丘を登り切った先に、ドラゴンが現れた。 いよいよ最後の戦いだ。 するとケンジが崖を駆け下り始めた。 おいおい、魔法を先にかけないと!弱らせてからじゃないと剣が通らないぞ。事前に説明したじゃないか。 仕方ないので大声で叫ぶ。 「レイナ、今だ、魔法を!」 レイナが思い出したかのように魔法を唱え始めた。間に合わないと思ったとき、咄嗟にタンクがレイナの前に飛び出て盾を構えた。良いタイミングだ。ケンジの剣がドラゴンを貫いた。怒り狂ったドラゴンの尻尾がレイナに向かうが、タンクが庇い、どうと倒れた。 「あとは任せたぞ」 よし、なんとか流れが戻った。 ドラゴンの背が光り始めた。次は聖なる盾の魔法だ。 あれ。レイナが倒れたタンクに駆け寄っている。 いやいや、よく見ないと! 「レイナ、ブレスだ、聖なる盾を!」 レイナがようやく魔法を唱え始めた。が、立ち位置が悪い。そこではケンジが黒焦げになる。 ケンジはというと、剣を振るうのに夢中だ。 仕方ない。私は攻撃魔法を唱え始めた。気づいたドラゴンがこちらに向き直り、業火が私の全身を包んだ。良い気はしないが、ケンジは守られた。 ケンジとレイナが呆然とこちらを見ている。 何のためにまる焼けになったと思っているんだ。 心の中でそう叫びながら、大声で怒鳴る。 「ケンジ、チャンスだ、背中の弱点を貫け!」 叫んだあと、私は息を引き取った。 その横に、ドラゴンが轟音と共に倒れた。 勇者ケンジたちはドラゴンを倒し、街を救ったのだ。喜ぶ二人。気がつけば僧侶も尻尾に吹き飛ばされて息絶えていた。三人の犠牲を払ったが、ドラゴンは倒された。 アトラクションは終了した。カップルは興奮冷めやらぬ表情で機械から出てきた。大満足のようだった。 安全装置を外しながら、お前たちのせいでこっちは丸焼けだと言いたくなったが、グッと堪えた。横を見ると、ドラゴン役の男も同じ気持ちだったらしく、苦笑いしていた。 最新アトラクションの、こんな裏の仕組みを知っている人は少ないようだ。
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