EPISODE · Jun 6, 2025 · 1H 17M
S2#33 ビッチに絡まれた話
from 666666RADIO · host 666666RADIO
Diddy youngji’s Social mediahttps://songwhip.com/diddyyoungjihttps://www.instagram.com/diddyyoungji14/https://www.instagram.com/insideout4012/「月夜に吠えろ、マリアたち。」風が騒ぐ夜だった。都心の裏通り、ネオンが雨粒をなめるように照らすなか、カツカツとブーツの音が響く。歩いていたのは、佐伯レンジ。身長は低め、痩せ型、口数少なめ。けれども心はいつだって全力疾走。ロックとパンクを混ぜて煮詰めたような孤独を胸に抱えて、焼酎片手に歩くのが夜のルーティンだ。その日もコンビニの安焼酎をラッパ飲みしながら、世の中全部に中指立てるような気持ちで歩いていた。だけど、そんなレンジに、声がかかった。「お兄さん、どこ行くの〜?」振り返ると、見た目はギャルっぽい女性が四人。金髪、タイトスカート、スパンコール、ヒールの音。全員が夜そのものをまとってるような派手さだった。「べっぴんばっかやん…」思わず焼酎が喉に詰まる。「ひとり?寂しくない?」女のひとりが近づいてくる。香水の香りがやたら強い。レンジが言葉を選ぼうとしたそのとき──「つかまえたっ♡」背後から腕が回され、がっちりとホールドされた。レンジの肩に顎が乗る。呼気が耳にかかってゾクッとした。「え?なにこれ、え?」混乱している間に、前にいた別の“女”がスッと手を伸ばして、「あら、かわいいタマちゃん♡」「やめろや!!!」焼酎のペットボトルを投げるが、ギャル風たちはキャッキャと笑ってよける。「こいつらやべえ……」そこでレンジは気づいた。よく見ると、どこかしら“ゴツい”。いや、むしろ“美しい”のに、“骨格が強すぎる”。──全員ニューハーフだった。目が合うと、どの顔も悪意がない。けれど、どこか「世間からはぐれた者たち」の悲しみと、強さがあった。レンジは一瞬で悟った。この人たちは、誰よりも夜と戦ってる。「マリアたち」──レンジは勝手にそう呼んだ。しかし、事件は起きる。背後のホールド役、“マリアのリーダー”っぽい彼女(?)が、酔ったのかヒールが滑ったのか、バランスを崩す。「あっ、やばっ」そのまま、レンジの体重を支えきれず、ゆっくりと…おそろしくスローモーションで、「バックドロォォォップ!!!」レンジの体が弧を描き、背中から地面に激突。──が、落ちたのはマリアの方だった。レンジは小柄で軽かったため、リーダーが自分の重みでぐるりとひっくり返ってしまったのだ。「ッあっぶねぇ!マジで死ぬかと……て、えっ、起きてる?」「……うふふ♡ やるじゃん、ロックンローラーくん。」地面に倒れながら、マリアは微笑んでいた。レンジは、なぜか心のどこかがじんわり温かくなった。そのあと、マリアたちは手を振って去っていった。ヒールの音が遠ざかる。誰も警察を呼ばなかったし、レンジも焼酎を拾って黙って立ち去った。でもその夜、彼は初めて日記にこう書いた。「マリアたちに出会った。たぶん、俺の人生で一番まともな交流だった気がする。」そして、彼はもうひとくちだけ、焼酎を飲んだ。数日後の夜。レンジはまた歩いていた。あの日の“マリアたち”との遭遇は、脳裏に焼きついて離れない。「なんだったんだろうな、あの夜は……」しかし、その答えを考える暇もなく、目の前に再び現れる“あの4人”。「やっほ〜♡バックドロップボーイ♪」ギャル風マリアたちが、まるで再放送のように現れる。ひとりがマックのポテトを食べながら、「おまえ、やっぱかわいいわ〜」と絡んでくる。「なんでまた会うんだよ!ここ渋谷じゃねーぞ!?」「うちら、どこにでもいるの♡夜に生きてるからさ」まるで野良猫みたいに自由奔放。でも今回は違った。彼女たちはなぜか“怒っていた”。「実はさぁ……昨日、マリアの彼氏が他のニューハーフと浮気してたの」レンジ:「え、そんなジャンルで浮気成立するのか」「黙れボウズ! てことで、今夜は“復讐”に行くから、アンタも付き合って」レンジ:「いや、巻き込むなや」「つーかさ、レンジも最近寂しそうだったじゃん。ストレス発散にちょうどいいっしょ?」まさかの理由で、マリアたちの復讐ミッションに同行するハメになったレンジ。行き先は、場末のゲイバー『タルタル地獄』。店に入ると、派手な照明のなかに、浮気男と思しき“元彼”が座っていた。「よーし、仕上げはマリアの鉄拳よ♡」リーダー・マリアがリップを塗り直す。「ちょい待て、それで行くの?メイクバッチリで?」「当然でしょ?あたしらの“戦闘メイク”なんだから」「──でもよ、素顔で殴ったほうが、気持ちも拳も、本音ってやつじゃねぇの?」その瞬間、バー全体が静かになった。マリアはしばらく黙っていたが、ゆっくりと化粧ポーチを閉じた。「……レンジ、おまえ、かっこいいな。」そして、バッチリメイクをティッシュでゴシゴシ拭き取り、素顔のまま、元彼にグーパンチを一発。「嘘ついた顔に、嘘じゃない拳を。」元彼は吹っ飛び、周囲は拍手喝采。その夜、レンジはマリアたちに言われた。「アンタさ、もしかして“夜側の人間”じゃない?」「は?昼に寝てるだけだよ」「じゃあ、うちらと一緒だ。昼間、まともなふりして息潜めて、夜にだけ生きてる」「──そうかもな」店を出たマリアたちは、再び闇に溶けるように消えた。レンジはひとり、コンビニでまた焼酎を買い、静かに夜空を見上げた。星は出てなかったけど、なぜか今夜は心が軽かった。
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