PODCAST · fiction
ボイスドラマ〜Interior Dream
by Ks(ケイ)、湯浅一敏、インテリアドリーム
インテリアが家族の絆をつむぎだす・・・ハートフルな一話完結の物語を各前後編に分けてお送りします。(CV/ 男性役=日比野正裕、女性役=桑木栄美里)
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ボイスドラマ「ノルディックベンチ」後編
後編は、舞台を19世紀のノルウェーに移し、「ノルディックベンチ」に刻まれた伝説を描いていきます。厳しい冬の北極の町で、家具職人エミルと聖歌隊の少女カレンは出会いました。許されぬ恋、離れゆく運命、そして吹雪の中の決断。このベンチが、なぜ「永遠の愛を見守る」と語り継がれるようになったのか─その答えが、ここにあります。前編とは違った、静かで切ない物語。【登場人物のペルソナ】・エミル(25歳)=ノルウェーの『北極の町』アルタに住む家具職人。教会に頼まれて礼拝堂のベンチを作っている。カレンと出会い恋に落ちる。2人で語り合った思い出をいつまでも残すために、ベンチに北極の星座の装飾を彫る(CV:日比野正裕)・カレン(18歳)=クリスマスの時期になると小さな村を回る聖歌隊のなかの1人。初めてアルタにやってきたとき、エミルと出会い、恋に落ちるが、聖歌隊では恋愛は禁止。2人はエミルの作ったベンチに座って語り合った・(CV:桑木栄美里)・■資料/古代遺跡を照らすオーロラの町!ノルウェー・アルタhttps://skyticket.jp/guide/314110/<シーン1/クリスマスの前〜アルタの町の小さな教会の礼拝堂>(SE〜吹雪の音〜教会の鐘の音)神父:「皆さん、今年もクリスマスが近づいてきました。神の恵みに感謝し、心を一つにしてその日を迎える準備をしましょう」エミル:ノルウェー。北極の町、アルタ。19世紀の中ごろ。田舎町の小さな教会で、年老いた神父が語り出す。神父:「来週には聖歌隊もやってきます。この礼拝堂もいつもとは違った温かな歌声で満たされるでしょう」エミル:私の名はエミル。駆け出しの家具職人だ。アルタで生まれ、アルタで育った。いまは、神父さまに頼まれて、ベンチを作っている。あとは、聖歌隊席に置く4脚のベンチを作ればすべて完了だ。小さな教会だから、ベンチの数も多くない。礼拝堂に3人かけのベンチが10脚。聖歌隊席には2人かけのベンチが4脚。聖歌隊の人数も10人に満たないのだから問題ない。さあ、急ごう。来週、聖歌隊がやってくるまでに、完成させないと。<シーン2/小さな教会に聖歌隊がやってきた>(SE〜教会の鐘の音〜ゴスペル〜曲終わりで)エミル:今年の聖歌隊は1人多い。大人の女性たちに混ざって、1人だけ、多分10代、の少女が歌っていた。ひときわ澄んだ歌声に、心が洗われるようだ。と、感心している場合じゃない。僕はゴスペルを聴き終えると、神父さんに目配せをして工房へと急いだ。(SE〜工房の環境音)今晩無理すれば、あと一脚くらい、ベンチは作れるだろう。少女は1人、立って歌っていた。本当に悪いことをした。罪滅ぼしの意味も含めて、聖歌隊席に追加したベンチには心をこめて北極の星座を彫刻する。北極星(ポラリス)を含む小熊座。ポラリスは、永遠の導きと不変の象徴。これは彼女のために。彼女が座る左端に掘った。北斗七星がしっぽの、大熊座(おおぐま座)。航海や旅路の守り神だから。彼女へ。W字の形をしたカシオペア。美しさと知恵の象徴ってことはこれも彼女かな。<シーン3/小さな教会の礼拝堂に最後のベンチを納品>(SE〜朝の環境音/小鳥のさえずり/ベンチを設置する音)カレン: 「おはようございます」エミル: 「あ」カレン: 「まあ、なんて美しいベンチ」エミル: 「あ、ありがとうございます」カレン: 「やだ、こんな小娘に敬語なんて」エミル: 「いや、だって・・・」カレン: 「カレンって呼んでください」エミル: 「はい、わかりました・・・」カレン: 「あなたのお名前は?」エミル: 「エミルといいます・・・」カレン: 「いいお名前」エミル: 「あ、ありがと・・・」カレン: 「ベンチに彫ってあるのは星座?」エミル: 「うん、北極の星座」カレン: 「へえ〜。夜じゃないのにキラキラ輝いてる」エミル: 「金箔と銀箔を埋め込んであるから」カレン: 「座ってもいいかしら、エミル」エミル: 「あ、どうぞ・・・カレン・・」君のために作ったんだ・・・とは言えなかったけど。カレンは、右端のカシオペアに座った。ギリシャ神話のカシオペアは、美しさを誇示するキャラクター。そのために神々の怒りを招いて破滅をもたらした。美しいカレンには、そうならないでほしいな。聖歌隊席のベンチは、向かって右側に2脚、左側に2脚・・だったけど、いまは左側2脚の横に、少し小ぶりなベンチが1脚。そこにカレンがちょこんと座る。そんなに大きくないベンチだけど、小柄なカレンが座ると不釣り合いで思わず笑った。カレン: 「このベンチは何人がけ?」エミル: 「一応2人がけだよ」カレン: 「そっか。じゃあエミル、ここに座って」エミル: 「そんな・・・」 躊躇いつつ、ポラリスにもたれる。 カレンとは距離を保ち、僕はベンチの右端に寄って。 行き場のない北斗七星が、カレンと僕の間で煌めいていた。<シーン4/クリスマス目前〜小さな教会の礼拝堂/聖歌隊席>(SE〜小鳥のさえずり〜教会の鐘の音)カレン: 「おはよう、エミル」エミル: 「おはよう、カレン」 早朝。 誰もいない礼拝堂で、僕たちは語り合った。 カレンの家は、南の町、トロンハイム。 お母さんと2人暮らしだという。 お母さんは、敬虔なクリスチャン。 カレンが18歳になるとすぐに聖歌隊に参加させた。 カレンも歌うことが好きだったから、 喜んで小さな村々を回っているそうだ。 確かに、透き通ったカレンの歌声は、 まるで、天使の讃美歌。 瞳をキラキラさせて話をするカレンに ステンドグラスから朝の光が差し込む。 それはまるでオーロラのように、幻想的な光の色彩を作り出す。 僕は、朝のこの時間のために 毎日を生きているような気持ちだった。<シーン5/クリスマスイブ〜小さな教会の礼拝堂>(SE〜教会の鐘の音〜ゴスペル〜曲終わりで)エミル: クリスマスイブ。 その日、カレンは聖歌隊にいなかった。 風邪でもひいたのか。 違った。 カレンのいる聖歌隊は、恋愛禁止。 ましてや、カレンは未成年。 聖歌隊の皆も、神父さんも僕には何も教えてくれなかった。 真実を知ったのは、礼拝に来る人たちから。 聖歌隊から外されたカレンはひとり実家へ戻っていったという。 いや、待てよ。 確かカレンの家は、遠く離れたトロンハイム。 そんなところまで1人で帰れるわけがない。 僕はクリスマスミサも早々に、吹雪の外へ飛び出す。 まさか、まさか。 1人でトロンハイムへ? この吹雪のなか、山越えを? いったいどれだけ距離があるか知っているのか? 深い森やフィヨルドを抜けていかなきゃならないのに。 僕はカレンを追って、雪山へ入った。 行く手を阻むラーガ山脈の険しい峰。 視界は1メートル先も見えない。 氷点下の風は肌を刺し、息を吸うたびに肺が痛む。 カレンの足なら、まだそう遠くまでいけるはずはない。 スカンダ渓谷の入り口まできたとき、 針葉樹の大木の根元に白いかたまりを見つけた。 それは雪に埋もれたカレンの小さな体。 クリスマスツリーから落ちたオーナメントのように 美しい顔にも雪が降り積もる。 「カレン!」 僕はカレンを抱き上げると、今来た道を戻っていった。<シーン6/クリスマスの翌日〜教会の庭のベンチ>(SE〜夜の環境音)エミル: アルタに戻ったのは、イブが明けたクリスマスの未明。 教会の扉は閉ざされ、町は静まり返っている。 いつのまにか吹雪はおさまり、 見上げると暗闇の隙間からオーロラが夜空を彩っている。 主人(あるじ)のいなくなったベンチは教会の庭に置かれていた。 僕は冷たくなったカレンを抱き、ベンチに座らせる。■BGM〜「インテリアドリーム」 ああ、カレン。寒かったろう。凍えただろう。 僕は、カレンの横に座って彼女を強く抱きしめる。 体温が、カレンの魂を温めていく。 ポラリスとカシオペアにはさまれて 北斗七星の前で僕たちは・・・神父: 「アルタの町は静けさに包まれ、 いつしかまた降り出した雪が ノルディックベンチに佇む2人の上に、 ゆっくり静かに降り積もっていきました」※ **ノルディックベンチのディテール** 「ノルディックベンチ」は北欧家具の特徴を象徴する作品で、以下のディテールが施されています。 - **素材と質感**:北欧の厳しい自然環境に耐えるため、耐久性のあるオーク材やアッシュ材を使用。木目の美しさを最大限に活かし、自然な風合いを強調。 - **デザイン**:背もたれと座面は緩やかなカーブを描き、人間工学に基づいた快適な座り心地を提供。無駄のないミニマルなデザインでありながら、装飾として雪の結晶や北極の星空をモチーフにした彫刻が施されている。 - **仕上げ**:オイル仕上げで、木材の自然な温もりを引き立てる。北欧の冬の光を反射するような、柔らかな艶を持つ。 このベンチには「永遠の愛を見守る」とされる伝説が込められており、特に冬のオーロラの下でその魅力が最大限に引きだされます
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ボイスドラマ「ノルディックベンチ」前編
インテリアデザインの世界に生きる若き二人─建築士の彼と、インテリアコーディネーターの彼女。最悪の出会いから始まる二人の関係が、1年という時間の中でどのように変わっていくのか。北欧家具のデザインと、伝説のベンチがどんな意味を持つのか。「インテリア」とは、単なる家具や空間の話ではなく、「人の暮らしと記憶を紡ぐもの」でもあります。その本質が、この物語を通じて少しでも伝われば嬉しいです。そして、この物語は Spotify・Amazon・Apple などのPodcastプラットフォーム、服部家具センター「インテリアドリーム」公式サイト でもお聴きいただけます。【登場人物のペルソナ】・男性(25歳)=大手の建設設計会社で働くエンジニア。働きながら将来的にはインテリアデザイナーを目指して勉強している。12月の声を聞いた頃、本社東京への転勤の話が持ち上がる(CV:日比野正裕)・女性(26歳)=ハウスメーカーで自社物件のインテリアコーディネーターをしている。海外研修をしたくて入社した当初から人事部に志望を出していた。来春のLA支社開設に伴い、支社専属コーディネーターの候補として自分の名前があがっていた(CV:桑木栄美里)【Story〜「ノルディックベンチ/前編」】※今回は試験的にモノローグがシーンごとに変わります<シーン1/最悪の出会い(1年前)>(SE〜展示会の環境音/BGMはクリスマスソング)女性:「正直に言わせてもらいますけど、この家具。 北欧風のダイニングってテーマに全然合ってないですよね。 まず、シルエットが重すぎる。 北欧家具の魅力って、シンプルで軽やかなラインと、 視覚的にも空間的にも“抜け感”を生むデザインにあるんです。 これじゃ、空間全体が圧迫されてしまう」男性: インテリアショップのワークショップ。 出品者同士で語り合うオフ会で いきなりの先制パンチ。 彼女、確か、ハウスメーカーのインテリアコーディネーターだったよな。女性:「素材のチョイスも疑問ね。 北欧スタイルは、オークやアッシュみたいに明るい色味の天然木材が主流でしょ。 でもあなたのベンチは色味が暗くて、まるで重厚な和風家具みたい」男性:「な・・」女性:「あと、プロポーションがアンバランスだわ。 チェア自体が大きい割に、座面の高さが低すぎる。 北欧のダイニングセットは、家族や友人が集まる“ソーシャルスペース”。 座り心地やテーブルとの相性をもっと考えるべきじゃないですか?」男性:「この・・言わせておけば・・」 しかし、確かに言われることには筋が通っている。 そもそも僕はまだプロのインテリアデザイナーじゃない。 今回、プロアマ問わずに作品を募っていたワークショップに出品したんだ。 僕は大手の建設コンサルタント会社で働く建築設計士。 まだ4年目だけど、二級建築士の資格を持って建築図面を引いている。 でも今日のワークショップは仕事じゃない。 実はいま、インテリアデザインの勉強をしているんだ。 それで、『北欧デザイン』をテーマにしたこのワークショップに 作品を作って応募したってわけ。 撃沈。 苛立って睨みつける僕に、彼女は余裕の笑みを返してきた。<シーン2/会長宅リフォームのプレゼン>※最悪の場合、会長は湯淺・・(SE〜プレゼンルームの環境音)女性:「今回の会長宅のリフォームでは、北欧スタイルを取り入れたいと思います。 自然素材の家具と柔らかな間接照明を活かした温かみのある空間。 リビングには、明るいオーク材のフローリングと、 シンプルなラインのソファを中心に、家族が集まりやすい配置を考えました。 壁面は自然光を反射するためのライトグレーのペイント。 昼間でも柔らかな光が部屋全体に広がるようにしています・・」会長:「北欧スタイルねえ。 良さはわかるんだけど、ちょっと軽くないかね」女性:「もちろん、会長のおっしゃる重厚感も大切だと考えています。 ダイニングにはウォールナットのテーブルを配置して、 高級感と重厚感を演出しました」会長:「ウォールナットも悪くないんだけどなあ。 なんかピンとこないんだよ」女性:「そうですか・・」男性:「会長」会長:「ん?きみは?」男性:「建築士の設計コンサルタントです」女性:「え?あなた・・・」 プレゼンルームの隅っこから声をあげたのは この前ワークショップにいた青年。男性:「会長、お孫さんはいらっしゃいますか?」会長:「ああ、いるよ。まだ小学生だけど」男性:「さきほど彼女、”家族が集まる場所”って言いましたよね。 ウォールナットは見た目の重厚感だけでなく、 すごく耐久性が高い素材なんです。 例えば、お孫さんがテーブルの上で宿題をしたり、絵を描いたりしても、 傷がつきにくい。 汚れにも強いから、食べこぼしても簡単に拭き取れます」会長:「ほう」男性:「それにオーガニックで環境にも優しい。 化学処理が少なく、天然のままの風合いを生かしているので、 お孫さんが触れても安全です」会長:「なるほど」男性:「何より、長年使い込むほどに味わいが増します。 家族が集まるたびに、このテーブルに思い出が刻まれていく。 ウォールナットと一緒に家族の年輪を刻んでいってはどうですか?」会長:「うむ」女性: 言い終えたあと、彼は一瞬私の方へ視線を送り、ウィンクした。 あのとき私、あんなに厳しいこと言っちゃったのに。 でも、居心地の悪さより、救ってくれた嬉しさの方が勝(まさ)った。 施主も私たちも英顔でプレゼンルームをあとにする。 この一件以来、私と彼の距離は急速に縮まった。 彼は25歳。私よりひとつ年下。 設計コンサルタントとして働きながら、 インテリアデザイナーを目指している。 私たちは食事を共にする仲となり、 コーディネーターとデザイナーとしてリスペクトし合いながら 季節が巡っていった。<シーン3/1年後のクリスマス>※TMスタート後「え?」が多くてすみません(SE〜街角の環境音/クリスマスソング)女性:「あのベンチ、なあに?」男性: 彼女と一緒に過ごすようになってから最初のクリスマス。 インテリアコーディネーターとインテリアデザイナーの デートスポットは・・・ そう、インテリアショップ。 最近の家具屋さんはオシャレなところが多いし、 僕たちはここにいれば、何時間でも過ごすことができた。女性:「昨日まであんなんなかったよね?」男性: リビングとダイニングの真ん中。 ベンチは部屋と部屋の間に置かれていた。女性:「なんか、書いてある・・・ ノルディックベンチ?」男性:「君の好きな北欧スタイルだね」女性:「ノルウェーのアルタ。 『北極の町』の教会に置かれていたベンチだって」男性:「へえ〜。なにか謂れがあるのかな」女性:「悲恋伝説らしいわ。 その代償として、このベンチに座るカップルは結ばれる・・」男性: ドキっとした。 実は僕のカバンには、辞令が入っている。 東京支社への転勤の辞令。 僕は今日、それを彼女に告げなければならない。女性:「どうする?」男性:「いいじゃん。座ろうよ」女性:「うん」男性: 僕がベンチに腰掛けると、 彼女もゆっくりと腰をおろした。女性:「実はね、話したいことがあるの」男性:「え・・」女性:「私、いまの会社、ハウスメーカーに入ってから ずうっと海外勤務希望申請をだしてたの、知ってるでしょ」男性:「うん・・」女性:「それがね、急に決まっちゃったのよ」男性:「あ・・・」女性:「来年の春、LAに支社を開設するんだって」男性:「そう・・・」女性:「申請だしてたのさえ、忘れてたのに」男性:「よ、よかったじゃないか・・・」女性:「強制ではないんだけど、独身だと断りにくいから」男性: 彼女の言葉が途切れたのをきっかけに、僕も彼女に告白する。男性:「実は僕も君に話があるんだ・・・」女性:「え・・」男性:「これを見てほしい」女性:「なに」男性: 僕がカバンの中の辞令を彼女に手渡すと・・女性:「東京・・転勤・・・?」男性:「来年早々から」女性:「本社勤務、ってことは栄転ね」男性:「まあ、そうなるかな」女性:「おめでとう」男性:「いや、いかない」女性:「え?」 ■BGM〜「インテリアドリーム」男性: 僕は彼女から辞令を返してもらい、 そして、目の前で・・女性:「なにしてんの?」男性:「なにって、辞令を破いてるんだよ」女性:「どうして?」男性:「僕がインテリアデザイナーを目指しているの、 君が一番知ってるじゃないか」女性:「でも・・」男性:「これでやっと踏ん切りがついた」女性:「そんな・・」男性:「だから、君の海外勤務は・・・」女性:「もう断ったわ」男性:「え?」女性:「結婚する、ってウソついちゃった」男性:「それ、ウソじゃない」女性:「え?」男性:「結婚しよう」女性:「本気?」男性:「もちろん。返事は?」女性:「Yes!に決まってるじゃない」男性: なんだか、いままで悩んでたことがおかしくなる。 ノルディックベンチ。 説明書きにあるように「永遠の愛を守る」という伝説は生きているようだ。 『永遠の愛を守る』ノルディックベンチに座って 僕たちは未来を語り合った。(SE〜教会の鐘の音)
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ボイスドラマ「家族の食卓/もうひとつの物語」後編
東京での生活が始まり、紅葉は夢を追いかけて日々奮闘します。けれど、思い描いていた理想と、現実の厳しさは違うもの。そんな中、彼女にとって心の支えとなるのは、先輩との交流、そして父の言葉でした。「家具は、家族をつなぐもの。」父の仕事に無関心だった紅葉が、ある仕事を通じてその意味を知ることになります。そして迎える、久しぶりの帰省。紅葉は、父とどんな言葉を交わすのでしょうか。それでは、後編をお楽しみください。【登場人物のペルソナ】・娘:紅葉(くれは)/声優の卵(21歳)=真面目で一途。子供の頃から声優に憧れ、夢を追いかけて東京へ上京する。感情を表に出すことはあまり得意ではないが、家族への深い思いを胸に秘めている。実家の家具屋で育ったため、無意識に家具に対する愛着があるが、家業を継ぐという両親の期待に反発していた(CV:桑木栄美里)・先輩:冬紀(25歳)/若手声優=沖縄出身。優しく親切で、自然体で人に接するが、実は沖縄での家族や地元を大切に思っており、東京での生活にも孤独を感じることがある。娘にとって、東京での厳しい生活の中で心の支えとなる先輩。彼の優しさに触れるたびに、紅葉は自分の父の面影を感じ、心の距離が近づいていく(CV:日比野正裕)<シーン1/声優養成所>(SE〜養成所の環境音)娘: 「おつかれ様でした!」先輩: 「おつかれ!今日もバイト?」娘: 「はい!」先輩: 「たしか・・フィットネスジム・・だっけ?」娘: 「はい、自由な時間に働けるので助かってます」先輩: 「だけどあんまり無理しないようにね。 昼も、和食屋さんでお皿洗ってるんでしょ? うちのレッスンは、ダンスもまざってるから体力消耗するし」娘: 「あ、ダンスは小さい頃から踊ってたんで」先輩: 「それでも疲れる。人間だから」娘: 「大丈夫です!」先輩: 「まあ、若いからがんばれるんだろうけど」娘: 「ありがとうございます!」先輩: そういえば、この子、最初の挨拶で面白いこと言ってたよな。 なんだっけな。え〜っと・・■一瞬、回想シーン娘: 「みなさん、はじめまして! 今日から養成所でお世話になります!よろしくお願い申します! 養成所って、私にとっては夢を育てる場所。 だから、”養成”という文字は、フェアリーの”妖精”。 私はいつも脳内変換しています!」先輩: それで、記憶に残ってるんだよな。 人に覚えてもらう、ってのもこの仕事じゃ重要だから。 実際僕もそれ以降、彼女のこと気になってるんだよな。<シーン2/夜の渋谷/バイト終わりの紅葉>(SE〜繁華街の環境音)娘: 「お先に失礼します!」先輩: 「あれ?」娘: 「あ、先生!」先輩: 「おいおいやめてくれよ、こんな往来で”先生”だなんて」娘: 「だって先生じゃないですか?」先輩: 「養成所でレッスンしてるってだけだろ。 せめて”先輩”にしてくれ。 僕はまだ25歳なんだぜ」娘: 「年齢なんて関係ないと思います。 たとえ小学生だって、私の師匠なら”先生”だわ」先輩: 「そうか。 にしても、遅くまでバイト、がんばってるね」娘: 「はい。 だって東京って家賃すっごく高いんだもの」先輩: 「君は東京の人じゃなかったね」娘: 「そうです、東京でてきてびっくりしました。 バイトしてもバイトしても家賃と授業料に消えていく感じ」先輩: 「そうだよなあ、駆け出しの声優は結構バイトしてるもんなあ。 ましてや、養成所なら出て行く方が多いだろうし」娘: 「そうなんです。だから自炊もしてるんですけど 東京は物価も高い」先輩: 「自炊してるんだ。立派なもんだ」娘: 「なんで?たんに生活費を浮かすためですよ」先輩: 「自炊は体にもいいだろ。 とにかく体が一番だからな。 あとは、規則正しい生活を送ること。 ってそれは難しいか。 まあ、無理せずにがんばって」娘: 「先輩」先輩: 「ん?なんだ?」娘: 「先輩って、お父さんみたいですね」先輩: 「なんじゃ、それ? まだ25だって言っただろ」娘: 「ふふ」先輩: 結局、彼女とは、明るい夜の街をいつまでも話しながら歩いた。 話は尽きず、一駅歩くくらいのボリュームだっただろう。<シーン3/収録スタジオ/初めての仕事>(SE〜スタジオの環境音/「はい本番!はい、キュー!」)娘: 「家具を選ぶときは、まず目を閉じてください」先輩: 「はい、閉じました」娘: 「そこに、家族の笑顔は見えますか?」先輩: 「え?」娘: 「それが、家具を選ぶ基準です」(SE〜スタジオの環境音/「よしOK!このテイクでいこう」)娘: 「ありがとうございました!」先輩: 音響監督が笑顔でうなづく。 彼女が声優養成所に通い始めてもうすぐ1年。 養成所から所属へ。 妖精が羽ばたく時期。 初めて彼女に入った仕事は、なんと僕との掛け合いだった。 それは、家具屋さんの企業アニメーション。 どうしてなかなか、いい表現じゃないか。娘: 「おつかれさまです」先輩: 「おつかれ。一発オーケーかあ。 すごくよかったよ」娘: 「本当ですか?」先輩: 「ああ、レッスンのときより、何倍もいい表情だ」娘: 「実は・・・うちの実家、家具屋さんなんです」先輩: 「だから・・・言葉の意味もちゃんと理解してたんだね」娘: 「はい、家族をつなぐ家具。いつも父が言っている言葉です」先輩: 「そっか・・・ ねえ、つかぬことを聞くけど・・・ 東京へ来てから、何回実家へ帰ったの?」娘: 「あ・・」先輩: 「うん?」娘: 「一度も帰ってない・・・」先輩: 「じゃあ、そろそろ帰るタイミングじゃない?」娘: 「はい」■BGM〜「インテリアドリーム」<シーン4/東京駅/新幹線ホーム>(SE〜新幹線ホームの環境音)先輩: 仕事ができる人は、行動するのも早い。 次の日の朝、彼女は新幹線のホームに立っていた。娘: 「先輩、忙しいのにこんなとこにいていいんですか?」先輩: 「うん、昨日君が明日帰るってきいたら なんだか心配になっちゃってさ」娘: 「新幹線くらい1人で乗れますよ〜」先輩: 「いや、そういう話じゃないだろ」娘: 「やっぱり先輩、お父さんみたい」先輩: 「はいはい。 じゃあお父さんとようく話してくるように。 東京へ戻ったら、家具の話、食卓の話、聞かせてくれ」 娘: 「了解しました」先輩: まるでLINEの絵文字のような笑顔で、 彼女は新幹線に乗り込んだ。 遠ざかるのぞみ号の彼方から、お父さんの声が聞こえる・・ ような気がした。父: 「おかえり」
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ボイスドラマ「家族の食卓/もうひとつの物語」前編
「家族の食卓/もうひとつの物語」は、家具職人の父と、声優を夢見る娘の心の交流を描いたものです。「家族の食卓」は、単なる食事の場ではなく、思い出や愛情が積み重なる特別な空間。けれど、親子の関係はいつも順風満帆とはいかず、時にはすれ違い、ぶつかることもあります。それでも、どこかでお互いを思い合っている—そんな二人の物語をお届けします。本作は 服部家具センター「インテリアドリーム」 の公式サイトをはじめ、SpotifyやAmazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームでもお楽しみいただけます。◾️登場人物のペルソナ・娘:紅葉(くれは)/専門学校生(20歳)=真面目で一途。子供の頃から声優に憧れ、夢を追いかけて東京へ上京する。感情を表に出すことはあまり得意ではないが、家族への深い思いを胸に秘めている。実家の家具屋で育ったため、無意識に家具に対する愛着があるが、家業を継ぐという両親の期待に反発していた(CV:桑木栄美里)・父(59歳)=インテリアショップのオーナー兼家具職人。無口で職人気質、細やかな技術と頑固さを持ち合わせるが、家族への愛情は深い。言葉では多くを語らないが、家具を通じて娘に自分の気持ちを伝えようとしている。娘が家業を継がずに上京することを不安に感じ、心配しながらも彼女の夢を応援したいという気持ちを隠している(CV:日比野正裕)【Story〜「家族の食卓/もうひとつの物語/前編」】<シーン1/20歳の食卓>(SE〜食卓の環境音)父: 「声優・・? そんなフワフワした職業じゃなくて、まじめに将来を考えなさい」娘: 「別にうわついてなんかいないもん! なんにも知らないくせに」娘: 売り言葉に買い言葉。 喧嘩なんて、したくもないのに・・ お父さんなんて、大っ嫌い。父: 「おまえには、いずれうちの家業も継いでもらわないと」娘: 「継がないから。 私、家具なんて興味ない」父: 「なんだと」娘: お父さんったら、言ってることが、まるっきり昭和。 タイムマシンに乗って1970年代に戻ったみたい。 って、生まれる前の時代なんて知らんけど。父: 「大学を卒業したら家の手伝いを・・」娘: 「大学卒業したら東京へ行くの」父: 「と、東京!?」娘: 「卒業後は1人暮らしするって、ずうっと言ってるじゃない」父: 「東京なんて聞いてないぞ」娘: 「東京じゃないと、ちゃんとした声優事務所なんてないもん」 父: 「母さんは知ってるのか?」娘: 「お母さんにはもう話したから」父: 「なに・・?」娘: 「賛成してくれたもん。 お父さんだけだよ。 そんな古臭いこと言って反対してるのは・・父: 「うるさい・・」娘: 怒りの感情は6秒で収まるっていうけれど、 お父さんのテンションもだんだん下がっていく。 結局、私の希望は認められ、晴れて春から1人暮らしとなった。<シーン2/東京〜アパート探し>(SE〜東京の雑踏)娘: 「お父さん、 何回も言ってるけど、お部屋くらい自分で探せるって」父: 「ばか言うな。 なにも知らない田舎者がアパート探そうと思ったって 不動産屋にいいように騙されるだけだ」娘: 「ちょっと、それ、不動産屋さんで言うせりふ?」 少し困ったような表情を見せたあと、 不動産屋さんは手際よく、いくつか部屋を見せてくれた。 これが、内見、ってやつ? (SE〜鍵を開錠する音)父: 「ここはだめだ。 リビングが南向きじゃないと、陽も当たらないし、 電気代もかかるからだめだ」娘: このご予算では、これ以上のお部屋はちょっと・・ と言って、不動産屋さんが口籠る。 結局、4件目の内見でやっと、少しだけ明るい部屋に出会った。 とは言っても、電気が通っていないと、ほんのり暗い。 私は、薄暗い部屋の真ん中に立って、あたりを見回す。 娘: 「ねえ、お父さん。 お部屋って、な〜んにもないと、 こんなに暗くって、寒いんだ」父: 「ああ、そうだ。 だから、どんな部屋にも、まず食卓を置くんだよ」娘: 「こんな狭い部屋に食卓なんて置いたら、よけい狭くなっちゃう」 父: 「狭くなるんじゃない。あったかくなるんだよ」娘: 「え・・」 父: 「別に大きな食卓を置け、って言ってるんじゃない。 2人用でも、木の香りがして、優しい食卓にすれば ここより5度はあたたかくなるぞ」娘: 優しい食卓? お父さんらしい表現だな。 だけど、私にもわかる。 うちは大家族だったから大きな6人用の食卓。 そこはいつも笑顔と、美味しい香りが溢れていた。 笑い声が飛び交う、暖かい場所。 考えたら、ベランダに面した南向きのリビングより 食卓の方があたたかかった気がする。父: 「まあ、あとはお前次第だ。 無理せずにがんばりなさい。その・・・なんだ・・」娘: 「声優?」 父: 「ああ・・。 一生懸命やって、だめだったら戻ってくればいい」娘: 「また、昭和の言い方して」 父: 「しょうがないだろ。昭和の人間なんだから・・」娘: 「ねえ、お父さん」 父: 「どうした?」娘: 「この部屋に合う食卓、選んでくれる?」 ■BGM〜「インテリアドリーム」父: 「え・・ あ・・わかった。 お前に似合う食卓を選んでやるよ」娘: 「ありがとう」父: 「あったかい部屋にするんだぞ」娘: 「うん」父: 「ちゃんと自炊して規則正しい生活を送ること」娘: お父さんが選ぶ、私の食卓。 実物を見なくても、なんとなくわかる。 木の香りが優しくて、 ずうっと座っていたくなる食卓。 目を閉じれば、お父さんやお母さんの笑顔が浮かんでくる食卓。 ほら、笑い声まで聞こえてくる。 夢をかなえるのに一番必要なのは、 やっぱりお父さんの不器用な応援だな。 もう一度言うね。 ありがとう、お父さん。
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ボイスドラマ「オーロラの彼方に」後編
前編では、オーロラに魅せられたヒロインと、彼女を想う先輩研究者の静かな交流が描かれました。後編では、物語が大きく動きます。研究に打ち込みすぎて、自分の体を顧みない彼女。そんな彼女がある日、倒れてしまう…。「オーロラ姫」を救ったのは、科学でもデータでもなく、たった一つの“想い”でした。この物語は、科学と愛、そして眠りが交差する不思議な縁の物語。果たして、彼女は「本当に安らげる場所」を見つけることができるのでしょうか?【登場人物のペルソナ】・女性(26歳)=大学院生で天文学を専攻。太陽風と地球の磁場の相互作用によって生じるオーロラについての研究に没頭している。最近、研究のプレッシャーと不規則な観測スケジュールにより、睡眠障害に悩まされている。オーロラの研究にのめり込みすぎているため、周りからは尊敬と揶揄をこめて「オーロラ姫」と呼ばれている(CV:桑木栄美里)・男性(28歳)=女性と同じ大学院で天文学を研究している先輩。博士号終了後も国立天文台からのオファーを期待してポスドク(博士研究員)としてキャリアを積んでいる。「オーロラ姫」のことを慕っているが、なかなか言い出せないでいる(CV:日比野正裕)<シーン1/先端科学研究所>(SE〜ラボの環境音)女性: 「スーパーカミオカンデからのオファー!?私が?」男性: 彼女が通常より1オクターブ高い音階で驚く。 まあ、無理もない。 大学が運営する先端科学研究所で天文学を研究して、 去年の年末に、オーロラの出現を予測したんだから。 オーロラ姫の面目躍如だ。 それにしても、スーパーカミオカンデとはね。 東京大学宇宙線研究所が運用する世界最大の宇宙素粒子観測装置。 ニュートリノという素粒子を観測する施設からのオファーか。 期待の高さがわかるってもんだな。女性: 「去年のオーロラ出現以来、 毎日毎日観測室とデータ解析室の往復を繰り返してるのよ。 睡眠障害だった1年前より、睡眠不足だわ」男性: そうだった。 オーロラ姫はずうっと睡眠障害で悩んでいたんだ。 彼女の言葉を聞いた僕は、いてもたってもいられなくて いろんな文献を調べたんだっけ。 あ、いや。 彼女のことが好きだとか、そういう直接的な意味じゃなくて。 なんとなく・・・ あれ?やっぱり、好きなのかな・・・ まいいや。 それで結局、治療もさることながら ベッドや寝具も重要、と厚労省のガイドブックにあったから。 足を向けたのが、インテリアショップ。 そこで真っ先に目についたのが、電動リクライニングベッドだった。 高機能なツーモーターでありながらリーズナブル。 これなら研究員の僕でも手が出るかな・・ なんて思ってたらそのネーミングを見て驚いた。 電動リクライニングベッド”オーロラ”。 まるで、僕の心を突き動かすように 目が離せなくなった。 そのとき、同じベッドを見つめていたのが、なんとオーロラ姫。 偶然はドラマを生む。 なんてことはありえないんだな。 そのあと、少しだけ彼女と話し、お茶を飲んで別れた。 彼女と2人っきりの空間で話をしたのは、 あとにも先にもこの日だけ。 僕の思いは、オーロラの光のように、儚く消えていった。<シーン2/先端科学研究所(実験室)>(SE〜ラボの環境音)女性: 「あら?今日は先輩と2人だけ?」男性: え? あ、そうか。 今日は休日だったっけ。 最近はみんな、休日は休んでるからなあ。 当たり前か。 待てよ。 オーロラ姫は・・・彼女は・・ 全然休んでないんじゃないか。 嫌な予感。 不安が心をよぎる。女性: 「お腹すかない? なんだか血糖値が下がってきちゃったみたい」男性: 「ああ、もうこんな時間じゃないか。 夢中になって観測してると、時間も忘れちゃうんだな」女性: 「そうよぉ。 相対性理論でいうタイムマシンの原理ね」男性: なんか違うような気もするけど。 ああ、体の疲れがピークだ。 力を抜くと瞼が閉じていく。 そのとき・・・(SE〜人が倒れる音とガラスの割れる音)男性: 「オーロラ姫!?」 大きな音に目を見開くと・・ 高性能天体望遠鏡が床に倒れ、 その上にオーロラ姫が横たわっていた。 顔色は失せ、急激な発汗と震え。 これは・・・低血糖症だ。 やがて、痙攣が彼女を襲う。 そのまま意識を失った。 少しためらいながら、僕は彼女を抱き起こす。 そのまま仮眠室のベッドへ。 だが、ほどなく、脈が早くなり、呼吸が荒くなる。 そして・・呼吸音は聞こえなくなった。 まずい。 こんなときは・・・ わかっている。大学時代、ライフセーバーをやっていた。 戸惑っているときではない。 オーロラ姫の首を軽く後ろに傾けて、下あごを持ち上げる。 気道を確保してから、唇を合わせて、息を吹き込んだ。 その間に、胸が落ちるのを確認する。 人工呼吸を2回するごとに、呼吸と脈拍をチェック。 僕はオーロラ姫の呼吸が回復するまで人工呼吸を続けた。<シーン3/病院のベッド>(SE〜心電図の音)女性: 「起きて・・・ねえ、起きて」男性: え? ここは・・・病院?女性: 「あなたまで倒れないでよ」男性: 思い出した。 僕は、オーロラ姫に人工呼吸で救命措置をしたあと、 救急車を呼んで病院に運んでもらったんだ。 そうか、付き添っているうちに、僕も眠っちゃったんだな。女性: 「ERドクターに言われたわ。 呼吸が戻ったのは、適切な救命措置のおかげだって」男性: 救命措置・・・女性: 「先輩が迅速に人工呼吸と心配蘇生をしてくれたから 後遺症もなくこうして生きていられるのね」男性: 「それは・・・たまたま僕が以前ライフセーバーだったから」女性: 「ううん。 オーロラ姫を死の眠りから目覚めさせてくれたのは 王子様のキスでしょ」男性: 「え・・・」■BGM〜「インテリアドリーム」女性: 「ありがとう」男性: 「そんな・・お礼なんて」女性: 「今度は、起きているときにしてね」男性: 「ええっ?」男性: そう言ったあと、彼女はいたずらっぽく笑う。女性: 「私、もう少し自分の体を大切にするわ」男性: 「うん。それがいい」女性: 「ああ、病院の硬いベッドじゃなくて、 おうちのリクライニングベッドで眠りたい」男性: 「ああ、あれ」女性: 「そう・・」2人で: 「オーロラ!」女性: 「先輩も、ベッド変えたら?」男性: 「うん、考えてたんだ」女性: 「先輩の給料なら、もっと上位機種にも手が届くでしょ」男性: 「いやいや。僕も自分の身の丈に合わせてオーロラさ」女性: 「へえ〜、そうなんだ」男性: 「僕は所詮ポスドクだし、研究員の給料なんて君もよく知ってるだろ」女性: 「じゃあ、2人合算すれば、アップグレードできるかしら」男性: 「えっ?」 言ったあと、オーロラ姫は下を向いてはにかんでいる。 ひょっとして、僕は王子様になれるのかな。 顔色が戻ってきた彼女の頬は薄紅色に輝いていた。
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ボイスドラマ「オーロラの彼方に」前編
