EPISODE · Jun 7, 2026 · 5 MIN
色紙
from 余白の朗読室 · host tosusia
noteでも公開しています色紙壁一面に、色紙が並んでいる。受かった喜び、悔しかったこと、後輩への一言。三十数年、合格した生徒には必ず書いてもらってきた。新しい塾生はその文字に囲まれながら、机に向かう。移転が決まった。壁から色紙をはずしていく。一枚手にとるたびに、顔が浮かぶ。ギリギリまで粘って最後に笑った子。あっさり受かって飄々としていた子。手を焼かせるだけ焼かせて、それでもちゃんと結果を出した問題児。一枚はずすごとに、誰かの一年が思い出される。二年、三年と居続けた子のことも。丁寧に、段ボールに収めていく。剥き出しになっていく壁が、少しずつ広くなる。全部はずし終えたとき、壁はただの白い面になっていた。思い出す手がかりが何もない、静かな白さ。三十年というのは、こんなに広かったのか。多すぎて、新しい壁には収まらないかもしれない。小さく印刷して並べる方法を、ぼんやりと考えている。新しい宝箱が、楽しみだ。
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