EPISODE · Apr 4, 2025 · 58 MIN
S2#27 マナーの話
from 666666RADIO · host 666666RADIO
第一章 白い破壊者その年の春は、やけに風が強かった。世界最大のアートイベント《エンプティータイル》。音、色、沈黙、光、衣、鼓動、影、振動、言葉――9人の若きアーティストたちは、世界を再構築するように、この日を迎えた。それは、何もない場所に「意味」を浮かび上がらせる祭典だった。空白の上にしか咲かない芸術。だからこそ、その名は――《エンプティータイル》。彼らは、仲間だった。痛みを知り、孤独を越えて、創作を分かち合った者たち。ただの若造ではない。命を注ぎ、己を削ってきた者たちだ。だが――その「空白」に、彼は現れた。クラ君。イベントオーナー。年齢は50を過ぎ、かつては小さな広告代理店でチラシを作っていたという。芸術家ではない。ただの金と権限を持った“オジサン”だった。彼は、こう言った。「君たちのやってること、すごいと思うよ。うん、まぁ俺にはよくわかんないけどさ。でも――“無”に意味があるってのは、やっぱりさ、嘘だと思うんだよね。だから、俺がちょっと手を加えてやるよ。“ホンモノ”にしてあげる。」白いペンキの缶。会場の中央、“空白”として残された巨大な白床に、彼は無遠慮に足を踏み入れた。踏み抜かれたその一歩で、音響センサーが狂った。作品の照明がバグり、光と闇がせめぎ合い、破壊のリズムが始まった。「やめろ、クラ君!」「そこは作品の一部なんだ!」怒声が響く。だがクラ君は笑っていた。「君ら、芸術家なんだろ?なら、こういうのも“味”だって思わないと!」仲間たちが駆け寄るも、遅かった。白いラインは床に広がり、センターの意味は崩れ去る。レンの沈黙は壊れ、ヨリの光は意味を失い、ミカの布は破られ、Daiの構築物は粉砕された。クラ君は満足そうに言った。「ほら、俺もアーティストの端くれってことで。SNSにあげていい?」その瞬間だった。Lalaのドレスが炎上し、スプリンクラーが作動。ジョーのスピーカーが水を被り、火花を上げ、フミの言葉は沈黙に溺れた。シュヴァルツの影絵は闇に飲まれ、カトリーナの鍵盤は水没し、すべてが、終わった。⸻最終章 終演観客は立ち尽くした。スタッフは混乱し、カメラは宙を泳ぎ、ライブ配信は切れた。風だけが会場を吹き抜ける。クラ君は、白いシャツにペンキを浴びながら、ただ笑っていた。「ごめんね、でも、自由ってこういうことでしょ?」9人は、誰も答えなかった。誰も、怒鳴らなかった。ただそこに立ち尽くし、崩れたステージを見つめていた。ジョーが口を開いた。「……全部、終わったな。」誰も否定しなかった。誰も、救おうとしなかった。もう、意味はなかった。夜が来た。誰もいないステージに、風が舞い、ペンキの跡が残った。9人は、解散した。シュヴァルツは国を出て、フミは言葉を封じ、Daiは作品を燃やした。誰も、もう再び交わることはなかった。クラ君は――翌週、雑誌のコラムでこう書いた。「若い子たちは繊細すぎる。もっと余白を許せる社会になってほしい。」⸻終わりに何も残らなかった。ただ空虚な床と、壊れた機材と、名前のない怒りだけが、そこにあった。だがそれでも、誰かが言ったという。「美しいものは、壊れても美しい。 でも、あれは美しさではなかった。 ただの、暴力だった。」そう、それが――《エンプティータイル》事件の全てである。
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