オーロラを実際に見たことがありますか?夜空に揺らめく幻想的な光のカーテンは、まるで地球からの贈り物のように美しく、見る者の心を奪います。本作の主人公は、そんなオーロラに魅せられた女性研究者。彼女は科学の視点からオーロラを追い求めていますが、研究に没頭するあまり、睡眠障害に悩まされています。そんな彼女を密かに見守る先輩研究者との何気ない日常と、ある“運命的な出会い”が彼女の未来を少しずつ変えていきます。この物語は、天文学と家具が交差するちょっと不思議なラブストーリー。果たして「オーロラ姫」は、心休まる眠りを手に入れることができるのでしょうか?登場人物のペルソナ・女性(26歳)=大学院生で天文学を専攻。太陽風と地球の磁場の相互作用によって生じるオーロラについての研究に没頭している。最近、研究のプレッシャーと不規則な観測スケジュールにより、睡眠障害に悩まされている。オーロラの研究にのめり込みすぎているため、周りからは尊敬と揶揄をこめて「オーロラ姫」と呼ばれている(CV:桑木栄美里)・男性(28歳)=女性と同じ大学院で天文学を研究している先輩。博士号終了後も国立天文台からのオファーを蹴ってポスドク(博士研究員)としてキャリアを積んでいる。「オーロラ姫」のことを慕っているが、なかなか言い出せないでいる(CV:日比野正裕)【Story〜「オーロラの彼方に/電動ベッド『オーロラ』/前編」】<シーン1/先端科学研究所>(SE〜ラボの環境音)男性: 「日本でオーロラ? そんなの・・無理だよ」女性: 「無理じゃない! だって、最近の太陽フレア、異様に活発化してるの知ってるでしょ」男性: 「そうだけど、地磁気のデータ見ててもそこまでじゃないと思う」女性: 「20年前には、実際に観測されてるわ」男性: 「あのときはすごく長い時間、磁気嵐が吹いてたからね」女性: 周りのみんなは私を見て笑う。 ここは、大学の先端科学研究所兼観測所。 私は大学院生として天文学を専攻しながら、オーロラの研究に没頭している。 オーロラ。 誰もが知っている、幻想的な大気の発光現象。 太陽風に運ばれたプラズマが電離圏の分子や原子と衝突して発光する。 ”太陽風”なんて、ロマンティックな言葉。 太陽の黒点で爆発が起きると、プラズマが吹き出すの。 真空の宇宙空間を吹き抜けていく”神秘の風”。 太陽の風と地球の磁場が作り出す、光のカーテン。 ああ、だめ。 オーロラのことを話し出すと、止まらないわ、私。 だから、研究所のみんなは、私のことを『オーロラ姫』と呼ぶ。 名前通り、私の研究課題は、オーロラの発生メカニズムとその予測モデルの開発。 どちらも結構いいところまできてるんだけどなあ。 でも私、オーロラにのめり込むあまり、 眠るのを忘れて、いまや睡眠障害。 研究のプレッシャーと不規則な観測スケジュールが原因ね。男性: 「なんか、顔が疲れてるよ。 大丈夫?オーロラ姫」女性: あ〜。やっぱ、わかるよねえ。顔に出ちゃうんだもん、疲れが。 彼は天文学の博士号を持つポスドク、つまり博士研究員。 短期契約を結ぶ前は国立天文台の研究機関にいたそうだ。 ま、つまり天文学のエリートね。 天才肌って感じ。男性: 「今夜はもう帰って休んだら? 明日また夕方からくればいいじゃん」女性: 「そっか。まあ、昭和じゃないしね。 でも、帰ってもなかなか眠れないんだなあ」男性: 「不眠症?ストレスで?」女性: 「う〜ん。 毎日好きな研究に打ち込んでるんだから、ストレスじゃないと思う」男性: 「好きなことやってたって、こん詰めれば精神はダメージ受けるよ」女性: 「かもね」 彼は小さく笑って、データ解析室を出ていった。 2歳年上の先輩。 なのに私、タメ口だ。 それは、彼が『みんな仲間なんだからタメ口でいいよ』 って言ったから。 私は、観測室へ行き、大型望遠鏡を覗く。 最近、太陽活動が活発化している。 「太陽フレア」と呼ばれる爆発が、強い太陽風を地球に送り込む。 オーロラが見られるのは、緯度60°から70°の極地だけ。 だけど、異変を感じているのは私だけじゃない。 北海道・陸別町(りくべつちょう)の天文台で働く友達からも連絡があった。 地磁気のデータが面白いことになっているって。 ああ、ちょっと疲れたかも。 帰るか。 でもきっと、帰っても眠れないな。 <シーン2/インテリアショップ>(SE〜インテリアショップの環境音)男性: 「あれ?」女性: 「あ・・・」男性: 「珍しいところで会うね」女性: そう。ポスドクの彼に会ったのは、インテリアショップ。 ホントは心療内科へ行こうかと思ってた。 でも、言われることはわかりきってるし・・ って思って歩いてたら、目の前にインテリアショップがあったんだ。 で、お店の前のタペストリーの商品が目に焼きついた。 電動リクライニングベッド。 あ、なんか気になる。 しかも、ようく見たらそのネーミングは・・ ”オーロラ” 思わず口角が上がる。 私を呼んでるの? なんて、思ったときに、彼の声が耳に飛び込んできた。 男性: 「そっかぁ。眠れないって言ってたよね。 しかも・・ああ、この名前。 そうかそうか」女性: 彼も笑いをこらえてる。 いやあね。 私とおんなじとこでハマらないで。男性: 「ほら、見てみて。 2モーターだって。 背中と脚が別々に動かせるんだね」女性: ああ、そういうこと? ベストポジションを探れるってことか。 ちょっと脚を高めに上げれば、無重力に近づけるかな。 でもそんな高機能なリクライニングベッドなんて 研究員の薄給じゃ買えないわね、きっと。男性: 「これなら、僕の給料でも買えそうだ」女性: あ、ホントだ。 ひょっとして、心療内科へ行かなくて正解だったかも。 ひととおり、リクライニングベッドに寝てみてから 私と彼は、お茶を飲んで別れた。<シーン3/先端科学研究所>(SE〜ラボの環境音)男性: 「北海道?」女性: 「うん。行ってみようと思うの。 さっき所長に言って、思い切って休みをとったから」男性: 「そうか。観測と解析に明け暮れてたから、いい休息になるんじゃない」女性: 「だといいけどね」男性: 「最近、ちょっとだけど顔色も復活したかな?」女性: おっと。鋭い。 彼と一緒に見つけた、私と同じ名前のベッド。 電動リクライニングベッド『オーロラ』。 あれから速攻で購入したんだ。 なんとなくだけど、睡眠サイクルがよくなった気がする。男性: 「北海道のどこ?」女性: 「陸別町(りくべつちょう)。 そこの天文台に友達がいるの」男性: 「え、それじゃ、仕事と変わらないじゃん」女性: 「違うわ。気分転換よ」男性: 「さすが、オーロラ姫だ」女性: 「ふん。どうせそうよ。 いいの、思いっきりリフレッシュしてくるから。 移動手段なんて、北海道新幹線のグランクラスよ」男性: 「そ、そんなゴージャスな一人旅なんだ・・」女性: 「1人って決めつけないで」男性: 「1人じゃないの・・・?」女性: 「1人だけど」男性: 「うん、いいじゃないか。行ってらっしゃい」女性: 出かける前に見た彼の表情は、暖かかった。 なんだか安心したように。 宣言通り、私は北の大地へ旅立った。<シーン4/北海道・陸別町の天文台>(SE〜吹雪の音/電話のコール音)男性: 「おめでとう。君のいう通りだったね。 やっぱり君は、オーロラ姫だ」■BGM〜「インテリアドリーム」女性: 2023年12月1日、北海道で低緯度オーロラが観測された。 肉眼でも確認できるほど、明るい光が夜空を赤く染めていく。 2003年10月以来、約20年ぶりの天体発光現象。 光のカーテンの向こうを ピークを迎えたペルセウス座流星群が光の軌跡を描く。 私は、幻想的な天体ショーに見惚れていた。 それは私の開発した予測モデルが証明された瞬間。 これでまた当分、『オーロラ姫』という称号は消えないな。 ふふ、私らしいわ。 睡眠障害から少しだけ解放された”暁の女神”。 女神からの贈り物は、最高の輝きを放っていた。
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ボイスドラマ「嫁入りトラックに乗って」後編
30年の時が流れました。かつて「嫁入りトラックなんて絶対に嫌!」と叫んでいたハルナも、今や一人の母親。そんな彼女の娘・えみりが、名古屋へと嫁ぐ日がやってきました。「時代が変わったら、伝統も変わる?」「親の想いは、どうやって受け継がれていくの?」30年前と今、母と娘、それぞれの立場で迎える“嫁入り”の物語。時代を超えて紡がれる、家族の愛のかたち。どうぞ最後まで見届けてください。◾️登場人物のペルソナ(※設定は毎回変わります)・お嫁さん(23歳)=ハルナ・・・東京の大学時代に知り合った彼と婚約(CV:ハルナ)・お婿さん(23歳)=マサヒロ・・・浅草生まれ浅草育ちの生粋の江戸っ子(CV:日比野正裕)・嫁の母(44歳)=エミリ・・・名古屋生まれ名古屋育ち(CV:桑木栄美里) ↓・お嫁さん(30年後=54歳)=ハルナ・・・結婚してから30年目。娘が嫁いでいく・お嫁さんの娘(29歳)=えみり・・・東京の同棲していた彼と結婚して名古屋へ・娘の彼氏(27歳)=まさひろ・・・娘と同棲していたが心機一転名古屋で彼女の両親と同居へ<シーン1/嫁入りの日>(SE〜菓子まきの音)エミリ: 「嫁入りよぉ〜!」ハルナ: 「もう、おかあさん!恥ずかしい!」エミリ: 「なにが恥ずかしいもんかい。 私もここへ嫁ぐ日は、こうやって母さんに送り出してもらったし、 私の母さんも、母さんの母さんに送り出してもらったんだよ」ハルナ: 「でも、恥ずかしい」マサヒロ: 「嫁入りよぉ〜!」ハルナ: 「あなた!」エミリ: 「あなた、きちゃだめじゃないの、式の前に」マサヒロ: 「す、すいません。お二人じゃ大変だろうと思って」ハルナ: 「おかあさん、なにニヤニヤしてんのよ」エミリ: 「ううん、思い出しちゃってさ。 私が嫁ぐ日の朝、とうさんの家じゃちょっとした騒動が起こってたんだ」ハルナ: 「どんな騒動?」エミリ: 「新郎がいなくなったぞぉ、って」ハルナ: 「ええええええええ?」マサヒロ: 「それって・・・」エミリ: 「そう。いまのあなたと同じよ」ハルナ: 「おとうさんもおかあさんちに来ちゃったんだ」エミリ: 「うん。でもうちの親はしきたりに厳しかったから、 ”縁起悪い!””式は中止だ!”なんてわめき散らして」ハルナ: 「おじいちゃん、気が短かったもんねえ」エミリ: 「おばあちゃんもよ」マサヒロ: 「はは・・・」エミリ: 「裏口から、そっと追い出して。 ”いいか、見つかったら問答無用で破談だからな”って」ハルナ: 「おどしじゃん、それ」エミリ: 「で、こそこそ抜け出してったら、 近所の子どもに見つかっちゃって」ハルナ: 「あ〜あ」エミリ: 「それがね。菓子まきの手伝いだと勘違いされて、 ず〜っと追いかけられたんだって」ハルナ: 「おとうさんらしい」マサヒロ: 「ボ、ボク、裏口から出ていきます」エミリ: 「いいのいいの。あなたは誰にも顔なんて知られていないから。 それに、もうそんな時代じゃないでしょ」ハルナ: 「おかあさん、なんか、熱でもあるの」エミリ: 「もう〜」マサヒロ: 「あのう・・・」エミリ: 「なあに?」マサヒロ: 「どうして縁側に家具や着物が置いてあるんですか?」エミリ: 「ああ、あれ? 本当はね、嫁入りトラックがお婿さんちに着いたら そこの縁側に並べるのがしきたりなのよ」マサヒロ: 「うちの?」ハルナ: 「無理じゃん、アパートだし」エミリ: 「でしょ。 だから、うちの縁側へ置いたの」ハルナ: 「へええ」エミリ: 「ご近所さんたちみんなから、 ”立派な桐の箪笥だわ”とか”ええもんしつらえたなあ” とかって、まあ、ものすごい評判よ」ハルナ: 「おべんちゃら言われて、ご祝儀渡したんでしょ」エミリ: 「当たり前じゃない。 ほら、あんたたちもこれ持って行きなさい」マサヒロ: 「なんですか?」エミリ: 「ご祝儀袋に決まってるでしょ」ハルナ: 「なんで、そんなもんがいるの?」エミリ: 「なに言ってんの? 嫁入りトラックは、バックできないって言ったでしょ」マサヒロ: 「え?」エミリ: 「だから、細い道とかにさしかかると、周りの車は必ず道を譲ってくれるわ。 そのときに、ご祝儀を渡すのよ」マサヒロ: 「すっごいなあ」(※以下カット)ハルナ: 「おかあさん、嫁入りトラックって、まさかあの路地に停まってる?」エミリ: 「そうよぉ」ハルナ: 「あの、ガラス張りのトラック〜?」エミリ: 「もっちろん。 今日は大安吉日だから、空いてるスケルトントラックを見つけるの 大変だったんだから」ハルナ: 「中の荷物丸見えじゃん」エミリ: 「だからいいのよ。 こんなに立派な嫁入り道具を持って嫁ぎます、 って道ゆく人みんなにわかるでしょ」ハルナ: 「いやだぁ〜、そんなの。私、アパートまで歩いていく」エミリ: 「ばか言わないで。 あなたは、文金高島田で、嫁入りタクシーに乗るの」ハルナ: 「嫁入りタクシ〜?」マサヒロ: 「ひょっとして、トラックの後ろに停まってる黒塗りの?」エミリ: 「ご名答〜。ツバメタクシー呼んどいたから。 後ろの扉が上に跳ね上がって、カツラのままですっと乗り込めるわよ」マサヒロ: 「ガ、ガルウィングドアって・・・ ランボルギーニか・・・」ハルナ: 「やだぁ、またまた目立っちゃう」エミリ: 「ちょっと、しっかりしなさい。 あなた、名古屋の花嫁なのよ。 もっと、胸を張って」マサヒロ: 「すごいな、名古屋」エミリ: 「さあ、もう時間よ。 準備しなさい」ハルナ: 「わかった・・」エミリ: 「おとうさんの写真も持って」マサヒロ: 「僕が持ちます」エミリ: 「ああ、お願いね」マサヒロ: 「はい!」エミリ: 「嫁入りよぉ〜!」マサヒロ: 「嫁入りよぉ〜!」(SE〜菓子まきの音と近所のみなさんの拍手喝采)(※ここだけ、途中から30年後の娘のモノローグへ)ハルナ: こうして、私は、誉れ高い名古屋の花嫁となった。 時は移り、30年後。 いまはもう、嫁入りトラックも嫁入りタクシーも なくなっちゃったけど、気持ちは変わらない。<シーン2/30年後/母の家に住む娘は53歳になり、この日子どもが嫁いでいく>(SE〜自宅の雑踏/小鳥のさえずり)えみり: 「ママ、そろそろ時間」ハルナ: 「もうそんな時間? 早いわねえ」えみり: 「早くないわよ、ギリギリなんだから」ハルナ: 「ふふ。早いわよ。時間(とき)が経つのって」まさひろ: 「こんにちは・・・」ハルナ: 「来たわねえ、やっぱり婿さんが」えみり: 「え?」ハルナ: 「昔はね、式の前にお婿さんが花嫁さんに 顔を見せるのは縁起悪いって言われてたのよ」まさひろ: 「そうなんですか、すみません」ハルナ: 「いいのいいの」えみり: 「そんなの迷信でしょ」ハルナ: 「そ、迷信。 大切なのは、あなたたちが、どれだけ幸せになれるかってこと」まさひろ: 「はい」えみり: 「幸せよ、思いっきり」ハルナ: 「そうね。 結婚式、私のわがまま聞いてくれてありがとうね」まさひろ: 「そんな。わがままじゃないです。 おかあさんに、いろいろ全部用意してもらっちゃって」えみり: 「ちょっとレトロだけどね」ハルナ: 「だって、決めてたんだもの。 娘が結婚するときは、菓子まきをやって。 みんなで嫁入りトラックに乗って式場まで行くって」まさひろ: 「楽しみにしてたんですよ、嫁入りトラック。かっこいいなあって」ハルナ: 「そう?ありがとう」まさひろ: 「こちらこそ。ありがとうございます!」えみり: 「トラックじゃないじゃん。ミニバンでしょ。しかもEVの」ハルナ: 「だって、トラックじゃ揺れるからダメでしょ。 荷物もあなたも」えみり: 「ひどい、荷物と一緒にしないで」まさひろ: 「本当に何から何まですみません」ハルナ: 「さあ、乗って。 おばあちゃんの写真も持って」まさひろ: 「僕が持ちます」ハルナ: 「ふふ。それじゃあ行きましょ、3人で」えみり: 「4人よ、ママ」ハルナ: 「ああ、そうだったわね。 おめでとう。幸せになるのよ」(※2人同時に言って笑う)えみり: 「はい!」まさひろ: 「はい!」ハルナ: 少しだけ目立つようになったお腹をさすりながら 私とお婿さんに挟まれて、娘の笑顔は幸せに包まれていた。
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ボイスドラマ「嫁入りトラックに乗って」前編
結婚。それは人生の大きな節目であり、家族の文化や価値観が交差する瞬間でもあります。名古屋には「嫁入りトラック」という独特の風習があります。紅白幕を張ったトラックに嫁入り道具を載せ、ご近所に菓子をまきながら、新しい家庭へ向かう――。派手で豪快なこの風習に、「そんなの時代遅れ!」と驚く若者もいれば、「昔は当たり前だったよ」と懐かしむ人もいるでしょう。この物語は、東京育ちのハルナと、生粋の江戸っ子マサヒロ、そして伝統を重んじる名古屋の母・エミリが織りなす“嫁入り騒動”の一幕です。「伝統って、なんのためにあるの?」「本当に必要なものって、なんだろう?」笑いあり、涙ありの家族の物語を、どうぞお楽しみください。◾️登場人物のペルソナ・お嫁さん(23歳)=ハルナ・・・東京の大学時代に知り合った彼と婚約(CV:ハルナ)・お婿さん(23歳)=ヒビノ・・・浅草生まれ浅草育ちの生粋の江戸っ子(CV:日比野正裕)・嫁の母(44歳) =エミリ・・・名古屋生まれ名古屋育ち(CV:桑木栄美里)【Story〜「嫁入りトラックに乗って/婚礼家具/前編」】<シーン1/自宅リビングにて>(SE〜戸建て/庭に小鳥のさえずり)ハルナ: 「嫁入りトラック〜!? ないないないない。ありえない」エミリ: 「なにを言ってるの。 結婚するときは、菓子まきをして嫁入りトラック。 あたりまえでしょう」ハルナ: 「そんな恥ずかしいこと、絶対にいやだぁ」エミリ: 「恥ずかしいことなんてありません。 みんなやってるんだから」ハルナ: 「うえ〜ん。あなたも、なんか言ってよぉ」マサヒロ: 「あのう、おかあさん。 新居のアパート、前の道は細いのでトラックなんて入れないかも・・」エミリ: 「まだあなたから”おかあさん”と呼ばれる間柄じゃありません!」マサヒロ: 「す、すいません」ハルナ: 「あやまらないで〜。しっかりしてぇ。江戸っ子でしょ」エミリ: 「あなたには名古屋の文化を一度教えてあげないといけないわね」マサヒロ: 「は、はい」ハルナ: 「はい、じゃない」エミリ: 「名古屋人はね、普段は倹約をしてつましく暮らしているの。 だけど、いざというとき。 例えば、娘を嫁にだすときね。 嫁ぐ娘に惨めな思いをさせないために 一生分の荷物を持たせて送り出すのよ。 それが、尾張徳川家のお膝元、名古屋の嫁入りなんです」ハルナ: 「それ、江戸時代の話でしょ」エミリ: 「とにかく! 嫁入りするときは紅白幕の嫁入りトラック! 道が細かろうとなんだろうと新居までたどり着きます!」マサヒロ: 「う・・・」エミリ: 「これも覚えておきなさい・ 嫁入りトラックっていうのは、どんなに道が細くても、前進あるのみ! 間違ってもバックなんてしませんから!」ハルナ: 「雨降ったらどうするのよ」エミリ: 「ハレの日に雨なんて降りません!」<シーン2/家具屋さんにて>(SE〜家具屋さんの商談デスクにて)エミリ: 「絶対にダメです! 桐箪笥と三面鏡と羽毛布団。 この3つがなくて、娘を嫁に出せますか!」ハルナ: 「だーかーらー、江戸時代じゃないんだって。 新居だって、戸建てじゃなくて小さなアパートなんだから」マサヒロ: 「あ、おかあさん。 実は新居には作りつけの収納もあるんです。 それに狭い2DKなんで、箪笥やドレッサーはちょっと・・」エミリ: 「だからまだ”おかあさん”と呼ばないで!」マサヒロ: 「す、すいません」ハルナ: 「毎回謝るなっつーの」エミリ: 「私も、私の母も、そのまた母も、代々み〜んな 名古屋で生まれ、名古屋で育ったんです。 東京もんの余所者に、名古屋のしきたりについて あれこれ言われたくありません!」マサヒロ: 「は、はい」ハルナ: 「ちょっとぉ!しっかりしてよ!江戸っ子なんでしょ」マサヒロ: 「そんな、君まで江戸っ子とか、時代劇みたいなこと言わないでよ」エミリ: 「ごちゃごちゃ言ってないで。 ああ、お父さんが生きてたら、こんな、余所者にバカにされることなんて なかったのに。よよよ・・・」ハルナ: 「やめてよ、おかあさん。 家具屋さんも困っちゃってるじゃん」エミリ: 「あらそう、家具屋さん。 じゃあさっきの桐箪笥、もういっかい見せてちょうだい」ハルナ: 「あ〜あ。 ん?ちょっ、おかあさん、これ。よく見てこれ」マサヒロ: 「お、おお」ハルナ: 「この値段、わかって言ってるの!? 桁間違えてない?」エミリ: 「笑止。なに言ってるんだか。 これは一枚板の桐無垢なの。 あなたの孫の代まで使える逸品なのよ」マサヒロ: 「へえ〜」エミリ: 「さああなた。 引き出しを開けてみなさい」マサヒロ: 「は、はい」ハルナ: 「なに、言うこと聞いてんのよ」マサヒロ: 「だって・・・」(SE〜引き出しをすうっと開けて、すうっと閉める=音はしないかも)マサヒロ: 「うわ、すごい」エミリ: 「でしょう。 引き出しの中に服がぱんぱんに入ってても、 すう〜っと入って、ふわっと出てくるのよ」マサヒロ: 「ほう〜」ハルナ: 「感心しないで」エミリ: 「最高級の桐箪笥だから釘なんて一本も使ってないでしょ」マサヒロ: 「ほんとだ」エミリ: 「凹凸の楔を組み合わせて作ってあるの」マサヒロ: 「そうなんだぁ」エミリ: 「それに、名古屋の夏は蒸し暑いでしょ」マサヒロ: 「はい、ちょっとびっくりしました」エミリ: 「湿度が高いと、服って傷みやすいのよ。 でもね、桐の箪笥は呼吸をしてるから」マサヒロ: 「呼吸?」エミリ: 「そうよ。呼吸をする。つまり生きている桐は 箪笥の中の湿度を一年中一定に保ってくれるのよ」マサヒロ: 「中にしまった服を守ってくれるんですか」エミリ: 「そうよぉ」ハルナ: 「もう〜。感心してる場合じゃないでしょ。 値段をもっと見なさい。値段を」マサヒロ: 「江戸っ子はね、お金にこだわらないんだよ」エミリ: 「ほお〜」ハルナ: 「あなた、どっちの味方なの!?」マサヒロ: 「別に敵味方じゃないでしょ。家族になるんだから。 おかあさんと家具屋さんの話も聞いてみようよ」エミリ: 「あなた、なかなか話せるじゃないの」マサヒロ: 「申し訳ありません。出過ぎたことを言って」ハルナ: 「ほんとにね」エミリ: 「いい加減にしなさい」マサヒロ: 「ほかにもあるんですか?」エミリ: 「嫁入り道具〜?もっちろんあるわよ」ハルナ: 「ちょっとちょっと。油注いでるって」エミリ: 「こっち来て。見てみなさい」マサヒロ: 「三面鏡・・ですか?」エミリ: 「そう。三面鏡。 鏡はね、正面と右、左にないとだめ」マサヒロ: 「どうしてですか?」エミリ: 「着物を着るとき。 三面鏡でないと、後ろの襟元や帯が見えないじゃない。 裾が左右対称になってるか、シワやたるみがないか。 せっかく素敵な着物を着ておでかけしても 後ろ姿が整ってなきゃ台無しでしょ」マサヒロ: 「なるほど」ハルナ: 「ふん、着物なんて着ないからいいもん」エミリ: 「着るわよ」ハルナ: 「どこで?」エミリ: 「あなたに子どもが生まれたら? 七五三はお着物でしょ。 入学式に卒業式。 小学校。中学校。高校。大学もかしら」マサヒロ: 「そうですね」エミリ: 「成人式は、振袖に訪問着。 親子で着物なんて素敵ねえ。 そのうち、いまのあなたみたいに未来の夫を連れてきて。 結納。結婚式。 着物で行くでしょ」ハルナ: 「あ・・」エミリ: 「それから・・・ 私のお葬式」ハルナ: 「やめてよ!」■BGM〜「インテリアドリーム」エミリ: 「嫁入り道具も、トラックも、菓子まきも み〜んな、あなたに幸せになってほしいから」ハルナ: 「やめてよ・・・」マサヒロ: 「ありがとうございます、おかあさん!」エミリ: 「まだ、おかあさんじゃないでしょ」マサヒロ: 「はい、すみません」エミリ: 「女手ひとつでわがままに育てちゃったから きっと手はかかると思うけど、よろしくお願いします」マサヒロ: 「はい! かならず、かならず、娘さんを幸せに。 約束します!」ハルナ: 「やめてよ、あなたも・・・」マサヒロ: 「僕からもお願いしていいですか?」エミリ: 「なあに?」マサヒロ: 「嫁入りトラック、ぜひお願いします!」ハルナ: 「え・・・」エミリ: 「いい人見つけたね。 あとは、あなたたち2人の人生。 悔いのないように生きなさい」ハルナ: 「ありがとう・・・」(※以下同時に)ハルナ: 「おかあさん!」マサヒロ: 「おかあさん!」
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ボイスドラマ「デイゴの花」後編
前編では、娘が祖父と再会し、沖縄の空気の中で少しずつ「家族の絆」を感じていく様子が描かれました。後編では、祖父が語る沖縄戦の記憶、そして彼が守り続けてきたものについて描かれていきます。「ぬちどぉたから」—— 命こそ宝。戦争を生き延びた祖父が、この言葉をどんな想いで語るのか。また、旅の終わりが近づくにつれ、娘と祖父の時間はより特別なものになっていきます。別れの時、祖父は娘に何を託すのか——。登場人物のペルソナ(※設定は毎回変わります)・少年時代の祖父(5歳)・・・父とはぐれたガマで学生と知り合い助けられる(CV:桑木栄美里)・学生(14歳)・・・家具職人を目指して修行していた沖縄の学生(CV:日比野正裕)<シーン1/1945年/那覇にて>(SE〜激しい戦火の音)少年: 「このガマに、入れてください」 「逃げているときに父とはぐれてしまいました」 「いまは僕1人です」 「もしお邪魔ならすぐに出ていきます」 「わかりました」 「おじゃましました」 学生: 「ちょっと待って」少年: あきらめて引き返そうとしたとき、 声をかけられた。 ガマの奥から現れた学生服のお兄さん。学生: 「きみ、どっから来たの?」少年: 「宜野湾です」学生: 「宜野湾から歩いてきたの?」少年: 「はい」学生: 「さあ、こっちへ来て。 僕のとなり、ちょっとつめれば入れるから」少年: ガマの中の大人はすごく嫌な顔をした。 仕方ない。 だって今はみんな生きるのに必死だもん。 ボクだって、弾に当たらないようにしながら ここまで一生懸命走ってきた。 オトゥーは途中の村でボクを先に行かせていなくなった。 絶対に後ろを振り返るな、と言われたから、 言うことをきいて、前だけを見てここまできた。 だけど、この辺鉄砲の音がいっぱいしてるから 怖くなって、ガマへ逃げたんだ。 声をかけてくれたのは、お兄さんだけ。 右手に包帯巻いてる。怪我してるのかなあ。学生: 「もう大丈夫だよ」少年: 「ありがとうございます」学生: 「はい、これ食べて。周りの人にはナイショだよ」少年: お兄さんは、小さくちぎった魚の干物をボクに手渡した。 これは、ハマダイかなあ。 小さすぎて、なんの魚だかもうわかんない。 僕が干物を口に入れたとき、 お兄さんのお腹がぐぅと鳴った。 え? お兄さん、これ、お兄さんの晩御飯じゃないの? お兄さんは人差し指を口にあてて しいっというジェスチャーをした。 笑いながら、僕の耳に口を近づけて囁く。学生: 「兵隊がいなくてよかったね」少年: 「え?どうして?」学生: 「あいつらがいたら、子供なんて絶対追い出される」少年: 「兵隊さんはウチナンチュを守ってくれるんじゃないの?」 僕も小さな声で、お兄さんの耳にささやく。学生: 「守ってくれたら、沖縄がこんな風になってると思うかい」少年: 「え」 その先、言葉が続かない僕に、お兄さんは自分のことを話してくれた。 お兄さんは家具職人になりたいのだという。学生: 「沖縄の家具ってのはね、美しくて、優しくて、 涼しくて、あったかいんだよ」少年: 涼しくて、あったかい?へんなの。学生: 「素材は琉球松とかイヌマキ。耐久性があって湿気にも強い。 イヌマキは首里城にも使われてるんだぞ。 最高の素材を使って最高の座卓や箪笥を作りたいなあ。 紅型(びんがた)で染めた風呂敷を座卓にかけるのもいいな。 シーサーをおく棚は格子にして風通しをよくしよう」少年: 周りの大人たちは、おでこにシワを寄せて怖い顔をしてるのに お兄さんはなんだか楽しそうだ。学生: 「あーあ。なりたかったなあ。家具職人」少年: え?なるんじゃないの。 さっき、戦争が終わったら家具職人になる、って言ってたよ。学生: 「家具職人になりたかったけど・・・ このガマに入る前はね、戦争の道具を作ってたんだ。 ほら、家具職人ってみんな手先が起用だろ。 だから、仕事をやめて弾薬箱とか作らされるんだよ。 家具は、人を幸せにするもの。 家族の絆をつむぐもの。 なのに、僕たちは人を殺す道具を作っていたんだ」少年: さっきまで優しい顔をしていたお兄さんが だんだん険しい形相になってくる。 お兄さん、やめて。そんな話。 小さい声でも周りの大人に聞こえちゃうよ。学生: 「ああ、そうだった。ごめんごめん。 もっと楽しい話をしよう」少年: 「うん」学生: 「君はここを出たら、家具職人にならないか」少年: 「ボクが?」学生: 「人を殺す道具じゃなくて、人を幸せにする家具を作るんだ」少年: 「お兄さんはもう家具を作りたくないの?」学生: 「そりゃ作りたいさ。ここを生きて出られたら」少年: お兄さんの話はそこで終わった。 それからボクたちは何日ガマにいただろう? 食べるものもだんだんなくなって、入口近くにあった 草の根っこも全部食べ尽くしちゃった。 お腹が減ったなあ。おにぎり腹一杯食べたいなあ。 そんなとき、お兄さんは落ちてる枝でいろんなものを作ってくれた。 それは木でできたおもちゃ。 カエルとか魚とか犬とかニワトリとか。 すごいな、お兄さん。 今日はちょっと長い木の枝を持ってきて 周りの小枝を削って一本の棒にした。 なんだろう? 不思議な顔して眺めていると、 お兄さんは自分の下着を破いた。 ちょっと黒ずんだ白いシャツ。 え?そんなことしたら着れなくなっちゃうよ。 白い部分を木の棒に巻きつけて旗みたいにした。学生: 「このあと、これを大きく振って外へ出るんだよ」少年: 「どうして?弾に当たっちゃうよ」学生: 「大丈夫。もう外で銃弾の音はしていない」少年: 「そうなの?」学生: 「この前、ガマにビラが投げ込まれただろ」少年: 「ビラってなに?」学生: 「文字を書いた紙だよ」少年: 「ふうん」学生: 「そこにはね、こう書かれていたんだ。 隠れているみなさん、戦争はもう終わりました。 出てきてください。 もう少ししたらガマに爆弾を投げ入れますから 早く出てきてください。 って」少年: 「うそだ」学生: 「うそじゃないよ。 今までずっとうそをついていたのは、僕たちが信じていた方さ」少年: お兄さんはそう言って僕をガマの外に追い出した。学生: 「いいかい。どんなに大きい音がしても、絶対に振り返っちゃいけないよ」少年: オトゥーと同じことを言う。 ボクはボロボロの白い旗を振って外へでた。 外で待ち構えていたアメリカ兵は すぐにボクを抱き抱えて走り出す。 背中からものすごく大きな音と強い風がやってきた。■BGM〜「海唄」祖父: こうして私は家具職人になった。 美しくて、優しくて、 涼しくて、あったかい家具を作り続ける。 人を幸せにする家具。 家族の絆をつなぐ家具。 棚や箪笥の上には、必ずシーサーを置く。 大切な人をいつまでもいつまでも守ってほしい。 愛する孫娘のことも。 ”いちゃりばちょーでー” みんなに守られて、幸せになるんだよ。 これから、どんな時代がやってきても忘れてはいけない。 ”ぬちどぉたから”
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ボイスドラマ「デイゴの花」前編
『デイゴの花/IROTTA CHICと沖縄へ』は、夏の沖縄を舞台にした、家族の絆と記憶をめぐるお話です。14歳の娘が父に連れられ、母の故郷である沖縄を訪れる夏休み。そこで彼女は、沖縄の美しい風景と、おじいちゃんの優しさに触れながら、「家族とは何か」「命の大切さとは何か」を感じていきます。この物語には、沖縄の文化や風習、そして家具職人である祖父が大切にしてきた「ものづくりの精神」も込められています。さらに、インテリアアートや家具を通して、家族の思い出が色濃く描かれています。■ストーリー案「デイゴの花/IROTTA CHICと沖縄へ」篇(※)登場人物のペルソナ(※設定は毎回変わります)・娘(14歳)・・・父に連れられて、母の実家がある沖縄へ戻った夏休みの一コマ(CV:桑木栄美里)・父(45歳)・・・沖縄出身の妻と東京の大学で知り合って結婚し名古屋に住む(CV:日比野正裕)・祖父(84歳)・・・母方の祖父。沖縄戦体験者(当時5歳)(CV:日比野正裕)【Story〜「デイゴの花/IROTTA CHICと沖縄へ/前編」】<シーン1/那覇空港>(SE〜飛行機の離陸音〜案内放送「みなさま、当機はまもなく沖縄・那覇へ到着します」)娘: 「もう着いたの?パパ」父: 「ああ、セントレアからたった2時間と25分だからな」娘: 「おじいちゃんに、早く会いたいな」父: 「もうすぐだよ」 (SE〜空港の雑踏/走っていく子供の足音)娘: 「あ〜本当だぁ」祖父: 「めんそーれ」娘: 「おじいちゃん!」祖父: 「ようきたなあ」娘: 「ただいまぁ!」祖父: 「おかえり!」娘: 「会いたかったぁ」祖父: 「おじーもさあ。もういくつになったんだい?」娘: 「14だよ。中学2年生」祖父: 「そうかあ、14か。そうかあ」娘: 「おじいちゃんにプレゼント持ってきたんだ」祖父: 「なんだろう」娘: 「はい、これ」祖父: 「おっきい包みだねえ」娘: 「あけてあけて、早く」◾️がさごそと包みを開けると祖父: 「これは・・・」娘: 「デイゴの花、の絵だよ。インテリアアート」祖父: 「満開やっさー」娘: 「おじいちゃんちも咲いてる?」祖父: 「デイゴはもう散っちゃったよ。 この絵みたいに満開だと台風がくるかもなあ」娘: 「台風?」祖父: 「ははは。冗談だよ。冗談。 もう嵐はとっくに過ぎ去ったから。 それにしてもこの絵、なんだかキラキラしてきれいやなあ」娘: 「ラインストーンっていうの。 インテリアのお店で見つけたんだ」祖父: 「そりゃ高かったろうに」娘: 「ううん、私のお小遣いで買えたよ」祖父: 「そうかいそうかい、ありがとうなあ」娘: 「でも残念、おじいちゃんちのデイゴ もう散っちゃったんだ」祖父: 「でもな、いまはハイビスカスが咲いとるぞ」娘: 「ホント?早くみたぁい!」祖父: 「よしよし、じゃあ行こうか」娘: 「やったぁ」父: 祖父との再会を喜んだ孫娘は、祖父の手をひき、車へ向かう。 まるで父親の存在など忘れたかのように。 ひょっとしたら亡き妻の温もりを祖父に感じているのかもしれない。 私は、控えめにセダンの後部座席に乗り込んだ。<シーン2/妻の実家>(SE〜セミの声=クロイワニイニイ、クマゼミ、リュウキュウアブラゼミ、オオシマゼミ)娘: 「わあ!ハイビスカスの花!すっごくキレイ! 私、紅い花って大好き!」父: 庭のベンチに仲良く座って ハイビスカスを見ながら祖父と娘が話している。 私は、サンルーから2人を眺めていた。 ああ、サンルーというのは縁側のようなテラスのこと。 風の通り道となっていて、 ときどき気持ち良い風がクールダウンさせてくれる。 祖父は家具職人。 この家に置いてある家具もサンルーも、全部自分で作った。 沖縄の家具は風通しのいいものが多い。 なのに、木の温もり、竹の優しさが伝わってくる。 家に帰るとすぐ、祖父はサンルーの柱に娘が持ってきた絵を飾った。 娘のお気に入り。 デイゴの花とともに飾られたラインストーンがまぶしい。 その横には妻の写真が並んでいる。 何年振りかに訪れた祖父の家、妻の実家。 座卓に置かれた涼しげなデザインの琉球グラスは 冷やしたさんぴん茶が注がれている。 収納付きの座卓。 引き出し付きのベンチ。 そして、琉球畳。 沖縄の家具はいたってシンプルだけど、 人に優しい感じが伝わってくる。 私は目を閉じて、初めてここにきた日のことを思い出していた。 あの日はまだ春で、デイゴの花が咲いていたっけ。 私たちは晩婚だったから、 妻のお父さんもお母さんもとても喜んでくれた。 特にお父さんは、カチャーシーを舞いながら オリオンビールを何度も私に注ぐ。 (※この先、父は義理の祖父をお父さんと呼ぶ) 明るく酔った顔で、 ”ぬちどぉたから” と、何度も繰り返した。 そのときはわからなかったが、あとから妻に聞いてみると 『命こそ宝』 という意味だという。 そういえばお父さんが生まれたのは、1940年って言ってたから・・・ 沖縄戦・・・ そうか・・・当時5歳だったんだ。 私もオリオンビールを飲みすぎて酩酊していた。 同じように”ぬちどぉたから”と繰り返しながら 拙いカチャーシーを踊る。 記憶をたぐれば 私と目があったとき、お父さんは確かに目に涙を浮かべていた。 娘の結婚が嬉しいんだろうと思っていたけど、 なにか別の理由があったのかもしれない。 (SE〜セミの声=クロイワニイニイ、クマゼミ、リュウキュウアブラゼミ、オオシマゼミ)娘: 「おじいちゃん、箪笥の上になにかいるよ」祖父: 「あれは、シーサーさぁ」娘: 「守り神の?」祖父: 「そう。玄関だけじゃなくて、家の中も守ってくれるんだよ」娘: 「そっかぁ。 おじいちゃんはずうっと守ってもらってるんだ。 いいなぁ。 私もシーサーに守ってほしいなあ」祖父: 「もう守ってもらってるよ」娘: 「ホント?」祖父: 「ああ、今日無事におじいの家に来れたのも 毎日健康でいられるのも守られてるからなんだ」娘: 「うん、なんとなくわかる」祖父: 「学校でお友達はできたかい?」娘: 「うん・・・少しだけど」祖父: 「いちゃりばちょーでー」娘: 「なあにそれ?」祖父: 「一度会った人はみんな兄弟。 人は助け合わなきゃ生きていけんからなあ」娘: 「そうだね。 世の中の人がみんなそう思ってくれたらいいのに」祖父: 「自分がそう思わなきゃ、みんなも思えないよ」娘: 「うん・・・」祖父: 「そうだろう」娘: 「おじいちゃん!」祖父: 「どうしたんだい?」娘: 「やっぱり・・・おじいちゃん大好き!」祖父: 「そうかそうか」娘: 「冷やしもんたべた〜い!」<シーン3/那覇空港>(SE〜空港の雑踏)祖父: 「気をつけて帰るんだよ」娘: 「大丈夫だよ。だって名古屋まで2時間25分だもん。 あっという間だから」祖父: 「はは、そうか。 ああ、忘れてた。これも持っていきなさい」娘: 「なあに?」祖父: 「お前の好きなもんいっぱい入れておいたから」娘: 「え〜こんなにいっぱい?キャリーケースに入りきらないよ」祖父: 「大丈夫。到着までになくなっちゃうよ」娘: 「ひょっとして、おじいちゃんが畑で作ったゴーヤも入ってる?」祖父: 「もちろん。それだけじゃないぞ。お前が大好きな・・・」娘: 「おにぎり!?」祖父: 「そうそう。ジューシーおにぎりに・・・」娘: 「スパムおにぎり!!」祖父: 「またいつでも帰っておいで」娘: 「いちゃりばちょーでー」■BGM〜「インテリアドリーム」祖父: 「そうそう。みんな仲良くなあ」娘: 「おじいちゃん!大好き!」■SE〜飛行機の離陸音父: お父さんは私たちが見えなくなるまで手を降り続けた。 娘は瞳を潤ませて、小さなお守りを握りしめていた。 それはお父さんが娘に渡した石敢當(いしがんとう)。 親指より少し大きいくらいの、四角い石のお守り。 お父さんが自分で石を小さく切り出して、 『石敢當』の文字を書いたらしい。 みんなに守られて、幸せになるんだよ。 ”ぬちどぉたから”
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ボイスドラマ「花火」後編
離れていても、家族の絆は変わらない——そう信じていても、やはり時間の流れは、少しずつ私たちを変えていきます。後編『花火/食卓の愛』では、夢を叶えた娘と、そんな娘を支え続けた父の再会が描かれます。父の言葉に背中を押され、東京で新たな人生を歩む娘。それでも、彼女の心のどこかには、いつも「帰る場所」のことがあったのかもしれません。夏祭りの賑わいの中で、ふと感じる懐かしさ。屋台の金魚すくいに、小さな頃の思い出がよみがえる——そんなとき、そっと差し伸べられる大きな手。本作のクライマックスを、どうぞ最後までお楽しみください【登場人物】・女性(5歳/8歳/25歳)・・・子供の頃から夏祭りが大好き、雷が超怖い、3歳からクラシックバレエを習い10歳でソリスト。パリ・オペラ座バレエ学校へ入学し発表会ではプルミエ・ダンス―ルまで上り詰めた。その後パリ・オペラ座バレエ入団のオーディションは辞退。現在は東京のバレエ団で子供たちの育成に心血を注いでいる(CV:桑木栄美里)・男性(45歳/48歳/65歳)・・・遅くに生まれた末娘を溺愛。娘と一緒に夏祭りへ行くことが一番の楽しみだった。娘がパリへ行ってからは娘の帰郷を心待ちしている。ストーリーは前編後編で交錯します(CV:日比野正裕)<シーン1/娘5歳/花火大会にて>(SE〜遠くに聞こえる花火の音)娘: 「パパ、早く早く!」 父: 「そんなに急がなくても、花火はまだおわらないよ」娘: 「でも、少しでも近くで見たいんだもん」 父: 「ようし、じゃあ堤防までスキップだ!」◾️BGM(イメージ)/ルージュの伝言(荒井由実)娘: 父に手をひかれた5歳の夏。 いつも家ではつま先歩きをしているけど、今夜は特別。 目の前で花火を見たいからついつい早足になる。(SE〜花火の音/より近く)娘: 「わあ〜」 父: 「きれいだねえ」娘: 「うん、おっきなまんまる」 父: 「折りたたみの椅子、持ってきてよかったな」娘: 「もっと下の方へいきたい」 父: 「土手の方かい?」娘: 「うん」 父: 「いいけど、椅子は安定しないから、草の上に座ろうか」娘: 「やったあ」(SE〜土手を降りていく音)娘: 「よいしょっと」 (SE〜花火の音)父: 「すごい迫力だな。火の粉が降ってきそうだね」娘: 「パパ、おひざに座ってもいい?」 父: 「どうぞ」娘: 私は父の膝の上に腰をおろし、胸にもたれながら 大迫力の打上花火を楽しんだ。 クライマックスはスターマインと尺玉の競演。 二人とも夜空を見続けて首が痛くなってしまった。ふふふ。<シーン2/娘8歳/バレエ教室にて/花火大会の日>(SE〜遠くに聞こえる花火の音/ダンススタジオのレッスン)娘: それから3年後。8歳の夏。 窓の向こうには、大輪の花火が夜空に広がっている。 花火大会の日、私はバレエ教室でレッスンを受けていた。 バレエのコンクールは夏におこなわれることが多い。 コンクールに向けたレッスンで毎日のようにバレエ教室へ通っていた。 そもそもクラシックバレエを習いたいと言い出したのは私。 私には、3歳の頃からバレエダンサーになりたいという夢があった。 ママに連れていってもらったバレエの舞台を見て すっかり夢中になっちゃんたんだ。 演目は有名な「白鳥の湖」。 でも私が魅せられたのは、白鳥のオデットではなく、黒鳥。 ライトを浴びる黒鳥オディールの怖いほどの美しさ。 回り続ける漆黒の煌めきから目が離せなくなった。 このときから、私の夢はいつかファーストソリストになって 黒鳥を舞うこと。 花火大会も夏祭りも大好きだったけど、それよりも夢を優先した。 若干8歳の女の子が。 ちょうど花火大会が終わる頃。 私は、バレエ教室の先生から声をかけられた。 ”パリのオペラ座バレエ学校を受けてみない?” パリ・オペラ座バレエ学校。 世界一の水準と言われるパリ・オペラ座バレエ団に入る 多くのダンサーはここへ通う。 そうか。確か8歳から入学は可能だ。 しかも国籍に関係なく、優れたダンサーであれば誰でも応募できる。 もちろんすごい競争率に勝たないといけないけど。 柔軟性、筋力、スタミナも含めた身体的能力が求められる。 ”私の身体能力なら大丈夫” なぜか、先生は太鼓判を押してくれた。 「行きたい」 だけど、だけど、パパやママと離れるのは絶対にいや。 8歳の小さな心は葛藤した。<シーン3/娘8歳/網戸から風が入ってくる>(SE〜セミの声と風鈴の音)娘: 「パパ、オペラ座バレエ団って知ってる?」父: 「なんだい、それ?」娘: 「すごく有名なバレエ団なの。学校もあるのよ」父: 「へえ」娘: 「バレエの先生がね。その学校を受けてみたらって?」父: 「ほう、いいじゃないか」娘: 「でも、パリって遠くない?」父: 「パリ!?」娘: 父は口をあけたまま言葉が続かなかった。 変な顔をして不自然に笑っている。 そりゃそうよね。 いきなり8歳の娘がパリへ行くなんて言ったら。 食卓は家族が集まって今日あったことを話す場所。 私最近、学校のことより、バレエの話の方が多いかも。 食卓の端っこにちょこんと置かれた金魚鉢。 中には紅白模様の金魚が7匹泳いでいる。 大きさは大小さまざま。 この5年の間に、夏祭りの屋台からすくってきた私の戦利品だ。 1匹も死ぬことはなく父が大切に育ててくれている。娘: 「すっごく考えたんだけど、私ね」父: 「うん」(※つばを飲む)娘: 「いかないよ」父: 「え?」娘: 「パパとママと、離れ離れになるのなんて絶対にいや!」父: 「そ、そうか・・・」娘: パパ、ごめんね。 今はいかないけど、いつか、私行くと思う。 ママは教室の帰り道で ”一緒に行こう” って言ってくれた。 私はホッとするパパの顔を見ていると 幸せな気持ちになって口元がほころんだ。<シーン4/場面転換/娘12歳/空港にて>(SE〜飛行機の離陸音)娘: 結局、その4年後に私はパリへ旅立った。 受かるとは思ってなかったけど パリ・オペラ座バレエ学校のオーディションに合格しちゃったんだ。 ママはすぐにパリのアパルトマンを借りてくれた。 私は18歳までレッスンしながらキャリアを積む。 パパ、ちゃんとお盆とお正月には帰ってくるから。 ごめんね。ごめんね。<シーン5/娘25歳/東京のバレエ教室にて>(SE〜遠くに聞こえる花火の音/ダンススタジオのレッスン)娘: 25歳の夏。 子供たちにバレエを教えながら、ちらっと窓を見る。 あの日と同じように、ガラス越しの夜空に花火が上がっている。 私は、パリ・オペラ座バレエ学校を18歳で卒業したあと オーディションを受けてパリ・オペラ座バレエ団に入団した。 プルミエ・ダンスールとなり念願の黒鳥を舞ったのは、20歳の夏。 夢を叶えた私は、もう何も思い残すことはなく帰国した。 (なのに、地元へは帰らず東京にいる。 それは、パパのこの言葉があったから)父: 「オペラ座バレエ団であんな素晴らしい舞台にたったダンサーが こんな田舎にいちゃいけないよ」娘: パパの言葉に背中を押されて、私は東京へ。 有名なバレエ団が運営するバレエ教室で子供たちを教えている。 やがて花火大会が終わった。 地元の花火大会の方がすごかったな・・・ パパ・・・<シーン6/娘25歳/八幡神社の夏祭り>(SE〜祭り囃子と雑踏)娘: 来ちゃった。 パパいるかな、と思って直行で夏祭りへ。 そんな都合のいいこと、ないよね。 神社は相変わらずすごい人。 灯篭に灯のともった参道を歩くと・・・ あ、金魚すくい。 その10分後。 私の左手には金魚が1匹入ったビニール袋が揺れていた。 このあと、どうしようかな・・・ いきなり帰ったら、パパもママもびっくりするよね・・・ もう少しお祭り見ていこうかな・・・ そう思った瞬間、私の右手を大きな手が包み込んだ。父: 「おかえり」娘: 「パパ!」■BGM〜「インテリアドリーム」娘: そのあとは、もう言葉にならなかった。 父も同じ思いだったに違いない。 かろうじて、しぼりだした言葉は、父: 「そろそろ帰ろうか」娘: 「うん」父: 「今まであったこと、いろいろ話してくれるだろ?」娘: 「うん」 あの食卓で。 早く家に帰って、食卓に座りたい。 ずうっと開けていてくれている、私の場所へ。 「ただいま」
