EPISODE · Jul 22, 2026 · 19 MIN
とられたー
from 余白の朗読室 · host tosusia
noteでも公開しています とられたー 家族LINEに写真が届いた。 一人暮らしを始めた長男が、メロンを一玉、豪快に頬張っている。 思い出すのは、あの頃の切り分け方だ。 分けるのは長男の役。選ぶのは末っ子から。それが我が家の決まりだった。なるべく均等にすればいいものを、わざとかどうか、いつも少しずつ大きさに差があった。 末っ子は歓声を上げながら一番大きいものを取る。次の子が唇を結んで、その次を取る。 「あー、とられたー」 長男はそう言うけれど、その顔はどこかうれしそうだった。 そのやりとりを、家内と二人、少し離れたところから眺めていた。 子供の成長は、気づいたときにはもう始まっていて、気づいたときにはもう終わりかけている。 長男が下宿を始めたとき、にぎやかだった食卓が少しだけ変わった。椅子は一つ空いた。それでも、末っ子たちはまだ家にいて、食卓には声が残っていた。だから本当の変化は、もう少し先に来るものなのだと思っていた。 そこへ届いた、メロンの写真。 画面の中でメロンを頬張っている長男は、あの頃と少しも変わっていなかった。 「あー、とられたー」 そう言いながら、いつも一番大きいものを下の子たちに取られていた長男が、今は一玉まるごと抱えている。 そういえば——。 大学のころ、下宿で、冷やすだけのプリンを大きなボウルに作ったことがある。 家で出されるプリンは、いつも小さな器に少しずつだった。 だから下宿で一人になったとき、私は大きなボウルいっぱいにプリンを作った。誰にも分けなくていい。順番を待つ必要もない。好きなだけ、スプーンですくって食べればいい。 そう思って作ったのに、途中で食べきれなくなった。 結局、仲間を呼んだ。 あのプリンの味は、もう覚えていない。でも、呼びに行った廊下の空気は、なぜかまだ覚えている。 まだまだ子供だと思っていたけれど。 私も、ずっと同じことをしていたのかもしれない。
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