EPISODE · May 3, 2026 · 1H 29M
S3#13-密会の回-
from 666666RADIO · host 666666RADIO
放送開始の赤いランプが点いたとき、スタジオにはいつもの三人分の空気がなかった。「……静かすぎない?」ミキサーのノイズに紛れて、タカシがぼそっと言う。「アイツがいないと、こんなもんだろ」ケンジはヘッドホンを少しずらしながら笑った。「あいつ、声デカいからな。存在がノイズみたいなもんだし」本来なら三人で回しているこのラジオ。だが今日は一人が来れない。理由は「ちょっとした事情」とだけ共有されているが、詳細は誰も知らない。知らない、というより、聞かないようにしている。「久しぶりだな、二人きりって」タカシが言う。「高校の帰り道以来じゃない?」ケンジが軽く返す。「あの頃はもっとバカだったよな。今は…まあ、方向性が違うだけでバカだけど」軽く笑いが起きる。でも、その笑いはどこか薄い。沈黙が一瞬だけ流れる。ラジオ的には“事故”に近い長さだ。「で、さ」タカシがマイクに少し近づく。「あいつ、何で来れないんだっけ?」「“来れない”って言い方、便利だよな」ケンジが肩をすくめる。「死んでも来れないし、寝坊しても来れないし」「いや縁起でもないこと言うなよ」「でもさ、もし本当に死んでたらどうする?」ケンジは妙に落ち着いた声で続ける。「俺ら、普通に番組続けるのかな。“えー、今日は一人欠席です”って。理由は“永遠の欠席”です、って」タカシは少し笑う。「それブラックすぎるだろ」「ブラックっていうか、現実ってだいたいそうじゃん。誰かがいなくなっても、番組は続くし、電車も来るし、コンビニも開いてる」「まあな…」また少し沈黙。今度はケンジが先に口を開いた。「正直さ、ちょっと楽しんでるだろ?」「何を?」「二人きり。あいついないと、話しやすいって思ってるだろ」タカシは一瞬言葉に詰まる。「……まあ、ちょっとは」「俺も」ケンジはあっさり言う。「三人だとさ、誰か一人は“余り”になる瞬間あるじゃん。今日はそれがない」「最低だな、お前」「だろ?でも人間ってそんなもんだよ」ケンジは笑う。「だから安心しろ。あいつも今いない場所で、同じこと思ってるかもしれない。“あいつらいなくて楽だな”って」「それもう、友情として終わってるだろ」「いや逆だよ。そういうこと言える関係が一番長く続く」少し間を置いて、ケンジは付け足す。「多分な。実験したことないけど」赤いランプはまだ点いている。二人は顔を見合わせて、同時に小さく笑った。「とりあえずさ」タカシがまとめに入る。「今日は二人でやるしかないし、適当にやるか」「だな。最悪、あいつの悪口だけで30分いけるし」「それ、本人来たらどうすんの?」「その時は“生存確認おめでとうございます”って言うよ」少しだけ、本当に楽しそうな笑い声がスタジオに響いた。三人分の空気はまだ戻らない。でも二人分の空気は、思ったより悪くなかった。
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