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ボイスドラマ「夏祭」前編
幼い頃の夏祭りの思い出を覚えていますか?屋台の光、響き渡るお囃子、夜空を彩る花火——そんな情景の中に、大切な人との思い出が詰まっているのではないでしょうか。本作『夏祭り/食卓の愛』の前編では、幼い娘と父の、夏祭りを中心とした心温まる日々を描きます。バレエに打ち込む娘と、そんな娘を見守る父。そして、いつか訪れる「旅立ち」の瞬間。家族の絆は、離れてもなお続いていくもの。けれど、だからこそ「食卓」の温もりがどれほど大切なのか、改めて気づかされます。この物語を読んで、誰かと過ごした大切な時間を思い出していただければ幸いです【登場人物】・女性(5歳/8歳/15歳)・・・子供の頃から夏祭りが大好き、雷が超怖い、3歳からクラシックバレエを習い10歳でソリスト。パリ・オペラ座バレエ学校へ入学し発表会ではプルミエ・ダンス―ルまで上り詰めた。その後パリ・オペラ座バレエ入団のオーディションは辞退。現在は東京のバレエ団で子供たちの育成に心血を注いでいる(CV:桑木栄美里)・男性(45歳/48歳/55歳)・・・遅くに生まれた末娘を溺愛。娘と一緒に夏祭りへ行くことが一番の楽しみだった。娘がパリへ行ってからは娘の帰郷を心待ちしている。ストーリーは前編後編で交錯します(CV:日比野正裕)■資料/バレエダンサーの階級https://www.noaballet.jp/knowledge/term/%20prima.html#:~:text=バレエ団に所属し,とどんどん上がってきます。【Story〜「夏祭り/食卓の愛/前編」】<シーン1/娘5歳/バレエ教室の帰り道〜夕立>(SE〜雷の音/夕立の雨)娘: 「きゃあっ!」 (SE〜雨の中早足で歩く足音/玄関の扉を開いて閉じる音)娘: 「雷こわいよ〜!!」父: 「ようしよし、こわかったね。 よくがんばった、えらいぞ。 もう大丈夫。 パパがついているから」娘: 「パパ!大好き!!」◾️BGM(イメージ)/やさしさに包まれたたなら(荒井由実)父: 5歳の娘が私の胸に飛び込んでくる。 2年前から習い出したバレエ教室。 その帰り道で突然の夕立にあってしまったらしい。 泣きながら、妻のデニムジャケットに顔をうずめて帰ってきた。娘: 「カミナリ、もういなくなった?」父: 「うん、どっか行っちゃったよ」娘: 「ああ、よかったぁ」父: 「さ、もう心配ないから夕ごはんrr を食べよう。 食卓に座って」娘: 「はあい」父: 「今日は、おまえの大好きな卵焼きだぞ」娘: 「やったぁ!」父: 「今日のバレエ教室のこと、パパに教えてくれる?」娘: 「うん。また先生に褒められちゃった」父: 「そりゃすごいな」娘: 「ワタシのタンデュがとってもキレイだって」父: 食卓に座り、バレエ教室の様子を楽しそうに話す娘。 先ほどまでカミナリで取り乱していたのが嘘のようだ(笑) 妻は、娘の横で何も言わずに微笑んでいる。 まるで、絵に描いたような、幸せなひととき。 食卓は家族の絆の象徴だった。<シーン2/八幡神社の夏祭り>(SE〜祭り囃子と雑踏)娘: 「パパ、牛串とパイン串食べたい!」父: 「あれ?さっきも食べてなかったけ?」娘: 「いいの!夏祭りなんだから」父: 浴衣姿の無邪気な笑顔が夜店の間をかけていく。 妻も私もついていくのに必死だ。娘: 「早く早く!」父: 「走っちゃ危ないよ」娘: 「わかってる〜」父: 家の近くの八幡神社。 参道に並ぶ灯篭に灯りがともり、屋台が軒を連ねる。 ヨーヨー釣り、金魚すくい、輪投げ、射的、千本つり・・・ 娘は2本の串を両手に持って、あっちの屋台からこっちの屋台へ。 帰り道、私の右手には2匹の金魚が泳ぐビニール袋。 妻の左手に揺れているのは、白地に赤い模様のヨーヨー。 両手をつなぐ娘の顔には、少女アニメのお面が笑っていた。<シーン3/娘8歳/網戸から風が入ってくる>(SE〜セミの声と風鈴の音)娘: 「パパ、オペラ座バレエ団って知ってる?」父: 「なんだい、それ?」娘: 「すごく有名なバレエ団なの。学校もあるのよ」父: 「へえ」娘: 「バレエの先生がね。その学校を受けてみたらって?」父: 「ほう、いいじゃないか」娘: 「でも、パリって遠くない? 8歳から入学できるからって」父: 「パリ!?」父: 驚く私の隣で妻が頬を緩める。 娘8歳の夏。 なんか知らないうちに大きくなったものだ。 食卓で今日あったことを話す娘。 この頃、学校のことより、バレエの話の方が多くなってきた。 食卓の端っこにちょこんと置かれた金魚鉢。 中には紅白模様の金魚が7匹泳いでいる。 大きさは大小さまざま。 この5年の間に、祭りの屋台から娘がすくってきた戦利品だ。娘: 「すっごく考えたんだけど、私ね」父: 「うん」(※つばを飲む)娘: 「いかないよ」父: 「え?」娘: 「パパとママと、離れ離れになるのなんて絶対にいや!」父: 「そ、そうか・・・」父: 安心すると同時に、 なんだか娘の夢の足枷になっているような気がして心が落ち着かない。 妻の笑顔を見ていると、 ”背中を押してあげなさい” と言っているように思える。 私の心中を知らない娘は無邪気に笑っていた。<シーン4/場面転換/娘10歳/空港にて>(SE〜飛行機の離陸音)父: 結局、その2年後に娘はパリへ旅立った。 なんと、パリ・オペラ座バレエ学校のオーディションに合格。 妻と二人でパリのアパルトマンを借りた。 18歳までレッスンしながらキャリアを積むのだそうだ。 とにかく、体だけは壊さないように。 父の願いはそれだけだった。<シーン5/八幡神社の夏祭り/娘15歳>(SE〜祭り囃子と雑踏)父: 妻と娘が旅立ってからはや5年。 盆や正月くらいは帰ってくると思っていたけど なかなかまとめて休みをとれないようだ。 世界的なパンデミックもあって、 顔を見られないまま5年が経ってしまった。 もちろん、いつもTV電話の画面越しには顔を見ているけど。 2人がいなくなったあとも 私は毎年、夏祭りに足を運んでいる。 いや別に感傷にひたるとかそんなんじゃなくて、 子供の頃から縁日が大好きなんだ。 でもrrtt参道を歩くと、 どうしても娘と歩いたあの日を思い出してしまう。 男親っていうのは、きっとみんなそうだろう。 大切な人と離れ離れになるとこうやって恋々とする。 右手にはビニール袋に入った金魚が1匹。 私は、毎年金魚すくいで1匹ずつ金魚をとってきた。 この子たちは大切に育てないと。 娘が帰ってきたとき、増えている金魚を見つけて驚かせたい。 それだけで口元が緩んでしまう。 私はなるべく金魚の袋を揺らさないように参道をゆっくりと歩いた。 鳥居のところまで来たとき、なにかが左手に触れた。娘: 「パパ!」父: 「うん?」娘: 「ただいま!Je suis à la maison(ジャ・シザ・ラ・メゾン)」父: 「あ・・・」■BGM〜「インテリアドリーム」父: 娘の右手が私の左手を握っていた。 その横で妻が愛おしそうにうなづく。娘: 「帰ってきたよ!」父: 「お、おかえり!rは、早かったな」娘: 「正確にはね、一時帰宅。学校からまとまった休みをもらったの」父: 「そうか、よかったな」娘: 「パパ、褒めて! 今度の発表会で私、プルミエ・ダンス―ルになったの」父: 「プ、プルミエ・・・ダンス―ル?」娘: 「日本でいうと、ソリスト。おっきな役がついてソロで踊るの」父: 「すごいじゃないか」娘: 「そのご褒美で休みがもらえたんだもん」父: 「さすが、私の娘だ」娘: 「でしょう。 直行でここに来たのよ。パパ絶対いると思った」父: 「ははは、ご名答。 お祭りは?もう楽しんだかい?」娘: 「ううん、それより早く家に帰りたい。 食卓で、いろいろ報告したい」父: 確かに。 家族3人で久しぶりに過ごす夕餉(ゆうげ)。 私の娘も妻も、ついつい早足で家路を急いだ。 娘の好きな卵焼きと豚汁を作ってやろう。 美味しそうに頬張る娘の笑顔を想像して、思わず顔がほころんだ。
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ボイスドラマ「遅れてきた春」後編
前編から3年——。『遅れてきた春』の続編、『June Bride/KICHI』へようこそ。3年の月日は、人を変えるには十分な時間です。彼女はキャリアコンサルタントとして子どもたちの未来に向き合うようになり、彼は主任教諭となりさらに教育に情熱を注いでいます。そして、二人は大切な時間を重ね、ある「決断」の時を迎えようとしています。そんな二人の物語の舞台となるのは、再び「ねむりデザインLABO」。3年前に偶然出会った場所で、今度はどんな物語が紡がれるのでしょうか。結婚、人生のパートナー、そして「眠り」という日常の大切な時間。それらが交錯する、少し大人なラブストーリーをお楽しみください【登場人物】・女性(28歳)・・・前編から3年後。変わらずVチューバーを続けながらダンスの公演を定期的におこなっている。アバターを使ったキャリア授業は小中学校で広がり、現在は週に6コマを受け持つ。でも実は子供が苦手(CV:桑木栄美里)・男性(30歳)・・・30歳を迎え主任教諭になった。キャリア教育には特に熱心でドローンや生成AI技術などの専門家を呼んでさまざまな授業を取り入れている。彼女とは付き合いはじめて3年目を迎えプロポーズを考えている。子供が大好き(CV:日比野正裕)<シーン1/小学校の教室>(SE〜学校のチャイム/小学校の教室)彼女: 「はい、今日の授業はここまでにしましょう。 みなさん、生成AIの使い方はしっかりマスターしましょうね」 (SE〜小学校の教室/子供たちの返事)彼: 「みんな、テキストを使った生成方法はもう理解したな。 来週は全員に発表してもらうぞ」彼女: 「次回はフリーハンドで描いたイラストを生成AIで仕上げてみましょう。 それを3Dプリンターでフィギュアにしてもいいわね」 (SE〜小学校の教室/子供たちの歓声)◾️BGM/彼女: 初めてこの学校へきてからちょうど3年目。 最初に教壇に上がったときは覆面のVチューバー。 臨時のキャリア講師だった。 転機は去年。キャリアコンサルタントの国家資格を取得したこと。 いまは、いろんな学校でキャリアタイムを企画・実施している。 もちろん、素顔で。 実務は、子どもたちの進路相談に乗ったり、キャリア形成の支援。 今だから言うけど私、ホントは昔から、子どもって少し苦手だった。 彼と真逆なの、ふふ。 子どもたちの前で素顔を見せなかった理由には、それもあるんだ。 でも、こんな小さな子たちが真剣に将来に向き合う姿を見ているうちに ああ、子どもも大人もないんだなって。 それにみんな、なんでも私に相談してくれるから可愛くって・・・ あれ? じゃあ私、なんで子どもが苦手だったんだろう。(SE〜学校のチャイム/夕暮れのイメージ/カラスの鳴き声とか)(SE〜LINEの着信音/会話の間にも着信音が鳴る) 彼女: ふふ。まるで定時連絡。 マメな彼から今日の予定が送られてくる。彼: 『おつかれ! 今日はこのあと職員会議だから夕食、1時間後でどう?』彼女: 私もルーティンで返信する。 『オッケー。私も教育委員会に顔だけだしてくるから』 彼: 『じゃあ待合せはいつものカフェで』 彼女: 『その前に行きたいとこあるんだけど』彼: 『どこ?』 彼女: 『ねむりの悩みを相談できるとこ』 彼: 『あー了解。じゃあ待合せ場所を変えよう』 彼女: 『いいの?』 彼: 『僕も行きたいと思ってた』 彼女: 彼はいつもテンションが高いけど、 なんだか今日は私に気を遣ってる感じ。 私は返事を絵文字で返して、学校をあとにした。<シーン2/ねむりデザインLABO>(SE〜店内の雑踏/小走りの足音)彼女: ああ。ハイヒールってちょっと走りにくい。 市が主催する定例のキャリア会議。 私の提案が白熱して長引いてしまった。 提案したのは「木工」。 いまの子どもたちに、木工の技術を知ってもらいたいの。 Vチューバーの私が「木工」って、なんかヘンな感じだけど 子どもの頃から木の温もりって好きだったんだ。 タブレット上でキャラクターを作って動かすだけじゃなくて 自然の木から形あるものを作るってこと教えたかったの。 家具屋さんの知り合いもいるしね(笑)(SE〜街角の雑踏/小走りの足音) 余裕で間に合うと思ってたけど、 閉店まで1時間を切ったかな。 小走りで駆け込む店内。 向かうのは私たちの間でお約束。ベッドコーナーへ。 彼がスリープアドバイザーとなにか話してる。 顔は笑ってるけど、いつもよりまじめっぽい。 なんだなんだ?彼: 「おつかれ。結構時間かかったね」彼女: 「ごめんなさい。 委員会で、生成AIの授業をもっと深掘りしよう! っていったら激論になっちゃって」彼: 「はは、君らしいな」彼女: 「あなたはなに話してたの?」彼: 「もちろんベッドの話だよ」彼女: 「どのベッド?」彼: 「うん、どれもこれも迷っちゃうんだけど、 これからのこと考えるとポケットコイルのマットレスかな」彼女: 「そう?どうして?」彼: 「だって、君は硬めのマットレスがいいって言ってただろ」彼女: 「うん。ちゃんと覚えててくれたのね」彼: 「寝返りもうちやすくて」彼女: 「そうそう」彼: 「体圧分散性も重要だって」彼女: 「うん。でもそれはあなたもでしょ」彼: 「そうさ、だからポケットコイルのマットレスがいいなって」彼女: 「あなたも買うの?」彼: 「2人一緒に買うんだよ」彼女: 「どういうこと?」彼: 「こういうこと」■BGM〜「インテリアドリーム」彼女: そう言って彼は胸ポケットから小さな赤い箱をとりだした。彼: 「聞いてくれる?」彼女: 「ちょっとちょっと。待ってよ。ここで?」彼: 「そうだよ。だって3年前、2人の物語が始まった場所じゃないか」彼女: 確かに。 それに、閉店前でお客さんも周りにはちょうどいない。 さっきまで彼と話していたスリープアドバイザーも ベッドの向こうで背中を向けている。 ふふ。 別に、見届けてくれればいいのに。彼: 「僕たち、まだ3年だけど、もう3年でもあるよね」彼女: 「そうね」彼: 「ここから先はずっと、2人一緒にいたいんだ」彼女: 「うん」彼: 「だから、このポケットコイルのベッドとともに 一生そばにいてくれる?」彼女: 「はい。います」彼: 「ありがとう」彼女: 「でも・・・」彼: 「え?」彼女: 「一生ベッド買い替えないつもり?」彼: 「あ、いや、そうじゃないけど・・・」<シーン3/結婚式場>■BGM〜ウェディングマーチ(SE〜拍手と歓声/「おめでとう」の声)彼女: そして私は、6月の花嫁になった。 私たちの新居には、マットレスが2台並んでいる。 1台は硬めにアレンジされた私用、 もう1台は柔らかめが好きな彼のベッド。 2台とも体圧分散性に優れたポケットコイルのマットレス。 木製のフレームが心地いい。 人生の1/3は睡眠。 睡眠の質を上げて、人生を豊かに。■BGM〜「インテリアドリーム」彼: 「いつまでも幸せにするよ」彼女: 「ありがとう」彼: 「僕の方こそ。 最高の人生にしてくれてありがとう」彼女: 「うん・・・。 いつまでも大切にしてね。 私も、ベッドも」彼: 「またそれを言う」彼女: 「ずうっと言い続けたらだめ?」彼: 「いや。ずうっと言ってほしい。 必ず約束を守り続けるから」彼女: 「あなたのそういうところ、好きよ」 照れながら見せる白い歯。 私、3年前、そのまぶしさに魅せられたの。 いつまでも笑顔でいられるよう、 2人で人生を作っていきましょ。 実は、今日は私、Vチューバーとしての最後のステージ。 だけど、舞台に立つのは一人ではない。 モーションキャプチャー用のマーカーをつけた ウェディングドレスとタキシード。 結婚式場の大型ディスプレイに映し出された 私たち2人のアバターが照れくさそうにキスをした。
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ボイスドラマ「遅れてきた春」前編
『遅れてきた春/ねむりデザインLABO』は、異なる世界に生きる二人——小学校の教師とVチューバーの女性が、キャリア授業を通じて出会い、「眠り」をきっかけに心を通わせる物語です。春の訪れは誰にでも平等ですが、そのタイミングは人それぞれ。子どもが苦手なVチューバーと、子どもが大好きな教師。正反対の二人が偶然の出会いを重ね、やがて特別な時間を過ごすようになる。そんな「少し遅れてきた春」の物語をお楽しみください。この物語は、家具とインテリアの「ねむりデザインLABO」を舞台に描かれ、眠りの悩みや快適な睡眠環境についても触れています。物語を楽しみながら、あなたの「眠り」についても考えるきっかけになれば嬉しいです【登場人物】・女性(25歳)・・・Vチューバー。この春4月から名古屋市内の小学校で始まったキャリア授業でアバターのキャラクターを作りスーツを着て動かす授業を担当する。実は子供が苦手(CV:桑木栄美里)・男性(27歳)・・・22歳の新卒時に教員免許を取得。小学校で五年生の担任をつとめるとともに課外活動やボーイスカウトも含め積極的にいろいろな活動に取り組んでいる。この春新任の女性教諭にキャリア教育をお願いしている。子供が大好き(CV:日比野正裕)【Story〜「遅れてきた春/ねむりデザインLABO/前編」】<シーン1/小学校の教室>(SE〜学校のチャイム/小学校の教室)彼女: 「みなさん、はじめまして。 私はVチューバーです」 (SE〜小学校の教室/「おお〜」というどよめきがおこる)彼: 「なんだ、みんな知ってるのか? 一応、先生からも説明しておくぞ」◾️BGM/彼: 小学校五年生の教室。 男の子も女の子も、みんな興味津々だ。 今回お願いしたのは、女性のVチューバー。 顔出しはNGなので覆面をしている。 元々は、お芝居とかダンスをするのが生業(なりわい)だそうだ。 それでも最近は、芝居よりVチューバーの方が忙しいという。 黒板と、生徒たちとの間には小さな衝立。 彼女はその向こう側へ移動して覆面を脱いだ。 事前にセッティングされたカメラの前に立つと 大型モニターの中のキャラクターが目覚める。 彼女の動きに合わせてキャラクターが踊りだした。 クラス中に歓声が上がる。 私は学年主任でこのクラスの担任教諭。 春からスタートしたキャリア教育の授業を担当している。 子供たちの視線を一斉に浴びながら キャラクターがポーズを決める。 エンターテインメント満載の授業。 1コーラスのボカロミュージックに合わせたダンスのあと、 彼女は再び覆面をして生徒たちの前に立った。彼女: 「今度はみんなにもキャラクターを動かしてもらいましょ」 どよめきと大歓声。 そのあとは、順番争いが起きるほど、大いに盛り上がった。(SE〜学校のチャイム/夕暮れのイメージ/カラスの鳴き声とか) 彼: 「先生!」彼女: 「あ、はい・・・」彼: 2コマ連続の授業。 終わって帰ろうとするVチューバーを呼び止めた。彼女: 「なんでしょう?」彼: 「今日はどうもありがとうございました」彼女: 「いえ、こちらこそ。 あんな感じでよかったのかしら」彼: 「はい。 子供達があんなに目をキラキラさせたの、ホント久しぶりです」彼女: 「そうですか」彼: 「よかったらお茶でも飲んで少しお話しませんか? あと15分でホームルーム終わりますから」彼女: 「ありがとうございます。 でも、ちょっと今日は・・・先約がありますので。 また誘ってください」 彼: 「そうですか・・・ わかりました。じゃあまた今度。きっとですよ」彼: 考えるより先に言葉が出てしまった。ちょっと強引すぎたかな。彼女は曖昧な笑顔で校門をあとにした。<シーン2/ねむりデザインLABO>(SE〜店内の雑踏)彼: 放課後のホームルームが思ったより早く終わったので いつもの家具屋さんへ足を向ける。 行き先はこれまたいつものベッドコーナー。 ねむりデザインLABO、というらしい。 最近ずうっと寝不足で体調が悪い。 枕を変えて少しは眠れるようになったけど、 首・肩・腰の痛みは慢性的になってきてるなあ。 そんなことを思いながら、 デザイン的に並べられたベッドを見ていたとき。 電動ベッドに横になる女性に目がいった。 くつろいで目を瞑るスレンダーな寝姿。 思わず近寄っていくと・・・彼女: 「あ・・・」彼: 「あれ? 先・・生?」彼女: 「え?」彼: 「僕です。今日キャリア授業でお世話になった小学校の・・・」彼女: 「ああ、担任の。 いやあね、こんなところを見られちゃうなんて」彼: 「いえいえ、それにしても奇遇ですねえ。 先生も家具屋さんにいらしてるなんて」彼女: 「はあ・・・。 あのう・・・」彼: 「はい」彼女: 「その、”先生”と呼ぶの、やめていただけません?」彼: 「え」彼女: 「私、そんな、先生なんて呼ばれるような人間じゃないので」彼: 「や、これは失礼。 講師としてお招きしているのでつい」彼: しまった。なんか気まずいかな。彼: 「以後気をつけます」彼女: 「あ、いえ、そんなつもりじゃないので」彼: 起きあがろうとする彼女を制して声をかける。彼: 「あ、そのままそのまま。 ところで先生、じゃなくて、 あ、あなたもベッドを探しているんですか?」彼: 彼女は小さく微笑みながら、うなづく。彼: 「ひょっとして眠りの悩みがあるとか?」彼女: 「はい。Vチューバーって仕事がら首・肩がいつも凝っちゃうんです」彼: 「ああ!実は僕もなんです!」彼女: 「先生も?」彼: 「授業って立ちっぱなしでしょ。 しかも黒板って、割と上を向いて書いたりするので」彼女: 「へえ〜」彼: 「首・肩と、腰、かな」彼女: 「全部じゃないですか」彼: 「そうなんです。だからよくここへきて相談してるんです」彼女: 「相談?」彼: 「はい。スリープアドバイザーに」彼女: 「まあ。先生も・・・」彼: 「え?ってことは・・・」彼女: 「ええ。私もスリープアドバイザーに相談してます」彼: 「そうなんだー」彼女: 「先週は、頭の形を測ってもらいました。 首のS字の深さもわかるので、枕を変えてみたんです」彼: 「あ、僕もそれやりました。 今使ってる枕の高さ、 全然合ってなかったのがわかって、ショックだったなあ」彼女: 「おんなじですね」彼: 「ほんとですね! 実はいま、ベッドも買い換えようかと思ってて」彼女: 「どんなベッドを検討してるんですか?」彼: 「なんか、いろんな種類があるみたいなんで、迷ってます」彼女: 「体圧分散してくれるのがいいって聞きました」彼: 「体圧分散! 僕、骨太なんで、それすごく重要です。 電動ベッドはどうですか?」彼女: 「すっごく気持ちいい。 宙に浮いてるみたい」彼: 電動ベッドの足と背中をリクライニングさせながら うっとりした表情で彼女が答える。彼: 「あ、それいいかも」彼女: 「じゃあ、一緒にスリープアドバイザーに相談してみましょうか」彼: 「はい!」彼女: 「そんな、敬語っぽい話し方じゃなくていいですよ。 先生の方が、年上なんですから」彼: 「ああ、わかりました。 じゃあ、僕からもひとつ、いやふたつお願いしていいですか?」彼女: 「なんでしょう」彼: 「僕のことも”先生”って呼ぶの、やめてください」彼女: 「え、だって、先生じゃないですか」彼: 「いまは先生じゃないですよ」彼女: 「なんて呼べばいいんですか?」彼: 「なんでもいいです。先生以外なら。名前でも・・・」彼女: 「え?」彼: 「あ、いえいえ。なにも」彼女: 「もうひとつのお願いは?」彼: 「ああ、えっと、 このあと、お茶でもしながら、もう少しだけお話しませんか」彼女: 「あ・・・」■BGM〜「インテリアドリーム」彼: あ。言っちゃった。 1日に2回も断られたら立ち直れないなあ。 でも、彼女から返ってきた答えは、僕の不安を吹き飛ばした。彼女: 「お茶っていうより、もう食事の時間ですね」彼: 「それならもちろん!」彼: おもわず満面の笑みで答えてしまう。 遠くで僕たちを見ていたスリープアドバイザーが優しく微笑んでいる。 きっとものすごくわかりやすい表情をしていたのだろう。 彼女はベッドをリクライニングさせたまま吹き出した。 この日、この瞬間から、僕と彼女の物語はスタートした。 小学校の教師とVチューバー。 出演キャラの組み合わせとしては異色になるのかな・・・ 遅い春の予感は、僕の胸にときめきを運んできた。
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ボイスドラマ「風立ちぬ」後編
彼女の仕事は、やりがいがありながらも決して楽なものではありません。そんな彼女の支えとなるのは、老人ホームの仲間たち、そして遠くから見守る彼でした。仕事に、夢に、そして恋に——。新しい季節の風が吹き抜ける中、彼女の心は少しずつ未来へと向かっていきます。「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」この言葉が、彼女にどんな決断をもたらすのか・・【登場人物】・彼女(22歳)・・・この春から新社会人一年生。養護老人ホームで働きながら来年社会福祉士の資格をとり、市の社会福祉協議会へ転職したいと考えていたが・・・(CV:桑木栄美里)・彼(25歳)・・・広告会社に勤めて足かけ4年でこの春起業した。Web解析士の資格を取得してホームページ制作・管理とSNSマーケティングの仕事で走り回るが・・・(CV:日比野正裕)<シーン1/堤防沿いを歩くカップル>(SE〜小川のせせらぎ)彼女: 「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」彼: 「なんだい、それ? そんなアニメもあったっけ」彼女: 「もう〜。 マーケターならそのくらい知っててよ」彼: 「知ってるよ。詩だろ」彼女: 「そう。ポール・ヴァレリーの詩。 うちの入所者さんに、この詩が好きな人がいるの」 ◾️BGM/彼: 彼女は、この春から養護老人ホームで働いている。 仕事はやりがいがあるって言ってたけど、実際には大変そうだ。 肉体的にも精神的にも。 だって、彼女が働き出してから、デートしたのは今日がはじめて。 もう5月だというのに。 体壊さないといいけど。彼女: 「なあに?黙っちゃって。 あ、また、私の仕事のこと考えてるんでしょ」彼: 「いや、そうじゃないけど」彼女: 「うそばっかり。 働き方改革に逆行した ブラックな業界だって言いたいんでしょ」彼: 「そんなこと思ってないって」彼女: 「だって、顔に書いてあるんだもん」彼: 「ひどい誤解だな。 福祉の業界が大変だってことくらいわかってるよ」彼女: 「じゃあ、なんでそんな、眉間に皺が寄るの」彼: 「君は僕が起業したこと、忘れてない?」彼女: 「忘れているわけないじゃない。 一緒にお手伝いしたんだもの」彼: 「うん。すっごく嬉しかった。 書類作るのとか手伝ってくれて。 この恩は一生忘れないよ」彼女: 「おおげさだなあ。 それで、順風満帆なんでしょ」彼: 「まあだいたいはね。 いい風が吹いてるよ」彼女: 「さわやかな大気が海より湧きあがり、 わたしに魂を返す」彼: 「お!ポール・ヴァレリー。 まあ、そうなんだけどね。 一人でやっていくのは大変なんだな、やっぱり」彼女: 「そうなの」彼: 「うん。営業も、データの分析もすべてひとりだからな」彼女: 「ふうん」彼: あんまり細かく語り出すと、ただの愚痴になっちゃうからなあ。 実際には、自分の労務管理とか経理とかやらなきゃいけないし。 外で打合せしてオフィスに帰ってきてからデータの分析して レポート作ってると夜中の12時を回っちゃう。 この前なんて目を充血させて打合せしてたら クライアントが僕の目ばっかり見るもんだから、話が全然進まなかったからなあ。彼女: 「あ?ひょっとして・・・眠れてないんじゃない?」彼: 「え」彼女: 「図星でしょ」彼: 「あ、まあね。そりゃこのライフスタイル見てたらわかるよなあ」彼女: 「実は私もついこの前まで不眠症に悩んでいたんだ」彼: 「そうなの?」彼女: 「うん。今はぐっすり眠れているけどね」彼: 「ホント?なにをしたの?」彼女: 「なら、いまから治療にいきましょうか」 <シーン2/インテリアショップ>(SE〜インテリアショップのガヤ)彼: 彼女が連れてきてくれたのは、 病院ではなく、なんとインテリアショップ。 放射状にディスプレイされたベッドの前で スリープアドバイザーがわかりやすく説明してくれる。 不眠の症状について。うん。 寝つきが悪く、ベッドに入っても30分以上眠れない。(眠れない) 途中で目が覚めて、なかなか寝付けない。(寝付けてないな) 朝早く目が覚めてしまう。(うん) ぐっすり眠った気がしない。彼女: 「ちょっと〜、やばくない。 全部あてはまってるじゃん」彼: それから、不眠の原因。 痛みをともなう関節炎やリウマチ。 花粉症や蕁麻疹。 そして、ストレス。彼女: 「やっぱストレスだよね」彼: で、不眠の対処法。 花粉症やアレルギー性鼻炎は薬を処方してもらってる。 ストレスは根本的な原因が自分だから ライフスタイルを変えるしかない、、、か。彼女: 「あとできることは、寝具のチェックだね」彼: そう言って、彼女はウインクした。 片手に測定器を持ったスリープアドバイザーが僕の頭の形を測る。 そうか。 僕の頭、こんな形をしていたんだ。彼女: 「ひょっとして、枕が高いんじゃない?」彼: あ、そうかも。 毎朝起きたときに、首とか肩が凝ってるもんなあ。 スリープアドバイザーは僕にフィットする枕をチョイスしてくれた。 マットレスと首の角度が5度っていうのが、快眠へ誘うんだって。 実際に寝てみても、うん首が疲れない感じ。 あぁ、そういうことなんだな。彼女: 「あなた、オフィスに泊まってたりしてない?」彼: 「うん。遅くなると帰るの面倒だから」彼女: 「ってことは、ソファベッドで寝てるでしょ」彼: 「うん、だって、オフィスにはそれしかないもん」彼女: 「ソファベッドは仮眠用よ。ちゃんとお家のベッドで寝なさい」彼: 「うん、わかってる」彼女: 「そのマットレスも要検討かな」彼: 「え?なんで?」彼女: 「まあまあまあ。このベッドに寝てみて」彼: 言われるまま横になる。 あれ?(笑いなども演出) ふにゃふにゃってわけじゃないのに、体が包み込まれる感覚。彼女: 「どんな感じ?」彼: 「(うん)力がすうっと抜けていく感じ」彼女: 「ポケットコイルって言うんだって」彼: 「へえ〜」 体圧分散性が高い、というのが売りらしい。 確かに、骨の部分がゴツゴツあたる感じも全然ないし、自然な寝心地。彼女: 「硬さも選べるらしいよ」彼: 「僕は硬めがいいな」彼女: 「ふふふ」彼: 「(ん?)どうしたの?」彼女: 「私とおんなじ」彼: この感覚、すごく気持ちがいいな。 今日家に帰ったら、思い出して比べてみよう。 彼女は無理にすすめるわけでもなく、ただただ僕をみつめて笑っていた。 <シーン3/公園のベンチに佇むカップル>(SE〜小鳥のさえずり)彼女: 「で、結局マットレスはどうしたの?」彼: 「うん、ナイショ」彼女: 「もう〜」彼: 「でも、不眠は治ったよ」彼女: 「え?じゃあ・・・」彼: 「今度、うちへ遊びにおいでよ」彼女: 「ふふ。社会福祉士の試験に合格したらね」彼: 「んー、試験っていつだっけ?」彼女: 「来年の春よ」彼: 「そうか。 それじゃあ僕もそれまでにいろいろ準備しなきゃ」彼女: 「まだやらなきゃいけないことがあるの?」彼: 「ああ。すっごく大事なことがね」彼女: 「なあに?」彼: 「うん、それも内緒」彼女: 「ひどーい」彼: 「まず最初にしないといけないのは・・・」彼女: 「もう〜。もったいぶらずに教えてよ」彼: 「君の家にご挨拶にいく」彼女: 「え・・・」■BGM〜「インテリアドリーム」彼: 「ご両親、お付き合いを認めてくれるかな」彼女: 「・・・いきなりだとびっくりするかもね」彼: 「あ、じゃ君からマーケティングリサーチしておいてよ」彼女: 「やあねえ、その言い方」彼: 「ちなみに、お父さんってこわい?」彼女: 「私にはすっごく優しいわよ〜。 きっと彼氏には ちょっと強面だけど」彼: 「強面、、、うん、ようし。 風を思いっきり吸い込んで立ち上がるぞ。 風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」彼女: 「ふふ。ありがとう」彼: 彼女の表情は終始明るかった。 僕は自分の胸に誓う。 これからもその笑顔のために生きねばならぬ。と。
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ボイスドラマ「風立ちぬ」前編
新しい環境、新しい出会い——春は希望と不安が入り混じる季節。主人公は新社会人として養護老人ホームで働き始めたばかり。そこで出会ったのは、ポール・ヴァレリーの詩を口ずさむ老人でした。仕事に追われ、睡眠不足と戦いながらも、彼女は前へ進もうとします。日常の中で見つけた、小さな「気づき」が彼女を大きく成長させていく——。「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」この言葉が彼女の心をどのように支えていくのか—【登場人物】・女性(22歳)・・・この春から新社会人一年生。養護老人ホームで働きながら来年社会福祉士の資格をとり、市の社会福祉協議会へ転職したいと考えていたが・・(CV:桑木栄美里)・老人(70歳)・・・5年前に長年勤めた不動産会社を定年退職。古希を迎えたのを機会に娘夫婦のすすめで養護老人ホームへ入居したが・・(CV:日比野正裕)<シーン1/老人ホームのエントランスロビー>(SE〜老人ホーム=病院のガヤと朝の小鳥)彼女: 「おはようございます!」 ◾️BGM/彼女: 養護老人ホームのエントランス。 掃除の行き届いたロビーを通って 今日も元気に出勤する。 老人: 「お、今朝も元気だねえ」彼女: 「あ〜、元気だけがとりえだって思ってるんでしょ」老人: 「ちゃうちゃう。今日も元気をもらえて若返るなあってこと」彼女: 「やだ、私の若さを持ってかないで〜」老人: 「あはははは。 風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」彼女: 入居者の中で一番若いおじいちゃん。 いつもポール・ヴァレリーの詩を口にする。 この春入居したばかりで 元気いっぱい。 私も今年卒業して 施設で働き出した新人だから なぜか気が合うんだなあ。 だけど・・・ 実は、元気がいいのは朝の出勤時だけ。 夕方近くなってくると だんだんテンション下がってくるんだよね。 肩と腰の疲れもピークになってくるし。 これって・・・五月病? あ〜ん。もう〜だめだめ。そんなこと考えちゃ。 気持ちだけでもテンションあげてかないと。 にしても・・・ やっぱ疲れの原因は睡眠不足かなあ。 いやいや。 睡眠不足だから五月病になるわけで・・・ あ〜。 どっちにしても負のループ。断ち切らないと。老人: 「今日は早番かい?」彼女: 「そうよ〜、この笑顔を見られるのも夕方までってこと」老人: 「まあ、毎日一生懸命で疲れているだろうからな。 残業なんかはせずに帰ってゆっくり休みなさい。」彼女: あ。 やっぱりわかっちゃうのかなあ。 疲れは顔に出るもんねー。 とはいえ 私にはちゃんと目標がある。 1年間老人ホームで働きながら勉強して、 来年、社会福祉士の資格をとる! 合格率30%という 難関の資格だけど、がんばらなくちゃ。 私が卒業した四年生大学は、福祉系じゃなかったからね。 どうしても 1年以上の実務経験が必要になってくるんだ。 施設に入ったら すぐに初任者研修を受けて、いまはヘルパー。 社会福祉士になったら、市区町村の社会福祉協議会で働くつもり。 介護を受けたい人の相談を聞いて、少しでもお役に立ちたい。 まあ、今の仕事も同じだけどね。老人: 「あ、来年の社会福祉士試験のこと、考えてるな」彼女: 「なあに言ってるの?」老人: 「頑張るんだよ。応援してるから」彼女: 「ありがとう」彼女: こう言われるたびに うるっとしちゃう。 それを気づかれないようにして、食堂へ急いだ。 ラジオ体操のあとは 食事の介助。 みんなが朝食後 食卓でくつろいでいる間に お部屋を掃除する。 あら〜、入居者のベッド、だいぶんヘタってきてるなあ。 所長は新しいベッドに買い替えなきゃって言ってたけど 50人分もあるから大変だわ。 腰が痛い人、肩こりがひどい人。 柔らかいマットレスがいい人、硬いマットレスじゃないと眠れない人。 高い枕が好きな人、低い枕しか受け付けない人。 もう、たいへん。 みんなのリクエストに答えることができるのかなあ。 それと気がかりなのは、私自身、最近ひどい不眠症。 仕事はやりがいがあるけど、時間が足りなくて。 なのに 働き方改革で早く帰りなさいって言われるし。 ストレスがどんどん溜まっていく。 なんとかしないといけない。<シーン2/インテリアショップ>(SE〜インテリアショップのガヤ)彼女: 「え?そうなんですか!?」 仕事帰りにふらっと立ち寄ったインテリアショップ。 ベッドコーナーで スリープアドバイザーに相談したら・・・彼女: 「枕やマットレスが 不眠の原因になっているかも?」 そういえば、朝起きたら腰が痛かったり、 寝てるとき寝返りばっかりうってるかも。 ここんとこずうっと、ぐっすり眠れたことなんてないもの。 スリープアドバイザーは 測定器で 私の頭の形を 正確に測ってくれた。 あ、確かに首の深さに対して、今の枕は高すぎるかも。彼女: 「ポケットコイル?」 最近よく聞くようになった、マットレスの素材名。 体圧分散性?どういうこと? 寝ているときに体にかかる圧力を分散する? ゴツゴツした感じじゃなくて、包み込むような感じ? へえ〜。 硬さも選べるんだ。 私は少し硬めがいいな。 お、私の給料でもなんとか買えそうだわ。 5年保証もついてるし。 よし。これに決めよう。 睡眠は 人生の1/3。 貴重な時間を 睡眠不足なんかで無駄にはできないもの。 私の人生を豊かにするためのベッドってこと。 あ、ちょっと待って。 これ、老人ホームのみんなにもいいんじゃない? こんなベッドなら、腰だの肩だの痛いって人にもいいかも。 私はすぐに所長に連絡を入れた。<シーン3/老人ホームの食堂>(SE〜老人ホーム=病院のガヤ)老人: 「ありがとう。おかげでぐっすり眠れるようになったよ」彼女: 「ホント?よかったあ」老人: 「朝起きたときに、体が疲れてないってのはいいもんだな」彼女: 「実は私もなんです。 枕とマットレスを変えてから 五月病も吹っ飛んじゃった」老人: 「なんだ、五月病だったのかい?」彼女: 「あ、しまった」老人: 「あんたはちゃんと目的を持ってるから。 五月病なんかには負けるわけがないよ」彼女: 「やだなあ。買いかぶりすぎだって」老人: 「そんなことはないさ。 だって、来年の今頃はここにはいないんだろ」彼女: 「うん・・・」老人: 「社会福祉士になって」彼女: 「うん・・・」老人: 「役場や役所で」彼女: 「うん・・・」老人: 「高齢者や病気の人の相談にのってくれるんだろ」彼女: 「うん」老人: 「なんてたっけなあ、えっとソーシャル・・・ソーシャル・・・」彼女: 「ソーシャルワーカーよ(笑)」老人: 「おうおう、そう、それそれ。 その、なんとかワーカーになって走り回ってほしい」彼女: 「もう(笑)」老人: 「ここからいなくなっちゃうのは寂しいけど み〜んなあんたのこと、応援してるからな」彼女: 「ありがとう。がんばる」老人: 「まあ、もう一年くらい先延ばしにしてもらってもかまわんけどな」彼女: 「先延ばしになんてしません。ぜ〜ったい 来年受かってみせるから」老人: 「そうそう。その意気その意気」彼女: 最近 入所者のみんなと話をすると必ずこの話になる。 応援してくれるのは嬉しいけど、プレッシャーも大きいんだぞ。 な〜んて 口が裂けても言えないけどね(笑) 老人ホームのみんなに背中を押されて 仕事と勉強の 春夏秋冬が 通り過ぎていった。<シーン4/老人ホームの朝の風景>(SE〜老人ホーム=病院のガヤと朝の小鳥)彼女: 「おはようございます!」老人: 「やあ、おはよう」彼女: 「なあに?ニヤニヤして。 私の顔になんかついてる?」老人: 「いやいや、ちょっと、こっちへ来てくれないか」彼女: 「え〜。 これから申し送りしなきゃいけないし、レクの準備もあるから」老人: 「いいからいいから、はいこっちきて」彼女: 「どこ行くの? そっちはデイルームじゃない?」老人: 「そうだよ。さ、中入って」彼女: 「もう・・・」(SE〜扉を開ける音「ガラガラガラ〜」)彼女: 「あ」全員: 「おめでとう!」(SE〜20〜30人くらいの拍手)■BGM〜「インテリアドリーム」老人: 「晴れて社会福祉士だな」彼女: 「そっかぁ・・・合格発表今日だったんだ」老人: 「なんだなんだ。こんな大事な日を忘れてたって?」彼女: 「だって、毎日バタバタだったんだもの」老人: 「おい所長、聞いてるか。 こき使いすぎじゃないか〜」彼女: 「え・・所長もいたの!?(笑)」 入所者の輪の中から所長が恥ずかしそうに顔を出す。 デイルームには 風船やら紙テープやらで 手作りの装飾がほどこされている。 中央の窓際には、横断幕に、 『社会福祉士おめでとう!』の筆文字。 ああ、そういえば書道の有段者もいたんだった。老人: 「昨夜(夕べ)、消灯時間超えてまでみんなで作ったんだよ」彼女: 「だめじゃない。そんなことしちゃ。 定時の見回りとかこなかったの?」老人: 「いや、所長さんも一緒になって手伝ってくれたから」彼女: 「ええっ?」 頭をkきながら、所長が入所者たちと一緒に笑っている。老人: 「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」彼女: そうね。 やっぱり、もう少しだけここで生きていこうかな。
