EPISODE · Jun 6, 2026 · 18 MIN
一週間後
from 余白の朗読室 · host tosusia
noteでも公開しています一週間後echoというサービスがある。SNSや写真から、その日の出来事を自動で日記にまとめてくれる仕組みだ。去年の秋、新しい機能が追加された。自動で作られた日記を、すぐには読めなくする。数日から最長一年、自分で期間を設定できる。冷静になった頃に読む。それだけのことだが、使い始めてから、物事の見え方が少し変わった。私は一週間に設定した。怒りが冷めるのに、だいたいそのくらいかかる。自分ではそう思っていた。最初に効果を感じたのは、出資者との交渉が決裂した翌週だった。あの男は最初から話を聞く気がなかった。そう思っていた。七日後、echoが生成した日記を開くと、そのときの自分の言動が淡々と記録されていた。読みながら、少し黙った。苛立っていたのは相手だけではなかった。私も、かなり余裕がなかった。それより気になったのは別のことだ。あの男が最後に言った一言を、echoは几帳面に拾っていた。そのときは聞き流していた言葉が、一週間後には違う意味に見えた。翌週、もう一度連絡を取った。それからは、交渉のたびに同じことをした。うまくいかなかった日の記録を、一週間待ってから読む。冷めた頃に読むと、自分が何を見落としていたかがわかった。相手が何を言いたかったかも。二年かかったが、会社は軌道に乗った。その間に、別のことにも気づいた。ある夜、事業の方向を大きく変えるアイデアを思いついた。興奮したまま記録した。一週間後に読むと、興奮は消えていた。だがアイデアそのものは残っていた。逆に、同じ夜に「これでいける」と書いた確信のいくつかは、跡形もなかった。感情と判断は、別のものだった。手厳しいことを言われた夜もあった。そのときは言い返した。一週間後に読むと、言われた内容は正しかった。感情が邪魔をして、当日は何も受け取れていなかった。今日、大きな契約が決まった。長かった。いろいろあった。うまく言葉にできないまま、その日が終わった。一週間後、echoが何と記録しているか、楽しみだった。今日の自分が本当に喜んでいたのか、それとも余裕がなかっただけなのか、まだわからなかった。
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