EPISODE · Jun 7, 2026 · 5 MIN
腕枕
from 余白の朗読室 · host tosusia
noteでも公開しています 腕枕 右腕が痺れている。 動かせない。正確には、動かすと起こしてしまう。 見上げると、天井の染みがいつもと同じ場所にある。 最初は妻だった。 新婚の頃、妻は当たり前のように腕の中に収まった。腕が痺れても、そのことを言えなかった。言えるようになった頃には、妻はもう腕枕では眠らなくなっていた。 次は長女だった。 熱を出した夜、泣きやまない長女を抱いたまま朝になった。小さな体が、思いのほか重かった。 次女は腕枕よりも、背中に張り付く方を好んだ。寝返りを打つたびに、しがみついてきた。 長男は小学校に上がる前まで、毎晩のように割り込んできた。妻との間に体をねじ込み、両側から腕を独占した。 気づけば、子ども部屋の電気は消えたままだった。妻は妻の枕で眠るようになっていた。 それでもレイがいた。 へそを天に向け、四本の脚を投げ出して、腕の中に収まっている。犬というより、小さな湯たんぽだった。温かくて、少し重い。 鼻を近づけると、陽に当たった布団の匂いがした。 右腕が痺れている。 動かさないでいると、そのうちこちらも眠くなってきた。
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