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ボイスドラマ「桜花抄」後編
前編から時は流れ、あれから10年——。彼女と彼は、結婚し、娘とともに新たな生活を送っています。家族の形、仕事の変化、ライフスタイルの選択。10年前、桜の木の下で交わした約束は、どのように育まれてきたのでしょうか。インテリアを選ぶことは、家族の未来を描くことでもあります。そして、変わりゆく生活の中で、変わらない想いがあることを、二人は改めて知るのです。新しい家、新しい暮らし、そして、家族としての10年目の節目。前編で交わした和歌が、後編ではまた違う意味を持ち、二人をつなぎます。桜の季節に紡がれる、家族の物語【登場人物】・妻(32歳/42歳)・・・一部上場企業の企画・広報部チームリーダー。今年8歳になる娘の母親。最近のライフスタイルはヴィーガン食で家族もそれに倣っている(CV:桑木栄美里)・夫(32歳/42歳)・・・大学院の人工知能科学研究科を修了し、先端ITC企業から請われて入社。AIによる社会貢献を進めている(CV:日比野正裕)・娘(8歳/18歳)・・・小学校3年生/大学1年生。寡黙だが、SDGs意識高い(CV:桑木栄美里)<シーン1/夜桜の公園>(SE〜花見の風景)妻: 「今日(けふ)のためと、思(おも)ひて標(しめ)し、あしひきの、 峰(を)の上(へ)の桜(さくら)、かく咲きにけり」 ◾️BGM/夫: 「それは・・・まだ聞いたことのない歌だ」妻: 「じゃあ、もう一首。 あしひきの、山の際(ま)照らす、桜花(さくらばな)、 この春雨(はるさめ)に、散(ち)りゆかむかも」夫: 「どういう意味?」妻: 「最初の歌は、 今日のために目星をつけておいた桜が咲いてくれた。 2つ目は、 山間を照らすように咲いている桜の花が春の雨で散っちゃうのはやだなあ。 って意味。 桜、きれいだねえ。 桜さん、ありがとう。 雨が降っても散らないでね。 ってことだよ。ねっ」夫: 妻の横で娘が、何も言わずに微笑む。 8歳の娘は、妻の詠む和歌が大好き。 意味もわからず、ニコニコ聞いている。 いや、いつも説明されてるから意味はわかっているのかな。 10年前。 まだ結婚する前に、妻と2人で歩いた桜並木。 世の中がどんどん変わっても毎年、美しい花を咲かせてくれる。妻: 「和歌を詠むと、桜が一層美しく見えるよね」夫: 娘が大きくうなづく。本当にそう思っているのか。 半分疑りながら 娘を真ん中にして、3人で手をつないで歩く。 幸せに包まれる瞬間。妻: 「今日はね、10年前 にパパとママがデートしたところへ行くのよ」夫: デート? そうか、あれはデートだったんだな。 娘がはしゃぎ始めた。妻: 「さあ、桜のトンネルを抜けていくわよ」夫: 妻が娘の手をひく。 私はその手にひっぱられるように、早足で花曇の並木を歩いていった。<シーン2/インテリアショップ>(SE〜インテリアショップの雑踏)娘: 「わぁ〜すごぉい」夫: 初めてきたインテリアショップに驚く娘。 エリアごとに再現された部屋に感動している。 まるでテーマパークにきたみたいに。妻: 「でしょう。 ここはいろんなお部屋がたくさんある、家具のテーマパークなのよ」夫: なるほど。うまい表現だな。 さすが、大学で国文学を専攻してただけある。 っていうより、企画部のチームリーダーだもんな。妻: 「ほら、プリンセスのお部屋も」娘: 「ほんとだ。ピンクがかわいい」夫: はしゃぎまわる娘に目を細める妻。 実は、私の方が妻より嬉しいのだが。 今日の目的は、新生活の家具選び。 とは言っても、10年前のように一人暮らし用ではなく、家族のため。 実は、もうすぐ新しい家が完成するんだ。 そう、新築の新居。 妻のこだわりで、作りつけの収納は、あえて最小限にした。 自分たちで家具を選んで、イメージ作りをしたいらしい。 娘の成長に合わせた節目節目で、イメージチェンジもするのだという。 そういうライフスタイル いいものだなあ。妻: 「ねえ、自分のお部屋はどんな風にしたい?」娘: 「不思議の国みたいなお部屋」妻: 「そうかあ。じゃあこっちの部屋かな」娘: 「あ〜」夫: そこは、キュートでおしゃれなプリンセス系インテリアのお部屋。 シャビーシックなピンクと白を基調にしたアイテムが可愛らしい。 プリンセスを象徴する天蓋付きのベッド。 壁にはラインストーンで彩られた名画が煌めいている。妻: 「ママとパパのお部屋はこっちよ」夫: 「おお、いいねえ、ナチュラル系かい」妻: 「今までのお部屋はナチュラルだったけど、新しいおうちは、 ナチュラル系をベースに、シンプルな和モダンのテイストにしたいの」夫: 「落ち着いた空間だね」妻: 「それに居心地のいい空間」夫: 「気分が上がるなあ」妻: 「あ、あと、キッチンも見なくちゃ」娘: 「やったぁ」夫: そうだった。 妻は子どもが生まれてから、ヴィーガンのライフスタイル。 ヴィーガンというのは、動物性食品を一切食べず、 動物由来の製品も使わない。 肉も魚も乳製品も卵もとらないし、レザーや羽毛も全然持っていない。 私も妻の影響でスローライフを実践したら、 健康診断の結果が驚くほど良くなった。 もちろん、娘の食生活も同じ。 生まれてこのかたアレルギー知らずだ。妻: 「和モダンのキッチンってスローライフにピッタリね」夫: シンプルでオシャレなキッチンを前に、妻の顔がほころぶ。 妻と娘が2人、並んで料理する姿を想像して、私も笑顔になる。 いやいや 、忘れちゃいけない。 私も料理にはちゃんと参加するから。あまり役には立たないが。<シーン3/10年後のキッチン>(SE〜料理をする音/包丁で野菜を切る音)娘: 「ママ、塩こうじで豆乳マヨネーズ作ったから毒味してみて」妻: 「やあね。毒味じゃなくて味見でしょ」夫: 新築の家に引っ越してから10年。 大学1年生となった娘が、キッチンで妻に話しかける。 今や、ヴィーガンのレシピは妻よりも豊富だ。娘: 「パパ、今日の料理はぜんぶ私が作ったのよ」夫: 「へえ、珍しいな。大学で実習でもあるのかい」娘: 「そんなじゃないんだなあ。 さ、2人とも座って」夫: 妻と2人、ダイニングチェアに座る。 10年前に購入したダイニングテーブルは 年とともに深い味わいを醸し出している。娘: 「比べこし 振り分け髪も 肩過ぎぬ 君ならずして 誰かあぐべき」20年目の婚約記念日、おめでとう」夫: 「え」妻: 「ああ」■BGM〜「インテリアドリーム」娘: 「10年前にパパとママが教えてくれたじゃない。 20年前の今日、パパがママにプロポーズしたこと。 ちゃんと覚えてるんだよ」夫: 「そうか。そうだったな」夫: 妻は目に涙を浮かべて微笑んでいる。娘: 「さっきの歌、わかった?」妻: 「ずうっと伸ばしてきた私の髪が、肩より長くなりました。 あなた以外にこの髪を結い上げてくれる人などいません」娘: 「さすが、ママ。正解。 伊勢物語ね。プロポーズの歌」夫: こんなに素晴らしい母と娘と、一緒にいられる幸せを 私はかみしめていた。 ありがとう。
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ボイスドラマ「桜花抄」前編
春は新たな始まりの季節。桜が咲き誇る中、22歳の彼女は大学を卒業し、一部上場企業のマーケターとして社会へ踏み出します。彼女の隣には、高校時代からの恋人で、大学院でAIを研究する彼の姿。学生から社会人へと変わる瞬間、彼女が見つめるのは未来か、それとも過去か——。この物語は、そんな彼女と彼が、新しい生活の中で「選ぶこと」と向き合いながら、未来を描いていく物語です。家具を選ぶことは、単なるインテリアの話ではなく、自分らしさや人生をどうデザインするかということ。春の夜、桜の下で交わされた言葉、そして二人が訪れたインテリアショップでのひととき。その先に待っている未来とは——。新たな門出を迎えるすべての人に、この物語が寄り添えますように【登場人物】・彼女(22歳)・・・大学4年間で国文学を専攻しこの春から新社会人に。一部上場企業の企画・広報担当のマーケターとして採用された。彼は高校時代から付き合っている同級生(CV:桑木栄美里)・彼(22歳)・・・大学4年生ののち、大学院の人工知能科学研究科で最先端のAIと社会のつながりを研究している(CV:日比野正裕)【Story〜「桜花抄/新社会人と新生活/前編」】<シーン1/夜桜の公園>(SE〜花見の風景)彼女: 「桜花(さくらばな)、時は過ぎねど、見る人の、 恋(こ)ふる盛(さか)りと、今し散るらむ」 ◾️BGM/彼: 「なんだい、それ?」 彼女: 「万葉集よ。 まだ散るときじゃないけど、 愛でてくれる人がいるうちに散っちゃおうかなぁって。 そんな桜の花の気持ちをうたった詩(うた)」彼: 「へえ〜。さすが国文学専攻」彼女: 「またぁ。すぐそうやって茶化す。 でもこの詩、いまの私の気分かも」彼: 「どうして?全然散ってなんかいないじゃん」彼女: 「気持ちの話よ。 私、本当は純粋にもっと大学で国文学を勉強してみたかったんだ。 でも、愛でてくれる人がいるうちに社会に出てみようかなーって思ったの」彼: 「愛でてくれる人って?」彼女: 「やだもう。ばか」彼: 「そんなんいいじゃないか。 一流企業の企画・広報部なんて、なりたくてもなかなかなれないぜ」彼女: 「そうだけど」彼: 「君の好きな国文学の知識をマーケティングに生かせばいい」彼女: 「簡単に言うんだから」彼: 「いや、ホントにいいと思う。 万葉集って去年、SNSでバズってるし」彼女: 「まあねー。 なんか、AIでビッグデータとか研究してるあなたらしい答え」彼: 「あ、そっちこそ、そうやって茶化す」彼女: 「私は尊敬してるの」彼: 「僕だって尊敬してるさ、君のこと」彼女: 「ありがとう。 ねえ、花篝(はなかがり)が灯る前に付き合ってほしいとこがあるの」彼: 「ああ、もうそんな時間かあ。 で、どこいきたいの?」彼女: 「私、就職が決まってアパート借りたんだけど、 まだ何にもない部屋なんだ」彼: 「そうなんだ」彼女: 「さ、行こ」彼: 「え、だからどこへ?」彼女: 「もう〜。いいから、きて」<シーン2/インテリアショップ>(SE〜インテリアショップの雑踏)彼: 「そっかあ。家具屋さんか」彼女: 「家具だけじゃなくて、雑貨や絵画も置いてあるから、インテリアショップね」彼: 「インテリアスタジオ。うん、確かにわかりやすいネーミングだ」彼女: 「うちの会社、リモートが多いからホームオフィスのインテリアも選びたいな」彼: 「うん、どんな感じの家具がいいの?」彼女: 「木の手触り感とか、木目の色合いとか、自然のテイストが好き」彼: 「僕もナチュラルな家具が好きだな」彼女: 「大学院の研究室にそういう意識調査するAIとかないの」彼: 「あるよ。ちょっと待って」彼女: 「あるんだー。お、タブレット登場?」彼: 「えっと・・・コロナ禍で在宅時間が増えて、 6割以上の人がインテリアにこだわるようになったんだって」彼女: 「ああ、確かにそうかも」彼: 「で、好きなインテリアのテイストは、『ナチュラル』が1位。 さすが。トレンドリーダーじゃん」彼女: 「ふーん、2位はなに?」彼: 「2位はね、『北欧風』。あとは『モダン』、『和モダン』」彼女: 「みんないいわね」彼: 「『ナチュラル』を選ぶ理由は、飽きがこなくて、落ち着くからだって」彼女: 「わかるー」彼: 「20代、30代はインスタ見て参考にしてるそうだよ」彼女: 「そうそう。私もインスタでずうっとチェックしてたもん」彼: 「で、どこまで揃えるの?」彼女: 「えっと、私の部屋、収納も少ないから、ベッド、ソファ、ダイニング、 TVボード。あとは収納できる家具かな」彼: 「全部じゃん」彼女: 「そうよー。お部屋のカラーに合わせてテイストを統一したいの」彼: 「部屋のカラー?」彼女: 「うん。白を基調にした明るい木目調の色合い」彼: 「ようし、じゃあ、この家具の森の中から、探し出そう」彼女: 「りょーかい」<シーン3/彼女の部屋>彼女(モノローグ): 結局、私の部屋は、明るいトーンのインテリアに彩られた。 壁が白、柱周りやアクセントに木目という部屋のカラー。 家具たちは、まるで最初からそこにあったかのようにしっくり佇んでいる。 ベッドは、彼が開発したAIコーディネーターのオススメでリクライニングに。 フレームの木目がすごく落ち着いていい感じ。 ダイニングは小さめのテーブル。 彼と2人で食事するのにちょうどいいサイズ。 2人のチェアは長時間座っても疲れないダイニングチェア。 ホームワーク用のデスクは、少しだけ濃い目のトーン。 オンオフの切り替えもできるから満足している。(SE〜紅茶を注ぐ音+食器を置く音)彼: 「小さいけど、いい部屋だね」彼女: 「そう?ありがとう」彼: 「家具たちもなんか嬉しそうだ」彼女: 「あら、AIの研究室にいる人にしてはメルヘンチックなセリフね」彼: 「僕はもともとロマンティストなんだ」彼女: 「そうですかー」(SE〜花瓶を置く音「コトッ」)彼: 「なにそれ?」彼女: 「花瓶よ。桜を生けてみたの」彼: 「枝を折ってきたの?」彼女: 「そんなことするわけないじゃない。 お花屋さんで買ってきたのよ」彼: 「え?花屋さんに桜が売ってるの?知らなかった」彼女: 「季節になると、桜も梅も売ってるよ。 でも、開花してるとすぐに散っちゃうから蕾の桜。 お部屋の中でじっくり短い春を楽しむの」彼: 「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」彼女: 「プッ。やだー。らしくない。どうしたの?」彼: 「僕が知ってる花の和歌はこのくらいかな。 万葉集にはきっとたくさんあるんだろうけど」彼女: 「その歌は万葉集じゃなくて古今集。 小野小町の作でしょ。小倉百人一首とかで詠まれてるじゃん」彼: 「なんか、小野小町って、君と重なっちゃって」彼女: 「それは、絶世の美女ってこと? それとも、売れ残っちゃうのを焦るとこ?」彼: 「焦ってるの?」彼女: 「焦ってません。でも、この歌は刺さったな」彼: 「え?」彼女: 「だって、以前お花見で私が詠んだ歌の真逆だもん。 覚えてる?あの歌?」彼: 「ああ。 桜花、時は過ぎねど・・・ってやつだろ?」彼女: 「そう。 桜花、時は過ぎねど、見る人の、恋ふる盛りと、今し散るらむ。 盛りのうちに散っちゃおう、っていう歌よ。 盛りが衰えていくのを悩んでいる小野小町とは対局ね」彼: 「きみはどっち?」彼女: 「私はウジウジしたくないから前者かな」彼: 「そう思った。じゃあ・・・はい」彼女: 「え・・・なにこれ?」彼: 「フレグランスランプだよ。 この部屋に合う香りってベルガモットかなって。 君の就職祝い。遅くなってごめんね」彼女: 「やだ。サプライズ?」彼: 「いや、サプライズはそっちじゃなくて」彼女: 「えーなになに?」彼: 「こっち」■BGM〜「インテリアドリーム」彼女: 「あ・・・」彼: 「僕の気持ち、受け取ってくれる?」彼女: 彼は、胸ポケットから小さな赤い箱を取り出した。 箱の中には、まばゆい光を放つブリリアントカット。彼女: 「ちょっと。こんなとこで片膝つかないで」彼: 「だって、これはセレモニー」彼女: 「じゃあ、歌で返す。返歌、返し歌よ。 『忍ぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで』 知ってるでしょ」彼: 「うん。聞いたことある」彼女: 「隠していた私の恋心が顔に出てしまったわ。 恋の悩みでもあるのかって人から尋ねられるほどに」 彼: 「それって、Yes、だよね?」彼女: 「もちろん」彼: 「ありがとう!」彼女: 彼は少しぎごちない仕草で、その思いを私の指にはめる。 小さな石に映るまばゆい光は、私の心を照らしていった。
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ボイスドラマ「Anniversary」後編
「Anniversary」後編は、大学を卒業し、それぞれの道を歩み始めた二人の姿を描いています。忙しい毎日を過ごしながらも、かつての想いを大切にし続ける彼と彼女。その関係は、4年前とはまた違った形に変化しています。今回のテーマは、インテリアブランド「ねむりデザインLABO」。睡眠の大切さを再認識しながら、互いの未来を見据える二人の姿に注目してください。そして、最後に待っている「サプライズ」は、どんな形で訪れるのでしょうか?【登場人物】・彼女(25歳)・・・売り出し中の若手声優。毎日スケジュールに追われ、アニメやゲームのアフレコに追われ、オーディションに追われ、寝る間もなく活動している(CV:桑木栄美里)・彼(25歳)・・・大学卒業後、内定していた就職先を辞退して、2浪してこの春から獣医になる。今はペットクリニックで働いている。誕生日は彼女と同じく3月(CV:日比野正裕)<シーン1:カフェ>(SE〜カフェのガヤ〜紅茶を飲む音)彼女: 「合格おめでとう」彼: 「ありがとう」彼女: 「晴れて春から動物のお医者さんね」彼: 彼女は獣医のことを”動物のお医者さん”と言う。 そういえば、昔、そんなアニメかマンガがあったような。 いま売り出し中の若手声優の彼女。 まだレギュラーのアニメや映画出演があるわけじゃないけど 僕から見ても、表現のレベルは相当高いし、センスもいい。 3歳の頃から朗読の勉強をはじめていま25歳。 まあ20年以上のキャリアがあるようなもんか。 だからかな、 アニメやゲームのアフレコ、PVのナレーション、Vチューバーと 休みなく活動している。 今日彼女と会えたのも、2か月ぶりだ。彼女: 「顔を合わせるのって、久しぶりね」彼: 「56日ぶり」彼女: 「なかなか会えなくてごめんね」彼: 「いいことじゃないか。 それだけ君に需要があるっていう意味だから」彼女: 「そうかなあ」彼: 「そうだよ」彼女: 「声優人気がハンパない今のうちに、フル回転させられてるって感じ」彼: 「そんなことないさ。 どんなロジックでも売れていくことはいいことだろ」彼女: 「たまに思うんだよね。 私じゃなくてほかの声優さんでも結果は同じじゃないかって」彼: 「合否の結果は同じでも、 君じゃなければ世に出るものの価値がまったく違う」彼女: 「そう?」彼: 「僕はこっち側の人間だからね。 受け手として感じたままを正直に言ってるだけ」彼女: 「そういうとこ、理系の彼氏でよかったわ」彼: 「今はブームのせいで作品も表現者も粗製濫造のイメージだけど あっという間に淘汰されていくと思うよ」彼女: 「ありがとう」彼: いつの間にか、僕はいっぱしのコメンテーター気取りだ。 伴走者のつもりで彼女と会話をするうちに 声優業界についても妙に玄人はだしになってしまった。 久しぶりの逢瀬は、彼女がエスプレッソ3杯、僕がアールグレイ4杯。 3時間たっぷりと話し合った。 このあとは、いつものルーティン。 4年前のあの日以来、僕たちのデートコースに組み込まれた場所があるんだ。<シーン2/インテリアショップ(ねむりデザインLABO)>(SE〜インテリアショップのガヤ)彼女: 「このお店、もう私たちの定番コースね」彼: 屈託のない笑顔で彼女が、口角を上げる。 ここは、いつものインテリアショップ。 4年前、初詣の帰りにふと立ち寄った家具屋さんだ。 あの頃いつも見ていたのは、 まばゆいインテリア雑貨とアート。 まるで『不思議の国』のような世界に夢中だった。 でも、最近は・・・彼女: 「やっぱり真っ先にベッドコーナーに行くのね」彼: 「ベッドコーナーじゃなくて、ねむりデザインLABOだよ」彼女: 「ラボ、だなんて、あなたの口から出るとすっごい説得力」彼: 「本当にラボ、研究所じゃないか。 獣医の国家試験に合格するまで、僕はずうっと睡眠障害だったのに」彼女: 「私だって何年も不眠症に悩まされていたけど」彼: 「スリープアドバイザーに相談してよかっただろ」彼女: 「そうね。私も知らなかったわ。 睡眠障害が、枕やマットレスで改善されるなんて」彼: 「まあ、それは厚労省のサイトにも明記されているけどね」彼女: 「わあ、また理系っぽい話し方」彼: 「すぐそうやってバカにする」彼女: 「してないわよ。 だって、睡眠の質が人生の質をあげるんでしょ」彼: 「もちろんさ。人生の1/3は睡眠時間だしね」彼女: 「お互いに、ステップアップしていかなきゃ」彼: 「そうだな。 ちゃんと快眠できれば、獣医としての仕事の質も上がる」彼女: 「私もベストコンディションでスタジオに入れるもの」彼: 「早く次のステップへ行きたいな」彼女: 「それは仕事?私たちの関係?」彼: 「どっちも。だって両方大切だろ」彼女: 「うん。でも・・・」彼: 「なに?」彼女: 「ううん、なんでもない」彼: 次のステップ。 彼女が考えるステップは何を表す言葉だろう。 果たして僕と彼女の思いに齟齬はないだろうか。 あ、また、”齟齬”だなんて言葉を使ったら彼女に注意されるかな。<シーン3/街中を歩く2人>(SE〜街角のガヤ〜2人の足音)彼女: 「ねえ、今日はアパートでご飯食べない?」彼: 「え?」彼女: 「なんか、外食もう飽きちゃった」彼: 「でも、食べるものあったっけ」彼女: 「適当にデリバリーすればいいじゃない」彼: 「あ、そうか、いいよ」 彼女の横顔が僕から視線をはずす。 少しだけ口元が緩んだように見えたのは気のせいかな。 彼女とはお互いのアパートを行き来する関係。 今日は僕がオペで遅くなったから クリニックの近くで彼女が待っていてくれた。 こうやって何気ない会話をしながら、 一緒に歩いて家に帰るってのもいいもんだな。 やがて、アパートが見えてきた。 彼女は・・・ なんだか、笑いを殺したポーカーフェイスみたいに見えるけど。 僕たちは、腕を組んでエントランスからエレベータに乗る。 13階で降りれば、部屋はすぐ目の前だ。彼: 「あ?灯りがつけっぱなしだ 朝、そのままで出ちゃったのかなあ」 慌ててロックをはずし、部屋の中へ。彼: 「え!」 食卓の上に、豪華な料理が並んでいる。 料理の横には2つのシャンパングラス。 驚いて振り返ると・・・ 彼女: 「サプラ〜イズ!!」(SE〜シャンパンのボトルを開く音)彼: 彼女がシャンパンのコルクを抜く。 片手に瓶を持ち、満面の笑みで彼女: 「ハッピーバースデー!!」彼: 「あ・・・」彼女: 「4年前のリベンジよ」彼: 「そうか・・・ 忙しさにかまけて、すっかり忘れていた。 今日は・・・」彼女: 「自分の誕生日も忘れてたでしょ」彼: 「うん・・・」彼女: 「もう大変だったんだから。 あなたが帰る時間を逆算して一生懸命料理を作ったのよ」彼: 「ありがとう・・・」彼女: 「ふふん、お礼はまだ早いと思うけどなあ」彼: 「え・・・」彼女: 「寝室へ入ってみて」彼: 慌てて寝室の扉をあけると、 「あ!」彼女: 「もうひとつサプラ〜イズ!!」■BGM〜「インテリアドリーム」彼: 僕のほしかった電動ベッドがそこにあった。彼女: 「これが、私からのバースデープレゼント」彼: 「そんな・・・こんな高いもの」彼女: 「なに言ってるの。 先月のお給料が入ったばかりだし。 いまの電動ベッドは私のギャラでも十分買えるわよ」彼: 「嬉しくて言葉が出ないよ・・」彼女: 「スリープアドバイザーに相談してセミダブルにしたの。 リクライニングソファのように2人寝そべってアニメ見られるわよ」彼: 「もうすぐ君が主演するアニメを見られそうだね」彼女: 「だといいけど」彼: 「来週の君の誕生日、サプライズしようと思ってたのに」彼女: 「え、言わないでよ!ネタバレはなし」彼: 「了解」彼女: 「さ、料理、冷めちゃう前に、食べましょ」彼: 「ああ」 僕は、ずっと胸ポケットにしまってある小さな箱に手をあてた。 ネタバレなしなら仕方がない。 来週の彼女の誕生日に、ひざまづいてサプライズしよう。
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ボイスドラマ「Anniversary」前編
「Anniversary」は、大学生活最後の春を迎えた二人が、偶然の出会いをきっかけに心を通わせていく物語です。卒業を間近に控えた彼女と彼、それぞれが未来に向けた夢や不安を抱えながらも、大切な「今」を紡いでいく姿を描きました。今回は、インテリアブランド「IROTTA CHIC」のきらめく世界を舞台に、二人が共有する特別な瞬間を綴っています。家具やアートに囲まれた空間が、彼女の心にどんな変化をもたらすのか——ぜひ、彼女の目線で楽しんでください。そして、最後に待ち受けるサプライズの瞬間、あなたも一緒に驚いていただけたら嬉しいです。【登場人物】・彼女(21歳)・・・女子大学4年生。モダンダンス部に所属。自主講演を中心として幅広く活動中。ダンスと同時に声優の勉強も独学で始め将来の道に悩んでいる。誕生日は3月(CV:桑木栄美里)・彼(21歳)・・・大学4年生。野生生物研究会。彼女とは彼女が通う女子大の大学祭で知り合った。月1回の野外観察と彼女の合宿が重なった。誕生日は彼女と同じく3月(CV:日比野正裕)【Story〜「Anniversary/IROTTA CHIC/前編」】<シーン1/コテージ>(SE〜森の小鳥ー冬の鳥/シジュウカラやヤマガラなど)(SE〜ドアを何度もノックする音)彼女: 鳥のさえずりしか聞こえない静かな森。 私たちのコテージ周辺に不審者出没の情報がとびこんできた。 ◾️BGM/houseparty-347242533.wav うそでしょ・・・ 冬眠から目覚めたクマじゃないの。 いや、そっちの方が怖いか。 私は、女子大の舞踊教育学コース4年生。 モダンダンス部の友だちと小旅行に来ている。 10月の自主公演、11月の大学祭と、大学生活最後の年を満喫した。 いまは卒業を来月に控えて友だちとの思い出作り。 こんなところに不審者? 私は震えながら、部屋の戸締りを確認する。 そういえば彼は? 確か、この近くでサークルの野外活動をしていたんじゃないかしら。 まさか、不審者って彼のことじゃ・・・ なわけないか。 私と同じ市内で理系の大学に通う、3年生。 彼と私はうちの大学祭で知り合った。<シーン2/大学祭〜フランクフルト屋台> 女子大の学祭名物、フランクフルト屋台。 私は給仕をしながらお客さんのリクエストでダンスを踊る。 なのに、そんな私には目もくれずに 夢中でフランクフルトを食べ続ける彼。 その食べっぷりが面白くてじっと覗き込んでしまった。 彼は、彼: 「僕の顔になにかついていますか?」彼女: とつぶやき、その言葉もツボにはまって 笑いが止まらなくなっちゃったんだ。 結局、笑い過ぎたお詫びに私から彼をお茶に誘い、 それからたま〜に連絡するようになって今に至る。 その彼も野生生物研究会の活動でこの森に来ているはずだ。 といっても、今年の1月以来彼の顔は見ていない。 就職先の研修やら卒業論文やらで忙しく走り回っている。 こんなときなのに、彼と最後に会った日のことを思い出してしまう。 あれは・・・ 初詣のあとに立ち寄ったインテリアショップ。<シーン3/インテリアショップ(IROTTA CHICコーナー)>(SE〜インテリアショップのガヤ) 奥に囲まれたコーナーへ彼が吸い込まれていった。彼: 「ちょっと、こっち来てよ」◾️BGM/after-all-347727614.wav彼女: 「なあに?」彼: 「なんか、このエリア、煌めいてないか」彼女: 「え?・・・わあ〜」彼女: そこは白とピンクを基調にした、プリンセス系のお部屋。 シャビーシックなピンクで彩られた壁紙とラグマット。 ラメを散りばめた白いダイニング、ソファ、ロッキングチェア、ベッド。彼女: 「まるでお城に住んでいる、お姫様のお部屋みたい」彼: 「はは、さすが声優を目指しているだけあって、表現力が豊か」彼女: 「眠っている間に異世界召喚されて、こんなお部屋で目覚めたい」彼: 「出たな、異世界召喚アニメフェチ」彼女: 「だってやっぱり憧れちゃうもん」彼: 「まあ、僕はこっちの部屋かな」彼女: 「うわ、楽しそう」彼: 「この巨大なホワイトタイガーのぬいぐるみと一緒に カラフルなソファで寝転びたいな」彼女: 「ふふ、あなたらしい」彼: 「ゴリラとかバイクのオブジェもあるんだよ(ぜ)」彼女: 「おもしろ〜い」彼: 「なんか、みんなキラキラしてるね」彼女: 「家具屋さんなのに楽しい」彼: 「お、この部屋もすごい」彼女: 「どれ?」彼: 「ほら」彼女: 「絵画?」彼: 「みたい。彼女: 「絵画だけど、全ての絵がキラキラしてる」彼: 「ホントだ」彼女: 「クリスタルかな」彼: 「しかも名画や風景から映画の1シーンまでいろんなのがある」彼女: 「うん」彼: 「この映画って、好きだったんじゃない?」彼女: 「あ・・・」彼女: 私の目の前に現れたのは、 『ティファニーで朝食を』のラストシーン。 黒いドレスのヘプバーンが早朝のニューヨークを歩いている。 しかも等身大のアート。 ドレスの部分にはラインストーンが散りばめられている。彼: 「遊び心満載だなあ。 ほら、バンクシーもあるよ」彼女: 彼はきらめくアートに囲まれて、テンションがMAXになっている。 私は、それよりもヘプバーンにもう釘付け。 ドレスの裾をひらめかせ、目の前でポーズをとる美しき妖精。 こんなアートが自分の部屋にあったら、 毎日がどんなに素敵になるだろう。 私は時間を忘れて、ヘプバーンの前で立ち尽くしていた。<シーン4/コテージ>(SE〜森の夜/フクロウなど)(SE〜部屋の電話のコール音)彼女: 不躾に鳴り響くコール音。 私は束の間の現実逃避から、現実世界へ呼び戻された。 (SE〜受話器をとる音)彼女: 「もしもし・・・」彼女: 電話は一緒に来ているモダンダンス部の仲間。 なんと、不審者が館内にいるかもしれないと告げて電話を切った。 不安と緊張のボルテージは一気に最高潮に達する。 と、そのとき・・・(SE〜ドアを激しく何度もノックする音)※以下何度も使用彼女: 「うそっ!?」彼女: 私は他人(ひと)から見たらおかしいほどに狼狽える。 ドアから一番離れたベッドに背中を押し付け、身構えた。 そこへ、友人の声で、 ”早く開けて!” ”急いでここを出るの!” という、焦って慌てた怒鳴り声が耳に飛び込んでくる。 け、警察! そうだ、警察に電話しなきゃ。 ”ねえ開けてよ!”彼女: 「待って、先に警察に電話するから」 ”それよりここを出なきゃ!”彼女: 友人の緊迫した声に気圧されて、思わず扉を開ける。(SE〜扉を開く音/と同時にクラッカーの音と歓声)全員: 「サプラ〜イズ!!」彼女: 「え?」彼女: 扉の向こうには、モダンダンス部の仲間たちが勢揃いしていた。(SE〜クラッカーの音と拍手・歓声)全員: 「ハッピーバースデー!!」彼女: 「あ・・・」■BGM〜「インテリアドリーム」彼女: すっかり忘れていた・・・ そうか、今日は私の誕生日・・・彼: 「誕生日おめでとう」彼女: 「え〜!?」彼女: 整列した仲間たちの後ろから現れたのは、ヘプバーン! 3か月前にインテリアショップで見たアートを抱えた彼だった。彼女: 「やだ・・・」彼: 「事情を話したら家具屋さんがここまで運んでくれたんだ」彼女: 「あ、ありがとう・・・」彼: 「ここから君のアパートまでは一緒にクルマで持っていこう」彼女: 「うん・・・」彼: 「新しい君の1年が最高の1年になりますように」彼女: 「もう・・・これ以上泣かせるようなこと言わないで」彼女: 頭の中が整理できないほど、あまりにドラマティックな演出で、 私の21歳のアニバーサリーが過ぎていった。(SE〜拍手と歓声)全員: 「おめでとう!!」
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ボイスドラマ「言霊」後編
前編では、主人公が幼い頃から憧れていた大学への進学を果たし、その背後にあった家族の支えと「言霊」の力が描かれました。そして時は流れ、今、彼女は結婚式を迎えています。人生の新たな門出を前に、彼女が思い出すのは10年間使い続けた丸いテーブル。それは、かつて父と母とともに選んだ、大切な家具でした。結婚という人生の大きな転機を迎えたとき、彼女が家族から受け継ぐものとは?そして、彼女の新しい人生に「丸いテーブル」はどんな意味を持つのでしょうか?ボイスドラマでも、家族の愛と絆がより深く伝わる作品になっています。ぜひ、SpotifyやApple、Amazon Musicなどでチェックしてみてください。【登場人物】・娘(18歳/29歳)・・・飲料メーカーの商品企画部に所属するマーケター。今日が自身の結婚式。ホームワークは食卓兼ワーキングデスクの丸いテーブル。10年使っているテーブルだが、彼女には結婚しても捨てられない思い出のテーブルだった(CV:桑木栄美里)・母(44歳/55歳)・・・飲料メーカーの商品企画部に所属するマーケター。結婚式を1か月後に控えている。ホームワークは食卓兼ワーキングデスクの丸いテーブル。10年使っているテーブルだが、彼女には結婚しても捨てられない思い出のテーブルだった(CV:桑木栄美里)・父(45歳/56歳)・・・45歳当時は物流会社の課長だったが10年後に部長に。目の中に入れても痛くない娘が大学に合格。東京へ出て1人暮らしをするときに家族3人で家具を選んだ。父・母・娘それぞれの思いが詰まった家具とは・・・(CV:日比野正裕)<シーン1:娘の新居/いま/父母娘>(SE〜紅茶を飲む音)母: 「もう11年になるのね。 いつまでも丈夫で素晴らしいわ」父: 妻が娘の新居で、独り言のように呟く。 なんのことかと思ったら、食卓テーブルのことらしい。 妻が腰をおろしている食卓は少し大きめの丸いテーブル。母: 「思い出すわねえ、11年前のあの日。 あら、ちょうど今日じゃなかったかしら?」父: 「ああ、そうかもしれないな。よく覚えてないけど」母: 「うそおっしゃい。 ちゃんと覚えてるんでしょ」父: やっぱり、妻はなんでもお見通しだ。 思えば11年前のこの日。 娘の大学受験。合格発表の日だった。<シーン2:11年前/合格発表の日> いまどきは、合格発表をインターネットでするのか!と思いつつ、 かく言う自分もキャンパスにいた先輩大学生に、 合否を連絡してくださいとお願いしたんだった。 発表の日、電話の前で正座していつかかってくるかハラハラして待っていたなぁ。 「サクラサク」「サクラチル」電話代節約なのか、まるで電報のように短い言葉で伝えてくる先輩。なつかしいな。 あ、娘の話に戻そう、、、 丸テーブルで家族全員で発表を見たい!と言い出した。 (娘「丸テーブルで家族全員で発表を見たい!」) そりゃ、いてもたってもいられないのはわかるけど。 朝から用事で出かけるというと、怪訝な顔をされた。 食卓は今までずうっと家族が集まってきた場所。 丸い食卓テーブルでみんなで合格を祝うのが確かに一番うちらしい。 私はカバンに娘が欲しがっていたスマートウォッチを入れた。 実は、もう合格を信じて、お祝いのプレゼントを買っていたんだ。 そうだ。娘の大好物、ふかし芋も出かける前に作っておいてやろう。 さつまいもは冬の終わりまでが旬だからな。 甘みたっぷりの地元のふかし芋だ。 きっと喜ぶだろう。 娘の喜ぶ顔を想像して、つい口元がほころぶ。 私は蒸しあがったふかし芋を新聞紙に包み、 ラップをかけて、さらにハンカチでくるみ、戸棚にしまった。<シーン3:11年前/神社>(SE〜街角の雑踏と足音) 県内でも合格祈願で有名な大きな神社。 家からは少し距離があるが、今日は朝からどうしてもここに来たかった。 拝殿に上がらせていただき、お祓いとお清めを受ける。 娘に買ったスマートウォッチと、娘の受験票。 私の身も含めてすべて祓い、清めていただく。 大願成就の厳かな祝詞が流れ、頭を下げる。 大長編の祝詞だが、その分ご利益も間違いないだろう。 お祓いが終わり、神社をあとにしたのが昼近く。 今から帰れば合格発表の時間には十分間に合う。 途中、花屋さんで大きな大きなバラの花束を買う。 顔が隠れるくらい大きな大きな花束。 周りの人たちがチラチラ私を横目で見る。 今頃、妻と娘は丸テーブルの前で お茶でも飲みながら、パソコンを開いていることだろう。 発表の時間が近づき、 時計で時間を確かめると、発表1分前だ。私は花束を手に家へ向かう。 大通りを抜け、信号を渡る。家はもう目の前だ。 10秒前。5秒前。 発表の時間になった。 結果は見ない。私は最後まで娘を信じているから。 大きく深呼吸をして、娘に電話をかける。 1回。2回。3回のコールで娘が出た。娘: 「もしもし」父: 私は娘より先に、言葉をかける。 「おめでとう!やったな!」娘: 「うん!ありがとう、パパ」父: 「いますぐ、お祝いしなきゃ」娘: 「わかった。早く帰ってきて」父: 「ああ、もう帰ってるよ」娘: 「え?」(SE〜家のドアチャイム「ピンポン!」)父: 私はインターフォンを押した。(SE〜ドアが開く音) チェーンをはずしてドアが開く。 ドアの向こうには、瞳を潤ませた娘が立っていた。 感無量の表情で私に微笑む。父: 「おめでとう!本当におめでとう!」 妻と娘と私。親子3人で、声をあげて泣いた。<シーン3:いま/娘の新居>母: 「3時間くらい、食卓の丸テーブルで泣き笑いしてたわね」父: 懐かしそうに、妻が思い出を語る。母: 「結局、家具屋さんへ行ったのは次の日だったのよ」父: 「ああ、覚えてるよ」母: 「そこで、これを」父: 「そうだったな」母: 「この娘は、小さな部屋だからって小さい四角のテーブルを選ぼうとして」父: 「ママがそれをとめた」母: 「実家でも、食卓は優しい丸テーブルなんだもの」父: 娘は幸せそうな顔で、私たちの思い出話を聞いている。母: 「丸いテーブルでないと。 丸という形は、部屋をあったかくしてくれるのよ」父: あの日と同じ笑顔で、同じ言葉を話す。母: 「テーブルが丸いと、どの位置からでも座れるでしょ」父: 「そうそう。そう言って、2つの椅子も選んだんだっけ」母: 「椅子がひとつなんてダメよ。 お友達がきたときにどうするの。 1組あれば、2人はちゃんと座れるでしょ」父: 「でも、2つじゃ足りないよな」母: 「そう言って、あなたがもう1脚、 折りたたみの白くて可愛いチェアを選んだのよ」父: 「よかったじゃないか。3つあればこれから私たちが来ても、みんな座れる」母: 「最初から、娘の部屋にくること前提なんだから(笑)」父: 「バレバレだったか(笑)」(「バレバレでしたか(笑)」) 妻は娘の方へ向き直って口元をほころばせながら娘に話しかける。母: 「でもまさか、あなたが新居にまで持ってくるとは思わなかったわ」父: 「ママのDNAが受け継がれたんだな」母: 「そうかもね。 でもね、私は次に食卓を買うときも丸テーブルにした方がいいと思うの」父: 「わかるよ」母: 「丸テーブルなら、対面で座っても、横に座っても、距離が近く感じるの」父: 「娘の結婚式も丸テーブルだしな」母: 「丸テーブル そう!家族みんなでご飯を食べて、あったかい家庭を作りなさい」父: 「ママ、もうちゃんと作れてるじゃないか」■BGM〜「インテリアドリーム」母: 「あら、そうだったわね」父: そう言って妻が娘の方へ振り返る。 丸いテーブルの横に置かれたソファに座り、微笑む娘。 その胸には、小さなもうひとりの家族が、優しく抱かれていた。 すやすや眠る小さな命は、丸テーブルの5人目の家族になるだろう。
