EPISODE · Jun 5, 2026 · 16 MIN
修正
from 余白の朗読室 · host tosusia
修正echoを使い始めて最初の頃は、ズレが気になった。その日あったことは合っているのに、気持ちの部分がどこかよそよそしい。自分が感じたこととは微妙に違う言葉が並んでいて、そのたびに修正を入れた。AIが写真や投稿の流れを読んで文章を補い、自分が直しながら育てていく仕組みだと聞いていたので、最初はそんなものかと思っていた。それがいつの頃からか、直すところがなくなった。気持ち悪いほど的確だった。その日の出来事、そのときの気分、夜になって振り返ったときの感情まで、過不足なく書いてある。こうも読まれるとは、我ながら単純なものだと思った。だから久しぶりに違和感を感じたとき、すぐに気づいた。仕事先で会った男性のことを、echoは少し気になった、と書いていた。そんなことはなかった。指摘されるまで忘れていたくらいの相手だ。そうじゃない、と修正した。ところが数週間後、その男性と一緒に仕事をした日、echoはこう書いた。今日は悪くない一日だった。彼は私のことを、少し特別に見ているのかもしれない。そんなはずはないと思った。思ったが、修正する前に少し考えた。そうなのかも、という気持ちが、どこかにあった。結局、直さなかった。それからしばらく、会う機会がなかった。忘れかけていた頃、また一緒に仕事をすることになった。その日の帰り際、彼に呼び止められた。前に仕事をした日から気になっていた、と彼は言った。その夜、ドキドキしながらechoを開いた。その日起きたこと、今感じていることが、克明に書いてあった。顔が熱くなった。読んでいると、自分の気持ちがどんどん輪郭を持ってくる。これでいいですか、という確認に、オッケーと押した。すると、普段は現れないダイアログが出た。3ヶ月前の日記について。最初のバージョンに修正しますか?echoはあの日の日記を、破棄せずに持っていたらしい。最初に書いた、少し気になった、という一文を。お節介なやつめ、と思いながら、にやにやしていた。オッケーを押した。
Embed this episode
NOW PLAYING
修正
No transcript for this episode yet
Similar Episodes
No similar episodes found.
Similar Podcasts
No similar podcasts found.