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ボイスドラマ「言霊」前編
一脚の丸いテーブルを通して、親と子の絆、成長、そして大切な思い出を紡ぐ物語です。主人公は、8歳、18歳、そして28歳の3つの時間軸で描かれる一人の女性。彼女の人生の節目には、いつも家族とともに選んだ丸いテーブルがありました。幼い頃に抱いた夢、大学受験、そして新しい人生の門出——そのすべての場面に、家族の愛とぬくもりが詰まっています。【登場人物】・娘(8歳/18歳/28歳)・・・飲料メーカーの商品企画部に所属するマーケター。今日が自身の結婚式。ホームワークは食卓兼ワーキングデスクの丸いテーブル。10年使っているテーブルだが、彼女には結婚しても捨てられない思い出のテーブルだった(CV:桑木栄美里)・父(35歳/45歳/55歳)・・・45歳当時は物流会社の課長だったが10年後に部長に。目の中に入れても痛くない娘が大学に合格。東京へ出て1人暮らしをするときに家族3人で家具を選んだ。父・母・娘それぞれの思いが詰まった家具とは・・・(CV:日比野正裕)【Story〜「丸いテーブル/新生活/前編」】<シーン1/いま/結婚式場>(SE〜結婚式場のBGM/雅楽)娘: 厳かな神殿での結婚式。 私の28年を寿ぐような美しい祝詞が奏上されていく。 不思議だな。 人生の走馬灯って、ご臨終のときだけじゃなくて こんなハレの日にも回るんだ。 と、不吉な言葉を口にする私。 大丈夫、これは言霊じゃないから。 私の頭の中に蘇るのは、走馬灯でなく、食卓のテーブル。 テーブルには、大切な思い出がいっぱい詰まっている 私は、姉と10歳以上も離れて生まれた末っ子。 遅くに生まれた子ということもあって、 父と母にこれ以上ないくらい愛されて育った。 たっぷりの愛情に抱かれて過ごした年月が 古い映写機で上映されるように蘇る。(SE〜映写機の音)(SE〜家庭内の雑踏) 私の人生で、転機は3回。 ひとつは、8歳のとき。 小学生のときに憧れのダンスの先生がいた。 そのかっこいい先生が卒業した大学にどうしても入りたくなった。<シーン2/20年前/自宅の食卓> 家の中央に置いてある大きな食卓。 それは父と母のこだわりで大きくて丸いテーブルだった。父: 「まあるいと、お部屋があったか〜くなるんだよ」娘: 父はいつも私にそう言っていた。 そのテーブルに座って家族みんなが集まるある日の夕食。 私は、超難関の有名大学を受験する!と、両親に宣言した。 一番驚いたのは父。 座っていた食卓の椅子から身を乗り出して、私に言葉を返した。 普段は声が大きい父なのに、私の目を見てゆっくりと話す。父: 「その大学って、東京だろ」娘: 「うん」父: 「日本一難しい女子大だろ」娘: 「うん」父: 「でも日本一素敵な大学だろ」娘: 「うん!」父: 「じゃあ、もう一度言ってごらん」娘: 「え?どうして?」父: 「言霊だよ」娘: 「ことだま・・・?」父: 「うん、良い言葉を口にすると、良いことが起こるんだよ」娘: 「ホント!?」父: 「そう。だから言ってごらん」娘: 「わかった・・・んと・・・私、東京の女子大に合格する!」父: 「よし!じゃあ、これから、パパとママと一緒にがんばろう」娘: 「うん!ありがとう!」父: 「パパは10年後が楽しみだな」娘: 最初は驚いていた父も母も、諸手を挙げて大賛成。 私はその日から勉強とクラシックダンスに明け暮れるようになった。<シーン2/10年前/自宅のダイニング>娘: そして、10年後。 2回目の転機は、もちろん、志望大学の合格発表の日。 私が受験したのは、宣言した通り超難関の女子大一択。 10年前、父に言われた言霊を信じて、まっすぐにすすんできたから。 不合格、なんていう未来は私の中にはなかった。 合否の結果は、 インターネットの受験生専用サイトで決まった時間に発表・配信される。 私はいても立ってもいられず、学校を休んで朝からパソコンとにらめっこ。 丸いダイニングテーブルに座って、 まだ公開されていない合格発表サイトを何度も見返す。 こんなときでも、やっぱり丸いテーブルって落ち着くなあ。 今日に限って、父は 「用事があるから」 と、出かけてしまった。 私と母は、良い結果が出たら、そのまま家具屋さんにいくつもりだ。 頭の中で、部屋に合わせた家具を、必要最小限で考えてある。 あとは、吉報を待つだけだ。 いよいよ、合格発表の時間がやってきた。 ドキドキして心臓が止まりそうになる。 ストレスで喉がカラカラになった。 母と一緒に発表時間をカウントダウンする。 3、2、1、ログイン! 受験者専用の特設サイトには、画面いっぱいに番号が並ぶ。 13765、13984、13990・・・ 焦らず、焦らず。 画面をゆっくりとスクロールする。 14001、14012、そして・・・14015! 私の受験番号、14015番が下からゆっくりと現れた! 「ママ!」 そう言ったきり、しばらく言葉が出てこない。 母も私も、無言で顔を見合わせ、瞳を潤ませる。 そのとき、私のスマホが鳴った。 びくっとして、スマホを落としてしまう。 母が笑いながら、パパよ、と笑う。 着信の表示は、見慣れた父の携帯番号だった。娘: 「もしもし」父: 「おめでとう!やったな!」娘: 「うん!ありがとう、パパ」父: 「いますぐ、お祝いしなきゃ」娘: 「わかった。早く帰ってきて」父: 「もう帰ってるよ」娘: 「え?」(SE〜ドアチャイム「ピンポン!」)娘: ドアをあけると、 玄関の外に、大きな花束を抱えた父が立っていた。■BGM〜「インテリアドリーム」父: 「おめでとう!本当におめでとう!」娘: そう言って花束を手渡す父。 私も母も、驚きと喜びで一瞬固る。 次の瞬間、でも、(すぐに)父の胸に飛び込んだ。(私と母) そのあとしばらく、親子3人、声をあげて泣いていた。 どのくらい、3人で抱き合っていただろう。 やがて思い出したように、父が言葉を絞り出す。父: 「合格祝い、ちゃんとあるよ」娘: 「ええっ?もし不合格だったらどうしていたのよ」父: 「それはありえないだろう。言霊がお前を守ってくれるんだから」娘: 「パパ!」父: 「さあ、プレゼントをあけてごらん」娘: 「うん」父: 「お前が欲しがっていたスマートウォッチだよ」娘: 「スマートウォッチ!!え?なんで私がほしかったのしっているの?」父: 「ん〜」娘: 「ありがとう!」父: 「それ神社でお清めしてもらったからな」 娘: 「パパ、朝から神社に行ってたの? ああ、、それで・・・(居なかったんだ、というニュアンス)」 父: 「いや、ちょっとほかの用事もあったからな・・・ まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。 そうだお前の好きなふかし芋も戸棚にあるからな」娘: 「ホント!?そっちの方が嬉しいかも」父: 「ん?じゃあ、スマートウォッチはいらな、、、」娘: 「(前に被せて)いる!!」父: 「はは・・・どっちもお前が引き寄せたんだよ」娘: 「ううん。ぜんぶ、パパとママのおかげだね」父: 「何を言ってる。お前が実力でつかんだ夢じゃないか」娘: 「違うよ。だって、パパとママがいなかったら、私はこの世にいなんだもん」父: 「え・・・」娘: 「パパ、ママ。私を産んでくれて、私を育ててくれて、本当にありがとう! これから、いっぱい恩返しするから!」父: 「ああ・・・泣かせるんじゃないよ、、、」娘: あんなに涙を流した父は、あの日以外見たことがない。<シーン4/いま/結婚式場>(SE〜結婚式場の雑踏) 私の結婚を誰よりも喜んで、誰よりも幸せなのは父と母。 泣き笑いの顔を見ているだけで、手にとるようにわかる。ふふ。 私は、10年前を思い出して、一層胸が熱くなった。 パパ、ママ。 いつまでも、その笑顔を絶やさずに。いつまでも、私のそばにいてね。
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ボイスドラマ「Happy New Interiors!」後編
前編では、ダンススタジオとレストランでの何気ないやりとりを通じて、二人の関係が少しずつ変化していく様子が描かれました。後編では、舞台を家具のイベント「インテリアビッグバザール」 に移し、彼と彼女がさまざまなインテリアを体験しながら、心の距離を縮めていきます。「家具は暮らしを変える」。新しい空間にふさわしい家具を選ぶことは、単なる「買い物」ではなく、新しい自分への第一歩 でもあります。そんな「インテリアの魔法」が、二人にどんな影響をもたらすのか?そして、彼のふとした言葉に込められた想いとは?ボイスドラマ版では、インテリアの魅力を声と音で伝え、より臨場感のあるストーリーをお届けします。Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォーム、または服部家具センター「インテリアドリーム」公式サイト でぜひお聴きください!それでは、物語の続きをお楽しみください!【登場人物】・彼(38歳)・・・元バレエダンサー。膝を痛めてバレエを断念したが、思いは断ち切れず、ダンススタジオでインストラクターをしている。本職は広告代理店の企画部勤務。彼女のことを意識しているが、年齢差のコンプレックスがあり言い出せない(CV:日比野正裕)・彼女(26歳)・・・前編に登場した息子の姉。芸術大学出身。現在はフリーのイラストレーター。幼い頃からバレエを習い、いまでもダンススタジオに週3で通っている。ダンススタジオで知り合った彼とは月に何回か、食事に行くライトな関係(CV:桑木栄美里)<シーン1:ダンススタジオ>(SE〜ダンススタジオの雑踏)彼: 「はい、おつかれ!今日はここまでにしよう」彼女: 「おつかれさまでした!」彼: 「お腹すいたな、軽くたべよっか・・」彼女: ビルの2階にあるダンススタジオ。 通りに面した東側には大きな窓ガラスがはまり、 灯りがともる頃には、外からダンサーたちの動きがよく見える。 彼の指示で私の定位置はいつも窓側。 私は、通りを歩く観客に向かってコンテンポラリーダンスを踊る。<シーン2:レストラン>(SE〜レストランの雑踏)彼: 「なんだか、浮かない顔だね」彼女: え?私、浮かない顔なんてしてた? ちゃんと彼の目を見て笑顔で話をしてたつもりだったのに。 こういうとこ、鋭い人だな。彼: 「実は僕も、今日会社でちょっとミスしちゃってね。 結構ひっぱるタイプだから」彼女: そう?いつもカラっとしてると思ってたけど。 それに、僕も、って。 私が気分下がってること、確信してるのね。彼: 「まあ、そういうときは、美味しいお肉をたべて・・・ あ、お肉好きだったよね?」彼女: 「はい」 彼: 「よし、じゃあ、今日はちょっと贅沢して 飛騨牛のフィレ肉とかいっちゃおうか」彼女: 「え〜」 彼: 「あれ?食べたくない?」彼女: 「あ、いえ、食べたいです」 彼: 「オッケー、決まり。 店員さん!オーダー! あっと、それから・・・ レッスンのとき以外は敬語っぽい言葉遣いやめてくれる? なんか、くすぐったくて、落ち着かないし」彼女: 「っと・・・わっかりました〜」 彼: 「うん、それそれ」彼女: タメ口とか、苦手なんだよなあ。 彼は、ちょっぴり強引だけど、 なかなか1人で決めきれない性質(たち)の私にはちょうどいいかも。 それにしても、口の中で溶けちゃうくらい、柔らかくてジューシーなお肉。彼: 「どう?美味しい?」彼女: 「溶けちゃった」 彼: 「あはは、そりゃ、シャトーブリアンだもの」彼女: 「ん〜!美味しい!」彼: 「よかった。 それで、舌鼓を打っているところ悪いんだけど・・・ どうしたの?なにかあった?」彼女: 「えっと・・・ 私、引っ越ししようと思って」彼: 「え?引っ越しって?実家暮らしじゃなかったっけ?」彼女: 「あ、そうなんです・・・そうなんだけど(笑) 弟が社会人になって私の部屋を明け渡しちゃったから」 彼: 「え、じゃあ、いま、どうしてるの?」彼女: 「1人暮らし前提だから、いまは倉庫代わりに使ってた狭い部屋。 弟は2間続きのスイートになって大喜びしてるわ」 彼: 「そうか、そしたら明日家具見にいこうか?」彼女: 「家具?」彼: 「だって、家具ひとつで、お部屋は明るくあったかくなるんだよ」彼女: 「へえ〜」 彼: 「ただの家具屋じゃなくて、すっごいところへ連れてってあげる」彼女: 彼はいつだって特別な場所へ私を誘(いざな)ってくれる。 これって、私が特別な存在ってこと? ううん、考えすぎだよね・・・<シーン3:イベント会場「インテリアビッグバザール」>(SE〜インテリアのイベント会場)彼女: 「すご〜い!」彼: 「だろう?」彼女: 「インテリアのテーマパークみたい!」彼: 「そこまでじゃない(笑)」彼女: いやいや。十分にそこまでだし。 広大なスペースの大ホールにゆったりと並べられた家具たち。 ベッド、ソファ、食卓、デスク、雑貨・・・ いったい何台、何本、何点、展示されているんだろう。 ムートンの体感コーナーまであるし・・・彼: 「寝転がってみたら?」彼女: 「いいのかなあ」彼: 「もちろん」彼女: 店員より先に私を促す彼。 ベッドに敷かれたムートンのうえ、大の字になって寝そべる。彼: 「気持ち良さそうだなあ」彼女: ホントに気持ちいい。このまま眠っちゃいそう。 私の楽しそうな表情を見て、彼の口角がさらに上がる。彼: 「電動ベッドにも寝てごらん」彼女: 「電動ベッド?私今年25歳だよ」彼: 「いやいや、いま電動ベッドは若い人に人気なんだよ」彼女: 「ホント?」彼: 「まあ、だまされたと思って」彼女: 「わかった・・・よいしょっと」彼: 「スマホにアプリを入れて」彼女: 「アプリ?」彼: 「スマホで操作するんだ」彼女: 「すご」 アプリで時間設定すれば、朝ベッドが起き上がって私を起こしてくれるんだって。 しかも寝ているときイビキをかいたら、ベッドが感知して体を少し起こす? 気道を広げて快適な睡眠へ誘う? 寝る前はリクライニングさせたベッドで、 読書したり、ゲームしたり、アニメを見たり、って・・・ ああ、怠惰な私になってしまう〜彼: 「健康にしてくれるんだよ」彼女: 確かに。命を守るベッドだ。 私、朝起きるとき、足の浮腫(むくみ)とか結構ひどいからなあ。 ベッドのコーナーには睡眠アドバイザーもいて、そんな相談にものってもらった。彼: 「小さなワンルームだったら、この電動ベッドがあればソファいらないよね」彼女: あ、そうか。そうやって考えたら、コスパも高いかも。 それに、向こうには・・・羽毛布団のオーダーメイド? 体型や好みに合わせて、この場で羽毛布団を作ってくれるんだ。 すごすぎる・・・彼: 「楽しい?」彼女: 「うん。一日中見てまわりたい」彼: 「じゃあ、そうしよう」彼女: 「え、いいの?」彼: 「大丈夫大丈夫。ゆっくり見てまわれば、どうせ一日かかるよ」彼女: 「やった。 ねえ、あの一帯みて。75%オフだって。 ここで全部家具決めちゃおうかな」彼: 「いいんじゃない」彼女: 「じゃあ、次は食卓みたい」彼: 「了解」彼女: あれ? 私、なんかタメ口っぽい。 普段の私なら考えられないのに。 彼が作り出す、異空間に召喚されてしまったみたい。彼: 「君の笑顔を見ているとね、本当に幸せな気持ちになれるんだよ」彼女: 「え」■BGM〜「インテリアドリーム」彼: 「この時間が永遠に続けばいいのに、って」彼女: 「あ」彼: 「あ〜、いやいや。冗談。冗談。忘れて」彼女: 忘れられるわけがない。 私も、幸せ。 愛とか恋とか、そういうのじゃなくても・・・。 会場いっぱいの家具に囲まれて、 なんだか、現実のその先にある、不確かな未来が見えたような・・・気がした。
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ボイスドラマ「Happy New Interiors!」前編
はじめまして、またはおかえりなさい!今回の物語「Happy New Interiors!/家具のイベント」 は、ダンスとインテリアが織りなす、ちょっぴり大人の物語 です。前編では、ダンススタジオを舞台にした二人の関係 にフォーカスし、彼と彼女が交わすさりげない言葉のやりとりや、レストランでの何気ない時間を描きました。そして、彼女が引っ越しを決意し、新たな生活に向けて歩み出そうとするところが、後編へのつながりとなっています。この作品はボイスドラマ となっており、服部家具センター「インテリアドリーム」公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォーム でお楽しみいただけます。音声ならではの演出が加わることで、二人の距離感や空気感をよりリアルに感じられるはずです。さあ、家具とインテリアが織りなす新たな物語の扉 を、ぜひ開いてみてください。【登場人物】・息子(22歳)・・・父・母・姉・祖母と5人で暮らす。今年大学を卒業して社会人1年生となる。就職先は銀行。工学部出身だったため銀行でも情報システム部でベンダーを統括する(CV:日比野正裕)・母(47歳)・・・結婚前は夫と同じ銀行で働き、社内結婚。子供が入学すると同時に退職して専業主婦。現在はフリーのファイナンシャルプランナーとして主婦仲間たちの相談にのっている(CV:桑木栄美里)【Story〜「Happy New Interiors!/電動ベッド/前編」】(SE〜玄関のチャイム「ピンポン」)息子: 「あ、きたきた!」母: 「なぁに?またなんかくだらないモノ買ったの?」息子: 「ひどいなあ、母さん。 新生活の家具一式だよ」母: 「え?家具? あなた1人で家具屋さん行ったの?いつのまに?」息子: 「ちょっとちょっと。僕もう今年から社会人だよ。 家具くらい自分ひとりで選べるって」母: 「大丈夫?不安がいっぱいだわ・・・」息子: 「もう〜、そんなこと言うなら見に来て。 僕の部屋まで運んでもらうから」母: 「はいはい。それにしてもいっぱい買ったのね」息子: 「プログラマーのバイト代ってすごいんだよ。 それもこれも、僕を天才として産んでくれた母さんのおかげかな」母: 「なに、えらそうに」息子: 確かに、ボリューム満載の家具たちだった。 だって僕の部屋はいたってシンプルで、 ほとんど家具と言えるものは置いてないからなあ。 ベッドもなくって、布団だし。 TVはリビングで見るからいらないし。 たま〜に、家に帰ってからPCでプログラムをチェックするけど、 作業するのも机なんて呼べるシロモノじゃないし。 でも、今日から僕の部屋はスイートルームに変わっていく。 まあ、もともと二間続きの部屋だったから、スイートっていえばスイートかあ。 バイト帰りに何度も何度も家具屋さんに足を運んで、 自分にとって最高の家具を選んできたからなあ。自信たっぷりさ。母: 「ぶつぶつ言ってないで、先に掃除機かけなさい」息子: 「は〜い」母: 「それ、ホームワーク用のパソコンデスクに、チェア?」息子: 「うん、会社はリモートが多い‘ いろんな椅子にすわって疲れないチェアを選んできた」母: 「お、なんか、このサイドボードもおしゃれじゃない」息子: 「そうだよ。ちゃんとサステナブルな素材なんだ SDGsの家具ってわけ」母: 「ふうん、・・・そっちはなに?」息子: 「インテリアアートだよ」母: 「インテリアアート?ふうん、意外な趣味があるのね」息子: 「まあ、見てくださいって」母: 「どれどれ?お、なんかキラキラしてるんじゃない」息子: 「そう。素敵でしょ。名画の上からデコレートしてあるんだ」母: 「なるほど。 ただのレプリカだとちょっとこの部屋には合わないもんね」息子: 「ヘプバーンの肖像画、かっこよくない?」母: 「これ、ティファニーで朝食を、の名シーンだわ。 パパと見に行ったっけ。ヘプバーン、可愛かったな〜」息子: 「リモートミーティングの背景にチラっと映ったら、 お、こいつ、できるなってなるでしょ」母: 「ならないわよ。 で、最後はベッド?やっと布団暮らしにさよならするのね」息子: 「これね、ただのベッドじゃないんだ」母: 「どこが?オシャレだけど場所とらない普通のシングルベッドでしょ」息子: 「見てて」(SE〜電動ベッドを動かすモーターの音)母: 「え?あなた、電動ベッドにしたの?」息子: 「いまね、電動ベッドがすっごくバズってるんだよ」母: 「腰でも痛めた?」息子: 「違うよ。 この電動ベッドはスマホで操作できるんだ。見てて」母: 「へえ〜」息子: 「寝るときも起きるときも、ベッドが僕に合わせてくれるんだ。 ベッドから立ち上がるときとか、ベッドに寝転ぶときに 床面を少し高くすれば動くのラクでしょ。 体への負担だって減らせるんだよ」母: 「ほお〜」息子: 「こうしてラクな姿勢にリクライニングすれば、 読書するときも動画を見るときも疲れないしね」母: 「ゲームするときでしょ」息子: 「おっと」母: 「動画ったって、アニメだし」息子: 「アニメはちゃんと確立されたコンテンツだよ」母: 「そんなこと、あなたに言われなくてもわかってる(笑)」息子: 「脚が疲れた時は、脚を上げて浮腫み対策もできる」母: 「すごいのねえ」息子: 「これがあればソファいらないから部屋のなかはスッキリ」母: 「あらホント」息子: 「それに、なんと言ってもすごいのは、 寝てるときいびきを感知すると、ベッドの角度を変えてくれること。 気道を確保して呼吸しやすくしてくれるんだ」母: 「そうなんだ〜」息子: 「この春は、社会人生活のスタートだからね。いろいろこだわりたいじゃん。 そしたら家具屋さんでスリープアドバイザーの人がいてさ。 大切なのは睡眠の質をあげること。 枕も自分にピッタリな高さと硬さを選んでもらっちゃった」母: 「電動ベッドねえ・・・」息子: 「あれ。母さんも欲しくなった?」母: 「違うわよ。これ、おばあちゃんにも買ってあげようかな」息子: 「もう買ったよ」母: 「え?」■BGM〜「インテリアドリーム」息子: 「いま、おばあちゃんの部屋から古いベッドを引き取ってもらってる」母: 「誰が買ったの?」息子: 「僕に決まってるじゃん。銀行って給料いいんだから」母: 「うそ」息子: 「ホントだよ。 それに大学時代のプログラマーのバイト代、結構たまってたんだぜ」母: 「おばあちゃんに伝えなきゃ」息子: 「もう伝えてる」母: 「ええ〜っ!?」息子: 「腰とか背中とか痛いところを聞いて、 マットレスも硬いのと柔らかいのどっちがいいかも聞いた。 その上で睡眠アドバイザーに相談したんだ」母: 「あなたって人は・・・」息子: 「おばあちゃんの部屋の間取りも測っておいて 配置シミュレーションでどうやっておこうかも考えたから」母: 「まったく・・・」息子: 「なに、感動した?」母: 「さすが私の息子だわ」(母と息子の笑い)
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ボイスドラマ「サンタの正体」後編(賢者の贈り物)
登場人物・彼女(25歳)・・・インテリアコーディネーター/大学卒業後インテリアで課題を解決する仕事に憧れて現職に就く(CV:桑木栄美里)・彼(37歳)・・・公認会計士/30代になって国家試験に合格。リモート打合せが増えてきたためコーディネーターに部屋のインテリアを相談中(CV:日比野正裕)<シーン1:現在/インテリアショップ>(SE〜インテリアショップの店内)彼女: 「遅くなってごめんなさい!」彼: インテリアショップの入口。 階段横にディスプレイされた華やかな絵画を見ていた僕の元へ 息をきらして彼女が走り込んできた。 彼女は、インテリアコーディネーター。 先月リノベーションした僕のアパートのインテリアを考えてくれている。 今日はインテリアショップの店内で、プランを聞かせてくれるそうだ。彼女: 「ずいぶん待たせちゃいましたよね」彼: 「いえ、僕もいま来たところです」 と、答えたけど、それはうそだ。 20分前にインテリアショップに着いた僕は、 ずうっと階段横のところにあるキラキラした絵画を見ていたんだ。 だから、待たされた、という感覚はない。 不快な気持ちがないのだから、 いま来た、と言っても気分的に差し支えないんじゃないかな。彼女: 「こういうキラキラ系の絵が好きなんですか?」彼: 「はあ、あまり派手すぎるのは苦手なんですが、 なんか、このモンローに魅入られちゃいまして・・・」彼女: 「今回のプランに入れましょうか」彼: 「いや、それは、どちらでも・・・不自然じゃなければ」彼女: 「うふふ、検討してみますね」彼: どうも僕の性格的に、イニシアティブをとっているのは彼女のようだ。 ま、クライアントとインテリアコーディネーターという関係なのだから 問題ないのだが。 僕は30代になってから国家試験に合格した遅咲きの公認会計士。 お客さんは若い経営者が多いからだろう。 僕は毎日のように対面でなくリモートミーティングに追われている。 そんなとき、このインテリアショップで彼女と出会った。 街では、街路樹が色づき始める頃だった。<シーン2:3か月前/インテリアショップ>彼女: 「ええ、それはスペース的には難しいかもですね。 あ、でも、家具の色をオン・オフで分ける、という方法もありますから。 一度プラン出してみますね」彼: 聞くとはなしに聞こえてきてしまった電話のやりとり。 ホームオフィスのコーナーで イヤホンを耳につけた彼女が忙しそうに会話していた。彼女: 「わかりました。 では、来週。リモートで打合せしましょう」彼: 電話をきって顔をあげた彼女と思わず目が合ってしまった。 あわてて目を伏せる彼女に、僕は大胆にも声をかける。 いつもの僕なら絶対にありえない行動パターンだけど。彼: 「あの・・・インテリア関係の方ですか?」彼女: 「え・・・」彼: 驚いて顔をあげた彼女はとまどいながら答える。彼女: 「ええ。でも、このお店のスタッフではありません」彼: 「あ、はい。わかります。 実は・・・僕、最近、リモートミーティングが増えてきちゃって ホームオフィスのコーナーを見てたんですけど・・・」彼女: 「ああ、じゃあ店員さんに聞いたら・・・」彼: 「はい。でも、その前にあなたの話が聞こえちゃったので・・・」彼女: 「まあ」彼: 「あ、いえ、決して、盗み聞きしてたんじゃあないんです。 今さら、と言われそうですけど、 僕のアパートには、ホームワークの環境が全然整っていなくて。 だからせめて画面に映る背景くらいは、ちゃんとしておきたい。 でも、自分ではどうしたらいいかわからない。 途方にくれていたときに。あなたの声が耳に飛び込んできたんです。 あ、なんか、まくしたてちゃってごめんなさい!」 気がつくと、彼女は笑っていた。 気がつくといなくなっていた、という顛末を想像していた僕にとっては 予想外の嬉しいリアクションだ。彼女: 「よかったら、詳しくお話を聞かせていただけます?」彼: 「ホントですか」 こうして僕たちは、クライアントとして、インテリアコーディネーターとして このあとも顔を合わせることになった。<シーン3:2か月前/カフェ>(SE〜カフェ店内の雑踏)彼女: 「今日も遅れてごめんなさい。前のミーティングがおしちゃって」彼: 「リモートでもいいんですよ」彼女: 「あら、リモート対策のリノベじゃなかったんですか」彼: 「はは、そりゃそうだ」彼女: 「それより、一度おたくにお邪魔しないと」彼: 「え・・・」彼女: 「早い方がいいわ」彼: 僕は頭の中で、部屋の間取りと、散らかった生活の残骸を思い出していた。彼女: 「ご都合はいかがですか?」彼: 「じ、じゃあ、来週で」彼女: 「そうと決まれば、いろいろ準備しておかないと」彼: なぜか、テンションが上がる彼女に対して、僕の方は冷や汗が止まらなくなった。 まあ、なんとかなるだろう・・・<シーン4:1時間前〜現在/街角からインテリアショップへ>(SE〜街角の雑踏/遠くにジングルベルの音など)彼: 12月の声を聞くと、気の早い街角にはジングルベルが流れ出す。 きらめくイルミネーション。 街を歩く人はみな、早足で家路を急ぐ。 私は人々の流れとは反対方面へ向かう。 目的地はインテリアショップ。 最近ではインテリアスタジオと言うらしい。 ホームオフィスに置くインテリアのプラン。 今日、 インテリアコーディネーターの彼女が最終案を出してくれることになっている。 僕の部屋にまで来てくれて、実際に見て考えてくれたのだから もう間違いはないだろう。 インテリアショップへ到着したのは、約束より20分も早い午後。 僕は入口にディスプレイされた絵画を眺めながら彼女のことを思っていた。 30代を超えて公認会計士の国家試験に合格するまで、 僕はひたすらあの部屋で勉強し続けてきた。 実は、あの部屋で靴を脱いだ女性は、彼女ただ一人。 そんな彼女に今日はささやかなプレゼントを用意した。 ドイツ製のスケールとメジャー、ボールペンのセットだ。 いつもヒビの入ったスケールとインクが少し滲んだボールペンを 使っていたみたいだから。 ついでに、少し年季の入った真鍮の懐中時計も。 亡くなった父からもらったこれも、ドイツ製だ。 喜んでくれるかな・・・ え?いや、そういう意味じゃなくて。 お世話になった感謝の気持ちを、ってこと。 僕は時間が経つのも忘れ、入口の絵画を見て考えていた。 絵の中で僕に微笑むのは、まばゆく装飾されたマリリンモンロー。 『七年目の浮気』の有名なシーンは、見続けるとなんだか照れてしまう。彼女: 「遅くなってごめんなさい!」彼: 気がつくと、息をきらして彼女が走り込んできた。彼女: 「ここで、実際に家具を見ながらお話しましょ」彼: 彼女が説明する最終プランは、まさに僕のためのオーダーメイドだった。 三方を壁に囲まれた間取りをうまく使ったレイアウト。 可動式の仕切りを使ってオンオフを切り替えられるようにという配慮。 色もウォールナットの落ち着いた配色で 普段の仕事もリラックスしてできそうだ。彼女: 「どうかしら」彼: いつも自信家に見える彼女が、ちょっぴり不安気にたずねてくる。 僕は、”完璧だ”と伝え、バッグからプレゼントを出して彼女に渡した。彼女: 「え・・」彼: 彼女はプレゼントをあけると目を伏せた。 やっぱり、僕のひとりよがりだったのかな・・・。彼女: 「あの・・」彼: 「あ、はい」彼女: 「クリスマスって・・・」彼: 「え?」彼女: 「クリスマスって好きですか?」彼: 唐突な質問に僕は言葉を失った。 うろたえる僕に彼女は話を続ける。彼女: 「実は今日、もうひとつプランを持ってきているんです」彼: 「はあ」彼女: 「間取りは同じですが、クリスマスまでの期間限定バージョン」彼: 彼女が見せてくれたもうひとつのプラン。 そこには、ウォールナットのデスクやキャビネットの横に 小さなクリスマスツリーが飾られていた。 キャビネットの上にも赤いキャンドルとスノードームが明るく光っている。 三方の壁にも星屑のようにイルミネーションが輝いていた。彼女: 「私、小さい頃からクリスマスって特別なんです。 だから、ついこんなプランも作っちゃって・・・」彼: 「あ」彼女: 「もしお気に召さなければ、このBプランは破棄してください」彼: 「いえ、こちらも採用させてください」彼女: 「え」彼: 「プランの中の雑貨は今から買いにいきましょう」彼女: 「ありがとうございます! それじゃ、ひとつお願いがあります」彼: 「はい」彼女: 「この中のスノードームは私からプレゼントさせてください」彼: 「え・・・、あ、ありがとうございます!」彼女: 「私こそ、プレゼントありがとうございました」彼: クリスマスの小さな奇跡。 賢者の贈り物にはならなかった懐中時計が未来を予感しているようだ。
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ボイスドラマ「サンタの正体」前編
クリスマスの思い出は、大人になっても心の中に残り続ける特別なものです。今回の物語は、少女時代の主人公が思い出す“あの年のクリスマス”を描いています。家族で飾るイルミネーション、待ち遠しいプレゼント、そしてサンタさんへの願い──。あの夜、サンタの正体を知ってしまった彼女が手にしたものとは?この物語は服部家具センター「インテリアドリーム」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなどの各種Podcastプラットフォームでボイスドラマ としても楽しめます。ぜひ、音声とともにこの温かな物語に浸ってください。さあ、クリスマスの魔法が始まります──。登場人物(※設定は毎回変わります)・娘(5歳)・・・毎年家族で祝うクリスマスを2歳上の兄と共に心待ちにしている。設定は25歳になった女性が少女の頃を思い出すといった内容(CV:桑木栄美里)・父(37歳)・・・クリスマスを楽しみにしている子供たちのために毎年いろいろな趣向を凝らす。イルミネーションで飾られた家は近所でも有名だった(CV:日比野正裕)【Story〜「サンタの正体〜クリスマス雑貨/前編」】<2003年12月24日>全員: さん、にい、いち、点灯!(SE〜家族の歓声と拍手)娘: 「わぁ〜! きれい・・・」父: 「さあ、これでクリスマスの準備はパーフェクトだ!」娘: 今から21年前。リビングの小さなツリーに灯りがともった。 毎年この季節を心待ちにしていた少女が目を輝かせる。父: 「今年もサンタさん、来てくれるといいね」娘: 「うん。でも大丈夫かなあ。 ちゃんとうちのこと覚えてくれているかなあ」父: 「心配いらないよ。きっと来てくれるから」娘: 「だけどだけど、夏におうちの屋根修理しちゃったでしょ。 サンタさん、迷っちゃうかもしれない」父: 「だから、お庭と玄関にイルミネーションをともすんだよ」娘: 「じゃあ今年は早めにイルミネーションともして」父: 「わかってる。今から準備するところ」娘: 実は、我が家のイルミネーションは近所でも有名だった。 玄関周りをライトアップするだけでなく、 庭の大きなモミの木や、桜や梅、紫陽花やツツジまで 鮮やかな光に包まれる。 それだけじゃない。 まるで絵を描くように、高い外壁には雪の結晶やスノーマンたちが光り輝き、 父の手作りの仕掛けの中で、トナカイが走っていた。 絡まるツタも星座のように瞬き、父のこだわりで私の魚座が 真ん中で煌めいている。 屋根の下からはつららのような光の粒が降ってきた。 毎年クリスマスシーズンになると、華かやな光に誘われて 見知らぬカップルたちが我が家のイルミネーションの下(もと)に集まってくる。 父も母も、庭に入ってくる男女をとがめることなく、微笑ましく眺めていた。 思えば、いい時代だったんだなあ。父: 「お手伝い、してくれるかい」娘: 「うん!」父: 「えらいぞ。きっとサンタさんも褒めてくれるよ」娘: 喜んで掃き出し窓から庭へ出ようとする私に父が声をかける。父: 「ちょっと待って」娘: 「なぁに?」父: 「お庭のイルミネーションの前にリビングの飾りつけも仕上げないと」娘: 「リビング?」父: 「ああ。さてと・・・ これはなぁんだ?」娘: 「あ!スノーマン!」父: 「そう、スノーマンの形をした灯りだよ これをまず、ツリーの横のキャビネットに飾ってくれる?」娘: 「はぁい」父: 「飾ったら灯りをともして」(SE〜スイッチを入れる音)娘: 「わあ」父: 「優しい灯りできれいだろう」娘: 私の背より少しだけ低い木製のキャビネットの上で、スノーマンの灯りは 部屋を優しく照らした。父: 「次はこれ」娘: 「キャンドルだ」父: 「クリスマスだからね。真っ赤なキャンドルでお祝いしよう」娘: 「やった!」父: 「キャンドルはあと4本あるからね」娘: 「パパ、ママ、お姉ちゃん、お兄ちゃんと私の4人だから?」父: 「そうだね。いいかい、クリスマスまであと4週間あるだろう」娘: 「うん」父: 「これから毎週日曜に1本ずつキャンドルをともすんだよ」娘: 「うん」父: 「1本1本灯すたびに、ワクワクが大きくなっていく」娘: 「うん」父: 「海外ではね、そうやってクリスマスを迎えるんだって」娘: 「ふうん」父: 「さあ、最初のキャンドルに火をともそう」娘: 擦りガラスの燭台に私が置いた太めのキャンドル。 先日父が買ってきたウォールナットのキャビネットに光が映る。 ツリーのイルミネーションとの調和が見事だった。父: 「今年のプレゼントはもうサンタさんにお願いしたかい」娘: 「う〜ん」父: 「どうしたの?」娘: 「だってお兄ちゃんが絶対無理だって言うんだもの」父: 「なんだろうね、パパにだけこっそり教えてくれる?」娘: 「あのね、あのね・・・雪」父: 「雪?」娘: 「うん、雪。雪が見たいんだもん」父: 「そうかぁ、雪かあ。 これはサンタさんもがんばらないといけないな」娘: 「やっぱりだめかなあ・・・」父: 「だめじゃないよ。きっと叶えてくれるさ」娘: 自信にあふれた父の表情を見て、私は安心した。 このあとキャンドルに4回火が灯り、 最後のキャンドルに火をともす、クリスマスイブの夜が近づいてくる。 サンタさんは本当に来てくれるんだろうか? 私の無茶ぶりなお願いをきいてくれるんだろうか? 心配でたまらない私は兄に相談する。 ”じゃあがんばってサンタさんをお迎えしよう” ”眠らないようにして、柱の影からこっそりと待ってみよう” 私たちは子どもながらに密かに計画を練った。 そして、イブの夜。 柱の影からツリーを見守る私たち兄妹の前で リビングの扉が静かに開き、 赤い服を着たサンタが入ってくる。 ”きた” ”しっ” 私たちがそこにいることも知らずに、 サンタはツリーの根もとに3つのプレゼントを置いた。 ”でも、雪は?” まだまだ不安でたまらない私は思わず一歩前へ出る。 フローリング越しに伝わる物音にサンタさんが振り向く。 その瞬間白いひげが床に落ちた。 ”パパ?” 一瞬、驚いた表情をしたあと、 サンタさんの姿をした父が私たちの元へ歩いてくる。 兄も驚きを隠せず言葉が出ない。 サンタの父は、いつもの穏やかな表情で私たちに声をかける。父: 「パパじゃないよ」娘: 「え?」父: 「パパの姿をしているけど、私はサンタクロース。 イブの日とクリスマスは世界中の子どもたちのために大忙しなんだ。 だから、みんなのパパ・ママの体を借りて、プレゼントを届けにいくんだよ」娘: 「すごぉい! でもでも、私のプレゼント、大丈夫だった?」父: 「もちろん、大丈夫だよ」 娘: 「ホント!?でも・・・」父: 「心配なら、いまここであけてごらん」 娘: 「いいの?」父: 「ああ、サンタの私が言うんだから問題ない」娘: 私は、おそるおそる包みをあける。 ていねいにあけようとするけれど、焦って包み紙を破ってしまう。父: 「急がなくてもいいから、ゆっくりあけるんだよ」娘: 包み紙の中から出てきたのは、真っ白な粉雪が舞うスノードーム。 屋根に雪が積もった小さなおうちと、女の子のお人形が楽しそうに笑っていた。父: 「これで合ってるかな」娘: 「うん!すごい!雪だぁ!」父: 「じゃあ、私はもう行かないと」娘: 「サンタさん、ありがとう!」父: 「パパによろしくな」娘: そう言ってウインクしたあと、空を指差して、父: 「君はとってもいい子だから、特別なプレゼントも準備したからね」娘: と、いたずらっぽく微笑んでサンタさんは出ていった。 窓の外には、鈴の音と笑い声が遠ざかっていく。 しばらく呆然としていた私たちは気がついて窓の方へ走る。 開け放たれた窓から顔を出すと、イルミネーションに白い息が照らされた。 空を見上げると、小さな白いものが降ってくる。 手のひらで溶けていくその結晶は、娘: 「雪だ・・・」 あれは、今でも魔法だと思っている。 あのときの父の姿をしたサンタも。 奇跡が起きても不思議ではないのがクリスマスだから。
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ボイスドラマ「大学祭のピルエット」後編
前編では、息子の視点から「母の過去」が描かれましたが、今度は 若き日の父と母 の青春の物語です。夢を追いかけ、大学祭のステージに立つ彼女。その姿を見守る彼——そして二人の未来へとつながる「家具選び」のエピソード。 あの日、何を思い、何を選び、そしてどんな未来へ進もうとしたのか。「新生活応援」というテーマのもと、それぞれの人生の選択をじっくりと見つめていただけたら嬉しいです。 登場人物(※設定は毎回変わります) ・母/妻(21歳/28歳)・・・大学生時代は演劇部とダンス部をかけもち/現在はミュージカル劇団に所属して舞台に立っている(CV:桑木栄美里) ・父/夫(22歳/29歳)・・・妻とは高校〜大学の同級生で演劇の世界に憧れるも挫折して会社員に/現在は証券会社の営業(CV:日比野正裕) (※脚注) ・ピルエット・・・バレエ用語。 体を片脚で支え,それを軸に,そのままの位置でこまのように体を回転させること ・マチソワ・・・フランス語。昼公演が「マチネ」(matinee)、夜公演が 「ソワレ」(soiree)。1日2回公演ある日にどちらも観劇することを「マチソワ」という <妻21歳/夫22歳> (SE〜大学祭の雑踏+キャンパスの中におこる歓声と口笛) 彼: オープンカフェの前で、赤いドレスの彼女がピルエット(※)を舞う。 手作りの看板。手書きのメニュー。 大学祭の模擬店は、彼女のおかげで大賑わいだ。 彼女: 「いらっしゃいませ! ご注文は・・・? え?ここに書いてあること? もちろん、本当ですよ」 彼: メニューの横に赤い文字で書かれていたのは、 『スペシャルパフェ』ご注文の方へ。 もれなく、キュートなダンサーがバレエを踊ります』 さっきから、彼女のダンスがひっきりなしにオーダーされる。 彼女: 「ありがとうございました!」 彼: 「大丈夫?疲れてない?もう10回以上続けて回ってるじゃん」 彼女: 「ぜ〜んぜん大丈夫!あ〜楽しい〜!」 彼: 大丈夫なわけないと思うんだけどなあ。 (※)マチソワでミュージカルの舞台をこなしながら、 幕間で模擬店に立っているんだから。 僕なんて、午後1回の朗読劇だけで、ヘトヘトになっているっていうのに。 カメラを向けるお客さんの前でハイテンションのまま、 今度はパンシェ(※)を決める。思わず見惚(みと)れてしまう。 (SE〜カメラのシャッター音) 彼女: 「ねえ、模擬店ハケたら、家具屋さん行くこと覚えてる?」 彼: 「ああ、もちろんさ」 彼女: 「そっちも楽しみだなあ」 彼: 大学を卒業したら1人暮らしをする彼女のために、 今日夕方から家具屋さんに付き合うことになっている。 実は、昨日時間があいたから、1人で見に行ってきたんだ。 新生活応援フェア? とかいう、ちょうどぴったりなキャンペーンやってて、 イケてる家具がいっぱい並んでた。 彼女に絶対似合いそうな白いベッドにソファ、食卓、スタンドミラー・・・ いつかそこに僕も・・・ いやいやいや、そうじゃなくて。 同じ志を持つ2人が、一緒に頑張っていければいいな・・・ っておんなじことか。 そんなこんなで、いろんなことを考えながら、店内を何周もしちゃったよ。 彼女: 「ねえ、ごめんなさい。 ピルエットの注文いっぱい入っちゃった。 模擬店少し時間延長するって」 彼: 「いいよいいよ、家具屋さんだって早仕舞いはしないから」 彼女: 「ありがとう」 彼: 結局、家具屋さんに着いたのは、もうほとんど閉店間際だった。 それでも、笑顔で迎えてくれるお店の人に感謝して、 僕たちは家具の森を散策していった。 <妻28歳/夫29歳> (SE〜街角の雑踏) 彼女: 「私、次の公演で舞台を降りるわ」 彼: 「え?」 観劇の帰り道。彼女が笑顔で僕に言った。 lおかげで今日話そうと思っていたことがすっかりどこかへいってしまった。 彼女: 「大学卒業して、もう7年か・・・。 結構がんばってきたなあ」 彼: 「どういうことだよ?」 彼女: 「このままミュージカルを続けていっても プロとして大成できるとは思えないもの」 彼: 「そんなことないよ。君ならなれるさ。 あきらめるのは僕だけでいいじゃないか」 彼女: 「きっとあなたはそう言うと思ったわ」 彼: 今度は僕の目を見て、寂しそうに笑う。 彼女の瞳、シチュエーションはまったく違うけど、 あの日の瞳によく似ている。 当時は彼女も僕も高校生。 演劇部で舞台の背景係をしている彼女をからかったとき。 彼女は、僕の言葉を聞き流しながら、 公演ポスターの前で寂しく笑っていた。 彼女: 「でも・・・、私なんて無理だもん」 彼: そうつぶやいたあと、今度は僕の手をとり、少しいじわるそうに笑う。 彼女: 「ねえ、今度のミュージカルのタイトル、知ってる?」 彼: 「え?なに?いきなり?わかんないよ」 彼女: 「大切なものは目に見えない・・・」 彼: 「え・・・」 彼女: 「そう。サン・テグジュペリ。星の王子さま」 彼: 「あのときの・・・」 彼女: 「はじめて私が舞台に立った朗読劇」 彼: 「こんなことってあるんだな」 彼女: 「あのときは、無我夢中で、考える間もなく幕引きになっちゃったけど」 彼: 「そうだな。しかも僕の代役だったし」 彼女: 「思えば、自分でもよくやったと思う」 彼: 「本当だな。すごく眩しかった」 彼女: 「なぁに言ってるの」 彼: 「今回は、それをミュージカルでやるんだな」 彼女: 「うん」 彼: 「配役は?」 彼女: 「うふふ」 彼: 「キツネか!?そうなんだな!?」 彼女: 「最後にふさわしいでしょ」 彼: 最後、という言葉が僕の胸に突き刺さった。 ふいに僕は、今日彼女に会った本来の目的を思い出す。 彼: 「わかったよ。君の最後の花道にこれ以上のタイトルはない」 彼女: 「ありがとう」 彼: 「実は僕からも話があるんだ」 彼女: 「なあに?」 彼: 「このあと一緒に家具屋さんへ行かないか?」 彼女: 「家具屋さん?7年前に行ったところ?」 彼: 「うん」 彼女: 「1人暮らしでもするの?」 彼: 「未来を見にいきたいんだ」 彼女: 「未来?」 彼: 「できれば君と2人で生きていく未来」 彼女: 「え・・・」 彼: 「僕もやっと気づいたんだよ。 大切なものは目に見えない・・・」 彼女: 「こころでみなくちゃ、ものごとはよく見えない」 彼: 「そういうこと。 これからは・・・同じ家に帰ろう」 彼女: 「はい」 彼: 思えば10年前のあの日。 彼女に役を譲ったあのときから、僕はこの日を待っていたのかもしれない。
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ボイスドラマ「大学祭のピルエット」前編
「大学祭のピルエット」は親子の何気ない会話から、時を遡りながら描かれる“人生のワルツ”です。自分の知らなかった母の過去、そして一つの写真をきっかけに明かされる思い出——。新生活を迎えるとき、誰もが思い出の中にある「大切なもの」を振り返ることがあるのではないでしょうか? この作品は 服部家具センター「インテリアドリーム」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、AppleなどのPodcastプラットフォームで配信 されています 登場人物 ・母/妻(51歳/21歳)・・・大学生時代は演劇部とダンス部をかけもち/現在は社会福祉法人で介護士をしながら、市民ミュージカル劇団で教えているが息子は知らない(CV:桑木栄美里) ・息子(21歳)・・・大学4年生でYouTuber。特技を生かして映像作家になるのが夢(CV:日比野正裕) <息子21歳/母51歳> (SE〜家庭の環境音/料理の音など) 息子: 「ねえ、ママ。このひとだれ?」 (BGM〜) 母: 息子がキッチンへ持ってきたのは1枚の写真。 それは、スポットライトを浴びてパンシェ(※)を決める、 赤いドレスのバレリーナ。 ・・・30年前の私だ。 やあねえ、どこから掘り出してきたのかしら。 息子: 「ママ?」 母: 「さあ、だれかしら?」 息子: 「この写真、パパのカバンから落ちてたんだけど、きれいな人だよね」 母: 「そう?」 息子: 「え・・・ひょっとして・・・これ、ママ・・・なの?」 母: 「どうかな」 息子: 「すご!ママ、カッケー!」 母: 「そういう口の聞き方やめなさい」 息子: 「ダンスとかやってたんだ?」 母: 「クラシックダンス。バレエよ」 息子: 「ぜんぜん知らなかった!」 母: そういえば、言ってなかったわね。 私、幼い頃からクラシックバレエをやってて、いつも踊ってた。 息子: 「これはいつの写真?何歳?」 母: これは・・・ そう、大学最後の年だ。 21歳だからちょうど今のこの子と同い年ね。 大学祭のときのステージだったと思うけど。 ステージで踊り、その衣装のままカフェで給仕もしたんだわ。 同級生のパパとは演劇部で一緒だったんだけど、 私はミュージカル志望だったから、ダンス部とかけもち。 いつか2人でミュージカルの大舞台に立とう、なんて 大それたことも話し合ってたっけ、うふふ。 息子: 「なにエモい顔してんの?」 母: 「おっと、ごめんごめん。 ちょ〜っと思い出しちゃってね」 息子: 「パパとのこと?」 母: 「うん。スマホだけど別の写真も見る?」 息子: 「見たい!」 母: 「はい、どうぞ」 息子: 「え〜なにこれ?家具がいっぱいじゃん」 母: 「大学祭の写真はその1枚しか私持ってないけど、 そのあと2人で家具を見にいったのよ」 息子: 「卒業後に同棲したってこと!?」 母: 「同棲じゃなくて、私の新生活。 ママの引越しが決まってたから、一気に家具を揃えたの」 息子: 「リッチ〜」 母: 「違うわよ。家具屋さんでセールをやってたの。 それで、ソファからダイニング、ベッドにカーテンまでまとめて買っちゃった。 選んでくれたのはパパだけどね」 息子: 「じゃあ、そのときからパパとは付き合ってたんだ?」 母: 「どうかなあ・・・そんな感じじゃなかったけど」 息子: 「でもパパはママのこと好きだったから、今でもこの写真持ってるんでしょ」 母: 「さあ、どうだか」 息子: 「ママってクールだなあ」 母: 「っていうより、昔からパパの方がホットでちょっぴり強引だったのよ。 私、なかなか決められない質でしょ。 オマエには絶対白が似合う!って、すべて純白の家具をパパが選んだの」 息子: 「パパらしいや」 母: 「私も、白い家具が好きだったからいいんだけどね・・・ 白い木製の家具、ホントに素敵だったなあ・・・ 新婚じゃなくたって、真っ白なインテリアに囲まれた暮らし、憧れてたもの」 息子: 「なにノロケてんの」 母: 「あら失礼」 息子: 「でもいまはうちの家具、割と濃い色の木目じゃん」 母: 「それは、パパが・・・」 息子: 「やっぱパパの趣味かあ」 母: 「いいえ、あなたのために選んだのよ」 息子: 「え?」 (BGM〜インテリアドリーム) 母: 「卒業してから7年後にパパとママが結婚して あなたが生まれたから」 息子: 「あ・・」 母: 「あなたとの新しい生活のために、パパがこの家具たちを選んだのよ」 息子: 「そっか・・・」 母: 「木の家具を選んだのは赤ちゃんのあなたのため」 息子: 「うん」 母: 「あなたを守るために、自然の優しい材料にして」 「あなたが優しい心を持てるように、優しい木目の色合いにして」 「あなたの未来のために、環境にも配慮して、って」 息子: 「すごいな・・・」 母: 「木の家具は耐久性もあって、お手入れもかんたん。 それに木って呼吸するから、部屋の中の湿度を調整してくれるでしょ」 息子: 「そうなんだ・・・」 母: 「次はあなたの新生活ね」 息子: 「なにそれ」 母: 「1人暮らし?それとも結婚・・・」 息子: 「まだ早くない?」 母: 「人生に早いも遅いもないでしょ。 この世は舞台、人はみな役者なんだから」 息子: 「ママ・・・」 母: 息子が切なそうな表情で私を見つめてくる。 いつまでもそばにおいておきたいけど、 新しい一歩は自分で考えて踏み出さないと。 独り立ちをするとき、 あなたを優しく見守ってくれるのは、きっと新しい家具たち。 そうやって人生を慈しみながら、いつか大切な人を見つけてほしいな。 誰だって、人生の戯曲は自分で書いて仕上げるものだから。
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ボイスドラマ「父の運動会〜食卓のバトンリレー」後編
前編では、8歳と16歳の娘と父の思い出 を中心に、「運動会のバトン」と「食卓のバトンリレー」を通じて、家族の絆を描きました。後編では、娘がさらに成長し、父との関係が変化していく様子 をお届けします。人生の中で家族の役割は少しずつ移り変わっていきますが、それでも変わらない「温もり」とは何か? そんな想いを込めました。 また、この物語は ボイスドラマ としてもお楽しみいただけます!Spotify、Amazon Music、Apple Podcast をはじめとする各種Podcastプラットフォーム、そして 服部家具センター「インテリアドリーム」公式サイト で配信中です。音声ならではの臨場感や、キャラクターの息づかいがより深く伝わる作品になっていますので、ぜひ聴いてみてください。 それでは、後編の物語へどうぞ。 【登場人物】 ・娘(16歳/24歳)・・・高校=陸上部のアンカー/現在=スポーツインストラクター(CV:桑木栄美里) ・父(59歳/67歳)・・・自ら経営する会社を引退後地元に請われて市会議員に(CV:日比野正裕) <娘16歳/父59歳> (SE〜玄関が開く音/引き戸) 娘: 「ただいまぁ」 父: 「おかえり!」 (BGM〜) 娘が疲れた顔で帰ってくる。 今日も陸上部でトラックを何周も走ってきたのだろう。 娘: 「おなかすいたぁ。晩ご飯なあに?」 父: 「お前の大好きな鶏飯だよ」 娘: 「やったぁ」 父: 「さ、汗かいただろうから、先にシャワー浴びてきなさい」 娘: 「うん!秒で入ってくるからすぐ準備して!」 父: 「急がなくていいからゆっくり温まってきなさい」 まったく、また訳のわからない若者言葉を使って・・・。 ああ、それに答えてる私も私か、ははは。 娘は高校1年生。 陸上部に所属してトラック競技の全国大会を目指している。 毎日、早朝の朝練と放課後の部活動。 だから、妻が海外勤務で家を留守にしているいまは 私が朝夕の食事を支度する。 私自身、経営していた会社をリタイアして、若手に道をゆずったばかり。 だからこそできる、アスリートのアシストなのである。 (SE〜料理をする音) 娘: 「おっまたせ〜」 父: 「ちゃんと髪の毛かわかさないと、風邪ひくぞ」 娘: 「わっかりました〜」 父: いつもの、わかっていないときの言い方だな。 しょうがないなあ。 (SE〜料理を食卓に置く音)※ひとつずつSEつける 父: 「はい、鶏飯」 娘: 「わ〜、いい匂い〜」 父: 「今日はささみにシイタケ、パパイヤの味噌漬けとのりを入れてみた」 娘: 「すごつ、アスリートのレシピじゃん」 父: 「それからぶり大根に、」 娘: 「わ、旬の先取りだね」 父: 「さつまあげ」 娘: 「私の好きなものばっかり」 父: 「今日のさつまあげは、ハモのすり身だぞ」 父: 「この食卓、たくさんおかずを置いても広々としてていいだろ」 娘: 「そりゃあ、アンカーの私が選んだインテリアだもの」 父: 先日までダイニングにあった食卓は、船便で妻の住む海外へ渡っていった。 その代わりにバトンを受けついたのが、この楕円形の食卓だ。 娘と2人で使うには少し大きいかもしれないが、 あえてこのサイズを選んだのには訳がある。 食卓、というのは家族が集まる場所。 大きな食卓と座り心地のいいチェアでゆったり時間を過ごす。 食卓を中心に、家族が向かい合って、家族の時間を大事にする。 こうやって、家族の絆=ぬくもりを大切に守っていきたい。 いつまでも・・・ 娘: 「パパ、陸上トラックの全国大会、見にきてくれる」 父: 「もちろんさ、リレーはアンカーなんだろ」 娘: 「そうだよ、3位以内でバトンを渡してくれれば、 絶対にトップに出る自信はある!」 父: 「そりゃ頼もしいな」 娘: 「優勝したら、そのバトンはパパに渡すからね」 父: 「そんなことできないだろ」 娘: 「いいの、大会運営の人に頼んじゃうから」 父: 父親の私が言うとただの親バカになるが、娘はすごい。 大会当日、本当に1位になり、私にバトンを渡してくれた。 そのバトンは、娘が24歳になったいまも食卓の上を飾っている。 <娘24歳/父67歳> (SE〜玄関が開く音/引き戸) 娘: 「ただいま」 父: 「おかえり」 (BGM〜) 一人暮らしをしている娘が、半年ぶりに実家に帰ってきた。 娘の仕事は、スポーツインストラクター。 陸上部にいたときのスキルを生かしてスポーツジムで働いている。 いろいろ疲れているのだろう。 部活帰りでも元気に笑って帰ってきた高校時代とは違い、 口数も少ないまま、食卓に座る。 娘: 「パパ、このバトン・・・」 父: 「ああ、お前からもらった一点モノだよ」 娘: 「あの頃は、なんだってできる気がしてたなあ」 父: 「いまだってできるさ」 娘: 「そう簡単じゃないのよ。仕事となると」 父: 「おお、一人前の口をきくようになったじゃないか」 娘: 「ふざけないでよ」 父: 「ふざけてないさ。 おまえには、お父さんから受け取ったバトンがあるだろ」 娘: 「なにそれ」 父: 「『家族のぬくもり』というバトンだよ」 娘: 「家族のぬくもり?」 父: 「お前が一人暮らしを始めるとき、家具屋さんで食卓を買ったろ?」 娘: 「うん」 父: 「食卓があれば、お父さんやお母さんの温もりがつながっていくんだよ」 娘: 「うん」 父: 「これから先、好きな人ができて、住むところが変わり、 食卓も大きなサイズが必要になったとき、 ぬくもりのバトンは、また受けつがれていく」 娘: 「うん・・・」 父: 潤んでいく娘の瞳の中に、食卓のバトンが滲んでいる。 食卓を通じて、家族のぬくもりは消えることはない。 家族のぬくもりというリレーは、こうして未来永劫つながっていく。
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ボイスドラマ「父の運動会〜食卓のバトンリレー」前編
父と娘の絆を「バトンリレー」と「食卓」を通して描いた、温かくて少し切ない家族の物語です。幼いころの運動会の思い出、成長した娘との食卓を囲む日常、そして母への想いが交差する中で、家族の絆がどのように受け継がれていくのか——。 本作は 前後編の二部構成 となっており、前編では 8歳の娘と51歳の父、16歳の娘と59歳の父 を軸にしたエピソードをお届けします。ぜひ、娘と父のやりとりを通して、「家族の温もり」を感じていただければと思います。 さらに、この物語は ボイスドラマ化 もされています!Spotify、Amazon Music、Apple Podcast をはじめとする各種Podcastプラットフォーム、そして 服部家具センター「インテリアドリーム」 の公式サイトでお聴きいただけます。音声だからこそ伝わる空気感や臨場感を、ぜひ楽しんでください。 それでは、物語の世界へどうぞ。 【登場人物】 ・娘(8歳/16歳)・・・高校=陸上部のアンカー/現在=スポーツインストラクター(CV:桑木栄美里) ・父(51歳/59歳)・・・自ら経営する会社を引退後地元に請われて市会議員に(CV:日比野正裕) 【Story〜「父の運動会〜食卓のバトンリレー/前編」】 <娘8歳/父51歳> (SE〜運動会の音/歓声) 娘: バトンを持った父が先頭集団を抜けて私の元へ走ってくる。 汗をいっぱいかきながら、満面の笑みで私に手渡す。 父: 「あとはたのんだぞ!がんばれ!」 (BGM〜) 娘: 運動会の親子リレー。 44歳年が離れた父は、友達のお父さんと比べてもかなり目立っていた。 出場するお父さんたちの中で多分一番年長。 だけど、運動神経は誰にも負けていない。 そんな私たちを見て、観覧席から母が一生懸命手を振る。 8歳の私と51歳の父。 あのときの父の姿は、記憶の中の宝物だ。 <娘16歳/父59歳> (SE〜キッチンの音) 娘: 父が会社からのリタイアを決めたのは、私が高校へ進学した年。 朝早く私の弁当を作りながら 若手へバトンを渡すんだと喜しそうに笑った。 母は仕事で海外勤務となり、父と2人だけの生活。 私はというと、中学から始めた陸上トラック競技に夢中だった。 朝練から放課後の部活まで、走っている時間が一日のうち一番長い。 父: 「今度のリレーはアンカーなんだって?」 娘: 「うん」 父: 「じゃあ、食事も気をつけないとな。パンをやめてご飯にするか。 炭水化物が重要なんだろう」 娘: 「それは長距離走でしょ。私は短距離。 スプリンターだから今まで通り、パンにヨーグルト、グラノーラでいいよ」 父: 「そうか。お父さん、会社やめたら時間がいっぱいできるから一緒に朝走るかな」 娘: 「やめてよ。年を考えて。 それにさ、毎日私に付き合ってこんな朝早くに起きなくていいから」 父: 「そんなことしたら、お前が栄養とれないじゃないか」 娘: 「大丈夫よ。コンビニでも、カロリー考えて食べ物選ぶから」 父: 「そうかあ、それなら明日から朝寝坊するかな・・・」 娘: そう言いながら、きっと明日の朝もキッチンに立っているのだろう。 私は食卓に並べられていく朝食を眺めながら父の後ろ姿を見つめる。 父: 「そうだ、忘れていたけど、今日部活のあとで 家具屋さんに付き合ってくれないか」 娘: 「いいけど・・・、家具買うの?」 父: 「実はな、海外にいるお母さんから、 うちの食卓を送ってほしいって言われてるんだ」 娘: 「なにそれ? ママが住んでるところ、家具つきのコンドミニアムじゃなかった?」 父: 「どうも備え付けの食卓が気に入らないらしい」 娘: 「そんなぁ」 父: 「ああ、だから最初がまんしてたらしいんだけど、 住んでるうちに、どうしてもこの食卓を送ってほしくなったんだって」 娘: 「おんなじような食卓、海外のインテリアショップにもあるでしょ」 父: 「この食卓じゃなきゃだめだそうだ」 娘: 「えー大変だよ。送料だって馬鹿にならないじゃん」 父: 「そりゃ、そうだけど」 娘: 「でいつ送るの?」 父: 「もし今日、新しい食卓を決めたら、入れ替わりにこれを送るよ」 娘: 「えええええ!同じ食卓を買って送るんじゃないんだ」 父: 「お母さんはいま使ってる食卓がいいんだってさ。 お前やお父さんの温もりがしみこんでるからな」 娘: 「やだ、温もりじゃなく、味噌汁やおかずをこぼした跡じゃない?」 父: 「はは、そうかもな」 娘: 「ママ、ホームシックになってるのかな」 父: 「きっとそうだ」 (SE〜インテリアショップの雑踏/娘は走りながら) 娘: 「パパ、おまたせ」 父: 「ああ、きたか」 娘: 「いい食卓あった?」 父: 「いいのはいっぱいあるけど、アンカーはお前だからな」 娘: 「なぁにそれ?」 父: 「これはね、食卓という温もりのバトンリレーなんだよ」 娘: 「ぬくもりのバトン?」 父: 「食卓は家族が集う場所だから、 年月とともに家族の温もりがしみこんでいくだろ」 娘: 「うん」 父: 「お母さんは、きっとその温もりがほしいんだよ」 娘: 「そう・・・」 父: 「お前に選んでほしいのは、温もりをつなぐバトンなんだ」 娘: 「バトン・・・」 父: 「いままでうちで使ってた食卓は、家族3人で座るのにちょうどいい コンパクトなサイズだったから・・・」 娘: 「まあこうしていろんな食卓をみると確かにコンパクトだったかな」 父: 「今度は、いまより少しだけ大きな6人がけの食卓にしようか」 娘: 「大きすぎない?」 父: 「楕円の食卓にすれば部屋も広く感じるからな」 娘: 「だってママ、しばらく海外から戻らないんだよ」 父: 「いいんだ。いつ家族が増えたっていいようにしておかないと」 娘: 「なあに言ってるの?私まだ16歳だって」 父: 「ああ、そうだったな」 父娘: (笑) 娘: ぬくもりのリレー。 それは8歳の私に父が渡してくれた笑顔のバトンから始まった。 これからもずうっと、バトンを渡し続けていけますように。 パパ、いつまでも元気でいてね。
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ボイスドラマ「食卓より愛をこめて」後編
この物語は、家族の絆を「食卓」を通じて描いた、少し懐かしくて温かいストーリーです。登場するのは、一人娘と父、そして母。日々の生活の中で変わるものと変わらないもの――その象徴として「豚汁」が登場します。 豚汁は、日本の家庭で愛される料理のひとつですが、それぞれの家に「味」があるように、それを囲む家族にもそれぞれの「想い」があります。誰かと一緒に食卓を囲むこと、作る人の気持ちを感じながら味わうこと。それは何気ない日常のひとコマかもしれませんが、実は人生の大切な瞬間でもあります。 本作では、そんな「食卓の魔法」が生み出す家族の物語を、心を込めて綴りました。豚汁の湯気の向こうに浮かぶ、それぞれの想いを感じながら、ぜひ最後までお楽しみください。 ◾️登場人物 ・母(54歳/47歳)・・・看護師/名古屋市内の総合病院のERで働く(CV:桑木栄美里) ・父(56歳/49歳)・・・一級建築士/東三河地区で不動産会社を経営(CV:日比野正裕) ・娘(18歳)・・・看護師/名古屋市内の総合病院のERで働く(CV:桑木栄美里) <父56歳/母54歳> (SE〜料理音/包丁で野菜を切る音など) 母: 「ねえあなた、あの娘からきいた?」 父: 食卓に座る妻が、キッチンの私に声をかける。 父: 「なにを?」 私は料理の手を止めずに、妻の方を振り返る。 妻は、少しいじわるそうな笑顔で私の顔を見つめる。 母: 「私たちに会わせたい人がいるって話」 父: 「あ、ああ。聞いてるよ」 私は、つとめて冷静を装いながら答えると、 すぐにキッチンの方へ向きなおった。 妻は体を大きく乗り出し、私の方を覗き込むようにしてまた声をかける。 母: 「だいじょうぶ?」 父: 「な、なにが?」 母: 「あなたの包丁のリズム、長調から短調に変わったわよ」 父: やっぱり、親子だな。 娘と同じことを言う。 あ、いや、感心してる場合ではない。 父: 「なにばかなことを言ってるんだ。 さ、豚汁できあがるから」 母: 「あら、今日も豚汁なの?」 父: 「え」 母: 「あの娘がうちに顔を出した日から、毎日豚汁作ってるわよ」 父: 「え、そうだったかな」 妻がくすくすと音を立てないようにして笑う。 私もそれにつられて、笑う。 実は、我が家の食卓には、私が決めたルールがある。 それは、”食卓に座ったら笑顔になること”。 例外はない。 悲しいことがあったときも、辛いことがあったときも、 とりあえず、食卓に座ったら、難しい顔や怖い顔はやめる。 笑えなくても、口の端を上げる。 不条理なルールかもしれないが、 一応、妻も娘もちゃんと守ってきてくれた。 母: 「そういえばあの娘が家を出る前の一ヶ月間も、あなた毎日豚汁作ってたわねえ」 父: 「え、覚えてないな」 母: 「あら、そう」 父: もちろん覚えている。 <父49歳/母47歳/娘18歳> あれは、娘が大学へ入学する前だった。 私の作る豚汁が食べたい、と、子供の頃のようにせがむ娘。 瞳をうるわせて訴えてくるものだから、私も心をこめて毎日作った。 (SE〜料理音/包丁で野菜を切る音など) 父: 「知ってるかい?豚汁っていうのは意外と奥が深いんだぞ。 まず、鍋に水を入れて火にかけ、沸騰したら一旦湯を捨てるんだ。 それからもう一度新しい水を入れる。 こうすると、スッキリとしたスープに仕上がるんだよ。 具材もただ煮るだけじゃないぞ。 ごぼうは皮をむいて縦に薄切りにしたら、水にさらしてアクを抜くんだ」 娘がまもなくここからいなくなる。 その寂しさを紛らわすように、私は饒舌になる。 娘は黙って、だが、我が家のルールを順守し、笑顔で私の話を聞く。 母: 「パパの豚汁も、あと何回食べられるか、わかんないものね」 父: 「縁起わるいこと言わないでくれよ。 外国へ行くわけじゃないし、 食べたくなったらいつだって帰ってくればいいじゃないか」 母: 「パパの豚汁がこんなに美味しくなったのも、 あなたが子供の頃にいつも豚汁をおねだりしたおかげね」 父: 私たちの会話を、娘はだまって聞いていた。 うるんだ瞳で、口角を上げて、微笑みながら。 母: 「そういえば、この娘の家に食卓ってあったっけ?」 父: 「決まってるじゃないか。パパと一緒に選んだんだから」 母: 「1人暮らしのアパートでも、うちのルール適用したら?」 父: 「うん?」 母: 「”食卓に座ったら笑顔になること”」 父: 娘は最初驚いた顔をしたが、やがて大きくうなづいた。 母: 「ちゃんと食卓で食べるのよ」 父: 娘の瞳がどんどんうるんでくる。 横を向き、下を向いて、ハンカチで瞳をぬぐうと 優しくあたたかい笑顔で顔を上げた。 父: 「さあ、できたぞぉ。みんなで食べよう」 母: 「パパも涙を拭ってからね」 父: 「え・・・」 不覚だった。娘の方ばかり気にしていて、 自分の涙腺がゆるんでいたことに気づかなかった。 今度は娘が私を見て、泣き笑いする。 ああ、この瞬間が永遠に続けばいいのに・・・ 私は心からそう願っていた・・・ <父56歳/母54歳> (SE〜料理音/包丁で野菜を切る音など) 母: 「思い出すわねえ・・・」 父: 「なにを?」 母: 「この食卓に座ってアニメを見ていたあの娘・・・」 父: 「小学校にあがる前のことか・・・。 あの頃は確かもっとコンパクトな、丸い食卓テーブルだったな」 母: 「あのとき、お医者さんのアニメを見て、私も医者になるんだって」 父: 「そうだったなあ」 母: 「で、結局ドクターでなく看護師の道を選んだんだけど」 父: 「いつだってあの娘のやりたいことをさせてあげたつもりだが それでよかったのかなぁ」 母: 「よかったのよ。 いつだって、あなたのことをちゃんと考える優しい娘に育っているもの」 父: 「そうだな」 母: 「今日も豚汁を食べたいって、きっと言うわよ」 父: 「え?今日?」 母: 「そうよ。あなた、”うちへ連れてきなさい”って言ったんでしょ」 父: 「え?な、なんだって!?」 母: 「今日の豚汁は4人分ね」 父: 「そんな・・・!急いで仕度しないと!」 早鐘のように胸の鼓動が高鳴る。 食卓に座る娘の笑顔が脳裏に浮かんだ。 ”彼”にも、”食卓のルール”を教えてあげないとな。 早まる気持ちの先に、家族の幸せがつながっていく。
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ボイスドラマ「食卓より愛をこめて」前編
皆さん、こんにちは。本作『豚汁の香り〜食卓より愛をこめて』に目を留めていただき、ありがとうございます。 この物語は、家族の絆を「食卓」を通じて描いた、少し懐かしくて温かいストーリーです。登場するのは、一人娘と父、そして母。日々の生活の中で変わるものと変わらないもの――その象徴として「豚汁」が登場します。 豚汁は、日本の家庭で愛される料理のひとつですが、それぞれの家に「味」があるように、それを囲む家族にもそれぞれの「想い」があります。誰かと一緒に食卓を囲むこと、作る人の気持ちを感じながら味わうこと。それは何気ない日常のひとコマかもしれませんが、実は人生の大切な瞬間でもあります。 本作では、そんな「食卓の魔法」が生み出す家族の物語を、心を込めて綴りました。豚汁の湯気の向こうに浮かぶ、それぞれの想いを感じながら、ぜひ最後までお楽しみください。 登場人物 ・娘(25歳/5歳)・・・看護師/名古屋市内の総合病院のERで働く(CV:桑木栄美里) ・父(56歳/36歳)・・・一級建築士/東三河地区で不動産会社を経営(CV:日比野正裕) 【Story〜「豚汁の香り〜食卓より愛をこめて/前編」】 <娘25歳/父56歳> (SE〜料理音/包丁で野菜を切る音など) 娘: キッチンカウンターからリズミカルな包丁の音が聞こえてくる。 まるでショパンの子犬のワルツのように楽しげな長調で・・・ (BGM〜子犬のワルツ/ショパン) キッチンに立っているのは、昔から変わらない、笑顔のパパだ。 私が実家に立ち寄るのは・・・そうか、2年ぶりかぁ。 パンデミックの真っ最中に新人看護師となった私は 世の中が落ち着くまで、盆も正月もなく働いた。 父: 「おまえの顔を見るのなんて、5年ぶりくらいじゃないか?」 娘: 「失礼ね。2年ぶりよ・・・(最後は小さい声で)」 父: 「パパ、たまたま今日は豚汁の準備していたから・・・ ラッキーだな」 娘: ウソばっかり・・・ ママから聞いてるんだよ。 パパ、豚汁の準備だけは毎日してるんだって。←※ここ、モノローグです <娘5歳/父36歳> 自他共に認めるパパの得意料理は、”豚汁”。 その一番の支持者は昔から私と決まっている。 朝も昼も夜も、豚汁を作ってほしいとおねだりする私に、 パパは飽きもせず作り続けてくれた。 娘: 「だって、パパの豚汁毎日食べたいんだもん」 (SE〜料理音/包丁で野菜を切る音など) 父: 「そうかそうか、じゃあお前の大好きなさつまいもを、 たっぷりと入れてやるからな〜」 娘: 「やったぁ!」 父: 「さつまいもは、豚汁の味をまろやかにして、甘〜くしてくれるんだよ」 娘: 「ふうん」 父: 「お肉はもちろん、黒豚だぞ」 娘: 「わぁ〜」 父: 「お前が苦手な脂身は、 ダシが染み渡ったらとり除いてやるからな」 娘: 細切りにした黒豚。 皮をむいて薄切りにしたさつまいも。 これに、薄切りのにんじんとしいたけ、 縦にせん切りしたごぼう、 一口大のこんにゃくと油揚げ、 小口切りの長ねぎが色を添える。 これがパパお手製の豚汁のレシピだ。 父: 「さあ、できたぞ〜。 お前のためだけに作った、特別な豚汁だ」 娘: 「わ〜い!」 父: 「ほかほかのごはんもいっぱい食べるんだぞ」 娘: 「はぁい!」 父: 「さあ、いっしょに食べよう」 (SE〜椅子をひいて座る音) 娘: パパは食卓で必ず私の右前に座る。 さほど大きくはない長方形のダイニングテーブル。 長辺の真ん中に座る私と、対面の少しキッチン寄りに座るパパ。 どうしていつもそこなの、ときいたら、 父: 「この位置からお前を見ていたいんだよ」 娘: と、即答してくれた。 それは20年前もいまも変わらない。 <娘25歳/父56歳> (SE〜料理音/豚汁が煮だっている音など) 父: 「さつまいもも黒豚もちゃあんと入ってるからな」 娘: パパの背中を見ながら、私は食卓の一番前で豚汁を待ちのぞむ。 父: 「さ〜あ、できたぞ。いっしょに食べよう」 (SE〜椅子をひいて座る音) 父: 「今日はなにをしていたんだい?」 娘: 「ぷっ・・・」←※笑い 父: 「なんだ、どうしたんだ?」 娘: 「変わらないなあ、と思って」 父: 「なにが?」 娘: 「パパ、昔から豚汁を食べるときは、 必ず最初に、今日はなにをしてたの、って私にきいてたもん」 父: 「そうだったかな」 娘: 「それに、その場所」 父: 「場所?」 娘: 「必ず私の右斜前に座る」 父: 「そりゃそうだろ。お前に一番近い場所だ」 娘: 「そうかなあ」 父: 「そうさ、それにお互いに顔を見ながら食べた方が美味しいじゃないか」 娘: 「うふふ、そうねぇ」 父: 「さあ、食べよう食べよう」 娘: 「ねえ、パパ」 父: 「なんだ、あらたまって」 娘: 「あのね・・・話があるんだけど・・・」 父: 「う、うん」 娘: 「実は・・・パパに会わせたい人がいるんだ・・・」 父: 「え」 娘: 「あ、いきなり・・・だった?」 父: 「あ、いや、そ、そうか・・・お前ももうそういう年頃だもんなあ」 娘: 「いやだ、パパ。そんなんじゃないから・・・」 父: 「よ、よかったじゃないか」 娘: 「もう〜、そんな、あらたまった話じゃないのよ。 ただ、パパに会ってほしい人がいるだけ」 父: 「どんな人だい?」 娘: 「ふふ。やさしい人。 私のことをなにより大切にしてくれる人」 父: 「そ、そうか〜。よかったじゃないか。じゃあ一度うちにも連れてきなさい」 娘: 「うん。そうする」 父: 「なんで・・・今日は連れてこなかったんだい?」 娘: 「だって、今日はパパの豚汁を、パパと食べたかったの」 父: 「そうか・・・」 娘: 「それに、パパのリズミカルな包丁の音が長調から短調に変わるのは いやだったんだもん」 父: 「なぁに言ってるんだ」 娘: 「うふふ」 父: 「パパもその人に早く会ってみたいな」 娘: 「ほんとう?無理しなくていいのよ」 父: 「無理なんてしてない」→※このあと2人で笑い合うアドリブあり 娘: いつだって、この食卓を中心に、豚汁の香りと笑い声が響きあう。 私の心を優しい思いが満たしていった。
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ボイスドラマ「潮風のロッキングチェア」後編
登場人物(※設定は毎回変わります) ・孫娘(5歳/25歳)・・・海外で海洋アドベンチャーガイドをしている。幼い頃は海辺のビーチハウスで祖父と暮らしていた(CV:桑木栄美里) ・祖父(70歳/享年75歳/23歳)・・・民俗学者。亡くなる直前までビーチハウスで25年間一人で暮らしてきた(CV:日比野正裕) ・祖母(享年32歳/25歳)・・・海辺の町で海女として暮らしていたが祖父と知り合って結婚。ビーチハウスで暮らしたが若くして逝去(CV:桑木栄美里) <祖父23歳/祖母25歳> 祖父: 「前略 初めて貴女と出会った日のこと、覚えていますか? 渚を見つめていた私の前に、波の中から現れた貴女は、 まるで人魚のようでした・・・」 (SE〜海から人が現れる音「ザバ〜ッ」) 祖父: それは予想もしない出来事だった。 海辺の村に伝わる民話を集めるため、浜辺を歩いていたそのとき。 波の合間から突然”人魚”が現れたのだ。 いや本当に、最初は”人魚”が打ち上げられたのかと思った。 白い磯シャツに白い巻きスカート。 白い磯ずきんを被った彼女を見て、思わず尾鰭(おびれ)を探してしまった。 彼女は、海女。 海に潜って、海産物を採ってくる、あの海女だ。 午後の海女漁に備えて、渚で体を慣らしていたのだという。 祖母: 「そんなにジロジロ見られたら恥ずかしいわ・・・」 祖父: 「あ、いや・・・これは失礼」 祖母: 「ひょっとして、学者先生?」 祖父: 「え・・・あ、そうです・・・・けど、どうして?」 祖母: 「だって、そんな格好した人、このあたりにはいないもの。うふふ」 祖父: 海面に反射する日差しよりも眩しい笑顔。 その日、私は初夏だというのに、ダークグレーのスーツを着て 波打ち際を歩いていた。 私は大学の研究室で民俗学を専攻する助教授。 こうやって、全国の民話や伝承を採訪(さいほう)している。 この町を訪ねたのも、わずかながら”人魚伝説”が残っていたからだ。 祖母: 「ひょっとして私のこと、人魚かなにかと勘違いしていません?」 祖父: 「え・・・」 祖母: 「あら、やだ。図星なの?」 祖父: 「いえ、あの・・・私は民俗学を研究している学者で、 全国の民話や伝承を探して訪ねているのです」 祖母: 「それで人魚を・・・?」 祖父: 「人魚だけじゃないんですけどね。 海や山や里でいろんな民話や昔話を集めています」 祖母: 「ふうん・・・じゃあ、よかったら私のうちに来ませんか?」 祖父: 「え、そんな・・・いきなり・・・」 祖母: 「大丈夫ですよ・・・私、ひとりですから」 祖父: 「余計にだめでしょ」 祖母: 「面白いひと・・・。 海女小屋をもう少し住みやすく改造しただけですから、お気遣いなく」 祖父: 「でも・・・」 祖母: 「岩場の向こうなので歩いてもすぐよ。さ、行きましょ」 祖父: 「は、はい・・・」 (SE〜波の音) 祖父: そこは、海女小屋というより、まさにビーチハウスだった。 彼女のセンスを感じさせるホワイトウッドの外壁。 ウッドデッキには2人がけのロッキングチェアが静かに揺れている。 彼女は玄関ではなく、浜からそのままウッドデッキに僕を迎え入れた。 祖母: 「座って。 といってもロッキングチェアと小さなガーデンテーブルしかないけど」 祖父: 「失礼します」 祖母: 「やあねえ、そんな、かしこまらないでよ」 祖父: 「でも・・・」 祖母: 「今朝採ってきたサザエの余りがあるから、一緒に食べない? 炭火で焼いてあげる」 祖父: 「あ、はい・・・」 (SE〜炭でサザエを焼く音) 祖父: 採れたてのサザエがこんなに美味しいなんて、初めて知った。 彼女がひとりで住んでいる理由(わけ)は、 一緒に住んでいたおばあさんが1年前に亡くなったから。 おばあさんも昔から海女だったという。 この日を境に、僕はビーチハウスに毎日通い、 彼女から、この地方に伝わる不思議な民話をいっぱい教えてもらった。 なかでも興味深かったのは、 海の向こうにあるという「常世の国(とこよのくに)」伝説。 不老不死の国である。日本の神話に近いかもしれない。 もともと僕にも家族がなく、彼女との距離は日に日に縮まっていった。 祖母: 「私、小さい頃からずうっと欲しかったものがあるの」 祖父: 「なに?」 祖母: 「食卓」 祖父: 「じゃあ、家具屋さんへ行かなくちゃ」 祖母: 「そっか」 祖父: それが初めて2人で出かけたショッピングだった。 町のインテリアショップで見つけた食卓は、新婚用の2人がけ。 店内に貼られた新生活応援の文字が、僕の気持ちを後押しした。 祖父: 「新しい人生をはじめないか?」 祖母: 「え」 祖父: 「つまり・・・」 祖母: 「もうはじまってるじゃない」 祖父: それが、プロポーズの言葉になった。 まるで最初から決まっていたように2人は結ばれ、 子供にも恵まれて、本当に幸せな日々がはじまった。 たった7年だったけど・・・ 彼女を見送った日、私はひとり、ロッキングチェアに座り、 手紙をしたためた。 『愛する貴女(あなた)へ。 2人で過ごした日々は短かったけど、どんな人生よりも深かったと思います。 海から生まれ、海の泡と消えた貴女は、人魚姫そのもの。 常世の国で次に会えるまで、私は思い出とともに生きていきます。 未来永劫決して途切れぬこの思いを抱(いだ)きながら。 永遠(とわ)の愛を貴女に・・・』 (SE〜波の音)
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ボイスドラマ「潮風のロッキングチェア」前編
登場人物 ・孫娘(5歳/25歳)・・・海外で海洋アドベンチャーガイドをしている。幼い頃は海辺のビーチハウスで祖父と暮らしていた(CV:桑木栄美里) ・祖父(70歳/享年75歳/23歳)・・・民俗学者。亡くなる直前までビーチハウスで25年間一人で暮らしてきた(CV:日比野正裕) ・祖母(享年32歳/25歳)・・・海辺の町で海女として暮らしていたが祖父と知り合って結婚。ビーチハウスで暮らしたが若くして逝去(CV:桑木栄美里) <孫娘25歳/孫娘5歳&祖父70歳> (SE〜波の音) 孫娘: 祖父を見送った午後、私はビーチハウスのテラスでくつろいでいた。 (SE〜波の音+ロッキンチェアの音) 孫娘: 祖父は祖母が亡くなったあと、40年以上もここにひとりで暮らしていた。 ロッキングチェアに腰かけ、海風に揺られていると 祖父と過ごした子供時代を思い出す。 祖父: 「おーい」 孫娘: 「おじいちゃ〜ん」 祖父: 「こっちだよ」 孫娘: 「わあ!」 祖父: 「きれいな海だろう」 孫娘: 「うん!おじいちゃん、ここに一人で住んでるの?」 祖父: 「いや、おばあちゃんとずっと一緒だよ」 孫娘: 「え?どこ?」 祖父: 「おじいちゃんの心の中」 孫娘: おばあちゃんが旅立ったのは、私が生まれるずうっと前。 おばあちゃんの顔は写真でしか見たことがない。 2人がけのロッキングチェアは私には大きすぎたけど、 おじいちゃんの隣にくっついて座る。 大好きなブランコとも違う、ゆらぎの空間。 波の音を子守唄に、いつしか私は眠りに落ちていった。 (SE〜波の音) 祖父: 「風邪ひくよ・・・」 孫娘: 「う〜ん・・・」 祖父: 「アップルパイが焼けたから、なかのダイニングで食べよう」 孫娘: 「え〜、ここで食べたい。ここで食べた方がおいしい」 祖父: 「ああ、そうかそうか。じゃあひざかけを使いなさい」 孫娘: ハイビスカスをあしらった花柄のひざかけ。 それはおばあちゃんの手編みだと、あとから知った。 テラスのウッドデッキに面したダイニングの掃き出し窓。 日差しをやわらげる白いシェードが優しい光を届けてくれた・・・ (SE〜波の音) 孫娘: あれから20年。 テラスのシェードはところどころ布が透けて、 ウッドデッキのインテリアにまだら模様の光を落とす。 ロッキングチェアに座り、目を閉じると あの頃みたいにゆっくりと微睡(まどろみ)に包まれていった。 それは夢だとすぐに気づいた。 おじいちゃんとおばあちゃんが寄り添ってロッキングチェアに座っている。 おばあちゃんは写真で見た顔より若く見える。 2人とも若い。20代、かな。 おじいちゃんは、私を見つけると大きく手を振った。 祖父: 「おーい」 孫娘: おばあちゃんは何も言わずに優しく微笑んでいる。 私はいまと変わらず25歳のままだけど、 子供のような笑顔で2人の元へかけていく。 祖父: 「さあ、おすわり」 孫娘: おばあちゃんは立ち上がり、私をロッキングチェアに座らせる。 祖父: 「ゆっくりしていきなさい」 孫娘: 「うん」 孫娘: 祖父に寄り添った祖母が私に何かを話しかけている。 何度も聞き返すけど声は聞こえない。 レースのカーテンをひくように、景色がゆっくりとぼやけていった。 (SE〜波の音) 孫娘: 頬をなでる潮風が、私を夢の国から引き戻す。 自分ではまったくそんな意識はないのに、涙が頬を伝っていた。 海に沈む夕陽が、シェードをオレンジに染めている。 私はゆっくりとロッキングチェアから起きあがった。 そのとき私の目に映ったのは、小さな赤色。 背もたれと座面のネイビーブルーの間にはさまった赤。 それは、膝掛けと同じ花柄の小さな布袋だった。 袋の中に包まれていたのは、小さく折り畳まれた手紙。 これ、開けて、いいのかな・・・ (SE〜布が落ちる音「バサッ」) 手のひらに手紙をのせて悩む私の後ろで、なにかが音を立てた。 どうやら海からの風が、ソファからひざかけを落としてしまったようだ。 おばあちゃん・・・ 目を閉じると、祖母の笑顔が浮かんでくる。 意を決して手紙を開くと、 おばあちゃんではなく、おじいちゃんの文字が目に飛び込んできた。 そう、手紙はおじいちゃんからおばあちゃんに宛てたラブレター。 昔の言い方でいうと、恋文、かな。 祖父: 「前略 初めて貴女(あなた)と出会った日のこと、覚えていますか? 渚を見つめていた私の前に、波の中から現れた貴女は、まるで人魚のようでした。 2人で過ごした日々は短かったけど、どんな人生よりも深かったと思います。 海から生まれ、海の泡と消えた貴女は、人魚姫そのもの。 次に会える日まで、私は思い出とともに生きていきます。 未来永劫決して途切れぬこの思いを抱(いだ)きながら。 永遠(とわ)の愛を貴女に。 早々」 孫娘: おじいちゃんのラストレターだ・・・。 意識したことなかったけど、私が海洋アドベンチャーガイドになったのは、 きっと、おばあちゃんが海女で、おじいちゃんが民族学者だったからね。 お揃いの花柄で編まれたひざかけと小袋を抱きしめる私。 金色に輝く海の彼方へゆっくりと夕陽が沈んでいった。
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ボイスドラマ「天の川の約束」後編
登場人物 ・女性(39歳)・・・IT企業でWebデザイナーをしている。彼とはつきあって2年目(CV:桑木栄美里) ・男性(37歳)・・・大手弁護士事務所で働くジュニア弁護士。シニアを目指している(CV:日比野正裕) <女性39歳/男性37歳> (SE〜空港の雑踏) 女性: 「それじゃまた・・・」 男性: 「ああ。また来年」 女性: 今年も私たちの逢瀬は終わった。 一年に一度。 牽牛・織女(けんぎゅう・しょくじょ)の伝説のように、 天の川を超えて彼に会いにいく。 こと座のベガ、わし座のアルタイル。 これに、はくちょう座のデネブを加えた、 ”夏の大三角”が東の空へ昇るころ、私は機上の人となる。 (SE〜飛行機が離陸する音) (SE〜飛行機の機内) 機内アナウンス: 当機は今、中部国際空港への着陸態勢に入っております。 天気は晴れ、時間は9時5分です。 お座席、テーブルは元の位置にお戻しになり、シートベルトをご着用ください。 女性: 次の年も約束の日がめぐってきた。 紙のタンブラーからエスプレッソを飲み干し、 スマホでモバイルチケットを確認する。 今日はいつもの往復搭乗券ではない。 大切な話を彼にするために、片道(ワンウェイ)チケットだ。 (SE〜空港のロビー/スーツケースを引く音) 女性: 早く会いたい。彼の顔が見たい。 ボーディングブリッジを通り、到着ゲートを抜け、 検疫検査、入国審査をすませ、手荷物を受け取って到着ゲートへ。 私は足早に到着ロビーで待つ彼の元へ・・・ え・・・いない・・・? 彼の姿が見当たらない。 いつもミーティングポイントの一番前で私を出迎えてくれるのに。 時間まちがえてる? ううん、仁川(インチョン)でトランジットの際に、LINE入れてるもん。 不安な思いが一気にからだ中をかけめぐる。 まさか事故にでもあったのかしら? だめだめ、不吉なこと考えちゃ。 いいわ、30時間のフライトでくたくたなんだから、 カフェでお茶でも飲んで落ち着きましょう。 (SE〜LINEの着信音) 女性: あ、LINE。彼だわ。 え?プレミアムラウンジにいる・・・? どういうこと? (SE〜プレミアムラウンジ) 男性: 「こっちこっち」 女性: 「どうしたの?ラウンジなんかで」 男性: 「実は見せたいものがあるんだ」 女性: 「なに?」 男性: 「これ・・・」 女性: 「なにこれ?」 男性: 「L.A.の弁護士事務所からのオファーだよ」 女性: 「え・・・どういうこと?」 男性: 「僕もL.Aに行く」 女性: 「え〜!」 男性: 「もう離れていたくないんだ」 女性: 「そんな・・・」 男性: 「一緒にいたいんだ」 女性: 「でも・・・」 男性: 「でも?・・・同じ気持ちだと思ったのに・・・」 女性: 「同じ気持ちだよ」 男性: 「じゃあどうして・・・」 女性: 「だって私、もうL.Aに戻らないつもりで帰ってきたんだもん」 男性: 「え・・・」 女性: 片道(ワンウェイ)チケットの理由は、L.A.の支社を退職してきたから。 年に一度の逢瀬で我慢できるほど、私は若くない。 会社に伝えた退職理由は、ベッドとマットレス。 ”外国人の体型に合わせたマットレスでは、とても熟睡できません。 何年ものストレスで身も心もくたくたです” これがオフィシャルな理由だ。まあ、間違いではないけれど。 でも本当は・・・ただただあなたに会いたい! 男性: 「そうだったんだ・・・」 女性: 「そうよ。だからL.A.からのオファー、ことわって」 男性: 「え〜」 女性: 「まずは、インテリアショップへ行きましょ。 2人でゆったり寝られるサイズで 体を包み込むようなコイルスプリングのマットレス、買わなきゃ」 男性: 「え・・・ってことは・・・」 女性: 「1分でも1秒でも、長く一緒にいたいの」 男性: 「異議なし」 女性: 私たちはコーヒーを何杯もおかわりしながら、これからのことを話し合った。 一番近い未来の予定はもちろん、インテリアショップ。 2人だけの生活の準備、はじめないと。 彼の腕にくっつきながら、私はもうワクワクがとまらない。 幸せはこうやって自分の手でつかんでいく。 それが私の生き方だから。
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ボイスドラマ「天の川の約束」前編
登場人物 ・女性(36歳/29歳)・・・IT企業でWebデザイナーをしている。彼とつきあって7年目(CV:桑木栄美里) ・男性(34歳/27歳)・・・大手弁護士事務所で働くジュニアアソシエイト (CV:山崎るい) <女性36歳/男性34歳> (SE〜街角の雑踏) 男性: 「転勤!?」 女性: 「うん・・・」 男性: 「・・・いつから?」 女性: 「来月・・・」 男性: 「・・・そっかぁ・・・で赴任先は?」 女性: 「L.A.」 男性: 「え・・・」 女性: 「うちの会社、来月L.A.ブランチをオープンするの」 男性: 「・・・そう・・・」 女性: 「私、あなたと出会う前から、海外勤務の希望を出してたんだ」 男性: 「じゃあ、願いが叶ったんだね」 女性: 「うん。でも・・・」 男性: 「よかったじゃないか」 女性: 「え・・・」 男性: 「お祝いしなきゃ。盛大にやらないと」 女性: 「・・・うん・・・」 男性: 彼女から告げられた、突然の海外赴任報告。 実は、僕にはまるで死刑宣告のように感じられた。 <女性29歳/男性27歳> (SE〜インテリアショップ店内) 男性: 彼女と初めて出会ったのは、いまから7年前。 インテリアショップで、僕がオフィスに飾る絵を探していたときだ。 オフィスと言っても、小さな弁護士事務所。 僕は27歳だったけど、弁護士になりたて、1年目のジュニアアソシエイトだった。 立ち止まって眺めていたのは、モンローをコラージュしたキラキラ系の絵画。 怪しく微笑むブルーグレイの瞳に、僕は長いあいだ、魅入られていたんだ。 女性: 「うふふ・・・」 男性: 小さく、控えめな笑い声で、僕は我に帰った。 男性: 「あ・・・」 女性: 「あら、ごめんなさい。笑うつもりはなかったんだけど」 男性: 彼女は、大手IT企業に務めるWebデザイナー。 僕よりふたつ年上の人気クリエイターだった。 女性: 「私もモンローは好きよ。 ノーマ・ジーンの方がもっと好きだけど」 男性: 「あなたもインテリアを探しに?」 女性: 「そう。私をゆっくり眠らせてくれるインテリアをね」 男性: 聞けば、仕事は多忙を極め、睡眠不足の毎日。 安眠できるベッドを探しにインテリアショップへきたのだという。 女性: 「睡眠導入剤に頼るのはいやだから」 男性: 僕も彼女も、もちろん、リアルなモンローはしらないけれど、 セクシーな笑顔にはお互い共感していた。 イヴ・モンタンには程遠かったけど、 1960年の映画「恋をしましょう」のように、僕たちの物語ははじまった。 気がつけば、あっという間に7年という月日が流れていた。 (SE〜街角の雑踏) 女性: 「おまたせ」 男性: 「行きたいところ、ある?」 女性: 「枕とマットレスを見に行きたい」 男性: 別に意識しているわけじゃないんだけど、 僕たちのデートスポットはなぜかいつもインテリアショップ。 今日も、コイルスプリングという素材のマットレスに出会って 彼女のテンションはどんどんあがっていく。 ベッド、枕にシーツ、かけぶとん・・・ 彼女の睡眠環境がみるみる充実していく。 一緒にインテリアを見てまわるうちに、 いつしか、彼女との未来を思い描くようになっていった。 「七年目の浮気」 じゃあないけれど・・・ 七年目のある日、L.A.転勤という判決がいきなりつきつけられてしまったんだ。 (SE〜レストランの雑踏/ワイングラスの乾杯の音) 男女: 「乾杯」「乾杯」 男性: 「ねえ・・・ひとつだけお願いがあるんだ」 女性: 「・・・なあに?・・・引き止めるならいまよ」 男性: 「え?」 女性: 「やだ、真剣な顔。冗談に決まってるじゃない」 男性: 「だよね・・・あの、僕たち・・・」 女性: 「え・・・」 男性: 「僕たち、これから毎年、この日に会わないかい?」 女性: 「この日・・・星祭(たなばた)の日?」 男性: 「そ、牽牛・織女の逢瀬のように」 女性: 「雨が降ったらどうするの?」 男性: 「カササギにお願いすればいい」 女性: 「そのときは私がカササギになってあげる」 男性: 笑顔のなかに変わらぬ思いを確信したいま、 僕はやっと、彼女のL.A.行きを誇らしいと感じた。 僕たちの道はまだ、未来へ続いている。 【Story〜「天の川の約束〜ねむりデザインLABO/後編」】 (※)登場人物(※設定は毎回変わります) ・女性(39歳)・・・IT企業でWebデザイナーをしている。彼とはつきあって2年目 ・男性(37歳)・・・大手弁護士事務所で働くジュニア弁護士。シニアを目指している <女性39歳/男性37歳> (SE〜空港の雑踏) 女性: 「それじゃまた・・・」 男性: 「ああ。また来年」 女性: 今年も私たちの逢瀬は終わった。 一年に一度。 牽牛・織女(けんぎゅう・しょくじょ)の伝説のように、 天の川を超えて彼に会いにいく。 こと座のベガ、わし座のアルタイル。 これに、はくちょう座のデネブを加えた、 ”夏の大三角”が東の空へ昇るころ、私は機上の人となる。 (SE〜飛行機が離陸する音) (SE〜飛行機の機内) 機内アナウンス: 当機は今、中部国際空港への着陸態勢に入っております。 天気は晴れ、時間は9時5分です。 お座席、テーブルは元の位置にお戻しになり、シートベルトをご着用ください。 女性: 次の年も約束の日がめぐってきた。 紙のタンブラーからエスプレッソを飲み干し、 スマホでモバイルチケットを確認する。 今日はいつもの往復搭乗券ではない。 大切な話を彼にするために、片道(ワンウェイ)チケットだ。 (SE〜空港のロビー/スーツケースを引く音) 女性: 早く会いたい。彼の顔が見たい。 ボーディングブリッジを通り、到着ゲートを抜け、 検疫検査、入国審査をすませ、手荷物を受け取って到着ゲートへ。 私は足早に到着ロビーで待つ彼の元へ・・・ え・・・いない・・・? 彼の姿が見当たらない。 いつもミーティングポイントの一番前で私を出迎えてくれるのに。 時間まちがえてる? ううん、仁川(インチョン)でトランジットの際に、LINE入れてるもん。 不安な思いが一気にからだ中をかけめぐる。 まさか事故にでもあったのかしら? だめだめ、不吉なこと考えちゃ。 いいわ、30時間のフライトでくたくたなんだから、 カフェでお茶でも飲んで落ち着きましょう。 (SE〜LINEの着信音) 女性: あ、LINE。彼だわ。 え?プレミアムラウンジにいる・・・? どういうこと? (SE〜プレミアムラウンジ) 男性: 「こっちこっち」 女性: 「どうしたの?ラウンジなんかで」 男性: 「実は見せたいものがあるんだ」 女性: 「なに?」 男性: 「これ・・・」 女性: 「なにこれ?」 男性: 「L.A.の弁護士事務所からのオファーだよ」 女性: 「え・・・どういうこと?」 男性: 「僕もL.Aに行く」 女性: 「え〜!」 男性: 「もう離れていたくないんだ」 女性: 「そんな・・・」 男性: 「一緒にいたいんだ」 女性: 「でも・・・」 男性: 「でも?・・・同じ気持ちだと思ったのに・・・」 女性: 「同じ気持ちだよ」 男性: 「じゃあどうして・・・」 女性: 「だって私、もうL.Aに戻らないつもりで帰ってきたんだもん」 男性: 「え・・・」 女性: 片道(ワンウェイ)チケットの理由は、L.A.の支社を退職してきたから。 年に一度の逢瀬で我慢できるほど、私は若くない。 会社に伝えた退職理由は、ベッドとマットレス。 ”外国人の体型に合わせたマットレスでは、とても熟睡できません。 何年ものストレスで身も心もくたくたです” これがオフィシャルな理由だ。まあ、間違いではないけれど。 でも本当は・・・ただただあなたに会いたい! 男性: 「そうだったんだ・・・」 女性: 「そうよ。だからL.A.からのオファー、ことわって」 男性: 「え〜」 女性: 「まずは、インテリアショップへ行きましょ。 2人でゆったり寝られるサイズで 体を包み込むようなコイルスプリングのマットレス、買わなきゃ」 男性: 「え・・・ってことは・・・」 女性: 「1分でも1秒でも、長く一緒にいたいの」 男性: 「異議なし」 女性: 私たちはコーヒーを何杯もおかわりしながら、これからのことを話し合った。 一番近い未来の予定はもちろん、インテリアショップ。 2人だけの生活の準備、はじめないと。 彼の腕にくっつきながら、私はもうワクワクがとまらない。 幸せはこうやって自分の手でつかんでいく。 それが私の生き方だから。
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ボイスドラマ「JUNE BRIDE」後編
登場人物 ・妹(8歳/17歳)・・・10歳も年の離れた姉を慕っている(CV:桑木栄美里) ・姉(18歳/27歳)・・・年の離れた妹と仲良し。結婚式直前のある日・・・(CV:桑木栄美里) ・父(44歳/53歳)・・・なにより娘たちを愛する歴史学専攻の大学教授(CV:日比野正裕) <姉27歳/父53歳> (SE〜ウェディングマーチ〜拍手と歓声) 姉: 愛する妹へ。 この特別な日に、私の心は感謝と慈しみの気持ちでいっぱいです。 そう、私たち2人が大好きなミモザの花言葉のように。 あなたは私の人生のなかで誰よりも尊敬し、愛する存在です。 結婚式の日に、私の心を手紙に託して、 あなたに伝えることができたら、こんなに嬉しいことはありません。 届けたい思いはこんなに溢れているのですから。 (BGM〜Love Songs1) 姉: 愛する妹へ。 あなたが私の妹であることに感謝しています。 あなたと共に育った日々は、私の人生にとって宝物です。 私が一人暮らしを始めるとき、あなたが選んでくれたコンパクトな食卓。 (SE〜インテリアショップのガヤ) 父: さすが私の娘(笑)。 お姉ちゃんの部屋にぴったりだ。 姉: そう。小さくておひとり様にピッタリのサイズだったけど、 グラストップのローテーブルは、すごくオシャレでいつも癒されてた。 授業のあとアルバイトでクタクタになって帰った夜、 食卓に座れば、あなたの温もりを感じてた。 (SE〜家庭のガヤ) 父: 私の娘は、センスがいいなあ。 清楚で上品で、でも華やかで(笑) 黄色いミモザには、「真実の愛」という花言葉もあるんだよ。 姉: あなたが父と遊びにきたとき、食卓に生けてくれる一輪挿し。 ミモザの優しい香りを飽きずにいつまでも愛でていたの。 (SE〜家庭のガヤ) 父: ベルガモットの香りは気持ちをやわらげてくれるんだ。 お姉ちゃん、お前を思い出して優しい気分になると思うよ。 姉: サブライズであなたが届けてくれる茶葉は、大好きなフレーバー。 嫌なことがあった日でも、 一口、口に運べばストレスがすうっと消えていった。 思えば、私たちはいつも一緒に笑い、泣き、喧嘩して、助け合ってきたよね。 その絆があったから、どんな試練にも耐える強さを持てたんだろう。 あなたが選んだ食卓は、可愛らしくて素敵で、あなたそのものだった。 (BGM〜Love Songs2) 姉: 愛する妹へ。 あなたが私の妹であることに誇りを感じています。 忘れないで。 あなたの優しさと強さが、いつも私を支えてくれたことを。 私は忘れない。 この日のために、あなたが真剣にインテリアを選んでくれたあの日。 大きな食卓を見て戸惑う私に、あなたがくれた言葉。 ”これからいっぱい家族が増えて、いっぱい幸せに包まれるから” ”大きな幸せを支える食卓は、大きな食卓でなきゃいけないから” 私は忘れない。 ダブルベッドを選びながら、あなたが目を輝かせて私に言った言葉。 ”いまは大きなダブルベッド。でも次は小さなベビーベッドだから” 私は忘れない。 3人がけのソファに腰かけてあなたがつぶやいた言葉。 ”このかたすみに私の場所もあるといいな” この先、人生は長い長い道のりを歩んでいくけれど・・・ あなたのいない人生なんて、私には存在しない。 あなたの選んだ恋する家具たちは、 私の人生を彩り、生きていくことを喜びに変えてくれるだろう。 (BGM〜Love Songs3) 愛する妹へ。 あなたが妹でいてくれたことが、私の人生の宝物です。 あなたを愛する思いは、言葉では表現しきれません。 あなたは私の人生においてかけがえのない存在です。 さあ、このあとは、あなたが輝く番。 コンパクトな食卓が、大きな食卓へ進化していったように、 あなたの人生も、大きく翼を広げて羽ばたいてください。 これからも、私はいつでもあなたのそばにいます。 姉として、私は誰よりもあなたを応援するし、 誰よりも心が通い合える存在であることに変わりはありません。 結婚は新しい旅立ちですが、私たちの絆は永遠です。 席札の下にこっそりしたためたこの手紙、 あなたの心に届き、思いが伝わりますように。 (SE〜ウェディングマーチ〜拍手と歓声)
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ボイスドラマ「JUNE BRIDE」前編
登場人物 ・妹(8歳/17歳)・・・10歳も年の離れた姉を慕っている(CV:桑木栄美里) ・姉(18歳/27歳)・・・年の離れた妹と仲良し。結婚式直前のある日・・(CV:桑木栄美里)・ ・父(44歳/53歳)・・・なにより娘たちを愛する歴史学専攻の大学教授(CV:日比野正裕) <妹17歳/父53歳> (SE〜雨の音/家の中) 妹: 「いやあね、今日も雨・・・」 父: 娘がリビングの窓から空を眺めて、恨めしそうにつぶやく。 妹: 「来週は、晴れるかなあ・・・」 父: 「大丈夫。式の日にはきっと晴れるよ。お父さん、晴れ男だから」 (BGM〜雨イメージ「Rain May Come」) 父: それでもまだ、祈るような表情で空を見つめる娘。 正確に言うと、下の、娘。 彼女には、10歳も年の離れた姉妹(きょうだい)がいる。 来週、ジューンブライドになる姉だ。 2人は、妹がまだ幼い頃から 年の差なんてまるで関係なく心を通じ合わせていた。 <妹8歳/父44歳> 妹: 「お姉ちゃ〜ん、これ、かわいい!」 父: 姉の大学入学が決まり、一人暮らしをはじめるとき 家族で行ったインテリアショップ。 妹は、コンパクトな食卓を目ざとく見つけて 大きな声で姉を呼ぶ。 妹: 「お部屋、ちいさくても、これなら大丈夫」 父: さすが私の娘。 姉がワンルームに住むなんてひとことも言ってないのに。 しかも、彼女が推す食卓は、グラストップのローテーブル。 当時のハイトレンドだった。 姉も満面の笑みで妹の頭を撫でる。 年は離れていても、まるで親友のような姉妹だ。 妹: 「ここにお花を置いて、お姉ちゃんと一緒にお茶を飲むの」 父: 「お姉ちゃんは一人暮らしだからね」 妹: 「だから、寂しくないように私がそばにいてあげる」 父: 「お姉ちゃんちは遠くだから、1人じゃいけないよ」 妹: 「う・・・」 父: つぶらな瞳を潤ませて、口をつぐむ娘を見ていると こっちが切なくなってしまう。 結局、なんだかんだと理由をつけ、 姉の暮らす東京まで何度連れていったことだろう。 その都度、食卓の一輪挿しには姉の大好きなミモザを生け、 とっておきの茶葉で紅茶を淹れて、いつまでも語り合う。 そうそう、ミモザの花言葉は「感謝」「友情」・・・ 互いに「感謝」し、「友情」を深めていく。 そんな2人を見るのが、私の一番幸せな時間だった。 <妹17歳/父53歳> (SE〜インテリアショップのガヤ) 妹: 「お姉ちゃん、今度は大きな食卓にするんでしょ」 父: 結婚式の1週間前。 家族で出かける最後のインテリアショップ。 いや、最後じゃないかな。 3人で出かけるのは、最後かも。 彼女は姉と腕を組み、新居の家具を見て回る。 楽しそうな笑顔の合間に見える切ない表情。 まもなく新郎となるお婿さんは、 ハネムーン休暇のためにハードワークをこなしている。 代わりに、姉と新居のインテリア選びを任されたのが、彼女だった。 妹: 「え・・・この食卓? こんなん全然大きくないよ。 だってこれから家族がいっぱい増えるじゃない」 妹: 「ベッドは、シングルからダブルね。 そこにベビーベッドが増えていくんだから」 妹: 「一人暮らしのときは置けなかったソファも必要だよ。 私が遊びに行っても3人で座れるような、大きなソファ」 父: どうやら私の出る幕はなさそうだ。 (SE〜雨上がりのイメージ/小さくさえずる小鳥の声) 妹: 「あ、雨やんだみたい」 父: 「ほらね、お父さん晴れ男だって言ったろ」 妹: 「なに言ってんの。結婚式、来週だよ・・・」 父: そう言いながら、満面の笑みが彼女を包む。 慌ただしく式の準備に追われる姉をサポートしながら リビングで妹と過ごす和やかなひととき。 1週間前のビフォー・ウェディングは、 凪いだ海のように、ゆったりと流れていった。 (SE〜静かに流れるウェディングマーチ〜宴席のガヤ) 妹: 「お父さん、私たちの席こっちだよ」 父: 席札を確かめながら、腰をおろす。 隣に座る娘は、テーブルを眺めて不思議そうな顔をしている。 妹: 「お父さん、席札の下になにかある・・・」 父: 席札に隠れるように折り畳まれた純白のナプキン。 そこに包まれていたのは・・・ 妹: 「手紙だ・・・」 父: ゆっくり、こわれものを扱うように、そっと手紙を開いていく。 妹: 「私の大切な妹へ・・・ あなたが私の妹でいてくれることに感謝しています。 あなたが私の妹でいてくれることに誇りを感じます。 あなたが私の妹でいてくれることが、私の人生の宝物です。 結婚は新しい旅立ちですが、私たちの絆は永遠です。 これからは、あなたが輝く番。 輝いていくあなたを見るのが私の喜びです」 父: 大粒の涙が娘の頬を伝わる。 妹: 「お祝いされる方がお祝いしてちゃだめじゃない・・・」 父: 最高のクライマックス。 まだ結婚式も始まっていないのに・・・
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ボイスドラマ「変わらないもの/父のソファ」後編
登場人物 ・母(40歳/65歳)・・・主婦/妻とは学生時代、東京で出会い、名古屋で結ばれた(CV:桑木栄美里) ・父(44歳/69歳)・・・全国展開する半導体チップメーカーの社長/かつては町工場の工場長だった(CV:日比野正裕) <母65歳/父69歳> (SE〜キッチンで洗い物をする音) 父: 「もう、こんな時間か・・・あの子、まだ帰らないのか」 母: 「ええ。なんでも最近新しくオープンするセレクトショップで 新ブランドの開発をまかされたそうよ」 父: 「ああ、そういえば、そんなこと言ってたっけな」 母: 「さっきメールで、夕ご飯もいらないって」 父: 「まったく、いくつになっても心配ばっかりかけて」 母: 「しようがないでしょ。あなたの娘(こ)だもの」 (BGM〜absent-300473596) 父: 娘がインテリアコーディネーターになった。 それは、私も妻も家具が大好きだったからかもしれない。 私のお気に入りは、3人がけのこのソファ。 大き過ぎもせず、小さくもなく、ちょうどいいサイズと ふかふかの座り心地が私の居場所になっている。 ソファが我が家にやってきたのは、25年前だった。 <母40歳/父44歳> (SE〜インテリアショップの雑踏) 父: 「眠ったみたいだな」 母: 「あなたが大声ださなきゃ、すぐ寝てくれるわ」 (BGM〜good-night-300537089) 父: 生まれたばかりの娘をベビーカーに乗せて、 家具屋の店内をゆっくりと見てまわる。 お目当ては3人並んで寝られる大きなベッド。 寝室の大きさも考えながら、決めるのに難航していた。 そのとき、私の足がとまったのは・・・ 母: 「ソファ?」 父: 「うん、大き過ぎず、小さくもない。 私が真ん中に座って、両横にこの娘と息子が座ってくれたら最高だろうなあ」 母: 「あら、じゃあ私と学校行ってるお姉ちゃんは?」 父: 「同じ柄のひとりがけのソファが2つ、あればいいじゃないか」 母: 「大家族ね」 父: 「ああ、大家族で毎日が楽しくなるぞ」 母: 「この娘と3人で寝られるベッドも忘れずにね」 (BGM〜love-is-forgetting-300540324) 父: こうして、一目惚れしたソファは、家族の中心となった。 末娘を抱いて真ん中に座る私と、両脇に座る長男長女。 もっちりとした座り心地のソファーは、私たち親子をやさしく包み込んでくれた。 それはまるで家族の思いを抱きしめるように。 私たちの姿を見て妻がニッコリ笑う。 ソファーを中心にして、リビングに笑顔の灯りが灯された。 <妻65歳/父69歳> (SE〜玄関をあける音) 母: 「帰ってきたみたいよ」 父: 「まったく」 母: 「優しくしてあげてね」 父: 「わかってる」 母: 「座ったら?」 父: え? あ、そうか・・・ 私は知らず知らず、リビングで立ったままソワソワしていたようだ。 私はようやくソファに腰をおろし、おもむろにテレビをつける。 テレビも、つけていなかったのだな・・・ ふふ・・・。 自分でも気が付かないくらい、娘が心配だったらしい。 (SE〜リビングのドアをあける音「カチャ」) 父: 「おかえり」 娘は必ずリビングに顔を出してから自分の部屋へ行く。 いつも通り・・・に見えるけど、ちょっと、疲れた顔・・・だな。 仕方ない。いろいろストレスもあるだろうから。 私は、トーンを落として声をかける。 「とりあえずソファで休みなさい」 私の声を聴いた娘は、とたんに表情が緩んだ。 笑うとエクボが現れるのは、いまも昔も変わらない。 キッチンから妻が割り込んでくる。 母: 「ホント、変わらないわね」 父: 「なんだい」 母: 「ソファの真ん中と右端を親娘で占領すること」 父: 「いいじゃないか。親娘なんだから」 (BGM〜new-horizon-light-346391042) 父: 娘が生まれたのは、私がまだ町工場を経営していた、44歳のとき。 仕事もちょうど転換期で慌ただしい日々だったが、 夕食後は時間を作り、このソファに座って娘といろんな話をしてきた。 挨拶の仕方、テーブルマナー、言葉遣い、礼儀、作法。 幼いころは泣いたり反抗したりもされたが、 インテリアコーディネーターになった今は、きっと理解してくれているだろう。 ふと気がつけば、上品な笑顔で私をじっと見つめている。 父: 「なーににやけてるんだ」 (娘: 「なーんでもないよ~(笑)」) (BGM〜インテリアドリーム) 父: まるで子どものように顔をほころばせて私にもたれてくる娘。 妻と娘と私。家にはいないが、長男長女。 リビングを笑顔で包む家族の幸せに、今日も灯りが灯っていく。
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ボイスドラマ「変わらないもの/父のソファ」前編
登場人物 ・娘(8歳/25歳)・・・インテリアコーディネーター/セレクトショップで新ブランド立上げの責任者に抜擢されている(CV:桑木栄美里) ・父(52歳/69歳)・・・全国展開する半導体チップメーカーの社長/かつては町工場の工場長だった/少し強面だが心根は優しくて娘思い(CV:日比野正裕) <娘8歳/父52歳> 父: 「よいしょっと」 (SE〜ソファに座る音/キッチンで洗い物をする音=オフで) 娘: 夕食のあと、キッチンで洗い物をする母に背を向け、 リビングのソファにどっしりと座る父。 父: 「ニュースはまだかな・・・」 (SE〜テレビのリモコンを操作する音) (BGM〜fsharp-maj-arpeggio-300270424) 娘: 3人がけのソファは、身長180cmの父が座るととても小さく見える。 小柄な私が一人で座ると、背もたれが視界を遮り巨大な壁となる。 ”なんて大きいソファなんだろう”っていつも感じていたのに。 いつものことだけど、いつも不思議だった。 父: 「お、今日はクイズか!」 娘: 父はTVを見るのが大好き。 仕事から帰ってきてみんなでご飯を食べた後には、 いつものソファで夜遅くまでTVを見る。 ニュース番組、バラエティ番組、スポーツ番組、何でも見て、 何にでも大きな声で答えていた。 父: 「鹿児島県で2番目に大きい島・・・2番目に大きい島は・・・ 屋久島!」 (SE〜テレビの中の音「ピンポンピンポン!」) 娘: 私の方を振り返って口元が綻ぶ。 そして、いつものように、 父: 「こっちにおいで。一緒に見よう」 娘: 私は満面の笑みで父の隣へ飛び込み、並んでテレビを見る。 それは私にとって、至福のひととき。 リビングに響き渡る父の声は、家族を照らす灯りだった。 父: 「明日、みんなでまた家具屋さんに行こうか」 娘: そう言ったあと、気がつくと横から父の寝息が聞こえてくる。 振り向けば、キッチンの母は人差し指を口にあてて笑っている。 この時間が私は一番好きだった。 (SE〜インテリアショップの雑踏) (BGM〜liberosis-347011530) 娘: 私がインテリアコーディネーターになったのは、 父も母もインテリアが大好きだったから。 父は時間があると私を家具屋さんへ連れていった。 娘: 「わあ」 父: 「いろんな家具があって楽しいだろう」 娘: 「うん」 父: 「じゃあ座って目を瞑って。 その家具たちに囲まれた暮らしを想像してごらん」 娘: 「う〜んと・・・」 父: 「そばにパパやママやお姉ちゃん、お兄ちゃんは見える?」 娘: 「うん、見える」 父: 「みんな、笑ってるかい?」 娘: 「笑ってる」 父: 「じゃあ、その家具はいい家具だ」 娘: 「そっかぁ」 父: 「やっぱりおまえは見る目があるなあ(笑)」 娘: その思いは(インテリアコーディネーターになった)今でも変わらない。 自然と笑顔が集まってくる家具たちを、私は提案し続ける。 かつて父は町工場を経営し、妻と子供3人を守るために毎日必死に働いた。 毎日疲れていただろうに、週末は必ず私たちをドライブに連れていく。 勉強しろと言われたことは一度もない。 唯一厳しかったのは「礼儀」と「言葉」。 それもこれも、社会人になったいま、私をかたちづくる素養となっている。 <娘25歳/父69歳> (SE〜玄関をあける音) 娘: 「ただいま」 父: 「おかえり。遅かったな」 娘: 「いま、セレクトショップの新ブランド立上げで忙しいのよ」 父: 「ごはんは?」 娘: 「食べてきた」 父: 「そうか、じゃあとりあえずソファで休みなさい」 娘: 「うふふ・・」 父: 「なんだ?」 娘: 「変わらないなあ、と思って」 父: 「なにが?」 娘: 「ソファも。パパも」 父: 「なぁに言ってるんだ」 (BGM〜インテリアドリーム) 娘: つい最近、ソファの皮を新しく張り替えた。 新しい皮の匂いがするソファの真ん中に、今日も父はどっしりと座る。 その横で、私が父にもたれ気味に座る。 社会に出て目まぐるしく変わる毎日のなかで 変わらない日々の幸せが、そこにはある。
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ボイスドラマ「木の温もりと飛騨の匠」後編
登場人物 ・娘(24歳)・・・声優を目指す女性/実家から離れて東京で一人暮らしをしている(CV:桑木栄美里) ・父(56歳)・・・家具職人/若い頃から飛騨の匠の元で修行して家具職人となった(CV:日比野正裕) (SE〜拍手と歓声〜そこにまざってドラムロールの音〜F.O.) 娘: ステージに立つ7名のファイナリストたち。 その中に立つ私は、ゆっくりと目を閉じる。 やがて歓声とドラムロールの音が、私の耳からすうっと消えていった。 私の頭の中に蘇ってきたのは、幼い日の父の背中。 ★娘7歳/父39歳 父: 「いいかい、大きくなっても、温もりを忘れちゃいけないよ」 (BGM〜inspiring-piano-300473695) 娘: 父は家具職人。 幼い私をよく自分の工房へ連れていってくれた。 木目もあざやかに、磨かれた木材が所狭しと並ぶ小さな工房。 父は、工具や木工機械で私が怪我をしないよう、 背中越しに見ているよう言い含めて、いつも私を気遣った。 ある日、1枚の白木を手にとった父は私を手招きして、 (SE〜工房の雑踏) 父: 「ほら、この木をさわってごらん」 娘: それは、家具に生まれ変わる前の白木(しらき)。 無垢の清らかな香りが漂ってくる。 父: 「あったかいだろう」 娘: そこには、スチールやプラスチックをさわったときとは全然違う やわらかくてあったかい感触があった。 父: 「木の温もり、っていうんだよ」 娘: 「木の温もり・・・」 父: 「木は私たち人間と同じで、呼吸しているんだ。 だから木には体温がある。 この木で作る家具にも、そのまま温もりが残るんだよ」 (BGM〜seventeen-street-346951958) 娘: 確かに父が作る木の家具には、冷たい感触はまったくなかった。 学校で辛いことがあっても、家に帰って木の家具に囲まれていると 冷えた心がほんわり暖かく溶けていくような・・・。 父: 「この椅子を見てごらん」 娘: それは背もたれの曲線が美しい木製のアームチェア。 左右の肘掛けにシンメトリーに浮かび上がる木目を見ていて思わず、 「きれい・・・」 とつぶやいた。 父は顔をほころばせて、 父: 「そうだろう。 これは”匠”が作った椅子だから」 娘: 「たくみ?」 父: 「ああ、たくみさ。 むかーしむかしに飛騨から都へ送られてお寺とかお城を作った職人だよ」 娘: 「へえ〜」 父: 「座ってごらん」 娘: 「はい」 座った瞬間、木の温もりに包まれる感じがして、 心がふわっと軽くなっていった。 父: 「気持ちいいだろう?」 娘: 「うん・・・」 父: 「匠が作る家具はね、毎日のストレスを和らげて、 安らぎと温もりを与えてくれるんだよ」 娘: 「ふうん」 父: 「だから、おまえ自身も、いつだって温もりをなくしちゃいけないよ」 娘: 「わかった」 私の方へ振り返ったまま、満足気に微笑む父の笑顔と背中のあたたかさ。 今でも鮮明に覚えている。 東京で一人暮らしを始めるときに選んだのも、すべて木の家具たち。 あ、そうだった。気づかないうちに、私、温もりに包まれていたんだ。 ★娘24歳/父56歳 (SE〜会場の大きな雑踏〜そこにまざってドラムロールの音〜F.I.) 娘: 父と家具たちを思い出しながら 自分でも不思議なほど落ち着いて、私はゆっくり目をあけた。 ドラムロールが途切れた次の瞬間、 私の名前を呼ぶ大きな声が、耳に飛び込んでくる。 嬉し泣きの声は、歓声と拍手があっという間にかき消していった。 (BGM〜インテリアドリーム) (SE〜拍手と歓声、それにまじってオフで父の「おめでとう」の声) 娘: 壇上でトロフィーを手にした私が顔をあげると・・・ 客席の一番後ろには父の姿があった。 笑っているような、でも泣いているようにも見える表情で 大きく手を叩く父。 昨日名古屋へ帰るって言ってたのに・・・ おとうさん、私、おとうさんのような匠になりたい。 一切妥協せず自分の技能を信じて誇りに思う、職人のような声優。 大丈夫。私、できるよね。 匠に、なる。 だって、私はおとうさんの子どもだから。
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ボイスドラマ「木の温もりと飛騨の匠」前編
登場人物 ・娘(24歳)・・・声優を目指す女性/実家から離れて東京で一人暮らしをしている(CV:桑木栄美里) ・父(56歳)・・・家具職人/若い頃から飛騨の匠の元で修行して家具職人となった(CV:日比野正裕) 【Story〜「木の温もりと飛騨の匠/飛騨の家具/前編」】 (SE〜コンビニの雑踏) 娘: 「おつかれさまでしたぁ!」 (SE〜スニーカーで走る足音) 父: 娘がバイト先のコンビニを出たのは、午後7時10分。 慌てて走り出そうとする娘を私が制する。 娘: 「あれ?お父さん!?なんで!?」 (BGM〜the-springs-peaceful-347491831) 父: 疑問符を連発する娘に静かに声をかける。 父: 「明日、大事な声優オーディションなんだろ?」 娘: 「うん・・・え、それでわざわざ東京まで来てくれたの!?」 父: 「いや、たまたま東京のお客さんと打合せだったんだよ」 娘: 「あ、そう・・・」 父: 「えっと、あ〜実は、ちょっと、軽く弁当作って持ってきたんだ」 娘: 「え、うそ?」 父: 「父さんの手作りだから美味くはないけど。 よかったらで一緒に・・・」 娘: 「私、今日は早く帰って発声練習とルーティンの課題をこなしておかないと」 父: 「そうか、そうだったな、じゃあ、もう帰るから。父さんも明日仕事早いからな」 娘: 「そんな・・・」 父: 「なあ、あんまり生き急ぐんじゃないぞ。 たまには歩みを止めて、深呼吸しなさい」 娘: 「わかってる・・・」 父: 「明日がんばってな」 娘: 「うん・・・」 (SE〜街角の雑踏) 父: 娘は私の顔をチラリと見てからアパートへ向かった。 私は反対方向へ歩き出す。 さて、このあとはどこか適当な居酒屋で夕食を摂るか・・・ 娘が名古屋を出て東京で一人暮らしを始めたのは6年前。 あのときの娘と私は、一緒に家具屋へ行くほど距離が近かった。 ★娘18歳/父50歳 (SE〜インテリアショップの雑踏) 娘: 「お父さん、口だししちゃいやだよ。私が選ぶんだから」 父: 「わかってる」 (BGM〜inspiring-whisper-347314386) 父: 私の仕事は、家具職人。 だから家の中は、私の手による、まさに一点ものの家具に囲まれていた。 食卓も、箪笥も、学習机も、ベッドも、すべて木の家具だった。 娘からはよく、どうして木の家具しかないの、って訊かれたっけ。 それは、匠の心と木の温もり。 むかし、飛騨の匠たちが都へ呼ばれて、宮殿や寺院を建立したときも きっと木の温もりを感じながらノミをふるっていたに違いない。 娘は自分の部屋にどんな家具を選ぶのだろう。 インテリアショップで楽しそうに見てまわる、娘の笑顔。 いつまでもこの笑顔を忘れずにいてほしい。 (SE〜インテリアショップの雑踏) 娘: 「選び終わった」 父: 「早いなあ」 娘: 「だって、小さな部屋だもん。そんなに家具必要ない」 父: 「どれどれ・・・」 (BGM〜sunrise-300537095) 父: 娘の選んだ家具を見て、思わず息を呑んだ。 いや、まあ、当たり前と言えば当たり前か・・・。 食卓、ソファ、ベッド、デスク。そのすべてが木の家具。 手触りも滑らかで柔らかく、デザインは真っ白だ。 まるで声優になりたい、という夢への挑戦を表現するかのように。 娘: 「どうかな・・・」 父: 「い、いいんじゃないか。全部木の家具・・・なんだな」 娘: 「うちの家具だって、みんな木じゃない」 父: 「ああ」 娘: 「お父さん、いつも木には”温もり”があるって言ってたでしょ」 父: 「うん」 娘: 「だから、新しい生活をはじめるときも 寂しくないように、温かくて優しい木の家具にするんだ」 父: こうして、木の温もりに包まれた娘の新生活がスタートした。 あれからもう、6年になるのだな・・・ 娘はコンビニでアルバイトしながら、声優を目指して日夜頑張っている。 ★娘24歳/父56歳 (SE〜街角の雑踏〜走ってくる靴音) 娘: 「おとうさん」 父: 「あ、どうしたんだ?バイト先にわすれものか?」 娘: 「ううん。 やっぱり・・・一緒にごはん食べない?」 父: 「ん?」 娘: 「久しぶりにおとうさんのまずい料理食べたくなって(笑)」 父: 「そうか・・・(笑)」 (BGM〜インテリアドリーム) (SE〜歩き出す2つの靴音) 父: 「あ、なあ、知ってるか。 木の家具って、釘とかビスとか冷たい金属は表面に見えないだろ?」 娘: 「なあに?とつぜん」 父: 「だから、日常のストレスを和らげて、安らぎと温もりを与えてくれるんだよ」 娘: 「そっか。私、気づかないうちに、温もりに包まれていたんだ」 父: 「おまえも、これから仕事がどんどん忙しくなっていって、 息つく暇もなくなって、心に余裕がなくなっていっても、 温もりを忘れずにいるんだよ」 娘: 「うん」 父: 「心のあったかい声優になれるといいな」 娘: 「おとうさん、実はね、 私が目指してるのは、・・・”匠”なんだ」 父: 「え?」 娘: 「おとうさんが思ってるような、可愛いだけの声の声優じゃなくて」 父: 「そんなこと思ってないけど」 娘: 「さりげなくやっていることの一つ一つが高度で緻密、しかも的確。 納得できるクオリティに仕上げるまでとことん探求する。 一切の妥協も許さない」 父: 「ああ・・・」 娘: 「なりたいのは、そんな声優。 それって・・・」 父: 「”匠”だな」 娘: 「お父さん、やっぱりわかってる」父娘: (笑い合う)
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ボイスドラマ「あの日の入学式」後編
登場人物 ・娘(5歳/18歳)・・・小学校入学前/東京の大学へ入学が決まる(CV:桑木栄美里) ・兄(6歳/19歳)・・・小学校入学直前/東京の大学で先に一人暮らしをしている(CV:日比野正裕) 【ストーリー】娘: 「おにいちゃ〜ん!」 兄: 新入生を迎える在校生の最前列に並ぶ僕を見つけて、妹は大きく手を振った。 左右に並んだ家族席では、父と母がいまかいまかと待っている。 いつものように大きな声で応援する父と、 あ、おかあさん、また泣いてる・・・ 母の涙に気づいた父は、笑いながらハンカチを手渡す。 そう、母は1か月前の卒園式でも、3年前の入園式でも大粒の涙を流していた。 僕も妹も、そんな母が大好きだった。 無口で口数は決して多くないけれど、誰よりも僕たちを愛してくれる母。 そんな母の代わりにいつも僕たちを励まし、守ってくれたのは、男気のある父だ。 僕たち兄妹は、両親の大きな愛に包まれて育っていった。 2年前、僕たち家族4人でインテリアショップへ出かけたとき、 (SE〜インテリアショップの雑踏) 兄: 「お前が好きな学習デスク、あるといいな」 娘: 「うん!あ、でも今日は、お兄ちゃんのデスク選ぶんでしょ」 兄: 「いや、オレはゲームしてるから」 娘: 「え、いいの?」 兄: 「気に入るの見つかるといいな」 娘: 「やったぁ!」 兄: 僕たちの会話を聞きながら、父は優しく微笑む。 父の横に立つ母はもう目が潤んでいる。 娘: 「ママ、泣いてるの?悲しいの?」 兄: 「ううん、そうじゃないんだよ。 ママはね、嬉しいと涙がとまらなくなるんだって」 娘: 「ふうん」 兄: 「さあ、このいっぱいの学習デスクの中から、 お前のデスクを早く見つけ出してこい」 娘: 「わかった!」 兄: 父と母に手をひかれた妹は、じっくりと、本当にじっくり、 ひとつずつ手で触れながら学習デスクの森を歩いていく。 そのなかのひとつ、白い色の学習デスクに触れた瞬間、妹は目を輝かせて叫んだ。 妹: 「私、これがいい!」 兄: それは、大好きな生クリームのように真っ白な木製のデスク。 触ると、柔らかくてあったかい、木の優しさが伝わってきた。 父は笑顔でうなづき、母は目を潤ませて、妹の頭を撫でている。 妹: 「あ、でも、こっちも・・・」 兄: 最初に見つけたのは左側に置いてある、エッジに茜色のラインが入ったデスク。 その右側には藍色のラインが煌めくデスクも置いてあった。 妹: 「どうしよう、決められない」 兄: 「じゃあオレが、もう片方のにするよ」 妹: 「え〜」 兄: 結局、父は学習デスクを2台購入した。 妹が選んだのは茜色のラインが入ったデスク。 そして、僕が藍色のラインの方になった。 (SE〜階段を上ってくる小さな足音) 兄: 「お〜い、もう夕ご飯の時間だぞ」 妹: 「もうちょっと・・・」 兄: 「しょうがないなあ、また学習デスクに座ってるのか」 妹: 「だって、楽しいんだもん」 兄: 「あーあー、お菓子こぼしちゃって・・・ あー、アニメのシールまで」 妹: 「だって・・・」 兄: 「来年小学校へ入るときは汚れちゃってるんじゃないか」 妹: 「そんときはキレイにするからいい」 兄: 学習デスクは、妹にとって、自分だけの特別な場所になっていった。 (SE〜朝の雑踏) 妹: 「行ってきます!」 兄: 笑顔いっぱいの妹が、入学式に出かけていく。 出かける前、部屋の扉越しに声をかけたのは・・・ いつも座っていた自分の学習デスク。 そう、入学前の1年間、家にいるときは毎日学習デスクに座り、 デスクに話しかけながら過ごしてきたのだから。 なんだか、学習デスクも、 行ってらっしゃい、 と返事をしたように見えた。 (SE〜小学校入学式の雑踏/「おめでとう!」という声があちこちでから飛ぶ) 兄: ぶかぶかの制服に身を包んだ妹が、会場のステージに向かって歩きながら 父と母に大きく手を振る。 その姿を見て、また母が涙ぐむ。 その横で、父が母を見て笑う。 その2人を見て、妹が手を振りながら笑う。 僕は、妹と父母を交互に見ながら、より幸せな気分になっていった。 (SE〜家庭内の雑踏) 妹: 「じゃあ、もう行くね・・・」 兄: あれから12年。 妹は念願の東京の大学に受かり、家を離れることになった。 一人暮らしの小さな部屋に学習デスクは連れていけない。 最後に家を出るとき、妹は学習デスクにそっと触れた。 そう、まさにあの時、インテリアショップで 初めてこのデスクに出逢った時と同じように。 妹: 「いつも寄り添ってくれてありがとう・・・」 兄: 使い込んだデスクの表面には、インクの染みとシールを剥がした痕。 それは、デスクが長年連れ添ってきた無二の親友である証だった。 もう一度、デスクの表面を愛おしそうに(やさしく)撫でながら、妹が呟く。 娘: 「いままで、本当にありがとう・・・私の大切な家族」
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ボイスドラマ「あの日の入学式」前編
登場人物 ・娘(4歳/18歳)・・・小学校入学前/東京の大学へ入学が決まり名古屋を離れることに(CV:桑木栄美里) ・父(49歳/62歳)・・・建築関係の会社を経営/いつでも末娘が愛しくてたまらない(CV:日比野正裕)【ストーリー】 娘: 「いままで、本当にありがとう・・・」 娘: インクの染みとシールを剥がした痕が残る学習デスク。 私は木製の白い表面を撫でながら、13年前のあの日を思い出していた。 (SE〜インテリアショップの雑踏) 娘: 「わあ!学習デスクがいっぱい・・・」 父: 「あんまり目移りしてると、決められなくなるよ」 娘: 「まるでデスクの海みたい」 娘: 初めて父と母に連れてきてもらったインテリアショップ。 波間をただよう舟のように、学習デスクの海の中を 父と母と、手をつないで見てまわる。 私の足が止まったのは、2台並んでディスプレイされたシンプルな木製のデスク。 真っ白に磨かれた天板がキラキラと輝いて見えた。 左側のデスクはエッジに茜色のラインが入り、 右側のデスクには藍色のラインが煌めいている。 どちらかを決めるのは、4歳の私にとって簡単ではなかった。 父: 「決められないのかい?」 娘: 「うーん・・・」 父: 「わかった」 娘: 小さな頭で悩む私の横で、父は店員さんを呼ぶ。 父: 「この2台、ください」 娘: 「え?」 娘: 父は訳あり顔で笑うと、私の肩越しに兄を指差した。 学習デスクコーナーのすみっこでゲームをしているのは、私の1つ上の兄。 そうだった、今日はこの春小学校に入学する兄の学習デスクを見に来たんだ。 兄に聞こえないように、少し声を落として父が、 父: 「君(お前)が好きな方を選ぶんだよ」 娘: と言って、優しく微笑む。 娘: 「ありがとう!」 父: 「大切に使おうね」 娘: こうして、小学校へ入学するよりも前に、 学習デスクは私の元へやってきた。 入学するまでの1年以上、 私は、宿題もないのに、毎日学習デスクに座って本を開いた。 私だけの特別な場所。 そこは私にとってかけがえのない空間だった。 (SE〜扉を開ける音〜デスクにかばんを置く音) 娘: 「ただいま」 娘: 小学校から中学、そして高校へ。 いつだって、家に帰ると自分の部屋に直行して、まず学習デスクに声をかける。 疲れていても、学習デスクが優しくつつんでくれる気がした。 私の学生生活は、放課後、夕方から放送部、 そのあとバレエスタジオで夜までバレエのレッスン・・ 家に帰ると、学校の宿題、テスト勉強、受験勉強・・・。 時には机の上で寝落ちてしまい、知らず知らずインクの染みで 汚してしまうことも。 (SE〜扉を開ける音〜デスクに小皿を置く音) 娘: 「あ・・・」 父: 「(これ )母さんから」 娘: 学習デスクの上で食べる夜食がホントに美味しくて・・・ 美味しくて涙が出るなんてあるんだ、って知った。 (SE〜扉を開ける音) 父: 「風邪ひくぞ・・・」 娘: 寝落ちした私の肩に毛布をかけてくれた父。 優しい声は頭の中の片隅で聞いていた・・・ 嬉しい時、悲しい時、楽しい時、辛い時。 学習デスクは私の表情を全部知っていて、どんな時も私のそばで見守ってくれた。 私の学習デスクは、私の家族の一員だった。 そして・・・ (SE〜大学キャンパスの雑踏) 父: 「おめでとう」 娘: 第一志望の大学に合格し、上京することが決まったとき、 一人暮らしの小さな部屋に、学習デスクは連れていけなかった。 家を出る日、私はもう一度学習デスクに座った。 最後にその暖かい感触を確かめるように。 インテリアショップで初めて出会ったときのピカピカのイメージは消え、 使い込んだデスクの表面には、インクの染みとシールを剥がした痕。 それもいまは、ぼんやりかすんでよく見えない。 あの日、学習デスクの海の中でひたすら輝いていた、私のデスク。 あの日と同じように、もう一度、そっと触れる。 初めて出会ったあの瞬間のときめきを、一筋の寂しさに変えて。 娘: 「いままで、本当にありがとう・・・私の、大切な家族」
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ボイスドラマ「ダンサー・イン・ザ・ライフ」後編
登場人物 ・彼女/城田(16歳/18歳/26歳)・・・高校の演劇部出身。スポーツジムで働きながらミュージカル女優を目指している(CV:桑木栄美里) ・彼/一ノ瀬(16歳/18歳/26歳)・・・高校の演劇部出身。コンビニでバイトしながら演劇を続ける劇団員。城田とは同級生で友達以上恋人未満(CV:日比野正裕) 【ストーリー】彼: 「おつかれ!終わったな!!」 彼女: 「おつかれさま!」 彼: その日は大学演劇部の卒業公演だった。 卒業公演が終わったら芝居とは一切縁を切る、という部員も多い。 恋人役の彼女が手を差しのべてくる。 彼女は、高校時代から友達以上恋人未満。 どちらかと言うと、ほとんど友達なんだけど。 彼女: 「あとは卒業式ね」 彼: 「来月からはオマエ、社会人か」 彼女: 「あなたもでしょ」 彼: 「オレの本業は役者。昼の顔はただのアルバイトさ」 彼女: 「私だって目指すのは、ミュージカルの舞台よ」 彼: 「まあいいさ、これからは別の道を歩くってこと」 彼女: 「そっか・・・」 彼: 2人ともたぶん同じことを考えているのだろう。 卒業したら、それぞれ家を出て一人暮らしをする。 それでも、2人の間から恋人というワードは遠ざかり、 今よりもっと友達の方へ傾いていくに違いない。 彼: 「なあ」 彼女: 「なあに?」 彼: 「家具、見にいかないか?」 彼女: 「え」 彼: 「オレもオマエも、これから一人暮らしするんだろ」 彼女: 「うん」 彼: 「オレ、まだなんにも準備してないんだよ」 彼女: 「じゃあ、あのアウトレットの家具屋さん行く?」 彼: 「ああ、高校時代にオマエが背景係だったとき、よく行ってとこだよな」 彼女: 「あのあとアウトレットからインテリアスタジオに変わって オシャレなインテリアがいっぱいあるのよ」 彼: 「へえ」 彼女: 「あなた、センスないから、 コーディネーターさんにコーディネートしてもらった方がいいと思う」 彼: 「悪かったな」 彼女: 「ふふ・・・」 (SE〜家具店の店内) 彼: 「新生活応援?」 彼女: 「応援してもらったら?」 彼: 壁に大きくディスプレイされた「新生活応援」のPOP。 ベッド、ホームワーク用のデスク、カウチソファ、TVボード・・・。 彼女が大好きな北欧スタイルのディスプレイから、 今流行りのブルックリンスタイルまで、見ているだけでワクワクするもんだな。 彼女: 「家具を選ぶ基準って、なんだと思う?」 彼: 「え?っと、耐久性とか機能性だろ?」 彼女: 「もちろん、それもそうだけど、一番大事なのは”夢”じゃないかしら」 彼: 「夢?」 彼女: 「頭の中で、自分の部屋に、あなたが気に入った家具を置いてみて」 彼: 「う〜ん、・・・よし、置いた」 彼女: 「その家具の中で暮らせば、”夢”を失わずにいられる?」 彼: 「ああ・・・、そうか・・・」 彼女: 「難しいけど、それが選ぶ基準じゃないかしら」 彼: たいせつなものは目に見えない、ってことか。 ”夢”がなかったら、生きていく意味もない。 それは、彼女だって同じだろう。 お気に入りの家具に囲まれて、”夢”をつかむためにがんばる2人。 そんな姿を頭に描きながら、 新生活をディスプレイした家具から”夢”を探していった。 (SE〜観客の大歓声/舞台のイメージ) 【BGM〜インテリアドリーム】 彼: 大学卒業から10年。 彼女の夢はついに叶った。 昼間、スポーツジムで働きながら、夜オーディションを受ける日々。 やがて、ミュージカル劇団から声がかかり、 ブロードウェイでも上演される有名な作品に出演が決まった。 ステージのセンターに立ち、満員のオーディエンスの前で歌い、踊る。 客席の最前列で祝福するオレの声は歓声にかき消されていく。 カーテンコールのあと、舞台裏からオレのところまで走ってきた彼女は、 彼女: 「今度はあなたの番よ!」 彼: 「ああ!そうなったら、君との新生活へ誘うよ!」 彼女: 「なにそれ」(笑) 彼: 目には見えないたいせつなもの。 今度はきっと、オレが手にいれる。
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ボイスドラマ「ダンサー・イン・ザ・ライフ」前編
登場人物 ・彼女/城田(16歳/18歳/26歳)・・・高校の演劇部出身。スポーツジムで働きながらミュージカル女優を目指している(CV:桑木栄美里) ・彼/一ノ瀬(16歳/18歳/26歳)・・・高校の演劇部出身。コンビニでバイトしながら演劇を続ける劇団員。城田とは同級生で友達以上恋人未満(CV:日比野正裕) 【ストーリー】 彼: 「なあ、アイス食べて帰らないか?」 彼女: 舞台メイクを残したまま彼がアイスクリームショップへかけていく。 高校の部活帰りにいつも寄り道していたのは、私と、私の親友、そして、彼。 演劇部の仲良し3人組だった。 ただ、今日はたまたま彼と私の2人だけ。 彼: 「今日は見にいかないのか?」 彼女: 「・・・なに?」 彼: 「大道具だよ、というか・・・家具だけど」 彼女: 私たちの芝居は、朗読劇が多かったから、基本は立ちっぱなし。 でも今稽古してるのは、舞台に2つの椅子と1つの机をおいて 男女の掛け合いがすすんでいく、という実験的な即興劇だった。 私はいつも背景係だったから、 画材屋さんと家具屋さんはもう顔馴染み。 アイスを食べ終えた私たちは、私の行きつけ、アウトレット家具のお店へ。 店内のPOPに描かれた「新生活応援」の文字。 私、卒業したら一人暮らしして、もっとお芝居の勉強したいな。 彼女: 「あ、こんにちは」 優しそうな店長がいつもの笑顔で迎えてくれる。 彼: 「へえ、お前も、ちゃんと挨拶できるんだな」 彼女: 「え・・・」 彼: 「だ、だってお前いつも・・・」 彼女: 「なに」 彼: 「い、いや、なんでもない・・・」 彼女: そう。 私って、演劇部とは思えないほど、内向的で、内気な少女。 でも、舞台に上がれば、違う自分になれる・・・。 そう思ってがんばってるんだけど、そんなに簡単じゃないんだな。 彼: 「そういえば知ってるか? 今度の舞台が終わったら、次の朗読劇、『Little Prince』だって」 彼女: 「Little Prince?」 彼: 「知らないのか、星の王子さま」 彼女: 「名前は聞いたことあるけど・・・」 やっぱりだめだなあ、私。明日、図書館行って借りてこよう。 彼: 「お、この椅子いいじゃん。座り心地いいし」 彼女: 彼が選んだのは、ちょっと派手目のウィンザーチェア。 ホントはもっとシンプルな椅子の方がいいんじゃないかしら。 彼: 「よし、これにしよう」 とまどいの表情の私を店員さんが気遣ってくれる。 私は苦笑いで応えながら、チェアを抱える彼のあとをついていった。 (SE〜観客の拍手) 彼女: 即興劇は大成功で終わった。 舞台の上、ウィンザーチェアの前に立つ彼は、喝采に笑顔で応える。 背景係の私は、舞台袖から彼の後ろ姿を見ていた。 彼: 「みんなお疲れ〜」 彼女: おどけて舞台裏へ戻ってきた彼は、 袖で緞帳を操作していた私の元へ近寄ってくる。 彼: 「なあ、オマエ。次の朗読劇、主役狙ってみろよ」 彼女: 「え?」 【BGM〜インテリアドリーム】 彼: 「たいせつなものは目に見えない」 彼女: 「あ、それ・・・」 彼: 「ああ。この言葉、なんとなくわかってきたような気がするんだ」 彼女: 「でも・・・」 彼: 「目の前に見えているものだけが真実じゃない」 彼女: 「・・・」 彼: 「知ってるんだぞ、いつも図書館で演劇の本読んでること」 彼女: 「あ・・・」 彼: 「いつも背景係で舞台を支えてくれているお前だけど、 見えている姿だけがお前じゃないんだろ」 彼女: 「・・・」 彼: 「それに、オマエのセリフ、いっぺんちゃんときいてみたいんだ」 彼女: 「え・・・」 彼: 「あ、いや、違う違う。誤解するなよ。 オレはただ、いろんな人のいろんな表現を見てみたいだけだから」 彼女: ふふ。なんか、焦って饒舌になった彼の方が、本当の彼らしい。 目には見えないたいせつなもの、私も探してみようかな。
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ボイスドラマ「ナイトフライト」後編
登場人物 ・彼女(34歳)・・・10年目の客室乗務員。独身/ストレスによる不眠症気味 ・彼(54歳)・・・睡眠外来勤務医/妻とは死別。眠りメカニズムの講演で全国へ 【Story〜「ナイトフライト/ねむりデザインLABO/後編」】 (SE〜機内音+機内アナウンス「ポーン」) アナウンス: 皆さま、当機207便をご利用くださいましてありがとうございます。 日本までの飛行時間は11時間10分を予定しております。 ご利用の際は、お気軽に乗務員に声をおかけください。 それでは、ごゆっくりおくつろぎください。 彼: シートベルト着用のサインが消えると同時に 微かな、本当に微かな寝息が聴こえてきた。 いや、失礼のないように言っておくと、多分一般の人には聴こえない音。 睡眠外来で働く医師でないととらえられない音階かもしれない。 音の主は、通路を挟んだ反対側に座る・・・キャビンアテンダント・・・? ああ、確か・・・デッドヘッドだったか。 勤務中の移動のため、乗客として搭乗する、ってあれだっけ。 紺色のカーディガンの下から覗く航空会社の制服がそれを物語っている。 小さな寝息のリズムのなか、不定期に訪れる不協和音。 睡眠障害、かな。 CAって、きっとストレスも多いのだろう。 知らず知らず、彼女に視線を向けた刹那、瞳がゆっくりと開いた。 彼: 「あの・・・」 自分でも信じられないことだったが、通路越しに彼女に声をかけてしまった。 彼女: 「はい」 彼: その気怠げな声に思わず気圧(けお)される。 不眠症と思しき彼女に対し、気づけば私はひどく饒舌になっていた。 彼女: 「それではまた・・」 彼: 一期一会に感謝して、会話を終わらせると、 もう彼女の方へ向き直る勇気などあるはずもない。 夜間飛行の機内音が子守唄になり、いつしか眠りに落ちていった・・・。 (SE〜飛行機の機内音) (SE〜店内のガヤ) 彼: 帰国してすぐ、私はインテリアショップに足を向けた。 そこには眠りに関する私の論文が展示されている。 不眠の原因や、睡眠の大切さを表示しながら 快眠を誘(いざな)う寝具の選び方。 壁一面に、わかりやすいグラフィックとともにディスプレイされた 眠りの情報たちは、まさにラボ(研究所)のようだ。 その前にたたずみ、ゆっくりイラストや文字を目で追う一人の女性。 白衣、ではなく白いコートを着こなすその姿は・・・ なんと、信じられない偶然が、またしても私の心を震わせた。 彼女: 「あら」 【BGM〜インテリアドリーム】 彼: 「こんな偶然って、あるんですね」 彼女: 「ホントに」 彼: 「ひょっとしたら、あなたの不眠を救え、という暗示なのかもしれませんね」 彼女: 「うふふ」 彼: 「不眠の原因って、」 彼女: 「ベッドとか寝具が原因のこともあるんですよね?」 彼: 「あ、はい・・・」 2人: (笑) 彼: 彼女は笑うと小さなえくぼが現れる。 その笑顔の眩しさに、思わず目を伏せた。 彼女: 「私、寝姿がよくないんです」 彼: 「え?」 彼女: 「っていうか、寝相がとっても悪いの」 彼: 「そ、それは・・・」 彼女: 「これも睡眠障害の原因?」 彼: 「あ、そ、そうかもしれません・・・」 彼女: 「寝返りばっかりうってるし」 彼: 「大丈夫、寝返りにもちゃんと役目があるんです」 彼女: 「枕が合わないっていうのもあるのかしら」 彼: 「枕の高さも大切ですよ」 彼女: 「あとは・・・」 彼: なんだか、私を質問攻めにして、彼女は楽しんでいるように見える。 人生の1/3は睡眠時間。 私はいつもその時間が快適に過ごせるよう、睡眠障害の患者さんに接してきた。 でも今日からは、残り2/3に幸せを見つけるのも悪くない。
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ボイスドラマ「ナイトフライト」前編
登場人物 ・彼女(34歳)・・・10年目の客室乗務員。独身/ストレスによる不眠症気味 ・彼(54歳)・・・睡眠外来勤務医/妻とは死別。眠りメカニズムの講演で全国へ 【Story〜「ナイトフライト/ねむりデザインLABO/前編」】 (SE〜機内音) 彼女: それは夢だとわかっていた。 霧深い森の中を私は彷徨っている。 このところ、毎晩同じ夢を見る。 確か、ドリームキャッチャーをベッドの上にかけておいたはずだけど・・・。 彼女: 「・・・はっ」 後輩のCAが私の肩に優しく触れる。 そうか。今日はデッドヘッド。ナイトフライトの機内だった・・・。 デッドヘッドというのは、業務外、移動の時間のこと。 後輩は音を立てないよう、静かに会釈をして通路を歩いていく。 そうね、私ったら制服を着たまま微睡むなんて・・・。 彼: 「あのう・・・」 彼女: 「はい?」 話しかけてきたのは、通路を挟んだ反対側のシートに座る紳士。 顔だけこちらに向けて、申し訳なさそうに口を開く。 彼: 「もしかしたら、不眠症ですか?」 彼女: 「え?」 彼: 「いえ、不躾に話しかけたりしてすみません。 実は私、睡眠外来で働いているんです」 彼女: 「お医者様、ですか?」 彼: 「はい。小さなクリニックですが」 彼女: 「どうして私が不眠症だと?」 彼: 「微かな音でしたが、呼吸の乱れがありましたので」 彼女: 「まあ、お恥ずかしい・・・」 彼: 「いえいえ。すみません、つい職業病で」 彼女: 「ふふ・・・。いいんです。その通りですもの」 彼: 「機上の人だから、ストレスとかもいろいろあるのでしょうね」 彼女: 「ええ、でもそれじゃ、プロとして恥ずかしいわ」 彼: 「いいえ、大丈夫。今や日本人の20%が不眠に悩んでいますから」 彼女: 「はあ」 彼: 「ストレスだけじゃなく、ベッドとか寝具が原因のこともあるんですよ」 彼女: 「さすが、お詳しいですね」 彼: 「あ、いや・・失礼しました。お疲れのところを長々と・・・」 彼女: 「大丈夫です。勉強になりました」 彼: 「またいつか、どこかでお会いしたら、この続きをお話ししましょう」 彼女: 「はい、ありがとうございます」 彼: 「こちらこそ」 彼女: はにかみながら向き直った彼は、雑誌を開いて視線を落とした。 すっかり睡魔が消え去った私は、さきほどの夢を思い出していた。 あれはなんだったんだろう・・・ 首を傾げるそぶりをしながら、右側を見ると、 お医者様は雑誌を開いたまま、夢の世界の住人になっていた。 (SE〜飛行機の走行音) (SE〜店内のガヤ) 久しぶりにまとまった休みがとれた土曜日。 私はまっさきにインテリアショップに向かった。 不眠の原因がベッドかも、という彼の言葉が脳裏に焼きついていたからだ。 壁にディスプレイされた睡眠の雑学を読んでいると、 聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。 彼: 「こんにちは」 【BGM〜インテリアドリーム】 彼女: ドラマじゃあるまいし、こんな偶然ってあるのかしら。 そう、話しかけてきたのは、空の上で見かけたあの笑顔。 彼: 「ベッドですか?」 彼女: 「あ、はい。あなたは・・・?」 彼: 「このコーナーで僕の論文を紹介してもらっているんですよ」 彼女: 「まあ」 彼: 「よかったら、この前の話の続き、いかがですか?ちょうど寝具の前だし」 彼女: 「はい。よろこんで」 彼: 「じゃあ、まずは重要なポイント。枕の高さについて・・・」 彼女: 夢の中と同じ笑顔で、彼は寝姿の話とか、マットレスの構造の話とかを 丁寧に話し始める。 考えてみたら、最近夢でうなされることはなくなったような気がする。 あとは寝具を整えれば・・・ うふふ。 人生の1/3は睡眠時間。 1/3が快適なら、残りの2/3も、きっと素敵な時間になりそうね。
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ボイスドラマ「聖夜の奇跡」後編
登場人物 ・彼女(26歳)・・・医薬品メーカー勤務のMR/社会人4年目。仕事に追われる毎日(CV:桑木栄美里) ・彼(24歳)・・・システムエンジニア/社会人2年目。彼女と暮らし始めて半年(CV:日比野正裕) (SE〜街角の雑踏/クリスマスイメージ) 彼女: 「がんばってなるべく早く帰るから・・・」 <BGM〜fantasy-harp-and-irish-300504334.wav> 彼: TV電話に映る彼女の表情は、申し訳なさでいっぱいだった。 彼女は、医薬品メーカーに勤めるMR。 この時期、病床使用率が上がってくると、どうしても忙しくなってくる。 だから、僕たちのクリスマスは、おうちで過ごす”二人だけのクリスマス”。 料理の担当は、もちろん、僕だ。 彼女: 「料理、無理しないでね。私、帰ってから作るから。 クリスマスに怪我なんてしちゃ、いやよ」 彼: ふふん。馬鹿にしないでほしいな。 この日のために、ここ毎日先に家に帰って練習していたんだから。 僕は念入りに部屋の清掃をすますと、クリスマスの食材を探しに街に出た。 断続的に流れる車の中から、煌めくイルミネーションに目をとめる。 そこは、彼女と喧嘩をした日に、偶然見つけたインテリアショップだった。 彼女: 「イルミネーションって、見ているだけであったかくなる」 彼: 「そうだね。喧嘩して凍てついた心も溶けるほどに」 彼女: 「あら、別に私の心は凍りついてないけど」 彼: 「そういうことにしておこうか(笑)」 彼女: 「ユニコーン・・・」 彼: 「え?」 彼女: 「ほら、この絵、ユニコーンじゃない」 彼: 「僕には普通の白馬に見えるけど」 彼女: 「ユニコーンってね、清らかな乙女にしか近寄らないんですって」 彼: 「ふうん」 彼女: 「ノアの方舟にも乗ってたのよ」 彼: 「そうなんだ」 彼女: 「私の元にも来てくれるかしら」 彼: 「も、もちろんだよ。君ならきっと、ユニコーンの背に乗ることだってできるさ」 こうしてクリスタルの白馬、いや、ユニコーンの絵は、 ぼくたちの家にやってきた。 雪解けの笑顔を思い出しながら、僕は駐車場へハンドルを切った。 (SE〜ドアが開く音) 彼女: 「ただいま・・・」 「遅くなっちゃって、ごめんなさい・・・」 「もう、寝てるよね・・・」 彼: 息をひそめた僕に気づかず、彼女はライトのスイッチをつけた。 (SE〜スイッチの音) 彼女: 「あ・・・」 【BGM〜インテリアドリーム】 彼: 「メリークリスマス。 どうかな・・・ホワイトクリスマスに・・・なったかな」 光の中。舞い散る雪のように、煌めくユニコーン。 そしてその横、ひときわ大きな、もうひとつのキャンバス。 ピクチャーレールからワイヤーフックで固定されているのは、 彼女: 「・・・ヘプバーン!」 彼: それは、ユニコーンと同じく、クリスタルで装飾されたヘプバーンの肖像画。 まるで雪が舞っているように、光の結晶が踊っている。 彼女の表情にもみるみる光がさしてきた。 彼: 「君、いつも、ヘプバーンみたいになりたいって言ってたよね」 彼女: 「うん・・・」 彼: 「賢者の贈り物にならないといいんだけど」 彼女: 「ありがとう・・・」 彼女: 「じゃあ私も・・・」 彼: 「え?」 彼女: 「Happy Holidays(ハッピーホリデイ)」 彼: 「これって・・・」 彼女: 「どう?」 彼: 「スマートウォッチ?」 彼女: 「だって、賢者の贈り物になるといけないでしょ」 彼: 「ありがとう」 彼女: 「あなた、プログラマーなんだから役に立ててね」 彼: 僕のピクシーがいたずらっぽく笑った。 クリスタルの光が部屋の温度を上げていく。 今夜は冬の妖精と過ごすあたたかいクリスマスになりそうだ。
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ボイスドラマ「聖夜の奇跡」前編
登場人物 ・彼女(26歳)・・・医薬品メーカー勤務のMR/社会人4年目。仕事に追われる毎日(CV:桑木栄美里) ・彼(24歳)・・・システムエンジニア/社会人2年目。彼女と暮らし始めて半年(CV:日比野正裕) 【Story〜「聖夜の奇跡/IROTTA CHIC/前編」】 (SE〜街角の雑踏/クリスマスイメージ) 彼女: 「眩しい・・・」 <BGM〜a-dark-silent-night-346733592.wav> 思わず口を衝いて出た言葉に、周りを見回した。 ジングルベルの洪水のなか、誰もが足早に家路を急いでいる。 それはショーウィンドウの中で煌めく1枚の絵。 描かれた街にはクリスタルの雪が舞っている。 気がつくと、いつしか私は、絵の中の街を歩いていた。 腕を絡めて歩くのは・・・あ、パートナーの彼。 え?彼と私、さっきまで喧嘩してたんじゃなかったっけ? 彼: 「疲れてない?」 彼女: 「大丈夫」 彼: 「この先にあるお城のライトアップを見に行かないか?」 彼女: お城?ライトアップ? そんなもの、この街にあったっけ? 彼: 「しっかりつかまって」 彼女: え?バイク? いつの間にか私たちは、クリスタルに包まれたバイクに乗っている。 彼: 「少し飛ばすよ」 (SE〜バイクのエンジンをかける音〜バイクの走行音) ※ここはイメージなのでバイク音にかぶっても大声で話さなくてよい <BGM〜christmas-eve-347253497.wav> 彼女: タンデムなんて、何十年ぶりかしら? よかった、スキニージーンズを履いてて・・・ ってあれ?私、今日、仕事だからスーツだったはず。 まあ、いっか。 彼がエンジンブレーキをかけるたびに、 クリスタルが散らばり、街が煌めいていく。 彼女: 「きれい・・・」 彼: 「だろう?でもお城はこんなもんじゃないからな」 彼女: 「ねえ」 彼: 「なんだい?」 彼女: 「さっきはごめんね・・・」 彼: 「なに?」 彼女: 「電話で喧嘩、しちゃって」 彼: 「え?なんのこと?」 彼女: 「クリスマスの約束のこと」 彼: 「クリスマスの約束?」 彼女: 「とぼけないでよ。 来週のクリスマスを白銀の世界で過ごすって約束。 私、仕事でいけなくなっちゃったから」 彼: 「なにを言っているんだい?クリスマスは今日だろ。 ほら、こうして一緒にいるじゃないか」 彼女: 「え・・・」 <BGM〜christmas-fairytale-346742679.wav> ほどなく、煌めきに満ちたクリスタルのお城へ到着した。 夜空に舞うのは、クリスタルの雪。 彼の肩に頬をよせながら、私の意識は光と同化していった・・・。 (SE〜街角の雑踏) 彼: 「お嬢さん、そんな格好じゃ風邪ひきますよ」 彼女: 「あ」 【BGM〜インテリアドリーム】 彼女: クリスタルの夢から私を連れ戻したのは、やっぱり彼だった。 彼: 「さっきは、電話でごめんね」 彼女: 呆然と立ち尽くしていた私の後ろで 落ちかけた私のジャケットをかけ直しながら、 彼: 「考えたんだけど、クリスマスはおうちで過ごさないか?」 彼女: 言葉に出しながら、彼がはにかむ。 彼: 「何時になってもいいから、一緒にクリスマスを祝おう」 彼女: 凍てついた私の表情もゆっくりと溶けていく。 彼: 「あ、料理も僕が準備する」 彼女: 「ホワイトクリスマスにして」 彼: 「え」 彼女: 「あれ」 彼: 「ああ!」 彼女: 視線の先にあるクリスタルの絵を見て彼の顔がほころぶ。 彼: 「オッケー。さあ、寒いからお店の中に入ろう」 彼女: 入口にディスプレイされた煌めく絵画たち。 まるで宝石のような光の中を抜けて、 私たちはインテリアショップへ入っていった。 彼女: 「こたつも必要かも」 彼: 「あったかいクッションも」2人: 笑
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